好き勝手に生きる!
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第二十四話「祝☆入団!」
「おー、ここがオーちゃんの家かー」
空間を潜った先は一般家庭の家よりそこそこ広いリビングだった。三人掛けのソファーにテーブル、プラズマテレビやパソコンなどが置いてある。
「あれ? お客様ですか?」
ソファーに座って寛いでいると、リビングの向こうから一人の女の子が姿を見せた。魔法使いが着るようなマントととんがり帽子を身に付けたその子は中学生くらいの年齢で、人懐っこい笑みを浮かべていた。
「初めまして、ルフェイ・ペンドラゴンといいます」
「どもども、姫咲レイだよ。いつもオーちゃんがお世話になってます」
「いえいえ、そんな。こちらこそ、オーフィスさまには私たちも良くして頂いていますよ。ところで、姫咲さんはオーフィスさまのお友達の方ですか?」
「レイでいいよ。うん、オーちゃんとは友達さ。今日は禍の団の見学に来たんだ。オーちゃんがいつもお世話になってるらしいしね」
女の子――ルフェイちゃんは手を合わせて目を輝かせた。
「では失礼してレイさんって呼ばせて頂きますね。オーフィスさまからレイさんの話はお聞きしてますよ。こうしてお目に掛かれて嬉しいです! 見学ですね、少しお待ちください。もうすぐ兄さまとヴァーリさまが帰ってきますので」
「あいあい。じゃあ待たせてもらうよー」
ソファーの上で手足を投げ出してぐでーっと脱力する。ポケットからチュッパチャップスを取り出し口に咥えると、僕の膝上に座ったオーちゃんがジッと飴を見つめてきた。
「レイ、それおいしい?」
「美味しいよー。オーちゃんも食べる?」
「食べる」
オーちゃんは初心者だからね、無難にグレープ味にしましょう。取り出した飴の包み紙を剥がしてオーちゃんに差し出す。小さな手で受け取ったオーちゃんはパクッと何のためらいもなく口にした。
「どう?」
「美味」
それはよかった、とオーちゃんの華奢な体躯をギュッと抱きしめる。オーちゃんは相変わらず抱き心地が良いですなぁ。
オーちゃんと一方的に戯れてること十分。扉を開けてメガネを掛けたスーツ姿の男の人とカジュアルな格好をした男の人がやって来た。
「ただ今戻りましたよ、ルフェイ。……お客さんですか?」
「ほぅ」
こちらに目を向けたメガネの青年が意外そうに目を開き、もう一人の男の人が面白そうにスッと目を細めた。
「おかえりなさい兄さま、ヴァーリさま。こちらの方はオーフィスさまのお友達の方で姫咲レイさんです。私たちの見学がしたいとのことですけど」
「おや? もしや、あの姫咲さんですか?」
「そうみたいですよ。本物に会えるなんて感激です!」
「そうですか、それはそれは……。――初めまして、私はアーサー・ペンドラゴン。ルフェイの兄です。どうぞお見知りおきを」
笑顔とともに差し出してきた手を握る。握手は友好の証だからね。
「姫咲レイだよ。いつもオーちゃんがお世話になってます。今日はオーちゃんがいるという禍の団っていうのを見に来たんだ」
「なるほど、私は歓迎しますよ。ヴァーリはどうですか?」
「俺も構わない、が一つだけ条件がある」
ヴァーリというらしい男の人の言葉に首を傾げる。ヴァーリくんは爛々と目を輝かせて口角を吊り上げた。
「俺と戦うことだ。オーフィスすら上回るというその力、見てみたい」
あからさまに殺気を垂れ流すヴァ―リくんにアーサーくんが仕方がないな、という風に首を振った。
「すみませんね、姫咲さん。ヴァーリは戦闘狂でして、強い人には目が無いのですよ」
「レイでいいよ。んー、まあ別に戦ってもいいけど、あまり意味がないよ?」
僕の言葉にヴァーリくんが獰猛な笑みを浮かべた。
「ほう、意味がないとは心強いな。是非、ご教授願いたいものだ」
「まあ、ヴァーリくんがいいならいいけどね。じゃあ、早速やろうか?」
指を鳴らすと僕らの姿がその場から掻き消える。跳んだ先は何時ぞやの模擬戦で使った山の中の開けた空間。アーサーくんたちが驚いた顔で周囲を見回していた。
