ファイアーエムブレム~ユグドラル動乱時代に転生~
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第五十八話
前書き
拙作をいまだお見捨てなくご覧の皆様に感謝申し上げます。
わざわざ各話の点数まで付けていただいてありがとうございます。
累計ランキングなるものを見るよう言われて調べてみたところ……暁様にある膨大な全作品のうちtop100の中にあるなど信じられない! ひとえに皆様のおかげです。
図らずも敵軍を先導してしまうことになった重装斧騎士団はさぞかし不本意なことだろう。
だが、戦のさなかに手心を加えたがために、その時の優位がたちまち覆ることがままあるのが戦場と言うものだ。
同情や憐れみの気持ちは……いや、戦は既に始まってしまったのだ。
何の益も無いこの戦、もし、逃げ出したとしたらダーナは灰燼に帰し、それはレンスターとイザークの仕業とされてしまう。
なればこそ、勝って、しかる後にこちらの正しきを訴えねばならないのだ……
やがて、壕に落ちてから命を取り留め脱出に成功することが出来たものの、徒歩となったがゆえ重い鎧を脱ぎ捨てた重装斧騎士団の残滓の姿があった。
こちらに追い立てられている味方の姿を認めた彼らは様子を窺っていたが、状況を見て"わっ"と、己が身一つで逃げ散り始めた。
壕のある場所に迄辿り着くと、重装斧騎士団は端のほうにある連絡通路で縦列を作り、渡り出した。
槍兵部隊をここに残したのは、死んだふりをしている壕の中の者への、そして、もし撤退する事態に陥った場合、ここを橋頭堡として逆撃を加える為の備えだ。
……重装斧騎士団に騎乗させ、正面から向かってくる魔道騎士団へけしかけた。
ここに至るまでの道中に扇動しておいた言葉を思い起こす……
「重装斧騎士団の諸君らよ、勝敗は時の運とは言え、此度の事態の真の理由をご存知かな?」
「……貴様らが卑怯にも落とし穴に我らを突き落したからであろう!」
「いやいや、卑怯と言うは貴殿らの盟友という名の背信者、アルヴィス卿に他ならんよ」
「 『何ィ!』 『我らを謀るのか!』『無礼が過ぎるぞ!』『蛮族ずれがぁ!』 」
「……なにゆえ貴殿らの騎士団のみで突撃を図ったのかね? もし両騎士団による突撃であったならば我らが本陣もたまらず陥ちていたとみるが?」
「それは……」
「年齢にしろ実績にしろ貴殿らのあるじが全軍を指揮するが道理、翻って、アルヴィス卿は賢しい言を弄し貴殿らを捨て駒、いや……処刑したということだ」
「な、なんだと……」
「そもそも此度のダーナ攻めはアルヴィス卿による謀。 グランベル六公爵家を自家のみ残し、他家は滅ぼすが彼の者の企みということ、気が付かぬか?」
俺の流した毒に飲み込まれそうな彼らの姿に同情を禁じ得ない。
もし、これが打ちひしがれた敗軍では無く、輝かんばかりに精強なるいつもの彼らであればこんな戯言、一顧だにしなかっただろう。
「さて、これは憶測に過ぎないが……クルト王太子はそろそろ四十の齢に至らんとするが、浮ついた話のひとつも聞き及ばない」
「きゅ、急にどうした、そんな話を!」
「……もう十年以上の前になるのだろうか、アルヴィス卿はわずか十五の齢にして近衛団長に任じられ、異例中の異例の抜擢を行ったはクルト王太子であり………あの御仁は、眉目秀麗にして端麗。 ……わたしの言いたいことはわかるかな?」
「 『な、なんという無礼を!』『殿下への侮辱、許さぬぞ!』 」
口々にわめき立つ彼らだが、現在の力関係を考慮する分別はまだ残っている。
