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ワルキューレ

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第二幕その三


第二幕その三

「今日も保護をすることはお止め下さい」
「何だと?」
「貴方が与えたあの剣」
「ノートゥングか」
「あの剣を取り上げるのです」
「馬鹿を言え」
 彼にとってはそんなことは聞き入れられないことだった。
「あれは彼が危急に際して自ら得たものだ」
「その危急の運命も剣も貴方が作ったものではありませんか」
 妻の目は誤魔化せなかった。
「私の目は誤魔化せません」
「見ているというのか」
「そうです。貴方の謀もまた」
 見ているというのである。
「自由を失った男は高貴な男とは争いません」
「高貴な男とはか」
「そうです。罪人を罰するのは意志の自由な人です」
 それだというのだ。
「貴方の力に逆らって戦うことは私もします」
「御前もだというのか」
「ですがジークムントは奴隷として滅ぼすばかりです」
 なおも言うのだった。
「貴方を主人としてその心のまま動く者にどうして私が従うのですか」
「従えとは言っていない」
「いえ、言っています」
 二人の対立はさらに深いものになっていく。そして激しく。
「最も卑しい者達の辱めを許しあつかましい者達を増長させ自由な人を嘲笑し」
「そんなことはないぞ」
「しています。だからこそ私は要求します」
「何をだ」
「ヴェルズングから手を引くことを」
 それこそが彼女の要求であった、
「あの者達からです」
「彼に自らの道を歩かせるのだ」
「では仇討ちをしようとする者が彼に戦いを挑んだ時に」
「どうせよというのだ」
「味方をされないことです」
 言葉に棘が加わっていた。
「決して」
「では誓おう」
 忌々しげな顔と声ではあった。しかしそれでも言わざるを得なかった。
「それをな」
「私の目を見て下さい」
 顔を背けようとするヴォータンに告げてきた。
「欺瞞を考えずに。ワルキューレ達も彼を守らないことを」
「ワルキューレ達は自由に動く」
「それも偽りです」
 それもわかっているフリッカだった。
「彼女達は貴方の忠実な娘達です」
「くっ・・・・・・」
「ジークムントの勝利を禁じて下さい」
「彼が敗れる運命にすることはできない」
 ヴォータンはそれだけは退くつもりはなかった。劣勢だが受けていた。
「彼はわしの剣を見出したからだ」
「では剣から魔力を取り上げるのです」
「魔力をだと」
「あの剣にはルーン文字が描かれていますね」
「そこまで知っていたのか」
「勿論です」
 フリッカとて愚かではない。そういうことだった。
「あの魔力を取り上げ砕けるようにするのです」
「それによりか」
「敵を妨げないようにするのです」
「何故そこまでしなければならないのだ」
「不実を許さない為に」
 それこそが彼女の正義であったのだ。夫婦の徳を守ることこそがだ。
「ですから」
「ハイヤハーーーーー!」
 ここであの叫び声が聞こえてきた。
「ホヨトーーーホーーーー!ホヨトーーーホーーーー!」
「来ましたわ」
 フリッカはその叫び声を聞いてまた夫に告げてきた。
「貴方の勇敢な娘が」
「ジークムントのところへ行くように呼んだのだ」
「貴方の妻の誓いを守らなければなりません」
 フリッカはここで釘を刺す様に述べてきた。
 
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