「これは、転移魔法陣なしでの転移ですか。それも発動時間が一切ないとは……」
「はー、レイさんって凄いんですねぇ」
ヴァーリくんは一刻もはやく戦いたいようで体をウズウズさせていた。
「ここなら思いっきりやっても大丈夫だよ」
「ありがたい。ではどれほどのものか、見せてもらうぞ!」
禁手化、という言葉とともにヴァーリくんの身体が光に包まれると、全身を白銀の鎧に包んだ姿で現れた。
日本の鎧ではなく、プレートアーマーのような西洋の鎧だ。顔もフルフェイスで隠れており、身体の各所には宝玉が填めてある。
「おー! もしかして、それって神器? なんかイッセーの『赤龍帝の籠手』と似たような気配を感じるんだけど」
「ほう、君は今代の赤龍帝と知り合いなのか。俺は赤龍帝の対となる存在、相反する白――白龍皇だ」
「ふーん。その割りにはなんか姿が厳ついね」
「これは禁手化。神器の力を高め、ある領域に至った者だけが発揮する力だ。そろそろお喋りもここまでにしよう。さあ、【絶対強者】とまで謳われたその力、見せてくれ!」
「なにそれ、初耳なんだけど」
ヴァーリくんは背中の小さな突起から魔力を放出し、猛スピードで接近してきた。うん、イッセーの比じゃないね。
「うむむ、スピードはまあまあだね」
背中から魔力をジェット噴射のように放出しながら、ヴァーリくんは縦横無尽に飛び回り僕の体に触れる。
『Divide!』
ヴァーリくんの宝玉から無機質な音声が流れ出た。同時に僕の中から少しだけ力が抜けていくのを感じる。これがヴァ―リーくんの神器の力なのかな?
「俺の神器、『白龍皇の光翼』の能力の一つ。触れた対象の力を十秒ごとに半減させ、自らの糧とするものだ。時間が経てば経つほど力が弱っていくぞ?」
「ふーん。イッセーとは真逆の能力なんだねぇ」
イッセーの『赤龍帝の籠手』は十秒ごとに力を増幅して誰かに譲渡するもの。対してヴァーリくんのは十秒ごとに力を半分にして自分に加算することか。ここまで能力が似ているということはイッセーの禁手化というのもヴァーリくんみたいに全身が鎧になるのかな?
「まあ面白い能力だけど、生憎僕には無意味なんだよねー」
『虚現の境界線』で【僕の力が半分になった】という現実を虚構に変える。瞬く間に魔力、気、体力、膂力、その他もろもろが元の状態となった。
「なに?」
驚愕した様子のヴァーリくん。この程度、お茶のこさいさいですよー。
驚いている隙にヴァーリくんの背後に回り込む。光輝く翼を広げて宙を浮いているヴァーリくんに対し、僕は【認識した場所を足場にする】という虚構を現実に変えて、地面を踏み締めるように宙に立つ。
「速いっ!」
どうやらヴァーリくんには今の動きを目で終えなかったようで、仕切りに僕の姿を探している。ちなみに、僕はずっと気配を消してヴァ―リーくんの動きに合わせて背後に隠れています。一人かくれんぼー!
……飽きた。その背中に適当に右パンチ。
「ぐぁっ!?」
堅牢そうな鎧が一発で粉々に砕け、物凄い勢いで落下した。っていうか、鎧脆!
「くっ」
空中で反転したヴァーリくんはズザーっと砂埃を巻き上げながらも、なんとか着地した。この辺はイッセーとは大違いだね。イッセーの場合はバウンドしてどっか行っちゃうし。
「流石だな……なら、これならどうだ?」
バッと手を広げたヴァーリくんの周りに大小様々な魔方陣が展開された。その数は十。
「おー、今度は魔術対決? いいねー、魔術対決なんて久々だねぇ」
どんな魔術なのだろうか? 見たことのない系統の魔術だ。
ワクワクした面持ちで上空から眺めていると、ヴァーリくんが横薙ぎに腕を振るった。それを合図に魔方陣から白い光線やら光弾が飛んでくる。
「開けー開けー、扉よ開け~♪」
対して僕は自身の目の前に直径二十メートルくらいの大きさを持つ扉を出現させた。古代の遺跡にありそうな鋼色の扉は重厚な音を立てて開口すると、ヴァーリくんが放った魔術は扉の奥へと消えていった。
ギィィ……と軋む音を立てて扉が閉まると、音も無く消えていく。
「はい、またまた開口~」
再び扉が出現。今度はヴァーリくんの背後だ。開かれた扉の中から先程放たれた魔術が飛び出してくる。
