東方小噺
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種族魔法使いと門番
前書き
キスの日とかいう日にTwitterで書いた小噺。
キス要素皆無。あと短い。この位の短さにしたい。橋姫のが長すぎた反省してる。
「……」
パサ……。細い指がまた、紙を捲る。
図書館、という空間がパチュリーは好きだ。乾いた空気や古臭い匂いもいいが、一番は時の止まった世界にいる様な錯覚を得られる事だ。
知を収めた本の数々……絶えず動く「時間」と「成果」が文字として、歴史と編纂され止まった世界。
そこに自分は居る
止まった歴史に囲まれた自分。
小間使い以外居ない静かな世界でふと、自分さえ止まりその世界の中心になる、そんな全能感に包まれる時がある。
そんなことを思いながらまた一つページを進め、パチュリーはため息をつく。
視界の先。そんな止まった世界にいる異物(動くもの)を見て溜息をもう一度
「……何でここにいるのかしらね」
うろちょろと動き回る彼女の姿を見て、そう呟く。
勿論、理由は知っている。
『暫く姿を見ていないから会いに来た』
そう言って自分を一目見て微笑み、すぐに本棚の方へ行った彼女。
読めもしないのに棚から出し、自分に聞きに来る。その度に自分の時間が動かされる
「パチュリー様、これ面白いですね!」
「……暫く来ないと思ったら、漫画を読んでいたのね」
「まあ、これなら聞かなくても大丈夫ですので」
「そう、それは残念ね。馬鹿なあなたに教養を教えてあげようと思ったのだけれど」
「魔術が教養はちょっと……風水の五行関連なら少しわかりますが」
来たら嫌味を言おう。そう思っていたのに口から出たのは別の言葉。
『残念』
何故そんな言葉が出たのか。そして何故自分は言葉を交わし、時を動かし続けているのだろうか。
続きの場所を聞きに来たという彼女の言葉。それに僅かながらに落胆を感じる。それが理解できない。
ため息が、溢れる。
「疲れてるんですか? ずっとこんな所に篭ってるからですよ。久しぶりにマッサージしましょうか」
「いらぬお世話よ。ほら、用が済んだならさっさと行きなさい」
視線を本に落とし、もう終わりだと暗に告げる。
暫しの沈黙の後、足音が自分から離れていく
「……」
意識せず視線が上がり、去っていく彼女の背中を見ていることに気づく。
まさか、まだ何か言って欲しかったのか。
自分は彼女に、この本をとって欲しかったのだろうか。バカバカしい。そう切り捨て、視線を本に戻す。
彼女が離れる。それだけで時の止まった世界が戻ってくる。
彼女がここに来るのは初めてではない。暇つぶしと称し、本を読みに来ることは多々ある。
武術書を漁りに来ることも、サボって昼寝をすることも。
外に出ない私の体を気遣い、気の巡りをよくするというマッサージを受けたこともある。太極拳の動きをさせられたことも。今思っても何故従ったのか不思議だ
意味のない無駄話にも付き合った。無視しているのにひたすらに喋りかけてくるのに根負けした。
長いこと外を巡ってきた彼女。自分の知らない知識を教えられることもあった。それが悔しくて、彼女が知らない事を意地悪な笑み聞くこともあった。
気づいたら、自分から時を動かしていた。
次に来るのはいつか。どんな知識をぶつけてやろうか。
『次』を楽しみにし始めた。
止まった時間が動く瞬間。続く世界。不定期なはずのそれが、『日課』になり始めた。
私の『世界』に、当然のように彼女が動き回っていた。
なんとも、馬鹿らしい話だ。
…
……
………
一冊の本を読み終え、パチュリーはそれを閉じる。
自分を書くむいくつもの山。左側の山は読んだ本、右はこれから読む本。左がまた、一段高くなる。
右が一段減り、ふと疑問が走る。やけに静かだ。
ずらした視界の先。すぐ近くの山に寄りかかるようにして彼女が眠っていた。
帽子を顔に載せ、本を枕に。ベッドは乱雑に散らばった本。
手を伸ばせば帽子を取れる。そんな距離。
どうりで静かなわけだ。勝手に押しかけて勝手に世界を動かし、勝手に止める。何とも自由な事だ。
きっと彼女にそんな気はない。いつも好きなように動いているだけ。正直だけだ
仲がいいのかと聞かれればノーと首を横に振る。
好きかと聞かれてもまた同じ。嫌いかと聞かれれば変わらず横に。
友情でなく、さりとて愛情でなく。
そんな『知り合い』の事の寝姿を見る。次第に、眠気が自分にも襲ってくる。決して、嫌いではない。
眠い眼で見る彼女の姿。自分を誘う姿。
感じていなかったはずの欠落が埋まる感覚。自分の世界が、過不足なくある実感。奇妙な安らぎ。
閉じていく視界。彼女が誘う微睡みの世界。
落ちていく思考の中、思う。
止まった世界よりも、この微睡みの時間が私、パチュリー・ノーレッジは好きだと。
…
……
小さな寝息が二つ、緩やかに流れる時間の中で重なっていた。
後書き
このくらいの長さが小噺って感じがする。8k超えた前回なんてなかった。
あとめーりん愛してる
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