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インフィニット・ストラトス ~天才は天災を呼ぶ~

作者:nyonnyon
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第11話

 巨大な堀が刻まれたアリーナで、風音とセシリアが向かい合う。

「先ほどの攻撃は危険すぎではありませんの?」

 アリーナ全体を揺らすような衝撃を放った攻撃に、セシリアが背筋に冷や汗をかきながら問う。

「ん? そうでもないよ? ん~と、たとえ当たったとしても絶対防御が発動する前にアーマーが蒸発して、体が両断されるぐらいだから」ニコッ

 こともなげに答える風音。 その答えを聞いた観客達は皆、恐怖していた。

「十分危険じゃありませんの!!!! まったく、いったいどういう……っと、いけないですわ。 どうせまた『嘘だけどね』とおっしゃるのでしょう? 危うく引っかかるところでしたわ」

「…………」ニヤリ

「……なんですの、その不安を掻き立てるような顔は。 ……え、嘘ですわよね? 両断なんてことは……大丈夫ですわ……よね?」

「……」ニヤニヤ

「ほら、早く『まぁ、嘘だけどね』とおっしゃってもよろしくてよ。 今なら怒ったりいたしませんから……ね?」
「……まぁ、修理しないともう使えない武装だから」ニィヤリィィィィィィィ

 風音の顔はどこの悪の親玉かというぐらいに不気味な笑顔になっていた。

 観客席で見ていた清川さんはこう語る。

「もし、魔王っていう存在がいるんだとしたら、きっと彼女のことだと思う」と……。





「さて、時間も経ってきたし、そろそろ決着と行きますか」
「……はぁ、結局ウソかホントかわかりませんでしたわ。ボソ そうですわね。 風音さん、私が勝たせて頂きますわ」
「お、言うねぇ。 まぁ勝つのは私だけどね」

 お互いに微笑み合い、構える二人。

 ――先に動いたのはセシリアであった。

 彼女の持つ武装で唯一無事であり、まともに戦える【スターライトmkⅢ】を構え、風音に向かってビームを放つ。 寸分違わず風音を捉える軌道を描いた閃光。 しかし、彼女のビームが風音のシールドエネルギーを減らすことは一切なかった。

 セシリアのハイパーセンサーは捉えている。 閃光があたる瞬間に右半身から徐々に消えていく風音を。 そして、セシリアのハイパーセンサーは捉えている。 消えていくと同時に、セシリアの真後ろ5メートルほどのところに右半身から現れる風音の姿を。

 ヴン!!

 低い起動音と共に風音の右手に長さ1.2メートルほどのビームソードが現れた。 自身の真後ろで起きた現象をどこか遠くに見ていたセシリアは「そんなところもハイスペックなんですのね」と、驚愕とともに一言つぶやいた。

 純粋にビームのみで作られたビームソードは各国でも研究段階で廃止された技術である。 光子を常に放出し続けなければならないビームソードは非常にエネルギー効率が悪く、また形状を保つことが難しい。 斬りつけるたびに光子が分散してしまいソードが小さくなっていく上に、威力も低い。 そんなモノを作るなら、出力の高いビームライフルを作る、もしくは普通にブレードを作った方が有効なのである。 しかし、風音のそれは、それほどエネルギーを消費しているようには見えない。 さまざまな廃スペック技術をつぎ込まれた風音の機体がみせた、ハイスペック技術なのである。


「行きますわ!!」

 様々な現行のISを超える驚異のテクノロジーを見せられたが、それでも自身の勝ちのために動くセシリア。
 急旋回し、風音にレーザーライフルの照準を合わせる。

「さぁ、夢幻(ゆめまぼろし)に沈みましょう」

 小さい、けれども観客席の隅々にまで響く声で呟かれた一言と共に、セシリアの目の前で スゥッ っと、風音の姿が消える。

「なッ!! どこに!?」
「幻を追うことはかなわないよ」

 ザンッ!!

「くぅ!!」

 ハイパーセンサーが感知できないほどの速度で、背後に現れた風音がすれ違いざまにセシリアを斬りつける。 ビームソードの一撃により、少々のダメージを受けたが、戦闘に支障が出るレベルではなかった。 エネルギー効率は改善してあっても威力の方までは改善されていないようであった。

 斬られた驚きで固まっていたセシリアだが、急いで通り過ぎた先を確認。 が、セシリアがとらえたのは、またもや スゥッ っと消えていく風音の後ろ姿だけであった。

 ザンッ!!

 ズバッ!!