慌てて飛び去ろうとするが、
「閉じろー閉じろー、空間よ閉じろ~♪」
ヴァーリ君を中心にドーム状の結界を展開した。光弾や光線が結界の壁にぶち当たると、まったく威力を落とさずにそのまま反射する。
「くっ!」
避けながら自分が放った光弾などを処理するヴァーリくん。その光景を上空で眺めながら、新たな魔術を行使する。
「まぁる書いてちょん、まぁる書いてちょん……っと」
僕の周囲に魔方陣を展開。ヴァーリくんのように質より量を選んだため、膨大な数の魔方陣が空を覆う。その数、ざっと千。
「弾幕は正義なのです」
青白い輝きを示す魔方陣は手を振り下ろすと光芒を一層強くその猛威を振るった。ヴァーリくんを取り巻く結界は内部の攻撃を反射する機能はあるけど、その分外部の攻撃には脆いの。
「おぉおおおおおおおお!」
ヴァーリくんが障壁を張る。しかし、そんなものはまさに紙切れも同然だ。光の奔流は結界諸共ヴァーリくんを呑み込んだ。
――いやはや、数の暴力は怖いねー。範囲指定魔術じゃないのに辺り一面焼け野原だよ。一応、山周辺に隔離結界を張っておいてよかったね。
「ヴァーリくん大丈夫―?」
眼下では鎧を着る前の姿に戻ったヴァーリくんが仰向けで倒れていた。手加減しておいたから死んではいないと思うけど。
ヴァ―リーくんの元に着地した僕はしゃがみこんで彼の頭を指で突っついた。
「ふふ、まさに完敗とでもいうのかな。なるほど……オーフィス同様に相手にしてはいけないな、君は」
身体の所々には火傷の痕があるが命に別状はないようだ。満足げな笑みを浮かべたまま気絶してしまった。
「ありゃ、寝ちゃった」
――取りあえず戻りましょうかね。
唖然とした様子でこちらを眺める兄妹と相変わらずの無表情のオーちゃんを連れて、僕はオーちゃんの家へと跳んだ。
† † †
「いや、お強いとは聞いていましたが、まさかあのヴァーリが手も足も出ないとは……。オーフィスより強いと聞いた時点でこうなることは目に見えていましたね」
「ほんと凄いですねー! 見た目はこんなに愛らしいのにオーフィスさまより強いなんて凄すぎです!」
「外見で判断した俺の落ち度だな。オーフィス同様に底が見えない」
「当然。レイ、我より強い」
あの後、オーちゃんの家に戻った僕らはヴァーリくんの傷を治してリビングで談笑し合った。その際にオーちゃんも分からないという『禍の団』というものを教えてもらった。
――どうやらテロリストの集団のようです。
でもでも、ただのテロリストじゃないようで、一言で『禍の団』と言っても、その中で色々な派閥があるようだ。その派閥によってそれぞれ掲げている目的が違うのだと。面倒だね。
その派閥というのが、ヴァーリがリーダの『ヴァーリチーム』。これはチームであって派閥ではないのではと思うのだが、派閥らしい。よくわかんないね。六人で構成されているのだと。
続いて英雄派。歴史上で名を遺した英雄の子孫や神滅具の所有者などで構成されているらしい。リーダは三国志にも出てきた曹操の子孫なのだと。あのグルグルチビの子孫か、会ってみたいようなみたくないような。というか、曹操の名前って襲名だっけ?
そして最後が旧魔王派。かつて冥界で四大魔王だった旧魔王の血族やその一党で構成されているみたい。自らを“真なる魔王の血族”と自称して現在の四大魔王を“偽りの存在”と呼んで嫌っているらしい。ぶっちゃけどうでもいい。
この旧魔王派というのが『禍の団』で最大の派閥で、次に英雄派と来るみたい。ちなみに英雄派はみんな“人間至上主義”らしく人外を殲滅することを目的としているらしい。ヴァーリチームは、強者を求めたり遺跡を調査したりと世界中を旅しているのだと。グレートレッドを倒して『真なる白龍神皇』というのになるのが目的みたい。だからオーちゃんと互いに協力し合っているんだね、わかります。
「ところで、レイから見て今代の赤龍帝は強いか?」
「んー、弱いね」
ヴァーリくんの質問に正直に答える。魔力や身体能力が高いわけでもなく、格闘技を習っているわけでもないし、何か才能に恵まれているわけでもないからね。――ああ、でも一つだけ才能があったかな?
