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IS<インフィニット・ストラトス> ‐Blessed Wings‐ 

作者:やつき
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第一章 『交差』 ‐暴風の竜騎兵と紅の姫君‐
  第5話 『シャルロット・デュノア』

――『籠の中というのは、安全が約束された世界ではあるが 同時に『何か』を繋ぎとめておくための監獄 でもある』
『彼女』は思う、どうして――どうして自分がこんな目に逢わなければならないのかと。

母を失い、そして自分と母を捨てた父に利用され――企業という『鳥篭』に捕らわれた自分自身。
少女は願う、『自由』が欲しいと――『鳥篭』という監獄を抜け出して、前に進んで行きたいと望む。

そして出会う、自分の未来と運命を大きく変えることになる、二人と。
その出会いは『籠の中で黙って何もしない少女』を変えた。



――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


――『シャルロット・デュノア』という少女の人生は、決して平凡なものではない。

シャルロット・デュノア、デュノア社社長『ジェームズ・デュノア』の実子だが、彼女は愛人との間に生まれた子供だった。

数年前に母親が死亡し、デュノア家に引き取られたものの『彼女』自身の居場所は、そこには無かった。

引き取られて、たまたまIS適性が高いことが判明した為――自分の意志と関係なくIS開発のための道具として扱われてきた。

シャルロットは『そう思い続けていた』自分なんて――『デュノア』という鳥篭の中では、ただの道具でしかないのだと。


『彼女』は自分の居場所の無い世界を嫌った。
誰も自分を『シャルロット・デュノア』という一人の女の子として見てくれない。 彼女は自分の中でそう思い続けていた。

自分の限られた『世界』にあるのは、常によそよそしい態度で接してくる黒服の人達やメイド――自分が『デュノア社の社長の子供』という事で媚びて擦り寄ってくる、金や権力の亡者達。
だから彼女は『この鳥篭から出て、外に羽ばたきたい』と願い続けていた。


だがしかし、彼女は気づくだろうか?

『父親』であるジェームズ・デュノアが『本当はただ不器用で、過去のしがらみや今までの事から娘との接し方が良く分かっていない』という事を。

義理の『母親』であるアルメル・デュノアが『愛したいと思っても、自分の娘ではないシャルロットに対して 自分がどうしてやればいいのかわからない』という事を。

そんなすれ違いと誤解、それがひたすら重なり――彼女と両親達の間に大きな溝を作っているという事を。

そしてその関係は、『二人』に出会う事で、大きく変化を迎える事になる。
変わり、未来を求めたのは――『シャルロット』だった。


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


俺は――黒服の男から放たれた言葉を一瞬理解できずに居た。
奴はなんと言った?俺自身の聞き間違いでなければ――『シャルロット』と言わなかったか?

『シャルロット・デュノア』――報道規制がされているのでそこまで有名ではないが、俺はとある知人から聞いた事がある。
デュノア社社長、ジェームズ・デュノアには『シャルロット・デュノア』という子供が居るという事を。

そして今の状況――もし、彼女がごく普通の一般人なら、こんな黒服達がわざわざ現れるだろうか?
よそよそしい態度で『シャルロットお嬢様』等と言うだろうか?
そう考えると――先程黒服が言った名前と今の状況で、彼女が何者であるか見えてきた


――俺とアリアに感づいて、という事ではないのだろうが…デュノア社の関係者、それも実子の『シャルロット・デュノア』か

正直状況はよろしくない事には変わりなかった。何故なら――この黒服達を含めて、彼女も『デュノア』の人間であるからだ。
今、デュノア社と関わる事はあまり得策ではない――いつ俺とアリアの事がバレて確保に動かれるかもわからないのだから。

だがしかし、この状況も放置できる訳はなかった。

黒服の一人がシャルロットに歩み寄り、ガシッ と彼女の手を無理やり引こうとする

「痛っ…は、離してくださいッ!僕には――僕にはやらなきゃならない事があるのっ!」

「ご理解ください、シャルロットお嬢様――貴方様は、デュノア社にとっての重要人物であり『社長の実子』です――大人しく私達とお戻りください!」

「い、嫌ッ――離して!」

「ええい…お前達、手伝え――お嬢様が錯乱してらっしゃる」

そう黒服が言うと、残りの二人もシャルロットに歩み寄ろうとする

「おいおい待てよ、彼女――嫌がってんだろ?『痛い』と言ってるのにも気がつかないのか?」

俺はそう言って、シャルロット・デュノア――彼女の腕を掴んでいた男の方を掴む

「何だ貴様は、さっきから邪魔ばかりして――私達は『デュノア社』の指示で動いているのだ、それを邪魔するとはどういう事か分かっているのか?」

「そうかデュノア社か――デュノア社は、一人の女の子確保するために随分暴力的な事もするんだな?邪魔してるのは確かだろうけど、彼女が嫌がってるのにそれを『はいそうですか』って放置できるわけ無いだろうが」

