インフィニット・ストラトス ~天才は天災を呼ぶ~
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第10話
試合開始のブザーがなる。 先手必勝ですわ!!!
「行きますわ!! 喰らいなさい【スターライトmkⅢ】!!」
私の持つ最大の威力を誇るライフル【スターライトmkⅢ】。 風音さんには当たらないかもしれませんが、牽制にはもってこいでしょう!!
「ちょ、タンm……」
ズドォォォォォォォォ!!!!!!
……。
……。
あ、あら? 当たってしまいましたわ……。 え~っと、あぁ、装甲が厚いから効いていないとかそういったことですわね。 きっと、多分……。
「ちょ、セシリン!! ひどいよぉ、タンマって言ったじゃん!!」
アリーナの壁まで吹き飛ばされ、壁に激突した風音さんが衝突時に起こった煙の中から姿を表す。 やはり無事でしたか……。 かなり硬い装甲でm……。
……なぜあんなにボロボロですの?
「てててぇ……。 やっば、もう損傷率98%ってギリギリじゃん!!! エネルギーも36しか残ってないよ……」
「装甲が薄すぎませんこと?」
「だ・か・らぁ!!! タンマって言ったじゃん!! これはIS展開だけに特化したフォームなの!! 装甲は紙も同然!! 鉄アレイで豆腐殴るより簡単に潰れちゃうんだからもうちょっと優しく扱ってよね!!」
は、はぁ? いえいえ、そんな装甲で戦場に出てきてはいけないのでは?
「ちょっとたんまだからね!! 今打たれると負け確定だからね!! よし! フォームチェェェェェェェェンジ!!!!!」
そう叫ぶと風音さんは腰のボタンを一つおしました。 それはもう、さっきの叫びはなんだったんだと言いたいぐらい、簡単にポチッと押しましたわ……。
バン!! と風音さんのまとうISが全て外に弾け飛び、一瞬にして光の粒子に変わったかと思ったら、粒子が集まりだし、次の瞬間には全く別のISをまとった風音さんがいましたわ。 先ほどがジャンヌ・ダルクのような中世の騎士甲冑のように全身を覆うタイプだとしたら、今回のはもっと露出が多いですわね……。 あぁ、あんなに肌をお晒しになるなんてハレンチな方ですわね。
それにしても素敵なプロポーションですこと……。 う、羨ましくなんてありませんわ!! 私には完璧なプロポーションがございますもの!!
「じゃじゃぁ~ん。 これがマイナス一世代型IS【ブリギット】の本当の戦闘スタイルだよ!!」
「……マイナス一世代型?」
どう言う意味でしょうか? 一世代型はもうはっきり言ってポンコツもいいところですわよ? マイナスならもっといけないでしょう?
「ふっふ~ん。 何が何だかって顔だね。 このアリーナにいる全員も意味がわかってないみたいだね。 説明しよう!! ……あのね。 このISは完全に宇宙進出を目指したモデルなんだ。 軍事用、戦闘用に特化させて進化させて行ったのが今のISなら、その真逆を進んで行ったISって事だね。 だからマイナスなの。 なんで武装を積んでるのかって言うと、宇宙でのもしかしたらの戦闘を想定しているのと、宇宙航行等の邪魔になるような障害排除用だね。 あ、言っておくけど、宇宙進出用だからって弱いわけじゃないよ。 むしろ強すぎだね。 はっきり言うけど、このISは現行のどのISより強いから。 そのつもりで」
中々言いますわね……。 マイナス一世代型だかなんだか知りませんが、私のブルー・ティアーズが負けるわけありませんわ!!
行きますわよ!!!
マイナス一世代型とはな……。 あいつの考えることだから、きっとただのISではないのだろうな……。 はぁ、この試合が終わったらまた色々と処理が面倒だぞ。
モニター越しに試合を見る。 オルコットが高速で風音の周りを飛び回るのが見えた。 ふむ、撹乱といったところか?
中々いい考えだが、あいつには通用せんと思うがな。
バゥゥゥン!!