「そうなのか? なんだ、今代の赤龍帝はハズレか……」
がっかりした様子のヴァーリくん。あー、キミって戦うのが好きだって言ってたもんね。
「まあ、大丈夫だと思うよ。一時期は僕が鍛えていたわけだし。それに、イッセーは面白いもの」
「面白い?」
「うん、面白い。今まで見てきた中で一番の面白さだよ。多分、ヴァーリくんも気に入るんじゃないかな?」
「だといいがな。しかし、そうか……君が直々に指導していたのなら少しは楽しめそうだ」
そう言って不敵な笑みを浮かべる。その隣でアーサー君が顔を上げた。
「そうだレイ君。よければ、レイ君も禍の団に入りませんか?」
「んぅ?」
三星堂のカステラを食べていると、唐突にそんなことを言ってきた。
「いいですね! 私はもちろん歓迎です!」
「俺も異論はない」
「レイ、入る」
他の三人も賛成なのかうんうん頷いている。僕はフォークを口に咥えたまま思考を走らせた。
「んー、オーちゃんってヴァーリくんといつも一緒に行動しているの?」
「いや、オーフィスと俺たちは普段から別行動だ」
「うーむ……………………まあ、いっか。んじゃあ、いくつか条件があるんだけどそれ呑んでくれたら入ってもいいよ」
考えるのが面倒になったとは言わない、決して。
「その条件とは?」
アーサー君の問いに一つ頷き答える。
「えっとねー、条件は三つ。一つ目は“単独行動を認める”こと。基本的に僕、単独で行動するから、まあ独立していると思って。二つ目は“誰からの指図も受けない”こと。協力なら場合によって受けるかもだけどね。んで、三つ目が“気に入らない相手なら例え同じ組織の人が相手でも遠慮しない”。だから、それでどっかの派閥潰しちゃってもゴメンね?」
これでどやっ、と胸を張るとヴァーリくんは難しい顔で考え込んだ。
「ということは、レイ君はどこのチームにも属さず独立した行動を取るということだな?」
「そだよー。オーちゃんがいないなら一緒に居るつもりはないもん」
僕がそう言うとヴァーリ君はしばし黙考するが、やがて首を縦に振った。
「……いいだろう。その案を呑もう」
「おー、じゃあ、これからよろしくね」
ヴァーリくんと握手する。その隣でルフェイちゃんが悲しそうに眉をハの字にしていた。
「レイさん一緒じゃないんですか? うぅ、残念です……」
「にはは……、まあ今度また会うかもしれないから。ゴメンね?」
しょぼんと肩を落とすルフェイちゃんの頭をいい子いい子する。ついでにオーちゃんの頭もいい子いい子してから一旦家に戻ることにした。
† † †
家に帰ってきた時には時刻はすでに深夜の零時を過ぎていた。
これは怒られるかな、と思いながらそーっと玄関の扉を開けて、気配を殺しながらリビングに向かう。
テーブルには両手を枕に伏すようにして眠るお姉ちゃんがいた。ソファーにはもたれ掛かるようにしてリアスちゃんが座っている。どうやらずっとここで帰りを待っていたらしい。
――あ……。
その隣にはラップが掛けられた夕食が置かれていた。今日の夕食は僕の好きなカレーだったようだ。
お姉ちゃんを起こさないようにソッと器を手にした僕は代わりに一通の手紙を置く。
ジーッとお姉ちゃんとリアスちゃんの姿を目に焼き付けて、頭を下げた。
もうここに戻ってくることはないかもしれない。思えば僕がここまで誰かに気を許したのは初めてのことだ。
――なんていうか、お姉ちゃんと一緒にいると心が落ち着くんだよね……。
リアスちゃんに抱き締められると、胸の奥がスッとして眠くなる。お姉ちゃんの膝の上に座ると心がポワ~ってして温かくなる。一緒にいて安心する。
それは、遠い記憶に引っ掛かる何かがお姉ちゃんにはあって、
でも、それが何なのかが今一つはっきりしない。まるで水面に浮かぶ月を掬っているかのように、すぐ僕の手をすり抜ける。
――お姉ちゃんたちは温かい。
お姉ちゃんがいて、リアスちゃんがいて、イッセーたちがいる。いつも、みんな笑ってる。帰ってくると『お帰りなさい』って声が聞こえる。
朱乃ママさんはよく頭を撫でてくれる。朱乃パパさんはよく肩車をしてくれる。
お母さんって、こんな感じなのかな? お父さんって、こんな感じなのかな? お姉ちゃんって、こんな感じなのかな?
――家族って、こんな感じなのかな……?
いつの間にかぼんやりしていたらしい。落ちそうになったカレーを慌てて持ち直す。
手を振るうと空間が捻じ曲がり、とある場所に繋がった。カレーの入った食器を片手にその中へと入っていく。
「……またね」
捻じれた空間は音も無く元に戻り、暗いリビングにはお姉ちゃんたちの静かな寝息だけが木霊していた。
後書き
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