それだけ言い放つと、俺はそのまま俺は黒服を彼女から引き離して突き飛ばす

「貴様ら――覚悟は、出来てるんだろうな?」

すると、黒服三人が俺とアリア、そして彼女――『シャルロット・デュノア』を取り囲む

「腕、痛くないか?」

そう尋ねると、シャルロットは驚いたようにして

「あ、ええと――大丈夫、その…ありがとうございます」

俺は苦笑して、黒服達を見る

「お前達、お嬢様には決して傷をつけるな!――他の二人はどうしても構わんッ!何としてもお嬢様を保護し、連れ帰るのが私達の仕事だ、いいな!」

そう言うと、ジリジリとこちらに歩み寄ってくる黒服達――俺は小声で

「アリア――とりあえずこいつらを黙らせて帰ってもらう、ちょっと手荒になるけどいいか?」
「うん…つまりユウ、こいつ等は『殺して』もいいんだよね?」
「あのな…普通の子が居るのにここを殺人現場にする気か? というより女の子がそんな物騒な事言うな。 ただ適当にボコって帰ってもらうだけ――いいな?」
「…ユウがそう言うなら、そうする――わかった」

冗談抜きであのまま放置していれば、アリアは黒服達を殺しかねない――実際、アリアはISを手に入れる前までは生身で殺人や工作を行ってきていたらしいから、可能だとは思う。
ただ、不安なのは『ボコるだけ』と言ったがアリアがどの程度で済ませるか――殺さなければいいと考えているなら半殺しにしても問題ないと考えているかもしれないし。

さて――やるしかないか そう考えていると

ピリリッピリリッ――

先程、シャルロット・デュノアの手を引こうとしていた男のポケットから携帯電話が鳴る
黒服の男はそれに出ると

「――はい、ええ見つけました――今から本社にお連れしようかと…少し邪魔が入りましたがすぐに」


誰と話しているのだろうか――恐らく、黒服の喋り方を見る限り奴らの上司や上の人間だと思うが…

「場所ですか?――はい、集合墓地ですが――は? 連れて来なくてもいい?お嬢様を連れ戻すのは、中止ですか? 」

何やら変な流れになってきた――黒服の男は、携帯を持ったままシャルロット・デュノアに向かって言った

「…シャルロットお嬢様、お父上からお電話です――それから、私達はこれで失礼します」

そのまま黒服の男はシャルロット・デュノアに仕事用の携帯電話を渡すと残りの二人に「社長命令だ、撤収するぞ」と言うと一度だけこちらを一瞥してそのまま去っていった

そのまま乱闘にでもなるものだと思っていたから、正直拍子抜けしてしまった。

「…なんだったんだ?」
「さあ…?」

そして改めて電話をしている彼女の方を向くと、何やら言い争いをしていた

電話の向こう側で男性が大きな声で何かを言うのに対して彼女は

「貴方に何がわかるのッ!自分の勝手な都合ばかり押し付けて、僕が今日という日を大事にしてるのをし知っていたくせに――それなのに無理に黒服の人たちに連れ戻させようとしてッ」

その言葉に対して、電話の向こうでまた男が何かを言う

「うるさい、煩いッ!僕の気持ちがお父さんに分かるの!?――ずっと、ずっと僕とお母さんを放置して――見捨てた貴方がッ!」
彼女がその言葉を放つと、先程まで電話の向こうで大声を出していた男が急に静かになる

