| 携帯サイト  | 感想  | レビュー  | 縦書きで読む [PDF/明朝]版 / [PDF/ゴシック]版 | 全話表示 | 挿絵表示しない | 誤字脱字報告する | 誤字脱字報告一覧 | 

ファイアーエムブレム~ユグドラル動乱時代に転生~

作者:脳貧
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。 ページ下へ移動
 

第五十九話

 
「させるか!」

 俺が投げつけた槍は長衣(ローブ)の袖を貫くと本陣を囲んでいる木板に突き刺さり、(マンフロイ)と壁を縫い付けた。
 アルヴィスのことなど目もくれず、大剣を引き抜きマンフロイへと突進した。

 ……マンフロイが歩んできた人生は苦しみの連続であったろうことは理解できる。
 ロプト教団の生き残りに生まれついてしまえば幼いころからロプトウスが全てという洗脳教育を施され、一般の社会というものを知ったとしても、それは唾棄すべき汚れたものとしか映らないであろうし。
 そのようにロプト教徒を駆り立てるのは、彼らがかつて他者に行ってきた弾圧と迫害を、立場を逆として自らが受けているということを省みることが無いからだ。
 ロプト教団を狩りたてている十二聖戦士の末裔も、自らが弾圧と迫害を行っているという自覚が無いだけに、今や同罪とも言えなくは無いのだが………


 だからといって奴の望みを叶えていい道理は無い。
 それは彼らが言うところの唯一神ロプトウス、それの前に等しく全てが犠牲となる社会の構築だからだ。
 その企ては過程に於いてもその結果としても、望まぬ死を強いられる人々の数は数え切れず、最終的にはこの大陸全ての命を消し去るということゆえに……




「ヴェルトマー公とお見受けした。 降伏するならば良し、さにあらずば御首(みしるし)頂戴いたそう」
「……」

 背後ではアルヴィス……魔将と呼ばれていた……と、イザーク父子が戦いを始めていた。
 だが……

「……汝、ソの隣人ヲ敵とセヨ、ばサーく」
「………」
「む……父上! 私がわからぬか! ……敵は私ではありません! あの赤毛の者ですぞ!」

 どうやら賢者(セイジ)であるアルヴィスは二対一の不利を覆すために杖の力を使ったようだ。
 こうなっては逆にマリクル王子が二対一の危機に追い込まれた。
 早くマンフロイを片付け、援護に入らねば!




 袖を破り捨て、地面に転がった杖を拾おうかというそぶりを一瞬見せたものの、懐から魔道書を取り出したマンフロイは俺に魔力を叩き付けた。
 ……火傷とは違う、だが焼け爛れるような痛みが俺を襲うが歯を喰いしばり、一足跳びに間合いを詰めると馬上槍(ランス)のように切っ先を奴に向け突撃(チャージ)をかます。
 詠唱を終え、魔力を放った後の隙だらけのはずが寸での所で避けられた。
 それに臆せず、そのまま力の限り横に薙ぎ払うと(マンフロイ)の左腕は斬り飛ばされ、さらには脇腹にも深く食い込み、絶叫が響いた。




 ……だが、トドメの一撃を加えようとしたその刹那、切り落とされたマンフロイの腕はまるで意思のあるかのようにその傷口にまで引き寄せられ、一瞬にして接合されると、次いで脇腹の傷も瞬時に再生されてしまった。
 全快(リカバー)の杖の効果ってやつか……
 大剣を一閃させたが、大きく飛びすさられてしまった。 

「でかした、魔将フぇアズーフ……ククク」
「まンフろい様、ヲ危のゥございマシ……ぐっ、くっ、おのれ……ハハッ」
「ふむ、まだまだ不完全だな。 ところでそこの小僧、なにゆえ儂の名を知っておる?」
「興味があるなら、もっと側に寄るといい、懇切丁寧に教えて差し上げるぞ!」
「……まぁ、いい。 フぇアズーフ、焼き払え!」

 魔将(アルヴィス)燎原之炎(ファラフレイム)を俺に投げつけた。
 予見できていたからなのか、それとも………俺が掻い潜った炎は辺りのものを一瞬にして炭化させてしまっていた。
 視界の端でマンフロイが杖を拾おうとしていたので、咄嗟に投げナイフを放つ。
 短い叫び声が聞こえ、奴は手を押さえ、憤怒の形相で睨み付けてきた。
 

「フぇアズーフ! 何をやっておる! さっさと始末するのじゃ!」
「……ふざけ……御る……意ッ」

 魔将(アルヴィス)は再び紅蓮の炎を放ち、俺はそれをぎりぎりのところで避ける。
 掠めて行った辺りの温度は凄まじく………俺の片耳は凄まじい痛みを感じていた。

「えぇ~い! 何をやっておる!」

 外れた炎はマンフロイが拾おうとしていた杖を焼き尽くし、細長い黒い染みを地面に残していた。
 ………これはもしや!

