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遊戯王GX-音速の機械戦士-

作者:蓮夜
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―ジェネックス Ⅵ―

 たとえジェネックスが開催されていようとも、流石に草木も眠る丑三つ時となれば、デュエル・アカデミアといえども原則立ち歩きは禁止とされている。
たまに深夜の散歩をしている生徒とガードマンが現れるぐらいで、日夜デュエルの声が響いているここも、この時間ともなれば虫の声しか聞こえない。

 そんな時間の中、俺はオベリスク・ブルー女子寮へと向かう森の中の池で、久方ぶりに釣りに興じていた。
最近は色々あって出来なかったものの、太平洋のど真ん中にあるというこの島の立地もあり、やはり釣りはデュエルとはまた違う面白さがあった。

 ……まあもちろん、ここには釣りをしに来た訳ではない。

 釣りをしている背後から草を踏みしめてくる足音を聞くと、釣り竿やその他を片付けにかかり、代わりにデュエルディスクを腕に差し込んで振り向いた。

 背後からの闖入者はガードマンや学生、ましてやプロデュエリストでなく、その聞き慣れた足音から目的の人物だと解っていた。

「……明日香」

「黒崎遊矢。鍵を賭けたデュエルをしに来たわ」

 オベリスク・ブルーの女王、天上院明日香の久しぶりに見る姿は、俺の知っている明日香とは似ても似つかぬ人形ぶりだった。
斎王の人形となっていたらしい俺の姿もこうであり、対面したレイや三沢も今の俺と同じやるせない気持ちになったのだろうか。

 この場所は一年の時に良く明日香と釣りやデュエルをした場所であるのだが、それでも眉一つ動かさない明日香を見るに、斎王は余程強力な洗脳を施したようだ。

 洗脳を自力で解きかけていた万丈目とは違い、今の明日香は身も心も光の結社の一員なのだろう。

「ああ、明日香。デュエルだ……絶対に助けてやる……!」

「助ける? 私は自分の意思で光の結社に従っているのよ?」

 明日香の一言に、俺はもう話が通じることはないと悟っ……いや、待て。
三沢に話を聞くならば、本当に人形と化していた俺は何も無駄な言葉は喋らなかったらしい。

 明日香のあの言葉からすれば、斎王は明日香を完全に人形にした訳ではなく、明日香本人の意志はまだ残っているということか……?

 そうだ、彼女が洗脳された程度で黙って泣き寝入りをする訳がないということを、俺は良く知っているだろう。
それを何だ、救うと息巻いておきながら一人で諦めて……明日香も戦っている筈なのだ、こんな調子では彼女に怒られてしまう。

 後はただ、このデュエルに勝つことと、明日香を救うことだけを考えていればそれで良い……!

『デュエル!』

遊矢LP4000
明日香LP4000

 決意を新たにした結果という訳でもないだろうが、デュエルディスクは俺に先攻の権利を与えた。

「楽しんで勝たせてもらうぜ! 俺の先攻、ドロー!」

 明日香のデッキが何になっているのかは解らない、ここはまず守備を固めさせてもらおう。

「俺は《ガントレット・ウォリアー》を守備表示で召喚!」

ガントレット・ウォリアー
ATK500
DEF1600

 マックス・ウォリアーが攻撃の先鋒ならば、この機械戦士は守備の先鋒。
そんなガントレット・ウォリアーの姿を見ると、一つの情景が思い浮かんだ。

「明日香。ノース校との友好デュエルの前日のデュエル、お前はここでガントレット・ウォリアーと《牙城のガーディアン》に負けたのを覚えてるか?」

「光の洗礼を受ける前のことなんて、興味がないわ」

 まったく表情を崩さずに言ってのける明日香の姿に、落胆した気持ちがないと言えば嘘になるが、この程度で戻りはしないと決意してるのもまた事実だ。

 気を取り直してデュエルを続行させてもらおう。

「カードを一枚伏せ、ターンエンド」

「私のターン。ドロー」

 万丈目のデッキは変わっていなかったが、明日香のデッキは俺のように変わっていると見るべきだ……さて、どんなデッキなのだろう。

「私は《氷結界の軍師》を守備表示で召喚」

氷結界の軍師
ATK1600
DEF1600

 【氷結界】……下級モンスターを並べることでロック効果を発揮し、変則的な上級モンスターやシンクロモンスターを扱うデッキだったか。
シンクロ召喚の登場でカードプールが増えて、どんなカードがあったかまでは覚えていないが……

「氷結界の軍師の効果。手札から《氷結界》と名の付くカードを捨てることで、一枚ドロー。カードを二枚伏せてターンエンド」

「俺のターン、ドロー!」

 手札交換に守備表示モンスター、そして二枚のリバースカードと、明日香は明らかな守備体勢をとった。

「俺は《ニトロ・シンクロン》を召喚する!」

ニトロ・シンクロン
ATK500
DEF300

 ならばこちらは攻めあるのみ、そう考えてまずはチューナーモンスターを召喚すると、早速シンクロ召喚へと移った。

「レベル3のガントレット・ウォリアーと、レベル2のニトロ・シンクロンをチューニング!」

 ニトロ・シンクロンの頭の上にあるメーターが振り切れると共に、二つの光の輪となってガントレット・ウォリアーを包み込むという、いつものシンクロ召喚の風景が出現する。

「集いし勇気が、仲間を護る思いとなる。光差す道となれ! 来い! 傷だらけの戦士、《スカー・ウォリアー》!」

スカー・ウォリアー
ATK2100
DEF1000

 仲間を守る傷だらけの機械戦士、スカー・ウォリアーがシンクロ召喚されると、腕にくくりつけた短剣を構えてポーズをとった。
先立っては万丈目の戦術に敗れてしまったものの、戦闘破壊耐性があるのはなかなかに強力な効果だと言える。

「バトル! スカー・ウォリアーで、氷結界の軍師に攻撃! ブレイブ・ダガー!」

 軍師という職業はそもそも直接戦う職業ではなく、あっさりとスカー・ウォリアーに破壊されるが、守備表示のため明日香にダメージは無い。

「これでターンエンドだ」

「私のターン。ドロー。伏せてあった《リビングデッドの呼び声》を発動し、《氷結界の軍師》を特殊召喚」

 リビングデッドの呼び声と聞いて、先のターンに墓地に送っていた上級モンスターかと思ったが、特殊召喚されたのはまたもや氷結界の軍師だった。

「氷結界の軍師の効果により、《氷結界》と名の付くカードを一枚捨てて一枚ドロー。さらにチューナーモンスター、《氷結界の術者》を召喚」

氷結界の術者
ATK1200
DEF0

 こちらに対抗するようなチューナーモンスターの登場に、下級モンスターを蘇生したのはシンクロ召喚に繋げるためだと理解する。
まあ良い、氷結界のシンクロモンスターがどのようなモンスターか、見せてもらう良い機会だ。