「…とにかく、ちゃんと用事だけ済ませたら戻りますから――それでいいんですよね」

そう事務的な返事をすると、一方的に電話を彼女は切った。

気まずい…目の前であった光景を見て、俺はそう思った。
アリアも同じなのか困ったような顔をしていた。
とりあえず、よくわからないが――当初の目的に話を戻そう。

「あー…ええと――失礼だけど、名前を聞いてもいいかな?」

俺自身の中では大体予想はついていたが、この場で『シャルロット・デュノアさんですよね?』と聞くよりマシだろう。

「あ…僕は――シャルロット、シャルロット・デュノアです ごめんなさい、見苦しい所見せちゃって」

やはりか、と内心でため息をつく――

「…デュノア、って事は――『デュノア社』関係者だよな?」

「うん、そうなる――かな」

気まずい空気がまた流れる、流石に――このままだとマズイか。
一度俺は咳払いをすると

「それで話は戻すけど――デュノアさん?でいいのかな?――それで、どうしてこんな所に?」

そうだ、元々俺とアリアは彼女が何故こんな時間にこんな場所を出歩いていたかが気になっていたのだ。
恐らくだが――あの周りを警戒していたのは、先程の黒服達に対してだろう。今の彼女は、先程までの警戒心は感じられなかった。

「えっと――とある人のお墓参りに来たんだけど、あはは…さっきのでもうバレちゃったよね?」

さっきの、というのは恐らく先程の黒服達のことだろう――確かに、彼等の言動や態度で大体の予測はついてしまった。

「まぁ、『デュノア社の娘さん』が墓参りに来てたってだけの話だろ?――そのお墓ってのは、その…」

その先の言葉を紡ぐのには、躊躇いがあった。何故なら――俺が辛いように、もし俺の予感が当たっているならきっと…

「…僕の、お母さんのお墓なんだ――今日は命日で、それでこっそり抜け出してお墓参りに来ようと思ったんだけど――人が少ない時間って、今の時間くらいしかなかったから」

今彼女は『自分の母の』と言ったが――現在のデュノア社には社長婦人が存在している。
何やら複雑な理由があるんだろう、と思ったが――俺はそれ以上の詮索はやめた。わざわざ、人の辛い思い出に入り込む必要なんて、ないから。

「そうか――そこが、君のお母さんのお墓か?」
俺は先程彼女が佇んでいた場所の墓石を指して言う――それに対して、彼女はコクリと頷いた

「えっと…ありがとうございます、二人が居なかったら多分――僕は黒服さん達に連れ戻されてたから、今日のお墓参りだけはちゃんとしたいと思ってて、あの時は本当にどうしようかと思ってたから――ありがとうございます」

「気にする事はないさ、一応これでもフランスの空を守る兵士だしさ――それに、嫌がってる子を無理にどうこうしよとするのもおかしいな話だと思うしさ。なあアリア」

「まぁ――私もちょっとアレは気に食わなかったかな あのまま乱闘でも私は大歓迎だったんだけど」

そう言うとアリアは心底残念そうにため息をつく

「おいこら、物騒な事言うなよ…」

「『とりあえずボコる』って先に言ったのは――ユウじゃ無かったっけ?」

うぐっ と言うと反論できなくなる――確かに最初立案したのは俺だから、そう言われるとどうしようもない
俺とアリアのやり取りを見て、シャルロットは不意に笑うと

「ん、どうかしたのか?デュノアさん」

「あ、ううん――二人のやり取りを見てると、本当に仲が良さそうなんだなって――」

そう、見えたのだろうか――といっても実際は数日前お互いに殺し合いをしていたような仲なんだが…

「なんていうか、僕は――二人が羨ましい」

切なそうに、どこか辛そうな笑顔で彼女は言った

「羨ましい?俺とアリアがか?」

「うん、えっと――」

「あー、月代でも悠でも好きなように呼んでくれていいぞ――どうせ年も近いんだろうし、気を使う事なんて無いさ」

「私もアリアでいいよ――ユウも言ってたけど、気を使う事なんて無い」

「じゃあ、僕も――シャルロットって、呼んで貰ってもいいかな?」

二つ返事で 構わない と俺とアリアが返すと、彼女――シャルロットは

「僕は、ユウさんとアリアさんみたいに、普通に会話できるような関係が羨ましい――僕には、そういう人が居ないから」

その言葉には、彼女の悲痛がどれだけ込められていただろうか。
本当に辛そうに、羨ましそうに――彼女はその言葉を言ったのだ

自分を分かってもらえない、理解してくれる人が居ない――それはきっと、孤独である事のように辛いのだろう。

そんな彼女を見て、本当はそんな事はしないほうがいいのだろうが――俺は

「なあシャルロット、自分の携帯とか持ってる?」

「――?う、うん…あるよ?」

不思議そうに自分のバッグの中から携帯電話を取り出すシャルロット、それを見て俺は

「ちょい貸してくれるか?――ああ、変な事はしないから」

「あ、うん――どうぞ」

彼女から携帯を受け取ると、自分の携帯と通信を行い彼女の携帯に連絡先を送信する
それを見て、察したのかアリアも

「あ、ユウ――私のもお願い」

「はいよ」

そのままアリアのアドレスも登録する。
作業を終えて、携帯電話をシャルロットに返すと

「――勝手なんだけどさ、シャルロットの携帯に俺とアリアの連絡先、入れといた。 なあシャルロット――じゃあさ、もう君は一人ぼっちじゃない――勝手かもしれないけど、今日ここで俺とアリアが君に会ったのも何かの縁じゃないかと思う」