 右から、左からと、縦横無尽に現れてはセシリアを斬りつけて消えていく風音。
 何度も繰り返されるその攻撃はどんどん現れる間隔が短くなっていく。

「うそ……」

 そう呟いたのは誰であったのか。 観客席に小さくないざわめきが広がる。

 それもそのはず、現在セシリアを囲む風音の数は十を超えている。 同時に複数の同じ人間が存在するなど、それこそ漫画や空想の世界の出来事でしかありえない。

 まさに夢幻。

 最早、幻か、実体か、夢か、現実か、観客たちにも区別がつかなくなってきていた。

 十を超える風音のあまりの手数の多さに捕らえられ、空中に固定されたセシリア。 セシリアを中心として、幾何学的に飛び回り、周りを漂う風音の影。 その光景は何やら魔法陣を連想させる配置であった。 いや、観客たちにははっきりと魔法陣が見えていた。

 空中に風音という染料を用いて描かれる魔法陣。 生贄に捧げられたセシリアは魔法陣に囚われている。 複数の風音による斬撃での固定は既に終了しているにも関わらず、魔法陣自体が強烈な引力をもつかのようにセシリアを捕らえて放さない。

 その光景は、恐ろしくもあり、美しくもあった。

「きれい……」

 美しい魔法陣に目を奪われる観客一同。 その時、終焉が訪れた。

 バキンッ!!!

 天空より飛来した何かにより魔法陣の拮抗が破られた。
 先ほどまで強烈な存在感を発していた魔方陣は、張りつめた紙を突き破るように簡単に打ち砕かれる。 魔方陣の消失と同時に複数の風音の姿も消える。
 驚愕に彩られ、まとまらない思考の中、誰もが飛来した物体の正体を確かめるべく目を向ける。 そこには……。




 砕けた魔方陣の残り香か、神々しい光を纏い、美しき光の剣を消し去る風音の姿があった。

『ビー!!! 試合終了。 勝者―『友永 風音』!!』


 ワァァァァァァ!!!!!!!!


 ゆっくりと装甲が解除されながら落下していくセシリアを背に、勝者を告げる電子音が鳴り響いた瞬間、万雷の歓声がアリーナを包んだ。








「いや~勝った勝った。 中々いい試合だったでしょ」

 そんなことを言いながら風音がピットに戻ってきた。

「いやいやいやいや、なんだあの試合はすごすぎだろ!!」
「そうだぞ!! あんなISを持ってるんだ!! 【くまたん一号】は私にくれ!!」

 おぉい、箒!! どさくさにまぎれてなに言ってんだ!! 【くまたん】は俺も欲しい!!

「まて、【くまたん】は俺も欲しい」
「何!? お前は【白式】って専用機をもらっただろう!? 贅沢だぞ!!」
「何と言われようと【くまたん】は欲しいだろ!!」
「むう、それはそうだが……」
「いや~はっはっは、人気者はつらいねぇ。 はっはっは」

 ガシッ!!

「はっはっ……っは!!」
「とぉもぉなぁがぁぁぁぁぁぁ。 ちょっと職員室まで行こうか……!!」
「いや、織斑先生ちょっとまって……」
「問答無用だ。 あぁ、お前たち、今日はもういいぞ。 寮に戻れ。 私はこのバカに話があるのでな!!」
「ちょ、まって……、しまってます……しまってますって!!! 首がぁっぁぁぁぁぁぁ!!!」

 ……あぁ、ご愁傷様だな……。

「……それじゃあ、皆さん帰りましょうか。 私も職員室に行かないと」
「……そうですね。 じゃ、帰るか」
「……風音。 帰ってきたら【くまたん】の交渉だな」

 おい、箒。 まだ諦めてなかったのか!! 多分、のほほんさんあたりも欲しいって言い出すぞ!? というよりも俺も欲しいって。










「あれ、みんないなくなった? ふ、悩む俺を気遣ってくれたってところか。 気にしなくていいのにな」ファサァ








「さて、友永。 どういうつもりだ? あんなものを用意しおって。 既に各国から情報開示の依頼が来ているぞ……。 どうしてくれるんだ。 外交処理部門から悲鳴が上がってるんだが?」

 今日の試合は一夏の初戦闘ということもあり、各国に便宜上戦闘データが送られている。 最初こそ『白式』についての問い合わせや、スペック情報の開示が言われていたが、風音の戦闘が始まってからそっちの情報開示ばかりが求められ続けている。
 各国の首脳陣もどうやら風音が首脳会談に忍び込んだ少女だということに気が付いたようだ。
 しかし、機体スペックだけならともかく風音の個人情報まで開示しろとは……。 各国の首脳陣は未成人の女性好きな変態ばかりか……。

「いや~せっかくの初戦闘ですし、ちょっと真面目に行こうかと、気合を入れただけですよ」
「ふん、あの程度(・・・・)の性能しか見せていないのによく言うな」
「いや~苦労しますねぇ。 出力を極力抑えなければいけないっていうのは……。 一番低スペック(・・・・・)のISを選んでよかったですねぇ」

 ふッ、現行のISを大幅に上回る性能を有しておきながら、もっとも低スペック(・・・・・)とはよく言えたものだ。

「まぁいい。 情報開示の件は沈静化しつつある。 技術提供してもいいがIS停止と引き換えにだって束が動いたようだからな」
「なんですかぁ~。 じゃあ職員室まで引きずられ損じゃないですか……」
「気にするな。 ただの憂さ晴らしだ」
「ブーブー」
「そうぶーたれるな。 一応、説教なのだからな。 おっと、ほかの先生方が戻ってきたみたいだ」