「レベル4の氷結界の軍師に、レベル2の氷結界の術者をチューニング」

 氷結界の術者が通常のシンクロ召喚と違って雪のように白い氷となり、氷結界の軍師を包んでいく。
あの白い氷は、今の明日香の心情を表しているようだった。

「破壊神を防ぐ聖なる盾よ、今こそ光の使者を護れ! シンクロ召喚! 《氷結界の虎王ドゥローレン》!」

氷結界の虎王ドゥローレン
ATK2000
DEF1400

 氷結界のシンクロモンスターはいずれも竜のような外見をしていると聞いていたが……ステータスも若干抑え目であるし、このドゥローレンは何か氷結界の中でも特殊なシンクロモンスターなのかも知れない。

「更にリバースカード、オープン。《安全地帯》! 発動後装備カードとなり、スカー・ウォリアーに装備する」

 罠カードでありながら装備カードになる異色のカード、《安全地帯》の効果なら知ってはいるが、スカー・ウォリアーに装備する理由とは。
《サイクロン》などで破壊すれば、確かにスカー・ウォリアーは破壊出来るが、あまり効率的とは言えないだろうに。

「更に氷結界の虎王ドゥローレンの効果。私のフィールドの表側表示のカードを手札に戻すことで、一枚につき攻撃力を500ポイントアップさせる」

「なるほどな……!」

 明日香が選んだのは、蘇生した氷結界の軍師がシンクロ素材となったためにフィールドに残っている《リビングデッドの呼び声》に、俺のスカー・ウォリアーに装備されている《安全地帯》の二枚。
つまり、万能蘇生カードであるリビングデッドの呼び声を再利用しつつ、《安全地帯》のデメリット効果によってスカー・ウォリアーを破壊し、ドゥローレンの攻撃力を上げるというコンボ。

 そのコンボの前にスカー・ウォリアーは破壊されてしまい、俺のフィールドはがら空きとなってしまう。

「バトル。氷結界の虎王ドゥローレンで、あなたにダイレクトアタック!」

「《くず鉄のかかし》を発動し、戦闘を無効にする!」

 こんな序盤に3000ものダメージを喰らうわけにはいかず、迫りくるドゥローレンをくず鉄のかかしが防ぎきり、再びセットされた。

「カードを二枚伏せ、ターンエンド」

「俺のターン、ドロー!」

 明日香のフィールドに再び伏せられた二枚のリバースカードは、当然ながら《リビングデッドの呼び声》と《安全地帯》……と、思いたいが、他カードの可能性は充分にある。
だがこのまま攻め込まないわけにもいかず、攻撃力がエンドフェイズ時に戻ったようなので、ドゥローレンは倒せないモンスターじゃない。

「俺は《マックス・ウォリアー》を召喚!」

マックス・ウォリアー
ATK1800
DEF800

 出番は少し遅れてしまったが、いつも通りに槍を構える頼れる機械戦士のアタッカーに、俺は再びデュエルの記憶を呼び覚ます。

「明日香。お前との初めてのデュエル、フィニッシャーはこのマックス・ウォリアーだったな」

「…………」

 今度は明日香も反応すら返してくれないが、俺は更に明日香を救うという気持ちを強く出来た。
ここには、明日香との幾多ものデュエルの記憶があるのだから。

「俺はマックス・ウォリアーに装備魔法《サイクロン・ウィング》を発動し、バトル! スイフト・ラッシュ!」

 マックス・ウォリアーの背中に風を纏う翼がつき、三つ叉の槍による突きがドゥローレンを狙っていくと、その翼から明日香に向かって風が吹いた。

「《サイクロン・ウィング》の効果発動! 攻撃モンスターがバトルする時、相手の魔法・罠カードを破壊する!」

 まさに装備魔法バージョンの《サイクロン》と言える効果であり、明日香のフィールドに伏せてあった伏せカード――《安全地帯》だった――を破壊し、その風と共にマックス・ウォリアーがドゥローレンを破壊した。

明日香LP4000→3800

 コンボの起点となるカードを二枚破壊したのだ、あの再利用コンボを再現することは難しくなっただろう。
しかして明日香の瞳は、涼しいまま変わらなかった。

「マックス・ウォリアーの攻守とレベルは半分となる。ターンエンドだ」

「私のターン、ドロー。伏せてあった《リビングデッドの呼び声》を発動し、私は《氷結界の軍師》を特殊召喚」

 どうやらブラフではなく二枚とも再利用コンボのカードだったらしく、リビングデッドの呼び声で蘇生され、氷結界の軍師の都合三度目の登場となった。

「氷結界の軍師の効果を発動し、一枚捨てて一枚ドロー。更に、チューナーモンスター《氷結界の風水師》を召喚する」

氷結界の風水師
ATK800
DEF1200

 再び召喚される氷結界のチューナーモンスターに、またもやシンクロ召喚が来るかと身構えると、予想通りと言うべきかシンクロ召喚の態勢に入った。

「レベル4の《氷結界の軍師》に、レベル3の《氷結界の風水師》をチューニング」

 氷結界の虎王ドゥローレンの時と同様に、チューナーモンスターが白色の氷のようなものになって辺りを覆い始めた。
ドゥローレンはレベル6で今回はレベル7、またも未知の氷結界のシンクロモンスターが召喚されるらしい。

「大神より放たれしルーンの槍よ、今こそ光の敵を貫け! シンクロ召喚! 《氷結界の龍 グングニール》!」

氷結界の龍 グングニール
ATK2500
DEF1700

 ドゥローレンとは違って凍りついた翼で羽ばたき、氷結界の龍が四本の足で大地に着地した。
氷結界の虎王ドゥローレンは氷結界のシンクロモンスターの中ではイレギュラーな存在であり、氷結界のシンクロモンスターたちはドゥローレンを除いて龍の姿をしていると聞いたことがある。