バゥゥゥン!!
【スターライトmkⅢ】を連射するセシリアを見る。 油断も隙も完全になくしているな。 一夏と戦ったのはいい傾向だったようだ。
セシリアの連射をスイスイと交わしていく風音。 スラスターの激しい噴射すらなく、高速で飛行するとは一体どういう原理なんだ? そんなところにも技術をつぎ込んでいるな……。 まぁあいつはそういった技術追求が楽しくて仕方がないらしいからな……。 馬鹿なことに使う方が多い気がするがな。
しかし、オルコットも流石だな。 確実に風音を追い詰めて行っている……。 ……いや、あれはわざとだな。 風音が自分の技術を見せびらかしたいんだろうな。 ふぅ、こんなところだけは子供だからなあいつは……。
バゥゥゥゥン!!!!
バシュゥゥゥゥ……
「な!!!? オルコットのビームが!?」
一際力強く発射された(ように見えた)オルコットの【スターライトmkⅢ】による攻撃がついに風音を捉える。 が、不可視のバリアによって無効かされていく。
ふふ、やっぱりか。 あいつが作るものはいつも束を上回っていたからな。 あいつにしてみたらISすら過去の遺物にしかならんのかもしれんな。 ISをオーバーテクノロジーと言う学者もいるが、本当にオーバーテクノロジーというのはあいつの頭脳のことなのかもな。
「む、ビームを防ぐバリアみたいなものじゃないか? 私なら接近戦に切り替えるが……。 オルコットはどうするだろうな? 実弾には切り替えないのか?」
篠ノ之がいいところに気がついたみたいだな。 ビームを無効化する"だけ"だとすれば逆に実弾は通る可能性があるからな。 ただ、お前たち……、相手が風音だということを忘れているだろう?
バンバン!!
「お? 実弾兵器に変えてきたぞ? オルコットも気がついたみたいだ」
スイッ
実弾に切り替えるまでの瞬間を狙い、うまくオルコットの射線から逃れる風音。 そうそうくらってはやれんぞと言ったところか?
バババババ!!!
オルコットの銃撃も激しさを増す。 そしてついに一発の弾丸が風音を捉える。
シュルルルルゥゥゥゥ……
「うお!! 弾が空中で静止したぞ!!」
実弾が風音を襲うが当たると思われた瞬間、それすらも不可視のバリアによって止められる。 本当にあのバリアは何なんだ?
「(くッ!? なんなんですの!? そのバリアは!!)」
「(う~ん、ひ・み・つ♪ って言いたいところだけど、この試合を観戦している世界最強の織斑先生が教えて欲しいって、さっきからプライベートチャンネルで言ってきてるんだよね……)」
「(そうなんですの!?)」
「え!?」
「マジ!? 千冬姉」
む? なんだ一夏、箒。 そんなにこっちをじっと見て。 お前らもそろそろ学習したらどうだ? それと一夏、普段は織斑先生と呼べとあれほど行っているだろう……。
「(まぁ、嘘だけどねぇ。 今、織斑先生ってIS持ってないよ?)」
「(ムキィーーーー!!!!!)」
ほれみろ、言わんこっちゃない。 お前らもなに『騙された!!』って顔をしてるんだ? 人をからかうためだったらなんだってする奴だぞあいつは……。
「ムキィーーーー!!!!!」
なんなんですの!! 人をからかうのも大概にしていただけないかしら!!!
「はいはい、そんなに怒らない怒らない。 ちゃんと教えてあげるから」
私の怒りなどどこ吹く風と言った様子で淡々と告げる風音さん。 ふん、別に教えてはいりませんわ。
「ふん、教えてなんていりませんわ!」
「あれ? そう? じゃあ後で一夏に教えようっと。 面倒だけど仕方ないよね」
「織斑さんは知らないんですの? ……なら聞いてあげないこともなくってよ? どうしてもというのであればですけどね。 どうしてもというのであれば!」
ま、まぁ、ちょっとなら聞いて差し上げないこともなくってよ。 織斑さん……いえ、一夏さんには私からお伝えしてあげればいいだけですしね。 それならば風音さんの手を煩わせることもなくってよ。
「うぷぷ、聞きたいんじゃん。 あれだねツンデレ乙だね」
誰がツンデレですの! 誰が!!
