形而下の神々
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10日間の小さな行軍記
行軍2日目~前編~
前書き
ホントにごめんなさい。
うっかり前の更新を下書き状態のまま放置してしまっていました。
なので、実質今日2話更新という形を取らせて頂きます。
翌朝、清々しい顔をしたグランシェと眠い目を擦る俺は固いパンとチーズの朝食を終えて再び行軍を開始した。
「シュナウド、昨日は休めたか?」
「……タイチの悲鳴がうるさかった」
例の如く黙々と歩くシュナウドに聞くと、そんな返事が返ってきやがった。
シュナウドにも聞こえてたのか。グランシェめ、俺はやっと学習したぞ。今日は離れて寝てやる。
「ところで狼人って何なのか分かる?」
「…………」
初めにマストルが話していた狼人。ずっと気になってんだよね。
「……ねぇ、狼人って」
「亜人だよ」
俺が2回聞くと忌ま忌ましそうにシュナウドは口を開いた。
「亜人?」
最近オウム返しが多くなったなぁ。なんて考えながらもオウム返しに聞き返す。
「亜人、知らないの?」
「うん知らないよ」
この世の常識なのかも知れんが、どうせオリオリに着くまでの仲だ。知ったかぶりしてても意味が無いだろう。
するとシュナウドはいかにも胡散臭そうな顔を作って説明を始める。
「亜人は、人間とは違う神様に祝福された6つの種族の総称」
「6つの種族?」
対する俺はまたまたオウム返し。
「人間以外に、天人魚、狼人、竜人、魚人、翼人、牛鬼の6種類」
「違う神様ってどういうこと?」
種族は分かった。まぁ、宇宙人的なノリだろう。ここには人間以外の知的生命体が6種類も居るってわけだな。
そう思ったが、神様という言葉が引っかかったので聞くと、シュナウドは目を細めて聞き返す。
「タイチは公式使い?」
「まぁ1つだけ作ったよ」
それを聞いてシュナウドは少し目を見開いたが、すぐまた元の無表情に戻ってしまった。
「公式を作るときに行く神殿の神様は『無と理の神』という神様なんだ」
「ムトコトワリノカミ?」
何だか凄く難しそうだ。
「そ、無と理の神。命はこの神様に祝福されると人間になる」
「へぇ~」
そんな訳ねぇだろとか思いながら返事をする。と、今度はどこかの本でも朗読するかのようにツラツラと色々述べてきた。
「天人魚は『光と生命の神』
狼人は『闇と甘受の神』
竜人は『炎と闘争の神』
魚人は『水と秩序の神』
翼人は『風と流動の神』
牛鬼は『土と豊饒の神』
に、祝福されている」
ん? いまいち覚えきれなかったが、まあ良いだろう。とりあえず、生命は生れ落ちる時に神様に祝福されて、その祝福してくれた神様の違いで何が産れるのか変わる。
と、ここでは信じられているみたいだね。
「で、祝福する神様が違うと何がどうなるの?」
俺の問いにシュナウドは眉間にシワを寄せながらも答えた。
「人が公式を使えるのは神様のおかげ。亜人は公式の代わりにそれぞれの神様の力を使う」
なるほど、そういう解釈な訳ね。じゃあ、炎の神様だったら火とか吹けちゃうんだろうか?
