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ワルキューレ

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第二幕その二


第二幕その二

「そんなものが何だというのだ」
「あの二人は兄妹です」
 フリッカの忌々しげな言葉はさらに続く。
「兄が妹を抱くなど。その様なことが何時あったのですか」
「それは今だ」
 ヴォータンはここでもしれっとしたものだった。
「今起こったではないか」
「よくそんなことが言えますね」
「御前が祝福すればそれでいい」 
 ヴォータンの言葉は続く。
「それだけでだ。御前ががな」
「貴方がもうけられたあのヴェルズングの一族」
 フリッカの言葉はさらに忌々しげなものになる。
「人間の女との間にもうけられたあの一族だけでなく」
「あの者達だけでなくか」
「エルダとの間にもうけられたあの娘達も」
 彼女達もだというのだ。
「ワルキューレ。特にあの娘」
「ブリュンヒルテか」
「あの娘達に私への忠誠を誓わせましたが」
「当然のことだ」
「貴方の数多い私への裏切りの結果を」
 夫の不実をなじり批判する言葉だった。
「それを貴方は祝福しろと仰るのですか」
「今は英雄が必要なのだ」
「英雄が?」
「そうだ」
 こうその妻に返すのだった。
「神の保護から離れその掟に捉われない人間がだ」
「人間なのですか、それは」
「神々が働きかける必要のない人間がだ」
 それが必要だというのである。
「我々が為し得ないことができるのだ」
「その様な言葉」
 フリッカは夫のその言葉を打ち消した。
「何の意味があるのですか」
「何の意味かとは」
「そうです」 
 こう夫に言い返すのだった。
「神々が為し得ないことを人がすると」
「そうだ」
「人間の英雄がですか」
「そう言っているのだ」
「神々の恩寵があってこその英雄ではありませんか」
 フリッカは神として言い返すのだった。
「それでどうしてその様なことを」
「御前は人間を認めないのか」
「そうではありません」 
 彼女にはそんなつもりはなかった。あくまで。
「誰が人間達に命を与え力を与えたのか」
「我々だ」
「そうです、特に貴方の保護と鼓舞によりです」
 それによりだというのだ。
「女神である私の前で貴方が褒め称える人間達も貴方の加護によって英雄になれるのではありませんか」
「それはその通りだ」
「では何故」
 フリッカにはさらにわからないことだった。
「その様なことを仰るのですか。少なくとも」
「何だというのだ?」
「ヴェルズングの者達は許してはなりません」
 これは譲らないフリッカだった。
「決して」
「決してか」
「そうです。何があろうとも」
 フリッカはあくまで言うのである。
「彼等の中に貴方達を見ます」
「私をか」
「あの様な無道な振る舞いはです」
「彼は激しい苦難の中で育った」
 ジークムントのことである。
「わしの保護なぞ受けたことはないぞ」
「それならです」
 フリッカも引き下がらない。
 
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