「魔法カード《マジック・プランター》を発動。リビングデッドの呼び声を墓地に送り、二枚ドロー。そして、氷結界の龍 グングニールの効果を発動! 手札を二枚捨てることで、相手のフィールド場のカードを二枚破壊する!」

 氷結界の龍 グングニールが一度いななくと、空中に二本の槍のようなものが浮かんでいき、俺のフィールドのマックス・ウォリアーとくず鉄のかかしに発射された。
凍りついた槍によって、そのままマックス・ウォリアーと装備されていたサイクロン・ウィングにくず鉄のかかしは破壊され、俺のフィールドはまさにがら空きになってしまう。

「今捨てたカードは《ドロー・スライム》。このカードが墓地に送られた時、一枚ドローする。よって二枚ドロー!」

 修学旅行の際に美寿知の部下として吹雪さんと戦った、《氷帝メビウス》使いの氷丸が使っていたモンスター、《ドロー・スライム》によってグングニールの効果で使用されたカードも補充される。

「バトル! 氷結界の龍 グングニールで、相手にダイレクトアタック!」

「ぐああっ!」

遊矢LP4000→1500

 二回連続のダイレクトアタックを防ぐ手段は俺にはなく、グングニールの効果に必要な手札コストも《マジック・プランター》と《ドロー・スライム》のせいで消費されていないのが、俺に更に残念さを増す。

「ターンエンド」

「俺のターン、ドロー!」

 たかが一回ダイレクトアタックを喰らった程度でへこたれるものか、と反骨すると、それを証明するように勢いよくカードを引いた。

「俺は《チューニング・サポーター》を召喚!」

チューニング・サポーター
ATK100
DEF300

 中華鍋を逆に被ったような機械族はステータス自体は頼りないものの、シンクロ召喚を行うにあたって今や【機械戦士】に必要不可欠な仲間になっていた。

「《機械複製術》を発動し、デッキから新たに《チューニング・サポーター》を二体特殊召喚! 更に魔法カード《アイアンコール》を発動し、《ニトロ・シンクロン》を墓地から特殊召喚する!」

 デッキからは新たに《チューニング・サポーター》が二体増殖し、墓地からは《スカー・ウォリアー》のシンクロ素材となっていた《ニトロ・シンクロン》が蘇る。
怒涛の下級モンスターの特殊召喚により、これでシンクロ召喚の準備が整った。

「レベル2となったチューニング・サポーター二体に、レベル1のチューニング・サポーターと、レベル2のニトロ・シンクロンをチューニング!」

 チューニング・サポーターのレベル変動効果により、変幻自在の合計レベルは7――氷となった明日香を溶かすには、うってつけのモンスターだろう。

「集いし思いがここに新たな力となる。光さす道となれ! シンクロ召喚! 燃え上がれ、《ニトロ・ウォリアー》!」

ニトロ・ウォリアー
ATK2800
DEF1000

 悪魔のような形相をした緑色の機械戦士がシンクロ召喚され、背後で炎が燃え盛っていく。
単体でのステータスも頼れるカードであるし、更にシンクロ素材となったモンスターたちのドロー効果も付いてくる。

「ニトロ・シンクロンとチューニング・サポーターには、お互いにシンクロ素材となった時に一枚ドローする効果がある! よって計四枚ドロー! そして、速攻魔法《手札断殺》を発動! お互いに二枚捨てて二枚ドロー!」

 ニトロ・ウォリアーの攻撃力であればグングニールを容易く破壊することは出来るものの、どうせなら合計六枚の手札交換と共にニトロ・ウォリアーの最大火力を使わせてもらおう。

「魔法カードを使用したターン、ニトロ・ウォリアーの攻撃力は1000ポイントアップする……行くぞ、バトル! ニトロ・ウォリアーで、氷結界の龍 グングニールを攻撃! ダイナマイト・ナックル!」

「くっ……」

明日香LP3800→2500

 攻撃力が3800にまで上昇したニトロ・ウォリアーに対し、グングニールはただただその火力の前に溶かされることしか出来ず、あっさりと破壊された。
明日香のデッキのようにダイレクトアタックを狙うことは出来なかったが、必要充分なダメージは与えられただろう。

「カードを一枚伏せ、ターンエンド」

「私のターン、ドロー!」

 二ターン連続してシンクロモンスターを召喚してきた明日香だが、さて、このターンはどうするのか。

「私は魔法カード《浮上》を発動。墓地からチューナーモンスター《氷結界の術者》を特殊召喚」

 やはり墓地から蘇生されたのは氷結界のチューナーモンスターであり、このターンもシンクロモンスターが現れる可能性が飛躍的に高まった。

「更にチューナーモンスター、《氷結界の守護陣》を守備表示で召喚」

氷結界の守護陣
ATK200
DEF1600

 ……いや、俺の予想に反して、明日香はこのターンではシンクロ召喚が行なう気は無いようだ。
何故かは解らないが、どうやら守備モンスターを二体とっておきたいらしい。

「更にカードを二枚伏せ、ターンエンド」

「俺のターン、ドロー!」

 だが守備表示のモンスターが二体というこの状況は、俺のフィールドで燃え上がるニトロ・ウォリアーに取っては好都合だった。

「カードを一枚伏せ、魔法カード……!?」

 ニトロ・ウォリアーの攻撃力の上昇のため、手札の魔法カードを発動しようとするが、氷結界の破術師が放った氷が俺のデュエルディスクを凍りつかせた。

「《氷結界の破術師》の効果。他に氷結界モンスターがいる時、魔法カードはセットして一ターン待たないと発動出来ない」

 罠カード《魔封じの芳香》と同じような効果に、そう言えば氷結界の下級モンスターは、並べば相手を妨害する効果を発揮するモンスターが多いのを思い出させた。

「ならば、ニトロ・ウォリアーで氷結界の破術師に攻撃! ダイナマイト・ナックル!」

 恐らくは無駄であろうがニトロ・ウォリアーに攻撃命令を出すと、今度は氷結界の術者の方が氷の壁を作り出し、ニトロ・ウォリアーの攻撃を止めた。

「氷結界の術者の効果。氷結界が他にいる時、レベル4以上のモンスターは攻撃出来ない」

「くっ……カードを一枚伏せ、ターンエンドだ」

 ニトロ・ウォリアーの攻撃も効果もサポートも全て封じられてしまい、俺にこのターン出来ることは、次のターンに向けて魔法カードを伏せることだけだった。

「私のターン、ドロー!」

 対する明日香も俺の攻撃を封じることは出来たものの、それは向こうも同じことであり、手札もあまり多いとは言えなかった。

「私は伏せていた《サルベージ》を発動し、墓地から二枚手札に加える。そして、《氷結界の軍師》を召喚!」

 氷結界のシンクロモンスターには手札コストを始めとする必要コストが多く、召喚したのも非チューナーモンスターだったことから、今度こそシンクロモンスターが来るのだろう。