―― 一人は辛い、悲しい。 俺も『あの事件』の後暫くは心を閉ざし一人だったから、その痛みは分かる。 だから――あの時皆がそうしてくれたように、俺も歩み寄る。
――歩み寄って、手を取る。そして言葉を放とう『大丈夫だよ』って。 俺がそれで立ち直れたように、俺も彼女にそうしてやりたかった 見てて、辛かったから

「連絡してくれれば話し相手くらいにはなれる事もあると思うし――メールとかなら簡単に連絡つくしさ、だから――そう、君は一人じゃない。 俺やアリアでよければ話し相手にもなってやるし、辛かったら言って来い――そん時は 助けに行くからさ、君を」

そう俺が言うと、彼女は目を見開いて驚くと、いきなり泣き出してしまった。

「…ユウ、泣かせたね」

ジト目でまるで蔑むように俺を見ながらアリアが言った

「待て、落ち着けアリア――俺がどこをどうしたら彼女を泣かせたって事になるんだ、それと今にもその殴りかかりそうな構えはやめろ、マジで怖い」

「あ…えっと、違うの――その、嬉しくて――ちゃんと話し相手とかになってくれる人なんて、今まで居なかったから――」

目をゴシゴシと擦ると、彼女は笑顔で言った
そんな彼女を見て俺も笑うと

「これからはもう、一人じゃないぞ――後…お節介な空軍兵から1つだけ、いいか?」

そしてもうひとつ――先程の電話で気になっていた事があったので聞いてみる事にした。
無論…お節介かもしれない、だけど――

「さっきの電話…推測するに、親父さん…か?」

するとシャルロットは複雑そうな表情になると

「うん、さっきの電話は――僕のお父さんから。 ごめんね、見苦しい所見せちゃったと思う」

「そうじゃないさ――親父さんと仲、悪いのか?」

これは完全にお節介だ。
俺の勝手なお節介――だけど、ほっとくことができなかったから。

「仲が悪い、というより――僕があの人を嫌いなんだ、あの人なんて――憎くて、嫌いで――」

「…一個人の事情だからさ、なんとも言えないけど1つだけ――互いに『分かり合う』事って、大事だと思うぞ」

「それって、どういう――」

「…ま、そういう事だ――所でシャルロット、君は――お墓参りに来たんだよな?」

無理やり話題を変える。後は――気がつくかどうかは、彼女次第だと思ったから。

「あ、うん――そうだけど」

「献花とか、そういうのは――用意する余裕無かったのか?」

彼女は一度頷くと

「うん――抜け出すので精一杯だったから、用意できなかったんだ――だけど、せめてお墓にだけはお参りしたかったから」

なるほど、と俺は頷く。

だが、そうなると――彼女が可哀想でもある。
折角お墓参りに来たのに、黒服達が現れて献花を用意する余裕も無くて――何かいい方法は


ふと、俺はある事を閃いた。あまりいいことではないんだろうが――


「アリア、ちょっとここでシャルロットと待っててくれ」

「ちょっと、ユウ!?」

そう言うと返答を待たずに走り出す――そして暫く走ると足を止めた。

その場所は――自身の両親の墓石だった。
先程置いた『白いアネモネ』がそこにあるのを確認すると


「…ゴメン、父さん母さん――二人のために持ってきた花だったんだけど緊急事態――今度来るとき、またちゃんと持ってくるから」

そう言うと花束を回収すると、アリアとシャルロットの居る場所に戻る。

「――シャルロット、これ…お袋さんの墓に置いてやれ」

先程回収した花束を彼女に渡す――それを見てアリアが

「ユウ、それって――」

「いいから」

何か言いたそうにしているアリアを静止すると

「――折角頑張ってここまできたのに、何もなしじゃなんというか、アレだろ――その花束…よかったらお袋さんにあげてくれ」

「でもこれ、ユウさんのじゃ――」

「俺の事はいいから、気にせずにお袋さんに捧げてやってくれ」

俺の無理押しに負けたのか、そのままシャルロットは申し訳なさそうに花束を墓石前に置く――そして暫く墓石の前で沈黙すると

「…その、ユウさん――ありがとう、僕も本当はお母さんにちゃんと花束を持って来たいと思ってたから――」

「どういたしまして。まあ唯一言うとすれば――あの花束、完全に俺の趣味だからさ――そこだけはすまない」

俺はそのまま誤魔化し笑いをすると