「違うのだよ諸君、殿下を籠絡し、グランベル王室への不忠を図るのはアルヴィス卿のほうだぞ! 自らが政を専らとする為に他の公爵家が邪魔であるため……毒殺や暗殺では後日、必ず足が付くと見て、わかりにくい戦場で、そして自分の手を汚さぬ為に謂れの無い戦を仕掛け、敵軍にその役目を負わせようと…………漢気に溢れ、勇敢な諸君らのあるじだ、同じ六公爵家の一員としての信頼もあっただろう……それを裏切った! 二つの騎士団で突撃する約を違え、見捨て……いや、死地へと送ったのだよ!」
「だ、だが、しかし、貴様の言うことが正しいとは言い切れん!」
「ならば、アルヴィス卿に問いただしてみればいい、友軍たる、そして武器も持たない諸君らをもし、とどめることがあったなら、その時は魔道騎士団は諸君らを裏切ったとそう思えば良いのだしな!」
「そ……そうだな。 そうに違いない」
「よし、魔道騎士団の姿が見えてきたら諸君らは騎乗するといい。……諸君らをこんな目に遭わせたのはアルヴィスだ。裏切りが無ければ大陸最強の重装斧騎士団が一敗地にまみれるなどあるべからざることなのだからな!」
「ミュアハ王子、やりすぎではないか?」
「そうですね……わたしは死んだら地獄行き間違いなしでしょう」
重装斧騎士団を前方に見やり、俺たちは駆け足で追いかけている。
先ほどの扇動についてマナナン王は思うところがあるのだろう。
信義を重んじ、実直な人物な彼は黙って見ていただけでも罪悪感があったに違いない。
「敵の兵にも産み、育てた家族が居り、互いに想いあう者が居るのは当然でしょう。 ですが、それは我々とて同様です。 何より彼らは炊事や治療などを任務とした補助兵では無く、正規の戦闘員です!」
「うむ………」
「陛下! これより該たるは無辜の民へ無差別に隕石落としを行い、皆殺しを計ろうとし、それを全てイザークの仕業に仕立て上げようとした者達ですぞ! 勝敗が決した後ならば助けましょう。なれど、今は勝たねばなりますまい!」
一度降伏した重装斧騎士団をこんな形で利用するのは道義にもとることだ。
それに、彼ら自体は今の所ダーナには一切被害を与えた訳でもない。
だが、それを咎められる資格を得るには、まず、この場を勝ち残らねばならない。
「………わしは甘いな。 貴公に総大将を委ねたこと、間違い無かった」
「もったいないお言葉です………これより、向かって右、魔道騎士団の左翼に突撃をかける! 総員! 気合入れろ!」
叫んでからマナナン王を見やった俺は謹直な表情を作り、
「……申し遅れましたが、クルト王太子の性的嗜好はいたって健全です」
「なぬ?」
「美しいお嬢さんをお持ちなのですよ。 隠し子にする事情がおありなのですけれども!」
重装斧騎士団は押し寄せてくる魔道騎士団のど真ん中を押し通ろうとした。
旗印で友軍であると認めた魔道騎士団隊長の魔道騎士は、 友軍に火炎魔法を見舞うことなど考えに及ぶわけもなく、かと言って素直に道を開けて行軍速度を落とすという一瞬の判断も付かず手をこまねいていた。
思いもよらぬ事態に指示を出せずにいる間に重装斧騎士団が衝突し、中央に位置していた部隊は大混乱に陥り、それは隣接する別の部隊にも波及して行った。
敗残の重装斧騎士団の数は魔道騎士団の五分の一にも満たぬにも関わらず、ここまでの事態を引き起こしたのは、こちらにとっては僥倖と言うべきか。
中央部隊が混乱している間に、俺たちは魔道騎士団の左翼に襲い掛かった。
もともと敵側のそれぞれの騎士団とこちら側の軍勢の比は十対六程度であろうか。