「氷結界の軍師の効果を発動し、氷結界のカードを一枚捨てて一枚ドロー。そして、レベル4の《氷結界の軍師》と、レベル2の《氷結界の術者》をチューニング!」

 その合計レベルは6と、最初に登場したシンクロモンスターの《氷結界の虎王ドゥローレン》と同じレベルだったが、今の状況で自分のカードをバウンスしてもあまり意味はない。

 ならば、別のシンクロモンスターと見るべきだろう。


「太陽神より放たれし稲妻の槍よ、今こそ闇の使徒を追え! シンクロ召喚! 《氷結界の龍 ブリューナク》!」

氷結界の龍 ブリューナク
ATK2300
DEF1400

 グングニールと同じように龍の姿をした氷のシンクロモンスター、氷結界の龍 ブリューナクがシンクロ召喚された。
形状はグングニールにより更にドラゴンに近づき、大地に足をつけずに凍りついた翼で飛翔する。

「氷結界の龍 ブリューナクの効果。手札を捨てることで、捨てた枚数分相手のカードを手札に戻す。手札を二枚捨て、ニトロ・ウォリアーとリバースカードを手札に戻す!」

「なんっ……だと!?」

 明日香は《サルベージ》で墓地からまさにサルベージした二枚の手札を捨て、氷結界の龍 ブリューナクの放った氷のブレスがニトロ・ウォリアーとリバースカードを凍りつかせた。
氷になってからそのまま砕け散ってしまい、俺の手札に戻ることとなった。

「捨てたカードは《ドロー・スライム》。よって二枚ドロー」

 やはり《サルベージ》で手札に加えていたカードはあのモンスターだったらしく、またもや明日香は手札コストを踏み倒した。

「バトル。氷結界の龍 ブリューナクで、プレイヤーにダイレクトアタック!」

「リバースカード、オープン! 《ガード・ブロック》! 戦闘ダメージを0にし、カードを一枚ドローする」

 俺の魔法カードも含んだ伏せカード三枚の内で、手札に戻されたカードが《ガード・ブロック》ではなかったおかげで、俺のライフは首の皮一枚繋がった。

「カードを一枚伏せてターンエンド」

「俺のターン、ドロー!」

 俺のフィールドはリバースカードが一枚のみであり、明日香のフィールドには氷結界の龍 ブリューナクとリバースカードが二枚。
ボード・アドバンテージならば圧倒的に負けているが、ハンドの方ならば全く負けてはいない。

「俺はカードを一枚伏せ、リバースカード《ブラスティック・ヴェイン》を発動! 伏せカードを破壊し、二枚ドローする!」

 先のターンで発動しようとしていた魔法カードだったが、《氷結界の破術師》の効果によって発動することが出来なかった。
二枚ドローすると共に、伏せカードの破壊された時に発動する効果が発動する……!

「破壊したカードは《リミッター・ブレイク》! デッキ・手札・墓地から、《スピード・ウォリアー》を特殊召喚出来る! デッキから現れろ、マイフェイバリットカード!」

『トアアアアアッ!』

スピード・ウォリアー
ATK900
DEF400

 デッキから飛び出してくるマイフェイバリットカードは、このターンのコンボの基点となって後に続く《機械戦士》たちの道しるべとなる。
戦闘で氷結界のモンスターたちを蹴散らすスピード・ウォリアーは、またの機会とさせて頂こう。

「スピード・ウォリアーをリリースし、《サルベージ・ウォリアー》をアドバンス召喚!」

サルベージ・ウォリアー
ATK1900
DEF1500

 上級モンスターにしてはステータスが高くないものの、アドバンス召喚されたサルベージ・ウォリアーは、背後に背負っていた網を地中に放り投げた。

「今度はこっちがサルベージする番だ……! サルベージ・ウォリアーがアドバンス召喚された時、墓地からチューナーモンスターを特殊召喚出来る! 来い、《ニトロ・シンクロン》!」

 明日香の《氷結界の軍師》のように、三回目のフィールドへの登場となったチューナーモンスター、《ニトロ・シンクロン》。
その消火器のような姿には心なしか疲れが見えているが、その疲れを気合いで吹き飛ばしてシンクロ召喚の態勢を取った。

「俺はレベル5の《サルベージ・ウォリアー》とレベル2の《ニトロ・シンクロン》をチューニング――再び燃え上がれ! 《ニトロ・ウォリアー》!」

 ブリューナクにエクストラデッキに戻されてしまったものの、やはり氷を溶かすのはこのシンクロモンスターだと、再びシンクロ召喚される。

 そして、氷結界の術者がシンクロ素材となった今、ニトロ・ウォリアーの攻撃を阻む者はいない……!

「バトル! ニトロ・ウォリアーで、氷結界の龍 ブリューナクに攻撃! ダイナマイト・ナックル!」

 同じく氷結界の龍であったグングニールと同じように、ニトロ・ウォリアーのラッシュがブリューナクに叩き込まれていき、氷の身体をボロボロにしながら破壊されていった。

明日香LP2500→2000

「甘いわね。伏せカード《激流蘇生》! 破壊された水属性モンスターを蘇生して、特殊召喚した数×500ポイントのダメージを与える!」

 明日香の背後から氷で出来た激流が流れ出てきて、そこから破壊した筈の氷結界の龍 ブリューナクが特殊召喚される。
さらにその氷の激流は止まることはなく、俺へと雪崩のように押し寄せてきた。
遊矢LP1500→1000


「だが、ニトロ・ウォリアーの効果発動! ニトロ・ウォリアーが相手モンスターを戦闘破壊した時、もう一度続けて攻撃が出来る! 氷結界の破術師に攻撃、ダイナマイト・インパクト!」

「《ガード・ブロック》を発動し、戦闘ダメージを0にして一枚ドロー」

 ダイナマイト・インパクトによるニトロ・ウォリアーの第二打は、俺も使用した《ガード・ブロック》にて防がれてしまったものの、魔法ロックの効果を持つ氷結界モンスターを破壊することに成功する。

「……ターンエンドだ」

「私のターン、ドロー!」

 この際、激流蘇生で負うことになったダメージなどどうでも良く、重要なのはブリューナクが蘇生されたことに尽きる……!

