ワルキューレ
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第三幕その二
第三幕その二
「何処に行ったの?」
「誰を連れて来たのかしら」
「あっ、見て!」
ここで一人が天を指差した。
「あそこよ」
「?何あの速さ」
「物凄い速さよ!」
それはブリュンヒルテだった。一目散に飛んで来ていた。
「グラーネをあんなに飛ばして」
「どうしたのかしら」
「グラーネは息を切らしてるけれど」
実際にその通りだった。グラーネは激しく息をしている。
グラーネを岩山の後ろにやって姿を消した。八人はそれを聞いてさらに怪訝な顔になって言葉を交えさせた。
「私達に挨拶をしなかったね」
「あんなブリュンヒルテははじめて」
「何があったのかしら」
彼女達は首を傾げさせていた。
「それに連れていたのは英雄ではなかったわ」
「そういえば」
「男ではなかったわ」
それもまた彼女達にとっては問題なのだった。顔に浮かんでいる怪訝な色をさらに強くさせてそのうえで話を続けるのであった。
「乙女ね」
「若い女だったわ」
「一体」
「あっ、来たわ」
「ブリュンヒルテよ」
その彼女が慌しい様子で来た。息を切らして顔を汗で濡らしていた。
「それもあんなに焦って」
「本当にどうしたの?」
「皆、助けて!」
ブリュンヒルテは必死の顔で姉妹達に告げてきた。
「どうか私を」
「どうしたの?」
「そんなに汗をかいて」
「それに逃げ去るみたいに」
「私は追われているの」
姉妹達の中に入って必死に息を整えながら述べた言葉だ。
「今。だから」
「追われているって」
「貴女が?」
「そうよ。生まれてはじめて」
こう答えるのだった。
「御父様が」
「御父様が?」
「何故!?」
ワルキューレ達はヴォータンが彼女を追っていると聞いて血相を変えてそれぞれの顔を見合わせたのだった。
「どうして御父様が?」
「あっ、あれは!」
「嵐が!」
その時だった。何と天空を嵐が覆いそれが彼女達に近付いてきていたのである。さしものワルキューレ達もそれを見て顔を青くさせる。
「暗い雲が起こっているわ」
「あれはまさしく」
「どうか私を守って」
ここでまた姉妹達に願うブリュンヒルテだった。
「どうか。この人を」
「えっ、この人は」
「さっきの」
ワルキューレ達はここでジークリンデに気付いたのだった。
「何故ワルキューレが女の人を連れているの?」
「どうして?」
「彼女はジークリンデよ」
「ジークリンデ」
「確かそれは」
「ええ、ヴェルズングの一族よ」
こう姉妹達に話すのだった。
「そしてジークムントの妹よ」
「ジークムントの妹を」
「何故彼女をここに」
「御父様は私にジークムントをヴァルハラに連れて来るように告げたわ」
今このことを姉妹達に教えた。
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