ココは割と宗教的な分野なのですんなり吸収できる。
「じゃあ亜人が神器とか持ったら最強だね」
冗談っぽく言ったが、マジでそんなやつが出たら大変だな。
「人間には公式がある。数もある。だから、一種類の力しか使えない亜人は人間の下位種として見なされている。勿論、神器なんて亜人に死を与えるものとしてしか使われない。タイチは馬鹿なの?」
ほぉ、なるほどね~。亜人さんは数が少ないんだ。しかも人と違ってその能力は方が決まっていて幅の広さが段違いに狭い。
だから歴史の中で迫害されてしまったと。
「ん~、まぁ世間知らずなんだよ」
なんとなくごまかしてシュナウドの声に応答した。
亜人は弱いんだ。現代でも文明的に弱い先住民は迫害を受けてきた歴史がある。みたいな感じだろう。
しかし少し違うのは、ここでは亜人は奴隷とはなっていないという事だ。いや、もしかしたら亜人も人間も、レミングス達みたいに見た目には区別できないだけなのかも知れないが。
亜人の見た目について聞きたいのは山々なのだが、いい加減ごまかすにも限度があるのでもう質問はやめにした。
「ところでシュナウド」
また俺が話題を変えようとすると、今度は俺の言葉を遮ってシュナウドは声を出す。
「……もう良いでしょ、俺はタイチと話したくない。しかもここは危ない」
「……危ない?」
呑気にオウム返しをかましていると、街道の向こうからドタドタと先遣隊が帰ってきた。
「ま、魔物が出たー!!」
とか叫びながら。
「シュナウド君は隠れて!!」
とっさにそう叫ぶ。魔物が出たと言って彼らが引き返してきたということは、敵は先遣隊……傭兵6人掛かりでも倒せないということだ。
子供達には隠れてもらうより他無いだろう。
「何言ってんの? タイチこそ無理しちゃだめだよ」
が、何故かシュナウドは既に臨戦体制。アホかこいつは。
俺も短剣を抜き、バックパックから血の付いた小石を取り出した。
気付けば隣には既にグランシェの姿がある。なんか……頼れる感じがして泣けて来たし。
「タイチ、この奴隷は何だ?」
「戦うらしい」
グランシェはシュナウドを見ながら言ったが、俺は敵が恐いから街道の先しか見ていない。
「おいボウズ……良い鍛え方してんな」
グランシェはシュナウドを見るなりそう言った。シュナウドもそれに対して割と上機嫌で返す。
「おっちゃんは人を見る目が有るみたいだね、傭兵の中では一番強そうだ」
シュナウドとグランシェはなんか分かりあっちゃってる。そして俺だけアウェイだ。
すると、グランシェはマントからマンゴーシュと鉄の棒を取り出し、鉄の棒を俺に渡してきた。
「これを右手に持て」
言われた通りにする。
「短剣は左手に、逆手で持て」
これまた言われた通りにする。
「血の付いた小石を敵に当てたら、右手の鉄パイプで距離を測りながら戦え。そんで、適当な頃合いで敵の後ろに回り込んで、短剣を力一杯ブッ刺すんだ」
「お、おう!!」
要するに、まずは敵に血の付いた小石を当て、公式を使う準備を整える。
次に、長い鉄パイプで敵との間合いを計って軽く戦う。
最後に、適当な頃合いでいきなり背後に瞬間移動し、怯んで隙が出来た敵の背中にマンゴーシュをグサッ!!
ヤバい、グランシェに言われた事は分かったが俺にそれを実践する技量が有るかどうか……。
もし無ければ……。その後の事は考えないでおこう。
なんて考えているうちに足音がだんだんと近付いて来ていた。
「ありゃあデュアドだね」
すして、敵が視界に入るなりシュナウドが呟く。
第一印象は巨大なダチョウ。ただ、ダチョウより遥かにデカい。全長は5mを超えているだろう。
そして……。
「カラフルッ!?」
赤、青、緑。本来は白黒が似合うそのフォルムに3色の羽はカラフル過ぎて目が疲れる。
そんなヤツだが、嘴には馬をくわえていた。
多分、先遣隊の誰かのモノだろう。馬に乗ってた傭兵は……。
俺はブルブルと首を振って鉄の棒を片手で構えた。
「タイチ、格好だけは様になってるよ」
シュナウドがまさかの軽口を叩く。実はこいつ、クールぶってたけどお喋りさんなんじゃないか?