「氷結界の龍 ブリューナクの効果発動。手札を一枚捨て、ニトロ・ウォリアーを手札に戻す!」

 ブリューナクが放つブレスに直撃し、またもやニトロ・ウォリアーはエクストラデッキに戻されることになってしまう。
そして、これで俺のフィールドは正真正銘がら空きだ。

「私は《氷結界の破術師》を守備表示で召喚し、バトル! 氷結界の龍 ブリューナクで、あなたにダイレクトアタック!」

「……《速攻のかかし》を手札から捨て、バトルを終了させる!」

 手札から現れるいつもお世話になるかかしが氷づけになると共に、デュエルが始まった当初より明日香が熱くなっているように感じてきた。
デュエルが始まった時は、まさに氷と言ったような感じだったが、だんだん元のクールを装ったデュエル馬鹿の明日香に戻ってきているような――そんな奇妙な感覚がある。

「カードを一枚伏せ、ターンエンド」

「俺のターン、ドロー!」

 その感覚が間違っていないのであれば、俺のデュエルで明日香を助けられているのであれば、まだまだ俺はデュエルが出来る。
ニトロ・ウォリアーはまたもやエクストラデッキに戻されてしまったが、俺のデッキはシンクロ召喚しか出来ない訳じゃない……!

「俺は《レスキュー・ウォリアー》を召喚してリリースし、《ターレット・ウォリアー》を特殊召喚する!」

ターレット・ウォリアー
ATK1200
DEF2000

 レスキュー隊のような格好をした機械戦士をリリースして召喚されたのは、仲間の力を得る砲台の機械戦士。
レスキュー・ウォリアーの攻撃力を得ることによって、攻撃力は2800となり、攻撃力は控えめのブリューナクの攻撃力を超える。

「バトル! ターレット・ウォリアーで、ブリューナクに攻撃! リボルビング・ショット!」

 効果は強力だが……いや、だからこそステータスは低めのブリューナクではターレット・ウォリアーの砲台を受けきれず、穴だらけになって破壊される。

明日香LP2000→1500

「ターンエンド」

「私のターン、ドロー!」

 これで俺のフィールドには、攻撃力が2800の《ターレット・ウォリアー》が一体となり、ライフポイントは残り1000ちょうど。
対する明日香のフィールドは、他に氷結界モンスターがいる時、双方の魔法カードをロックする《氷結界の破術師》にリバースカードが一枚で、ライフポイントは1500。

「私はリバースカードを発動。《光の護封剣》! あなたは三ターン、攻撃をすることは出来ない。ターンエンドよ」」
 デュエルキングが使用していたともあって、有名な時間を稼ぐことの出来る魔法カード《光の護封剣》。
天空から降り注いだ光の剣が、ターレット・ウォリアーを中心とした俺のフィールドを包み込んだ。

「……俺のターン、ドロー!」

 この場面だけを見ればこの光の剣は俺たちを守ってくれているように見えなくもないが、実質は逆で俺を閉じ込めている。
魔法カードを破壊することも出来ず、俺はターンを終了する他無かった。

「ターンエンド」

「私のターン、ドロー。《貪欲な壷》を発動し、デッキに五枚モンスターを戻して二枚ドロー!」

 明日香は《氷結界の軍師》の効果で何体も墓地に送っていたのだ、《貪欲な壷》の発動条件を満たすのは容易いだろう。

「私は《氷結界の軍師》を守備表示で召喚。効果を発動し、カードを一枚伏せてターンエンド」

 デッキに眠っていたのか墓地に戻したモンスターかは知らないが、何度目の登場か解らない《氷結界の軍師》を守備表示で召喚した。
効果を発動して手札交換を果たし、伏せカードを一枚置くなど、着々と明日香は攻撃の準備を始めている。

「俺のターン、ドロー!」

 残念ながら俺は、《光の護封剣》に囚われて身動きが出来ず、打開策と呼ばれるようなカードも手札にはない。

「俺は《マッシブ・ウォリアー》を守備表示で召喚!」

マッシブ・ウォリアー
ATK600
DEF1200

 明日香は速ければ次のターンには攻勢を仕掛けると思われるので、戦闘破壊耐性を持つ要塞の機械戦士を召喚しておく。

「さらにターレット・ウォリアーを守備表示にし、ターンを終了する」

「私のターン、ドロー!」

 ターレット・ウォリアーを守備表示にしたことで、明日香から見れば破壊しやすいステータスとなっただろうが、ここは慎重に行かせてもらおう。
この残りライフでは、何かが起きてからでは遅いのだから。

「私はフィールド魔法《ウォーターワールド》を発動」

 深夜のデュエルアカデミアの森林が、途端にイルカが飛ぶような海へと変わっていき、俺と明日香はそこにある浮き島に立つこととなった。

「更にチューナーモンスター、《氷結界の術者》を召喚!」

 氷結界モンスターと並べることで戦闘ロックを発生させる、氷結界のチューナーモンスターだが、もうその効果に意味はないだろう。
守備を固めているのに、水属性モンスターの守備力が下がる《ウォーターワールド》が発動するということは、つまり。

 明日香は攻めに転じるということだろう。

「レベル4の《氷結界の軍師》と、レベル3の《氷結界の破術師》に、レベル2の《氷結界の術師》をチューニング!」

 三体をシンクロ素材にしての合計レベル9とは、なかなかのド派手なシンクロ召喚だ。
一部例外を除けばシンクロモンスターはレベルが高ければ高いほど、その基本ステータスは上がっていくのだから、合計レベル9とはかなりのステータスだろう。

「破壊神より放たれし聖なる槍よ、今こそ魔の都を貫け! シンクロ召喚! 《氷結界の龍 トリシューラ》!」

氷結界の龍 トリシューラ
ATK2700
DEF2400

 グングニールとブリューナクのいいとこ取りと言っても少し違うだろうが、シンクロ召喚された龍は、凍りついた翼と両手足のある胴長のドラゴンだった。
警戒していたよりそのステータスは高くなかったが、今まで出て来ていた氷結界のシンクロモンスターたちも、ステータスより効果の方が強力だったことを思いだす。