「今ここで話しちゃったら一夏にも聞こえるから後で教えるとかないのにね。 あ~じゃぁ説明するね。 セシリンは宇宙についてどれぐらい知ってるのかな? ……実はあんまり知らないって顔だね。 え~宇宙には、X線とか紫外線とかあらゆる波が飛んでるんだよ。 しかも、お肌の大敵、紫外線なんてこの地球上の数千倍の濃さで飛んでることだってあるんだ。 そんなところで現行のISなんかで飛び出したら、人間へのダメージが大きすぎて……。 そうだねぇ、宇宙に出た瞬間から絶対防御が常に発動し続けて、地球へ帰還する間もなくISが強制解除、宇宙に宇宙服も着ずに飛び出すことになるね。
ま、現在の軍事用ならそんなものどうでもいいってことになるんだろうけど、宇宙に出ようって考えてるならはっきり言って現行のISは役立たずだよ。 だからこの宇宙用のISは、ビーム完全無効対策を取り付けているんだ。 あらゆるビームを完全遮断するんだよ。 すごいでしょ!」
「それではビーム兵器が一切きかないISということではないですか!! 卑怯ですわそんなの!!」
「う~ん? でも結局誰かが行き着くところだからね。 あと何年後かには全てのISがビーム兵器無効とかになるんじゃない?」
「くぅ、そ、それではなぜ実弾も防げましたの!? こちらはビームではありませんわよ!?」
そうですわ。 ビームは仕方ないといたしましても、実弾が止められたのは納得が行きませんわ!! それをまだ聞いていませんわよ。
「そっちはねぇ。 ……ま、教えても大丈夫かな? 実弾を止めたのは……、
……、
……、
『定説理論結界』だよん!!」
ドドォン!!!
風音さんが溜めに溜めて告げると同時に、バックに『すごいね! 風音ちゃん、超天才!!!』と書かれたエフェクトが出てきましたわ……。
つ、……疲れますわ。
それにしても『定説理論結界』? 聞きなれない言葉ですわね? それはどんな常識はずれの装備なのかしら?
「聞いたことがありませんわね。 さぁ、覚悟は出来てます。 どんな常識はずれの装備なのかしら?」
「常識ハズレって……ひどいなぁ。 せめてオーバーテクノロジーって言ってよ……」
「似たようなものでしょう?」
オーバーテクノロジーは結局現在の常識から外れた先にあったりするものですわよね? 「まぁそうだけどぉ」って口を尖らせて……。 そんな困った顔もできるんですのね。 ちょっと可愛らしいですわね。
「はぁ、まぁいいや。 え~っと、『定説理論結界』っていうのは、世界中に存在するあらゆる定説を用いた結界だよ?
さっき実弾を止めたのは、『ゼノンのパラドックス』を応用した結界ってわけ。 ゼノンのパラドックスは知ってる? どんなに頑張っても人は亀に追いつけないとされる理論だよ。 この理論結界の中では物質は運動することができないんだ。 なんたってどんなに動こうが私には届かないからね。 運動が開始することすらできなくなるんだよ。 あ~慣性停止結界なんかと勘違いされるかもしれないけど、これは物体自体に運動を不可能にする効果が及ぶからね」
な……、なんですのそのオーバーテクノロジーは……。 慣性停止結界はそもそも実用化が検討されている程度の装備ですわよ? その装備の詳細を知っているのはどういったことかしら?
いえ、それよりも、そんなオーバーテクノロジーを持ち出してくるなんて卑怯ですわよ!! しかもそんな理論が日本で開発されているなんて聞いていませんわ!!
