仕草で
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第三章
その彼等の様にやると言ってだ。真耶子は意を決してだ。その彼に仕掛けるのだった。
実はその彼愛甲十郎太とは同じクラスだ。その地の利を活してだ。
そのうえでだ。本当に何気なくだった。
彼の横を通ったりだ。それにだった。
彼自身にもだ。こう声をかけたりしたのだった。
「ねえ、よかったらね」
「よかったらか」
「ええと。今日の英語の問題だけれど」
宿題のことを問うたりもしたのだ。それもだ。
この英語だけでなくだ。他の教科のこともだ。実は真耶子は勉強はあまり得意ではない。留年する程悪くはないが大学進学には少し努力が必要なレベルだ。
そのことは実は気にしてもいた。それも密かに利用してだ。
普段の態度でだ。成績のいい十郎太に尋ねたのである。
十郎太は長身で引き締まった顔をしている。髪は丁寧に後ろで束ねている。
それで黒髪がオールバックにも見える。そしてだ。
声もいい。それも引き締まっていて端整だ。部活は空手部だ。
その端整な男らしさを見せる彼にだ。常にだ。
あれこれと尋ねて自然と声をかける。真耶子らしくだ。
そしてそのうえでだ。十郎太にだった。
こうもだ。言うのだった。
「あのね」
「何だ?」
「実は最近現国がわからなくて」
それでだというのだ。これは実際のことだった。
「だからよかったら」
「そうだな。それだとな」
「どうしたらいいかしら」
「図書館だな」
そこに行くべきだとだ。十郎太は言うのだった。
「図書館に行って。今習っている」
「太宰治ね」
「それをよく読むといい。教科書に出ている富嶽百景だけでなく」
太宰の代表作の一つだ。中期の良作である。
その作品以外にもだとだ。十郎太は自分の席でダークブルーの詰襟姿で話していく。彼が選んだ制服だ。それだけに実によく似合っている。彼等の通う八条学園は生徒それぞれが制服を選べるのだ。
それでだ。その制服を着ているのだがその制服もまた真耶子のお気に入りだ。
その制服の彼がだ。真耶子に言うのだった。
「他の作品も読むといい」
「ええと。走れメロスとか?」
「その他にもある」
「ええと。それは」
どうかとだ。首を捻ってだった。真耶子はだ。
首を捻ってだ。そして言うのだった。
「実は私太宰はあまり」
「知らないのか」
「御免なさい。富岳百景と走れメロスと」
「他にもあるが」
「具体的には?」
「知らないのなら実際に図書館に行こう」
また図書館の話になる。しかしだった。
「一緒にな」
「一緒?」
真耶子は目をしばたかせてだ。十郎太に問い返した。
「一緒になの」
「そうだよ、一緒にな」
こう言ったのである。そしてだった。
彼はだ、真耶子に言った。
「図書館に行って勉強するか」
「嘘・・・・・・」
呆然として言う真耶子だった。そのうえでだ。
思わずだ。彼に問い返したのだった。
「ええと。私と一緒に勉強なんて」
「おかしいか」
「おかしいっていうか」
また目をしばたかせて言う彼女だった。
「嘘みたい・・・・・・」
「いや、ただ勉強するだけだろう」
十郎太はまだ彼女の気持ちに気付いていない。それでだった。
こうだ。真耶子に言ったのである。
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