「目を覚ませ! アルヴィス卿! ロプトウスに抗え!」
「黙れ 小僧!」
「あなたに流れるロプトウスの血は、人々の為立ち上がった聖者マイラからのもの! そのことはあなた自身が己に言い聞かせていたことではないか!」
「黙れと言っておろうに!」

 マンフロイは再び魔道書を構えると俺にめがけて詠唱を始める。
 アルヴィスが正気に戻れば状況は激変するだろうが、そんなことを期待して言葉を紡いだ訳じゃ無い。
 俺の狙いはアルヴィスの様子に懐疑的なマンフロイの動揺を誘い、隙の大きな奴の魔法を使わせることにある。
 そして、もうひとつ……




 魔法は物理的な手段で防げはしないとわかっていた。
 雄たけびを上げ、(マンフロイ)が作り出した魔力の奔流に正面からぶつかる。
 ……もし、回避行動を行いながら寄ったとしても俊敏な動作で避けられてしまう公算が高いと予測したからだ。
 焼けつくような痛みに耐える為に歯を喰いしばり、体ごと(マンフロイ)に突進した………





 金属と金属が正面から衝突し、弾かれた如き音が辺りに響く。
 ………俺は、自分にそれを為せる技量も資格も無いとさえ思っていた。
 それゆえに、その存在を忘れてさえいた。
 青紫の輝きを放つ障壁が俺の前に顕現し、(マンフロイ)の放った毒蛇を思わせる魔力の塊を消し去った!



 【大楯】
 


 如何な攻撃とてその全てを掻き消す、誰にでも使え……そして、誰にでも使えるものでは無い……
 いわば、"ヒト"が見いだした"奇跡"



 狙いはあやまたず、(マンフロイ)の腹部に大剣が突き刺さり、貫かれて顔を出した切っ先は血にどす黒く濡れていた。
 だが、驚嘆すべきことに(マンフロイ)は双眸をギラつかせ、なにごとかを叫ぼうかとしたのだが………
 
 凄まじい熱に俺の背面は包まれ、思わず倒れそうになったが……これは狙ったものなのだ。
 アルヴィスが俺へと放った燎原之炎(ファラフレイム)は、俺への重い火傷とマンフロイへのトドメと相成った。
 ……俺を焼き尽くせという(マンフロイ)からの命令と、アルヴィス自身が望んだであろうマンフロイへの抵抗。
 その両意を果たした(アルヴィス)は頭を両手で押さえ、くぐもった声をあげ続けていた。


 

 その場にがっくりと膝を着きそうになる自分を叱咤し、大剣は……杖替わりにせず、なんとか踏みとどまる。
 木板に刺さった槍を渾身の力を籠めて引き抜き、炭の塊となったマンフロイだったものが目に入り、はっとしてイザーク王家の二人を見やる。
 二人とも未だ存命のようで安心したが、マリクル王子はいくつも傷を負い、流れた血が鎧下の衣類を赤茶色に染め上げ、立っているのが不思議なくらいだ。
 全身に気合を入れ、マナナン王の背後へ回り込み、両足の間に槍の柄を差し入れ転ばせようとしたが簡単に避けられた。

「こちらはいい!、ミュアハ王子、アルヴィス卿を討て!」
「なれど、殿下が危うい!」
「なぁに、今日こそ父上を超えるというもの!」
「バルムンクを抜いた陛下にここまで互角に戦っているあなただ! 既に陛下を超えておられる!」
「……嬉しいことを言ってくれるッ!」

 槍の牽制で態勢が崩れたところを、マリクル王子は己の父に斬りかかった。
 この父子は互いに剣舞でも演じているかのような動きを繰り広げ、思わず魅きこまれそうになるが、無粋な俺はマナナン王の側面に回り込むと、つばぜり合いになった瞬間を狙ってマナナン王の足を払い、転倒させた。
 それを見計らったマリクル王子は剣を巻き上げ、父の手よりバルムンクを刎ね飛ばし、跳躍すると空中でそれを握りしめた。
 その行方に目をやっていた混乱(バーサク)中のマナナン王の顎に、俺は槍の柄で殴りつけ脳震盪を起こさせた。
 互いに顔を見合わせた俺とマリクル王子は、未だ頭を抱えて呻いているアルヴィスを見やる。