 はぁ、こいつに説教は本当に効かんな。

「とりあえず今日は寮に戻れ。 それと、あまりホイホイ新兵器を作り出すなよ。 お前が使い方を誤るとは思えんが、周りのやつらはわからんからな。 それと、これからは周りに注意をしておけよ。 どこから狙われるかわからんからな」
「了解しました。 でも大丈夫ですよ。 お忘れですか? 私が何者(・・)であるのか。 じゃ、寮に戻りますんで」

 しゅたッ っと手を挙げて職員室を去っていこうとする風音を見送る。 ふふ、そういえばそうだったな。 あいつは『天才(・・)』だったな。 私が気にすることではなかったか。 

 はぁ、とりあえずアリーナの修繕依頼を出しておかないと……。

「あ、織斑先生。 アリーナならもう直ってますから。 それじゃ」

 職員室から出る間際に告げていく風音。
 ふぅ、お見通しか……。 天才とは厄介なものだな。











「は~い。 一年一組のクラス代表は『織斑 一夏』君に決定しました~。 あ、一繋がりでいい感じですね!!」

 山田先生の言葉でクラスが歓声に包まれた。 ……ちょっと待て、なんで俺がクラス代表になってるんだ!?

 ほわほわと自分の言った言葉に感動している山田先生。 癒し効果が全身から発せられているような気がするが、今はそんなもの関係ない。

「ちょ、先生ちょっとまっt「ちょっと待ってください!!! おかしいですよ!!」……」

 おぉ、風音!! そうだ言ってやってくれ!!

「友永さん? どうしました?」

 山田先生が聞き返す。 頼むぞ風音。 ここでビシッと言ってやってくれ!!

「織と斑が入っているので、一つながりじゃないです!!!」ビシッ
「そっちかい!!!!!!」ズビシィ!

 思わず突っ込んでしまった。

「年と組も入ってます!!!」ビビシィ!!
「そっちもどうでもええわい!!」ズビビシィ!!

 さらに突っ込んでしまった。 って、そうじゃないだろ!!

「じゃあ、出席番号も一番じゃないです!!!」
「それも違う!!!! いや、男子の出席番号なら一番だ!!」
「むぅ、それもそうか。 でも全体の出席番号は一番じゃないじゃん。 なら、一つながりにならないじゃん」
「別にそんなことはいいんだよ!! ココはなんで俺がクラス代表になったかってことを聞くべきだろう!?」
「あ、確かにそうかも。 でも一つながりじゃない方が重要だよ!! このクラスには小中高すべてどのクラスになっても不動の出席番号一番 『() (あい)』さんがいるのに!!」
「『阿』さんのことも重要かもしれないけど、今はこっちだろう!? 俺はオルコットに負けたんだぞ


 そうだ。 不本意ではあるが、俺はオルコットに負けている。 なのに俺がクラス代表になったらまた突っかかってくるじゃないか。

 俺がそう思っていたら、オルコットが立ち上がってこう告げた。

「それなら心配ございませんわ。 私が辞退いたしましたので。 そして、わたくしのことはセシリアでかまいませんわ」
「へ!? なんで?」

 周りで他の女子たちが、「流石!!! わかってる~」なんて言ってるけどまじでなんでだ?

「そうですわね。 なぜ辞退したかというのは話せば長くなりますが、いいでしょうお教えしましょう。 わたk「セシリンが一夏に惚れっちゃったってことでいいんじゃない?」……な、な、な、何をおっしゃいますの!!!!」

 そうだぞ、風音。 オルコット、いやセシリアでいいか……。 セシリアの好みのタイプは英国紳士だ。 なんとなくリチャードとかいう名前が似合いそうなやつだ。 きっと、背の高い、金髪イケメンと見たね。 リチャードじゃないとするとアルバートかセバスチャンだ。 これは高確率で当たってる気がする!!」

「はぁ……。 途中から声に出てるけど気づいてるのかな? ……セシリン頑張ってね」
「……。 ……セバスチャンはうちの執事の名前ですわ。 風音さん。 ありがとうございます。 私がんばりますわ」
「ん? なんだかわからないけど、セシリアがんばれよ!!」
「…………」

 おいおい、クラス一同。 なんでそんな目で見てくるんだ? 特に箒。 睨みすぎだぞ。

 スパン!!

「話がまとまったんならさっさと座れ、授業の邪魔だ」

 急に現れた千冬姉が頭をたたいて去っていく。 いや、まだ話まとまってないんですけど……。

「一組のクラス代表は織斑一夏で決定だ。 異論は認めん。 それでも異論があるなら、私が責任をもって聞いてやろう。 では、山田先生授業をお願いします」

 あぁ、千冬姉が異常な覇気を放出しながらまとめてしまった。 もう覆らないだろうなぁ……。 はぁ……。 
 

 
後書き
ネタ解説

純粋にビームのみで:某ファンタジーを科学で解明しちゃう本で語られていたことです。

背後に現れた風音がすれ~:夢のロボットバトルより、機械天使が使う近接戦闘技でございますのことですわよ。

セバスチャン:執事といえばこれ。 
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