そんな事を考えていると、目の前で2人の傭兵がダチョウの脚に切り掛かるが、1人は嘴に貫かれ、もう1人はヤツの爪の垢と化していた。あそこであの傭兵さんに倒しておいて欲しかった。
「チッ、こっちに来るぞ」
グランシェが言うと、確かにヤツの眼球は俺達……ってか俺を見ていた。何だかガンガン目があっちゃってる。
「って俺狙いだね……」
「どんまいタイチ、タイチの事は忘れない」
またもやシュナウドの軽口。
「だから死なないって!!」
そう叫んで決死の覚悟を奮い立たせると、血の付いた石を持って思いっきりダチョウに投げた。
「グエェッ!!」
石はダチョウが顔面を下げた時に顔面にクリーンヒット!!
俺の腕もまだまだなまってはいないようだ。
そして、これでヤツの顔には俺の血が付いた。その顔を中心に、俺は瞬間移動が出来る。
「グエェッ!!」
ダチョウの一鳴き。そして馬を咥え、傭兵を一撃で肉塊に変えた死の嘴が頭上を覆う。が、その瞬間俺は念じた。
「公式展開!!」
ガコッ!!と地面を粉砕する嘴。俺は瞬間移動でヤツの眼球の真横に居た。瞬間移動は、血が付いた点を中心に円上を移動する公式だ。もちろん背後にだって回れるが、ここは敵が魔物だという事に配慮して先に視界を奪う事にした。
俺の身体は空中だが、地面に嘴が刺さってヤツが困惑している今ならまだ攻撃が間に合う。
「死ねゴルァー!!」
そう叫び、短剣は届かないので鉄パイプを眼球に思いっ切り突き立てた。
ズブッ、と言うよりはプリュッって感じ。鉄パイプは一瞬でヤツの眼球に埋まる。
グイグイ埋まる。ジャンジャン埋まる。そして、かけた力以上に鉄パイプはダチョウの巨大な目玉に深く突き刺さった頃、俺はやっぱり何か変だなと思った。
そして、これはいよいよおかしいなと感じたのは、手首に痛みを感じ始めた辺りだった。
そう、おかしいのだ。いくら何でも鉄パイプが埋まる勢いが早すぎる。いくらなんでも俺、そんなに強くないし。そもそもなんか手首まで眼球に刺さって気持ち悪いし腕は痛いし……。
要するに、俺が眼球を突き刺したんじゃない。眼球が向こうから近付いて来たんだね。
「ぶベっ!!」
ダチョウの頭突き。まさか眼球を犠牲にして頭突きして来るとか。
予想外デース。
しかも気付けば目の前には殺意満々の嘴。
また必死で唱える瞬間移動。
今度の中心はダチョウの頭じゃなくてさっき投げた石ころを中心にして、出来るだけダチョウ野郎から離れる様に移動する。
実際、石ころの場所なんて知らないが、ダチョウから出来るだけ遠くへ……。
ドサッ、と背中に激しい衝撃を受けて地面に倒れる。
石ころはそんなに遠くには行ってなかったみたいで、真横にダチョウの爪があった。
こえぇっ!!
しかも爪の間に見覚えの有る傭兵さんの顔がぁ!!
ギャー!! 生首とか……吐く吐く!!
「ひいぃ~!! 死ぬ~~!!」
鉄パイプなんてとっくにダチョウの目玉の一部として寄付していたが、大事なマンゴーシュだけしまって一瞬で起き上がりダチョウに背を向けると、俺は過去最高速度でグランシェの元へ走った。
後書き
こんな戦闘シーンで良いのだろうか……。
まぁ、そんな疑問が浮かんでくる戦闘描写ですがご了承くださいませ。
あ、チートは無いとタグに書いていますが、今更ですがアレは嘘っぱちです。
しかし、皆が皆チート使いなので結局チートはチートに非ず。そういう意味でチートなしです。
こんな小説ですが、どうぞ、今後ともごゆるりとお楽しみ下さい。
──2013年06月03日、記。
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