「……今、アルヴィス卿の心の中では熾烈な戦いが繰り広げられていると思われます。 確かに討ち取るならば易しと見受けられるが、正気を取り戻されるやも知れません」
「ならば、如何とする?」
「まずは陛下を……むっ、マリクル王子! 危ない!」

 俺はマリクル王子を突き飛ばした。
 頭上に影が差したかと思った瞬間、先ほどまで俺たちが居た場所へ投槍が幾本も突き刺さる。
 あの時と同じように、いやあの時には無かった焼け跡の灰や炭化した木片、それに砂や塵を巻き上げて風圧が巻き上がった。
 ……もっと早いタイミングで現れるよりかマシではあったが、今、最も遭いたく無い(トラバント)が眼前に……




「これはヴェルトマー公、ご苦戦のようですな。 ……そして、小僧! 貴様にふさわしいな。 そのボロクズのような(ナリ)は!」

 ほんの数騎の竜騎士であったが、この状況では……あやうく絶望や諦めに陥りそうな心を奮い立たせる。
 こうしている間にも兄上率いる援軍がこちらに向かっているのだ!

「トラバント! ヴェルトマーもドズルも、この様子ではおぬしに謝礼を払うどころでは無いぞ! ()()ねぃ!」
「ふん……ならば貴様を()って気晴らしとでもするか……そして」
「そして、何だ?」
「……前金ぶんの働きはせねばなるまい!」
「くっ……」


 いつぞやのようにトラバントは危険極まりない投げ槍を俺に放った。
 わかっていても余りにもの速さに避けきれず血しぶきが舞う。
 マリクル王子はトラバントの取り巻きの竜騎士数人相手をものともせず斬り渡っているが、さすがに援護を求めることはできない。
 火傷とマンフロイに負わされた傷、それに今しがた受けた傷がひどく痛み、気力が尽きたらそのまま死んでもおかしくは無いなと思いながらも、だが、状況を打開する為に考える。
 しかし……




「公! 何をなさる!」
「奪いたくないから、……解放を、うぐ……次に癒しを、護って! 炎よ!」
「いったい、どうしたというのだ!」

 アルヴィスはトラバントに限らず、燎原之炎(ファラフレイム)を手当たり次第に動く者へと放ち続け、何騎かの飛竜が直撃を受け墜落し、乗り手が身動きの取れぬまま焼き殺されて行く……

  
「して! 奪って! あなたを、登るから!……心あるうちに頼む、殺してく……焼き尽くしたい空を!」
「く、狂ったというのか!」

 同意を求めるようにトラバントは俺に視線を向けた。
 アルヴィスの放った炎を巧みな手綱さばきで避けたトラバントだったが、味方の騎竜と衝突し墜落しはじめた。
 ……魔将となってしまった者を"ヒト"に戻す方法はあるのかもしれない。
 だが、この状態のアルヴィスを無力化し、安全な場所に連れて行くなどできようものか……
 そして……
 "心あるうちに頼む、殺してくれ"、そう(アルヴィス)は訴えた。
 ならば……


 
 
 ろくに身じろぎも出来ないくらい消耗していた俺のことなど目もくれていなかった(アルヴィス)に槍を構えて突撃し、その身を刺し、貫いた。
 虚を突かれなければ、避けることは出来たかもしれない(アルヴィス)は苦しそうに血を吐いた。

「アルヴィス卿! あなたは魔将などでは無い。 "ヒト"として逝け!」
「……礼を………言う」

「……ぐぁっ!」

 俺の腿を巨大な何か凄まじい痛みが襲い、苦悶の声が思わず上がった。



 ……騎竜と己を繋ぐ紐やベルトを断ち切った(トラバント)は、なんなく着地するとあの恐るべき神槍(グングニル)を投げつけ、力を使い尽くした俺の脚を貫いたのだ。

 
「……ヴェルトマー公を討ったか。 まぁ、いい。 公を討った者を俺が仕留めたならばグランベルより褒美もあるだろうからな。 ………こういう時、『恨みは無いが死んでもらおう!』などと言う物だが、貴様には恨みしか無いから気楽なものだ」
「……負けて、たまるか!」
「ふん。 その醜態(ザマ)でよく言う。 そして、さらばだ!」