「えっと、聞いてもいいかな?」

「ん、何だ?」

「どうして――『白のアネモネ』なの?」

あれ――凄くデジャヴの気がする
アリアを見ると笑いを堪えながら

「ユウ、デジャヴだね?」

「…数時間前に、お前にも同じ事聞かれたからな――そうだな、シャルロット…アネモネの花言葉は分かるか?」

少しシャルロットは考えると

「えっと――「清純無垢」に「無邪気」とか――白色なら「真実」に「真心」とか――だったと思うんだけど…」

…凄いな、ちゃんとあってるぞ。
だけど――やはりあの言葉はそこまで花言葉として有名ではないのだろうか?

「そうだな、それであってる――だけど俺自身が花言葉として込めたのは『可能性』って言葉なんだ」

「可能性?」

「ああ――受け売りなんだが、『人は、可能性を信じる限りどんな絶望や困難があっても――人であり続けられる 困難や絶望を乗り越えられる そして、どんな状況にも可能性は存在する』って言葉を俺の大事な人から教えてもらったんだ――だから、花言葉に『可能性』という意味を込めた」

俺の言葉をシャルロットは黙って聞いていた

「可能性、か――僕にも…可能性はあるのかな?」

「あるさ、必ずある――少なくとも俺はそう思うよ、『その想い』さえ消えなければ可能性は必ずある」

その言葉にビクッと身体を震わせるシャルロットを見て

「…どうかしたのか?」

「う、ううん――なんでもない」

「そうか――じゃあ、俺とアリアはもう帰るわ――シャルロットも気をつけて帰れよ?何かあれば連絡くれ」

「またね、シャルロット」

そう言うと、俺とアリアは集合墓地を後にした


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


――色んなことがありすぎて、困惑していた

実家を黙って抜け出して―― 一度は黒服達に追われてなんとか逃げて。
それで…集合墓地に着いたと思ったら突然現れた二人。二人はユウさんとアリアさんって言って、フランス空軍関係の人らしい。
墓地まで来て僕を連れ戻しに来た黒服達を前にしても怯まずに、二人は僕を助けようとしてくれて――それで、二人を見て羨ましいと思って。
――二人は『僕に手を差し伸べてくれた』。もう一人じゃないよって、言ってくれた――嬉しかった、ずっとずっと僕は…一人だったから、差し伸べられた手が――嬉しかった

二人が去ってから、僕は何度も自分の携帯を確認した。そこには――ちゃんと二人の連絡先があった。
先程までの事がまるで、夢ではないのかと思ったが、その連絡先が――現実であることを証明していた。

もう一人ではない、と思うと心のどこかが軽くなって――嬉しくもあった。
同時に、ユウさんの言っていた言葉が浮かぶ


――『分かり合う』って事、大事だと思うぞ
――『可能性』を信じる限り、どんな困難でも人はそれを乗り越える事が出来る


その言葉が思い出される。そして――僕は思った
もう、逃げるのも――鳥篭の中に捕らわれるのもやめよう、ちゃんと立ち向かおう――僕は、『人形でも道具でもない』、僕は…『シャルロット・デュノア』だ!

ちゃんと、あの人――お父さんと話をして、乗り越えよう――何度だって足掻いて僕は――今度こそ自分の力で『現実』と向き合う、そして二人に会いに行くッ!
そう決意すると、僕は――携帯で会社ではなく、プライベートの番号から――あの人、お父さんの電話番号をコールした


「――お父さん?僕です…大事な、話があります」

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

――自分の力で未来を望む事を決意した『太陽の少女』は、自分自身と、現実に立ち向かう。 変わる事を教えてくれて、そのキッカケをくれた二人に追いつくために――今度は自分の力で、二人に会って…ちゃんと笑顔を見せられるように。
だが、近い未来――彼女は二人と再会することになる


――そして、二人もまた『シャルロット』との出会いの後、『企業』へと行く事になる。二人もまた、自分達の未来――『可能性』に向かい進み始めた。
 
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