「セシリン。 一言言っておくけど、別に卑怯ってわけじゃないからね? 技術の秘匿なんてどこの国でもやってることだよ。 アラスカ条約なんて結んで、各国の技術をあけっぴろげにしているようだけど……。 あんなのほとんど紙くずも同然だからね。 例えばセシリンのブルー・ティアーズだって、実際のスペックと各国に公開されてるスペックには差があるみたいだしね」
「そ、それはそうかもしれませんが……。 それを置いてもその装備は卑怯すぎませんこと?」
「そうかなぁ? これでもこの機体に装備された廃スペックテクノロジーの一部だよ? とりあえず、ビーム無効と『定説理論結界』は使わないってことでいいかな? それでもこの機体には勝てないと思うけど……」
何やら文字の違う凄さを見せつけられた気がしますが、それにしても……くぅ、どこまでも強気ですわね! しかし、その二つを使わないとなれば十分攻撃が通るはずですわ!!!
「それでお願い致しますわ。 ……切りましたの? 本当に? ……確かに切っているようですわね。 それでは、改めて仕切り直しですわ!!!」
空を翔ける青い稲妻【ブルー・ティアーズ】。 イギリス国家代表候補生『セシリア・オルコット』がかるその機体は、稲妻のごとき速度で風音の【ブリギット】に肉迫する。
「インターセプター!!!」
気合一閃。 まさにそんな言葉当てはまるだろうか? 武器の名前を呼んで展開するという、代表候補生としては恥ずべき初心者の武器展開法を使い、その手に近接武器を展開したセシリア。 やはり先ほどの射撃武器全般を不可視の結界で止められたのがかなり堪えているようだ。 自分から近接戦闘を挑むぐらいには……。
ブゥン!!
決して鋭くはない一閃。 代表候補と言っても彼女は射撃系に特化しているので、近接戦闘は得意ではないのである。 だからこそそんな彼女の一撃は確かに意表を付くに至っただろう。
風音は急な近接戦闘に対処できず、インターセプターをモロに受ける。 そして……。
ド! ブゥン……
風音に当たったと思われたインターセプターは虚しく空を切った……。
「なっ!?」
「危ない、危ない。 いきなり近接武器で来るからびっくりしちゃった」
声はセシリアの後方30メートルの位置からなにごともなかったかのように響く。
「ふぅ、それじゃ、今度はこっちから。 この機体のデビュー戦だからね。 派手にいくよ!!」
急いで後方を振り返ったセシリアが見たものは、
機械というには余りにも野性的で、獣というには余りにも機械的な長大な銃を構える風音の姿があった。
『ピピッ、敵性IS武装確認、レーザーライフル【ハッシュ】と断定。 ――危険。 ロックオンされています』
ISからの警告を聞きながらセシリアは思っていた。 ――『私に銃撃戦を挑もうというのか!!』と……。
即時に展開していた唯一の近接武器【インターセプター】を仕舞い、レーザーライフル【スターライトmkⅢ】を展開。
射撃武器を展開すると同時に、ブルー・ティアーズの名前の由来とも言える兵器、【ブルー・ティアーズ】というビットを操り、風音の周りを取り囲む。
風音が先ほどの織斑一夏との戦いで、見せてしまった自分の弱点(ビットはセシリアが手動操作しているため、ビットを操作しているときはセシリア自身が攻撃することができないのである)をついてくることは承知の上である。 そんなものは克服してやると意気込んでさえいた。
何よりも射撃特化型のプライドか、射撃勝負で負けるつもりは一切なかった。
「お行きなさい!! ブルー・ティアーズ!!!」
風音の周りを取り囲むビットから、一斉に射撃の嵐を叩き込む。 それと同時に自分は【スターライトmkⅢ】を構え、いつでも狙撃出来る体勢を整えた。
一夏との戦いで自分の弱点を認識していたセシリアは、ビット、レーザーライフル、マシンガンなどを効率よく使い分け、風音に反撃する暇を与えまいとしていた。
バババババババ!!!!!