 (トラバント)が投擲した輝きを避けようとしても驚くほど体が動かず、俺を刺し貫いた………
 そう、思ったが………

「若者よ、生きてくれ………」
「アルヴィス卿!」
「ぬぅ……公よ、つまらぬことをしたな」

 まだ息のあった(アルヴィス)は俺の前に回り込みその身を挺すと……カッと目を見開いたまま、その数奇な人生に幕を降ろした。
 かと言って、なんら状況が好転した訳では無い。
 ……アレさえ封じれば、そして、アレを奪い取ることこそがあの契約の条件。
 避ける事が出来ないのなら、そう……



 【大楯】よ! 出ろ! そう思いながら激痛に耐えながら身を捩る。
 ……そう都合のいい話は無い訳で、胸や腹のど真ん中こそ外れたが脇腹を大きく抉った傷口からは止めどなく血が溢れる。
 再度放たれた輝きに大楯を願い、そして避けようと必死にもがく。
 奇跡的に外れた神槍(グングニル)は、すぐに(トラバント)の手に戻った。
 表情に愉悦を加えた奴は口元を歪め

「それそれ、 攻め手の一つも無くてはつまらんぞ」
「……生憎、遊びでっ、殺し合い、している余裕はっ、無い!」
「よかろう。 ならば本気で殺す!」
「……お前が殺すと言って、それが、出来たのを、見たことは無い!」
「死ね!」



 放たれた輝きが俺の目の前で青紫色の障壁に阻まれ、互いに力が干渉し合い、神槍(グングニル)が宙空に浮かび、不自然な情景を作り続けている。
 【大楯】に阻まれているその瞬間、俺は神槍(グングニル)に両手を伸ばすと思い切り掴み、握りしめた。

「なっ! 小僧! 貴様、【大楯】だと!」
「……そうだ!、 そして、眺めている占い師!、望みのものを奪ったぞ!」
「何を言っている、貴様……」

 俺の意味不明な言動と、神槍(グングニル)を奪われたことに(トラバント)は狼狽していた。
 凄まじく重いこの槍に、俺の肩は脱臼でもするのでは無いかと思った。
 ……なんの前触れも無く現れた彼女(グルヴェイグ)は恭しい仕草で槍を受け取ると俺だけに聞こえるよう念話で契約の履行を告げ、空間へ溶け込むように姿を消した。
 

「ばっ! バカな! 今のは何のまやかしぞ!」
「俺の勝ちだ、トラバント……」
「オレの神槍(グングニル)を何処へ遣った!」

 気力も体力も尽きる寸前の俺には大剣も槍も振るえそうも無かったので、かつてドリアス伯爵から贈られ、幾度と無く俺の力となってくれた剣を腰から引き抜いた。
 トラバントはまだ狼狽しているが……同じように腰から剣を引き抜いたが………あれは!

斬鉄(アーマーキラー)の剣!」
「ご名答……まずは貴様を殺す」
「そう上手く行くと思うな! お前はいままで何度も俺を殺すと言っておきながら、俺はこうして生きている!」
「黙れ!」

 隻腕の(トラバント)の一撃は重くは無い。
 だが、俺は傷付き、疲れ、片足はもう力が入らない。
 一撃を受け止めた後、神槍(グングニル)に貫かれた腿の傷を(トラバント)に蹴られ、痛みに気が遠くなった。
 そのまま鳩尾のあたりを凄まじい痛みが……斬鉄(アーマーキラー)の剣に貫かれていた。
 トドメの一撃が振るわれ、必死になんとかしようとしたが思うように体が動かない。
 このまま死ぬのかと意識が遠のいて行った……




 響く金属と金属がぶつかり合って弾かれる【大楯】の音によって意識は取り戻され、俺は夢中で剣を振った。
 手ごたえと共に……絶叫を上げる(トラバント)は、顔面の左側を押さえ転げ回っていた。



 意識が遠のく中呼びかけられる声に、俺のことには縛られずレイミアには幸せを探してくれと何度も何度も答え続けた…………






 
 

 
後書き
最初にグングニルが登場した時は原作と同じく天槍という呼び方をしましたが
作中描写が無い時期におでんにパワーうpというか貸与されてからの呼び方を神槍に改めました。


評価ポイントをたくさんいただいてありがとうございます!
いちにちでさんびゃくてんとかふえていてなにがおきたかわからなかったです
ありがとうございます!

残り二話、頑張ります。 
ページ上へ戻る
ツイートする
 

全て感想を見る:感想一覧