「氷結界が誇る最強の龍、トリシューラの効果。このカードがシンクロ召喚された時、相手のフィールド・手札・墓地のカードを一枚ずつ除外する!」

「なんだと!?」

 シンクロ召喚をしただけで俺のフィールドを三枚も除外するという、強力とかそういう次元ではないカードに俺が驚愕している間にも、トリシューラは攻撃の準備を整えていた。
トリシューラが生み出した三本の氷の矢が、俺のフィールドの《マッシブ・ウォリアー》と手札、墓地の《ニトロ・シンクロン》を纏めて除外していく。

 除外というのがまた嫌らしく、俺のデッキには除外系のギミックはあまり入ってはいない。

「バトル! 氷結界の龍 トリシューラで、ターレット・ウォリアーに攻撃!」

 そのステータスもフィールド魔法《ウォーターワールド》で補助されており、ブレスで凍らされたターレット・ウォリアーが、放たれた槍に粉々となった。

「私はこれでターンエンド」

「俺のターン、ドロー!」

 だが、ターレット・ウォリアーを守備表示にしていたことは功を労し、不幸中の幸いかダメージは受けずに済む。

「俺は《狂った召喚歯車》を発動! 墓地の攻撃力が1500以下のモンスターとその同名モンスターを、可能な限り特殊召喚する! 来い、《チューニング・サポーター》!」

 三つの急速に回り続ける歯車の中から、チューニング・サポーターが歯車一つにつき一体特殊召喚される。

 この魔法カードには、相手は同じ属性・攻撃力のモンスターを特殊召喚出来るという、類似カードの《地獄の暴走召喚》よりも重いデメリットがある。
場合によっては特殊召喚をされることも覚悟していたが、明日香のデッキに対応するモンスターはないようで、杞憂に終わったようだった。

「そして、《チェンジ・シンクロン》を召喚!」

チェンジ・シンクロン
ATK0
DEF0

 顔だけが大きい小型のロボットのようなシンクロンが召喚されたが、明日香のフィールドの氷結界の龍 トリシューラに比べて、こちらのモンスターは比べられもしないほど小さかった。

「効果によりレベルを2とした《チューニング・サポーター》三体に、レベル1の《チェンジ・シンクロン》をチューニング!」

 しかし、いくら小さいモンスターであろうとも、シンクロ召喚によってトリシューラ程の大きさへと姿を変えることが出来る。

「集いし願いが新たに輝く星となる。光さす道となれ! シンクロ召喚! 現れろ、《パワー・ツール・ドラゴン》!」

パワー・ツール・ドラゴン
ATK2300
DEF2500

 氷の龍とぶつかり合うことの出来る、黄色い装甲板に覆われた機械龍《パワー・ツール・ドラゴン》。
だがそれに反してその攻撃力は、《ウォーターワールド》の支援を受けているトリシューラには及ばない。
だが、シンクロ召喚したパワー・ツール・ドラゴンだけの力だけではなく、俺たちはシンクロ素材たちの力を借りてトリシューラを打ち破る。

「チューニング・サポーターがシンクロ素材になったため、合計3枚ドローする! そして、チェンジ・シンクロンがシンクロ素材となった時、モンスター一体の表示形式を変更する! 俺はトリシューラを守備表示に!」

 たとえ戦闘も出来ない小さいモンスターであろうと、大型モンスターの助けになることは出来る。
チューニング・サポーターの効果で手札を補充し、チェンジ・シンクロンの効果でトリシューラを超えられる壁に引き下げる。

「光の護封剣があるのを忘れているの?」

 確かにパワー・ツール・ドラゴンをシンクロ召喚しようが、トリシューラを守備表示にしようが、光の護封剣は未だに俺たちを包み込んで離さない。
だがシンクロ素材が頑張ってくれたのだから、ここから先はパワー・ツール・ドラゴンの出番だ。

「パワー・ツール・ドラゴンの効果を発動! デッキから三枚の装備魔法を選び、相手が選んだカードを手札に加えることが出来る! 俺が手札に選ぶのは、《団結の力》・《パイル・アーム》・《魔界の足枷》の三枚。パワー・サーチ!」

「……右にしておくわ」

 明日香が選んだ狙い通りの装備魔法カードにニヤリと笑いながら、他の二枚をデッキに戻してそのままデュエルディスクに差し込んだ。

「《パイル・アーム》を パワー・ツール・ドラゴンに装備したことで、効果を発動! このカードは装備モンスターの攻撃力を500ポイントアップさせ、魔法・罠を一枚破壊する! 俺が破壊するのは、当然《光の護封剣》!」

 光の護封剣を束ねている中心部をパイルバンカーが貫くと、俺たちを拘束していた光の剣も消え失せていき、これでパワー・ツール・ドラゴンは自由になる。

「バトル! パワー・ツール・ドラゴンで、氷結界の龍 トリシューラに攻撃! クラフティ・ブレイク!」

 ただでさえ守備力はあまり高くはなく、更に《ウォーターワールド》で低くなっているトリシューラはパイルバンカーには耐えられず、大地に堕ちて沈黙した。

「リバースカード《奇跡の残照》を発動! 破壊された《氷結界の龍 トリシューラ》を特殊召喚する!」

 光と共に破壊したはずのトリシューラがまたも特殊召喚される……が、そんなことより、俺は他のことに驚いていた。

 罠カード《奇跡の残照》――それは、いつだか明日香とトレードしたカードなのだから。

「明日香っ……! ……いや、カードを一枚伏せてターンエンドだ」

「私のターン、ドロー!」

 ……感傷に浸るのはまだまだ早く、依然として俺は劣勢なのだ、そんなことをしている場合ではないと気を引き締める。

「私は魔法カード《浮上》を発動。墓地から《氷結界の伝道師》を特殊召喚」

氷結界の伝道師
ATK1000
DEF400

 墓地から現れたのはいつの間にやら送っていた、ただの下級モンスターではあったものの、明日香は更に魔法カードを発動した。

「更に速攻魔法《地獄の暴走召喚》! 《氷結界の伝道師》を三体特殊召喚する!」

 俺のフィールドにはパワー・ツール・ドラゴンしかいないために特殊召喚は出来ず、明日香のフィールドに三体の《氷結界の伝道師》が並ぶ。

「そして《氷結界の伝道師》の効果を発動。このカードをリリースすることで、墓地から氷結界と名の付くモンスターを特殊召喚出来る! 三体の氷結界の伝道師をリリースすることで、蘇れ! 氷結界の聖獣たち!」