マシンガンによる弾幕。 狙いは微妙にずらして行くことで、風音の動ける範囲を小さくする。 マシンガンの弾が空になるまで打ち続け、空になった瞬間、【スターライトmkⅢ】に持ち帰る。 展開までの数秒の誤差はビットによる波状攻撃で小さくし、風音に攻撃のチャンスを与えない。 持ち替えが完了した瞬間、ビットを一斉に操縦し、風音を取り囲むように攻撃。 風音は最小限の動きで全ての攻撃をかわしてくるが、反撃できる体勢ではない。 その隙に機体を高速で移動させ、自身のポジショニングをかえる。 同じところにとどまり続けるのは危険であるからだ。
風音が体勢を立て直す瞬間を狙い、【スターライトmkⅢ】にて攻撃。 【スターライトmkⅢ】での攻撃が終わった瞬間にはマシンガンに持ち替え……。
この作業を何度も繰り返すセシリア。 傍から見ると怒涛の弾幕攻撃に見える。
「すごい弾幕……」
「ふん、オルコットが国家代表候補生だということは当然これぐらいのことは出来る。 むしろ織斑、お前と戦ってたときは接近されないように戦っていたからな。 これが本来のオルコットの戦い方と言っていいだろうな」
「そうなのか……。 次は絶対に本気のオルコットに勝ってみせる!!」
「そのいきだぞ一夏!! 私も特訓に付き合ってやるからな!!」
「いや、箒じゃ近接戦闘になっちまうからなぁ」
「な!? 嫌だというのか!!!」
「おい、馬鹿者どもちゃんと試合を見ておけ。 友永が動くぞ」
途切れなく打ち続けたセシリア。 その疲労は計り知れないものであった。
銃撃を当てるというのは簡単な様にも思えるだろうが、それは対人でのことである。 速度域の違う対人戦なら簡単であろう。 しかし、ISを装備しての銃撃戦というのはいうなれば、ドッチボールのようなものだと言えばいいだろうか? 銃弾すら見切ることの出来るハイパーセンサーを装着し、ほぼ同じ速度域で動くのである。 相手が撃ってからでも十分かわす余裕があるのだ。
そんな相手に銃弾を当てなくてはいけない。
これにおいては経験と多少の勘、さらには計算が必要になる。 風音の動きを予測する、弾幕を途切れさせない、切り替えのタイミングを見誤らないなど、数々の計算を同時に瞬時に行わなければいけないのだ。 疲労も溜まると言えるだろう。
そんな中でも攻撃の手を緩めないセシリアは流石と言う他ない。
「惜しなぁ。 弾幕を張るっていうのはいい考えだけど、もっと効果的に張らないといけないよ……」
パンパンパンパンッ
軽い銃声。 たった4発の銃声が全てを変えた。
轟音、爆炎をあげ破壊されるビット。 風音が放った4発の銃弾は一切狂うことなくビットを貫いたのである。
「なッ!!」
「それじゃ、今度はこっちから」
驚愕に歪むセシリアの美貌。 彼女の驚きはわからないものではない。 セシリアは一瞬も休みなくビットを動かし続けていたのである。 しかし、不規則に動き回るビットを打ち抜いたことに驚愕していたのではない。 動き回る的に当てることは代表候補生になってからは何度でも訓練してきているからだ。
ならば、なにに驚いたのか。 それは……、
――4発の弾丸で、6機のビットを全て貫いたことに驚愕しているのである。
しかも、いつ持ち替えたのかわからないほど高速で、レーザーライフルからマシンガンに切り替える早業で。
「さぁ、いくよ!! 弾幕の恐ろしさってやつを教えてあげる!!!」
風音がまたもいつ持ち替えたのかわからないほど高速でレーザーライフルに持ち替える。 そのままセシリアに向けて赤い閃光が放たれた。
余りにも大きいレーザーはその威力を物語るかのように周りの空気を押しのけながら進む。 高熱に焼かれた空気が陽炎を作るほどであった。
「甘いですわ!! そんなものが当たるとでも!!」
余裕をもってレーザーを回避したセシリア。 しかし、彼女が目にしたものはそんな余裕を吹き飛ばすものだった。
「……二人?」
目の前で起こっていることが信じられませんでしたわ。 レーザーライフルの一撃を避けて見た先には、二人の風音さんがレーザーライフルを構えているところでしたわ……。
その二人の風音さんは同時にレーザービームを放ってきます。 くッ! 巨大なビームは大きく回避しないとよけられないので、必然的に反撃ができませんわ!!