それぞれの騎士団が五、こちらはイザーク軍が四とレイミア隊を中核としたダーナ守備隊と義勇兵で二と言ったところだ。
ただ、別働隊と弓箭隊、それに予備戦力はこの場には居ない。
こちらの兵力は敵の左翼のみを圧倒的に上回り、また、中央部隊の混乱に引きずられ態勢が万全では無い所を襲った為に組織的な反撃を受けずに押し込んで行った。
そんな中、たまらず反転して逃げて行く魔道騎士達は碌に狙点を定めず、振り向きざまに火球を投げつけるという戦法を採るためにやっかいであった。
しかし、左翼の正面から激突したあとすぐに、こちらの中段や後列は時計の反対回りに進撃し、半包囲の体制を築いていたのでそのような魔道騎士の進路を遮断し、補足することが出来、魔道騎士団の兵力は着実に削がれていった。
左翼が壊滅している間にようやく中央の部隊は態勢を建て直したが、左翼を狩った勢いそのままに俺たちは襲い掛かり、数量の差で押し潰して行った。
敵の右翼は直進後、方向転換を行ってから俺たちダーナ=イザーク軍に突撃を計ろうとしたが、そこは先ほど重装斧騎士団が弓箭隊に散々撃ち込まれた場所にほど近いことを彼らは知らなかった。
……隊列を整え、隊の方向を変えようとしたその時、散々に矢が撃ち込まれた。
これはあらかじめ指示してあったことでは無く、現場の即興であった。
そもそも、丸腰の重装斧騎士団を進撃中の魔道騎士団にぶつける事自体が即興の策ではあったのだが。
ばたばたと倒れる僚友の姿に茫然としているそこへ、弓箭隊の護衛となっていた軽騎兵が襲い掛かる。
たまらず魔道騎士団の右翼は潰走し、ここに魔道騎士団の機動戦力は崩壊した。
ブリギッド、それにヴォルツとベオのいい仕事ぶりに安心し、今、まさに別働隊が奮戦中であろう敵の本陣へと突撃をかけた。
敵の騎兵も、遮る重騎士団も見当たらず、彼らの戦力ならばこの状況で押し寄せる敵部隊には隕石落しを行うのが常道のはず。
……それが起きない理由としては、あらかじめマリクル王子率いる別働隊は段丘に潜み、騎兵の突撃を見届けたあとに本営へ斬り込み、砲台とも言うべき魔道戦士団と交戦中、あるいは既に殲滅を果たしたからであろう。
マリクル王子率いる別働隊には、エッダからの居残り使者が労を惜しまず作成に当たってくれた聖水を優先して配り、対魔法への備えとしていた。
こちらも聖水を使い、次々と魔道戦士を切り伏せながら奥へと進んで行くと、マリクル王子と合流した。
既に本陣の周囲はこちらの部隊で包囲が進みつつあることを説明し、厚い防御陣をようやくの思いで突破すると………
床几に腰を掛けた赤髪の美丈夫の姿があり………………ワインレッドの法衣を纏った、けわしい表情を浮かべた老人を目にして俺は思わず叫び声を上げた。
「マンフロイ! 貴様を……倒す!」
「! ……何者かは知らぬが、魔将フぇアズーフ! この者らを皆殺しにせよ!」
頷くと赤髪の美丈夫たるアルヴィス……魔将と呼ばれていた……は、立ち上がる。
マンフロイは慌てて立てかけてあった杖に手を伸ばした。
「させるか!」
構えた槍を思い切りマンフロイに投げつけた………
後書き
versuch、フぇアズーフとは試みって単語のようでして『試作機』って感じでお願いします。
・・・Falscher(aにはウムラウトがつくんですが)、にせもの、と、どちらが良いか考えましたけれど試作機のほうがいいかなーと。
この世界でのマンフロイはサイアスの身柄を押さえてあるので、アルヴィスに子作りさせることにはこだわらない感じです。
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