「なっ……!?」

 氷結界の伝道師が三体とも呪文を唱えながらリリースされると、伝道師がいた場所に凍りついた魔法陣が現れていく。
そしてその場所から特殊召喚されたのは……破壊したはずの、三体の氷結界のシンクロモンスター。

 これで明日香のフィールドには、トリシューラ・ブリューナク・グングニール・ドゥローレンが並び、荘厳な雰囲気を醸し出しすと共に俺を威圧した。

「ドゥローレンの効果により、ウォーターワールドを手札に戻して攻撃力を500ポイントアップさせ、更にもう一度《ウォーターワールド》を発動!」

 《安全地帯》を始めとする永続罠とのコンボ意外には、こういう単純な使い方があるのだろうドゥローレンは、ノーコストで攻撃力を1000ポイント上昇させた。
だが効果が問題なのは、共に蘇生された他の二体の方である。

「氷結界の龍 ブリューナクの効果。手札を一枚捨てることで、パワー・ツール・ドラゴンを手札に戻す!」

「手札から《エフェクト・ヴェーラー》を発動! ブリューナクの効果を無効にする!」

 羽衣を着た妖精のような姿のラッキーカードが、なんとかブリューナクがパワー・ツール・ドラゴンに氷のブレスを放つ前に、その羽衣で包み込んで効果を奪うことに成功する。
明日香の手札は残り0枚と、手札をコストにする必要のあるグングニールの効果を使用することは出来ない。

「甘いわね。ブリューナクで捨てたカードは《ドロー・スライム》。よって一枚ドロー!」

 三枚目の――《貪欲な壷》で戻したのかも知れないがそんなことはどうでも良い――手札コストを帳消しにする効果モンスター、ドロー・スライムの効果により、明日香の手札が一枚となる。

「グングニールの効果を発動。手札を一枚捨て、パワー・ツール・ドラゴンを破壊する!」

 パワー・ツール・ドラゴンには、破壊される時に装備カードを墓地に送ることで破壊を免れる効果がある……が、その効果を発動することはなく、そのまま破壊される。
その代わりパワー・ツール・ドラゴンには、伏せカードと共に新たなモンスターを召喚するための布石になってもらう。

「リバースカード、《シンクロコール》を発動! 墓地のモンスターを一体ずつ選択し、そのモンスターでシンクロ召喚が出来る!」

 背後に浮かび上がってくる墓地のモンスターは、もちろんパワー・ツール・ドラゴンとエフェクト・ヴェーラーのラッキーカードたち。
エフェクト・ヴェーラーが光の輪となってパワー・ツール・ドラゴンの周囲を回ると、その光の輪は炎となって、パワー・ツール・ドラゴンの装甲板を外して飛翔させた。

「集いし命の奔流が、絆の奇跡を照らしだす。光差す道となれ! シンクロ召喚! 現れろ、《ライフ・ストリーム・ドラゴン》!」

ライフ・ストリーム・ドラゴン
ATK2900
DEF2400

 ラッキーカードたちのチューニングによって召喚される黄色のドラゴンだったが、その攻撃力は《ウォーターワールド》がある今ではブリューナク以外には適わず、守備表示での登場となった。

「ライフ・ストリーム・ドラゴンがシンクロ召喚に成功した時、ライフポイントを4000に出来る! ゲイン・ウィータ!」

 守備表示の壁にする以外でのこのモンスターをシンクロ召喚した狙い、そのライフポイントの回復効果を体現した光が俺に降り注いだ。

「……バトル! 氷結界の龍 ブリューナクで、ライフ・ストリーム・ドラゴンに攻撃!」

「墓地から《パイル・アーム》を除外することで、このカードの破壊を無効にする!」

 装備魔法カードを手札に加えることの出来る、攻撃的な効果のパワー・ツール・ドラゴンとは打って変わって、破壊を無効にする防御的な効果を持つライフ・ストリーム・ドラゴン。

「更に氷結界の虎王ドゥローレンで攻撃!」

「《サイクロン・ウィング》を除外して破壊を無効にする!」

 その場持ちの良さは確実な防御に回った時にはとても堅く、二体の氷結界のモンスターたちの攻撃を受けきった。

「そして、氷結界の龍 グングニールで攻撃!」

「くっ……!」

 だが《団結の力》と《サイクロン・ウィング》で装備魔法カードは打ち止めで、グングニールが放った槍に遂には貫かれてしまう。

「厄介なライフ・ストリーム・ドラゴンが消えたわね。氷結界の龍 トリシューラで、ダイレクトアタック!」

「ぐああっ……!」

遊矢LP4000→800

 ライフ・ストリーム・ドラゴンの二つの効果のおかげで何とか生き残れたが、それでもライフは一撃で危険域へと吹き飛んだ。

「私はこれでターンエンド」

 ライフがいくら少なかろうとあればドロー出来るのだ、まだ逆転の可能性を繋げてくれたライフ・ストリーム・ドラゴンに感謝しつつ、俺は気合いを込めてカードを引いた。

「俺のターン、ドロー! ……《貪欲な壷》を発動して二枚ドローし、《スピード・ウォリアー》を召喚する!」

『トアアアアッ!』

 気合いを込めたからではないだろうが《貪欲な壷》を引くこと出来、更にマイフェイバリットカードの召喚にも成功する。

 そして、彼女を救うことの出来るカードも同時に手の中に。

「魔法カード《思い出のブランコ》を発動!」

「思い出の……ブランコ……!?」

 このカードは通常モンスターを基本的に多用しない俺のカードではなく、このデュエルに挑む際に吹雪さんから手渡されたカード。
天上院兄妹の思い出のカードであるらしく、今から考えれば吹雪さんは、どんなデッキだろうとこの《思い出のブランコ》を投入していたことを思いだす。

 そんな大事なカードを吹雪さんはいつになく真面目な表情で託してきた……だからこれは、吹雪さんの明日香への思いがこもったカードだ。

「墓地から通常モンスター、《ブレード・スケーター》を特殊召喚する!」

ブレード・スケーター
ATK1400
DEF1500

 明日香のデッキの主力モンスターの一体である、氷上の舞姫《ブレード・スケーター》を特殊召喚する。
投入するのは高田とのデュエル以来だが、悪いが今回も明日香を救う力になってくれ。