それでもなんとか二つの巨大ビームを避けきり、私が安堵のため息をつこうとしたその瞬間。
「弾幕の恐ろしさを見せるって言ったよ?」
風音さんの言葉と共に、さらにもう一発のビームが私の近くを通り過ぎます。
くッ! 回避が間に合いませんでしたわ。 直撃でないとはいえ、ビームの余波だけでシールドエネルギーを削って行くなんて……。
連射がきくような武器ではないはずなので風音さんを見てみると、
「増えて……!!」
正面に立つ風音さんの後ろから、滲み出すように風音さんが現れて【ハッシュ】を連射する姿がありましたわ。
二発、三発、四発と打つたびに現れる風音の数は増えていき、ついには風音の放つレーザー光がアリーナ全体を覆い始めた。 あまりの手数。 あまりの圧倒的暴力に観客達は息を呑むことしかできない。
しかし、こんな中にありながら、セシリアは決して直撃を受けてはいなかった。 代表候補生としての戦闘経験やら勘が働き、奇跡的な回避行動をセシリアに取らせていた。
「やる~」
「くッ、直撃を受ければ終わりですわ」
身もすくむような超威力の兵器が薄皮一枚を貫いていくような感覚に若干の恐怖を覚えながらも気丈に回避行動をとり続けるセシリア。
「でもね、それは牽制用の攻撃だよん」
回避を続けながらセシリアはハッとした。 今の声はどこから聞こえてきたのか? と。
相変わらず続く正面からの砲撃の嵐。 それをどうにか避け続けているが、おかしいことが一つある。 正面の風音は浮かんでは消えていくのである。 そう、目の前の風音が全てである。
そこに先ほどの声の疑問が重なる。 ハイパーセンサーを通して聞いてもいまいち場所の特定がきかないその声に困惑してしまう。
「【ハッシュ】、――モード『ジャイアント・オブ・ゴットアーミー』」
その言葉が聞こえたのは偶然と言ってもいいだろう。 背筋に悪寒が走ったセシリアは、その勘に逆らわず回避行動をとる。
「やっぱ掛け声はこれでしょ。 【ハッシュ】――薙ぎ払え!!」
パォォォォォォォォ
つい今しがたまでセシリアがいた地点から水平一直線に上空から光が降り注ぐ。 先ほどまでの圧倒的な極太ビームではなく、威力が心配になるほどの細い閃光に観客達からは失笑の声が聞こえた。 しかし、緊急回避を行ったセシリアは別のことを思う。
(あんなものが当たったら蒸発してしまいますわ)
セシリアの言葉は勘によるものであったが、セシリア自身は確信を持っていた。
――そして、それが現実のものとなる。
最初は風音の砲撃が外れているのだと思っていた。 まぁ、あれだけ細いビームだしな。 当たらなくても仕方ないだろう。
しかし、一緒に観戦している千冬姉は違った感想を述べた。
「あいつめ……、なんてモノを持ち出して来たんだ。 おい、お前ら、衝撃に備えておけよ」
正直意味がわからなかった。 あんなもの? 衝撃? 外したビームは既に消えているので衝撃も糞も無いだろう。
そう思っていたんだが、いつのまにやら復活していたバカが間に入ってきた。
「そうだぜ一夏。 あれが俺の考えているものと一致するとすればかなりの衝撃が来るはず。 だよなちh「黙れ」」
メキョ!!
