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ワルキューレ

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第三幕その五


第三幕その五

「だからあの森しかないわ」
「そうよ」
「それに」
 また空を見る。するとだった。
「あの雲はもうすぐそこまで」
「だから急いで」
「わかったわ」
 ブリュンヒルテはそれを見て意を決したのだった。そのうえでジークリンデに再びその顔を向けて告げた。
「東に逃げて下さい」
「東にですね」
「そうです」
 こう彼女に告げるのだった。
「勇気を出して耐えれば苦難に耐えることができます。あらゆる災厄に耐えて下さい」
「災厄に」
「そうです」
 その言葉は変わらなかった。
「どして貴女の中にいる」
「私の中にいる」
「もっとも高貴なる英雄を生まれさせるのです」
 こう彼女に告げるのであった。
「そしてこの剣の破片を」
「それはまさか」
「そう、ノートゥングです」
 今は壊れてしまったその剣をジークリンデの前に見せたのだった。それは今は確かに壊れている。だが紛れもなくノートゥングだった。
「これを持って逃れて下さい」
「わかりました」
「そして生まれてくる子供は」
 その子のことも話した。
「ジークフリートと名付けて下さい」
「ジークフリート・・・・・・」
「そう、ジークフリートです」
 それがその英雄の名前だというのだった。
「それこそが勝利を喜ぶ人です」
「それでは私はこれから」
「早く」
 行くように急かした。
「今ここに」
「はい、有り難うございます」
 今ジークリンデはその東に向かった。
「では」
「さようなら」
 二人は最後に微笑み合った。そのうえで別れる。ジークリンデが逃げ去ったその後で遂にヴォータンが姿を現わしたのであった。
「ブリュンヒルテ、いるな!」
「来たわ!」
「御父様が!」
 ワルキューレ達はその声を見てまたその顔を蒼白にさせた。
「隠れてブリュンヒルテ!」
「早く!」
「私達の中に!」
 すぐに彼女を取り囲んでしまい隠したのだった。
「これで何とか」
「隠せたわ」
「何処だ、何処にいる!」
 ヴォータンはワルキューレ達のところに来た。そのうえで彼女達に問うのだった。
「いるな、ここに!」
「一体何が」
「何があったのですか?」
「誤魔化すことは許さん!」
 右手の槍をワルキューレ達に突きつけての言葉だった。
「ブリュンヒルテは何処だ!」
「彼女は私達のところにです」
「ですがここはどうか」
「お怒りを鎮めて下さい」
 彼女達も決意していたのだ。何としても姉妹を守ろうと。だから必死にヴォータンに対して告げるのだった。
「御願いです」
「是非共」
「御前達は勇敢で堅固な心を持っている」
 ヴォータンはその娘達に対して告げた。
 
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