「更に俺は、二枚の魔法カードを発動する! 一枚目は《ミラクルシンクロフュージョン》! 墓地の《ライフ・ストリーム・ドラゴン》と《スピード・ウォリアー》の力を一つに! 融合召喚、《波動竜騎士 ドラゴエクィテス》!」

波動竜騎士 ドラゴエクィテス
ATK3200
DEF2000

 墓地のライフ・ストリーム・ドラゴンとマイフェイバリットカードの力を融合し、巨大な槍を構えた竜騎士が俺のフィールドに降り立つが、それだけではまだ終わらない。

「もう一枚は《融合》! 手札の《エトワール・サイバー》とフィールドの《ブレード・スケーター》融合する――俺に明日香を救う力を貸してくれ! 《サイバー・ブレイダー》

サイバー・ブレイダー
ATK2100
DEF1000

 ノース校との友好デュエルがあった前日、明日香からお守り代わりとして受け取って、後に正式にトレードすることとなった《サイバー・ブレイダー》。
俺はこのモンスターを片時もエクストラデッキから抜いたことはなく、負けそうな時でもこのカードを見れば元気が……いや、負ければ明日香に怒られると思えば元気が出るものだった。

「くっ、サイバー・ブレイダー……」

 このデュエルが始まってから、ようやく明日香が動揺を表情に出した。
そろそろこのデュエルの決着をつけると共に……明日香を、助け出す。

「スピード・ウォリアーに装備魔法《ファイティング・スピリッツ》を装備し、バトル! スピード・ウォリアーは、召喚したターンに攻撃力が倍になる!」

 自身の効果と装備魔法《ファイティング・スピリッツ》の効果を併せて攻撃力は3000となり、明日香のブリューナクとドゥローレンの攻撃力を抜いた。

「そのモンスターたちがお前を光の結社に縛っているのなら! その凍りついた龍たちを破壊する! スピード・ウォリアーでブリューナクに攻撃! ソニック・エッジ!」

 相手モンスターの数が多ければ多いほど強くなる装備魔法《ファイティング・スピリッツ》の効果を受け、スピード・ウォリアーがブリューナクの氷のブレスをはねのけ、回し蹴りをクリティカルヒットさせた。

明日香LP1500→1300

「そしてお前のフィールドのモンスターが三体になったことにより、サイバー・ブレイダーの第三の効果が発動! お前のカードの効果を全て無効にする! パ・ド・カトル!」

 相手のカードの効果を無効にするカードは数あれど、相手のみ全てのカードの効果を無効にするとなれば規格外であり、フィールドの《ウォーターワールド》が消え去っていった。

「続いて、ドラゴエクィテスでグングニールを攻撃! スパイラル・ジャベリン!」

 《ウォーターワールド》が効果を失ったことによってグングニールも攻撃力が元に戻ることとなり、ドラゴエクィテスの投擲された槍を避けきれずに、グングニールは大地に串刺しとなった。

明日香LP1300→600

「これが最後だ。お前のフィールドのモンスターが二体になったことにより、サイバー・ブレイダーの第二の効果を発動! このカードの攻撃力は倍になる! パ・ド・トロワ!」

 《ウォーターワールド》の効果は復活するものの、その程度は何の意味もなさないサイバー・ブレイダーの4200という圧倒的な攻撃力。
後は氷結界たちにトドメを刺すだけだが、それより先に俺は動揺している明日香に呼びかけた。

「……俺が知ってる明日香は、一見クールっぽいけどただのデュエル馬鹿で、女王とか呼ばれてるけど意外とただの女の子だったりして、強くて綺麗でブラコンで弱いところもある親友だ! ……断じて、キチンとした女王で氷の女なんかじゃない」

「遊矢……」

 その声は俺の知っている『明日香』の声。
久々に聞くことになったその声に安堵すると、このデュエルを終わらせるために声を張り上げた。

「光の結社とはこれでお別れだ。サイバー・ブレイダーで、氷結界の龍 トリシューラに攻撃! グリッサード・スラッシュ!」

 恥ずかしながら俺も何度となくやられた覚えのある、バレリーナのような美しい動きが伴った攻撃に、トリシューラは破壊されるのだった。

明日香LP600→0


「……遊矢、私」

 デュエルが決着して明日香を救い出してからの開口一番、明日香は顔を伏せて申しわけなさそうな顔をしてるのを見て、急いで口を挟んだ。

「そんな顔をしてもらうために助けた訳じゃない。吹雪さんの時もそうだったろ?」

 セブンスターズとなっていた吹雪さんの真紅眼の攻撃で火傷した時も、明日香はこんな表情をしていたものだ。
その時のことを思いだしたのか、明日香はクスリと笑ってくれた。

「そうだったわね……それにしても遊矢、デュエルしてる時のことは少し覚えてるんだけど、あれじゃ私がいつも負けてるみたいじゃない!」

 ガントレット・ウォリアーやらマックス・ウォリアーを召喚した時、『あのデュエルではフィニッシャーだった』などと明日香に言ったことを言っているのだろう。
アレは明日香を救うために、そして俺の意志を更に強固にするために必要な思い出だったのだが……確かに改めて聞いてみると、明日香が負けてるようにも聞こえる。

「勝率は俺の方が上なのは確かだろ?」

「言ったわね! ……っと」

 良く解らない日常の会話のようなもので、今すぐもう一回デュエルが始まりそうな一触即発の雰囲気になったものの、明日香が急に頭を抱えてよろめいた。

「どうした!?」

「大丈夫よ。……ちょっと、眠くなっちゃって」

 そういえば三沢が俺を助けた時も、俺はその場に倒れ込んだという話を聞いたことを思いだす。
斎王に深く洗脳された影響で、明日香にも何かあるかも知れない。

「寝とけよ。運んどいてやる」

「……悪いけど、頼むわ」

 明日香は近くの木にもたれかかるように倒れ込んだので、いわゆる『おんぶ』の格好で背中に明日香を背負う。
保健室はもうこの深夜では閉まっているだろうし、オベリスク・ブルー寮などに行けば俺は明日香親衛隊に殺されるだろう。

 仕方なく俺は、助け出せたことを喜びながら、明日香をラー・イエロー寮に運ぶのだった。





 しかし。
彼女は次の日になっても、目覚めることは無かった。 
 

 
後書き
遅れた割にはいつもの駄文、どうも久しぶりの蓮夜です。

そろそろ第二期も終わりに近づいて来ましたが、いつも通り感想・アドバイス待ってます。 
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