おぉい、千冬姉。 いくらなんでも角はダメだろ角は!! しかも脳天じゃなくて顔面に水平はまずいだろ……。
「ふん、何やら面倒くさい発言をしそうだったのでな。 ちょっと強めにいかせてもらった。 なんだ織斑。 文句があるなら言え? お前にも同じモノをお見舞いしてやる。 なに、気にするな。 ちょっと絶対防御が発動するぐらいだ」
いやいやいやいや、そんなもん生身でくらったら死ぬでしょうが。
「なら、いらんことは考えるな。 そら、きたぞ」
千冬姉の言葉と共に視線をモニターに戻す。 あれ、なんだ? 風音のビームが当たった場所がなんか盛り上がって……、しかも赤くなって……。
ズドォォォァッォォァオォオオオオオオオ!!!!!!!!!!!
次の瞬間には激しい衝撃が俺たちを襲っていた。 下から突き上げられるような衝撃に立っていることができず、膝をついてしまう。 箒も山田先生も同様に、御神に至ってはポンポンはねて天井と地面を行き来している。
そんな中でなぜ平気で腕を組んで立っておられるのでしょうか、うちのお姉さまは……。
ホントににんg「人間だが?」ヒイッ!!
今、心読んだよね絶対ィィィィ。 しかも先読みでェぇぇ!!!
「……お前の顔にデカデカと書いてあるぞ? 一体いつになったらその読みやすい表情を改めるんだ、お前は?」
風音の攻撃は、アリーナの大半の人間を転げさせる程になった。 まともに座って見ていられたのは数えるほどで、大半の生徒はあまりの衝撃に皆震えている。
そして、つい先ほどまで床のあったアリーナのグラウンドは、ビームが通りすぎたところのみ土がめくれ上がり、しかも高熱で熱されたかのように泡立ち、湯気をゆらゆらと立ち上らせる『堀』が完成していた。
「(な、なんて威力ですの……)」
「(およ外しちゃった? あちゃ~これは一発限りの攻撃なのにさぁ)」
ん? 一発のみの攻撃ってどういうことだ?
「どういうことだろうな? 箒」
「ふ、俺の予測が正しければこのあと必ず言わなければいけない言葉があるな」
「いや、お前には聞いとらんし……、しかもまた意味不明なこと言い出したし……」
「(どういうことですの?)」
「(ん? 超高密度に圧縮したビームを打ち出す攻撃だからね。 一回撃っちゃうと)」
スッと風音がレーザーライフルを見せる。 そこには超高熱で溶けてしまった砲身が見て取れた。
「やはりな、ならばいくぜ!! t「溶けてやがる!! 早すぎたんだ!!!」だ……」
「どうしたんだ箒? いきなり叫んで?」
「いや、なぜか言わなければいけない気がしてな……。 う~ん、私にもなぜ叫んだのかさっぱりわからん」
そうか……。 まぁ、そういう時もあるよな。 それと御神。 なんで落ち込んでるんだ?
後書き
ネタ解説
腰のボタンを一つ:某ライダーの平成版初代より。
ISが全て外に弾け飛び:高速戦闘型の某ライダーが力を開放する瞬間です。
説明しよう!!:昔のアニメには技を出す度に解説してくれる親切なシステムがありました。
ゼノンのパラドックス:二分法などの理論を出した証明が難しい理論の一つ。
二分法とはある地点AからBに行くには中間点A'を通らねばならない、AからA'に行くには中間点A''に行かなければいけない。結果、どんなに頑張っても地点Bに行くことはできない。または体を動かすにも同じことが言えるので、体を動かすことができないので、運動することができないという理論。
言われてみればそうかもと納得してしまうような一見筋の通った理論に見えるのが特徴。
機械というには余~:夢のロボットバトルにおいて、楽天的エロ姉さんが使う機体が改造された後に取り付いた吠える銃。
二発、三発、四発と~:上の姉さんの技。
ジャイアント・オブ・ゴットアーミー:○神兵です。天空でも谷でもどちらでも可。
薙ぎ払え!!:あ、やっぱり谷でした。スマン
早すぎたんだ!!!:あ~、群れは破壊しきれませんでした。もし早くなければどうなっていたんでしょうね?
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