鋼殻のレギオス 勝手に24巻 +α
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三話
月の姿を捨てオーロラフィールド・絶縁空間内にサヤが造りだした隔離空間『楽土』内へと突入したアイレイン・ガーフィート。出現した場所は超高空であり、そこからの自由落下の最中である。
(昔もこんな風にこの中に入ったモンだったな。サヤはどこだ)
遥かな昔、オーロラフィールドからこの世界の中に入った時の事を思い出す。
あの時もサヤの世界を破壊しようと侵入したイグナシスとフェイスマンを追いかけて突入したのだった。
(頼むぞ、ニリス)
アイレインの周りを鏡の欠片のようなきらめきが取り囲む。
(あの時とは違って敵はハッキリとわかるが少し高いな。……ん、あれは)
このまま地表まで落ちても別に死ぬことは無いが、流石にどうしようかと思っていると周りに懐かしい姿を見つけた。
「ハルペー!」
呼び声に応えて寄って来たのはもはや何期かも判らないほど古びた体躯を持つ老成体、巨大な竜の姿をした汚染獣。
その正体はクラウドセル・分離マザーIV・ハルペー。
サヤやニルフィリアと同様にこの世界が誕生したその時から存在し続け、レヴァンティンとは方針の違いから自身を「ナノセルロイド」から「クラウドセル」へ進化させ袂を別ち人類の守護の為活動している。正確には汚染獣とはナノセルロイドの下部組織が永い間に変質していったものであるため、ハルペーを汚染獣に分類することは正しくない。
「久しぶり……というには時が経ち過ぎているようにも思うが、久しぶりだな、アイレイン」
落下するアイレインを背中に乗せ降下しながら話しかける。
「そうだな、ハルペー。俺はこの世界全てを見ていたようなものだが直接会うのは違う。そういや昔もこうして降りたな」
かつてもこうしてハルペーの背に乗り、この世界に侵入したイグナシスを追いかけたことを思い出す。
「お前はともかく我が人間達の前に出ると面倒なことになりそうだが」
中身はともかく外見からでは汚染獣と区別がつかない為人類領域には接近してこなかったハルペー、レヴァンティンとの戦いの際にも手を出すことなく外から見ているだけに留めていた。
最もグレンダイン都市内部でのレヴァンティンはもちろんのこと、表層に現れたモノとであってもハルペーが戦いに参加していればグレンダンという都市そのものが消滅していた事は間違いない。
そもそも回復力の異常に高いナノセルロイド同士の戦いを想定しているハルペーの基本戦術は広範囲を高火力で一気に殲滅するというものだ。
少しずつ焼いていったところで回復力を上回るだけの打撃を与えることが困難であり再生が始まる前に焼き尽くす、それがナノセルロイド相手には最も効果がある戦い方だからだ。
ジルドレイドにしろ女王と天剣授受者にしろそこまでの火力を用意出来ない為に、ナノマシンやオーロラ粒子の流入を防ぐという策をとった。
「大丈夫だろう、それにあの犬っころを始末するのにお前の手があった方が早い」
「この終わりの刻に力を惜しむことは出来ない、か。下の者達の理性に期待させてもらうとしよう」
ニーナとクララ、ニルフィリアにサヤが集っている所に向けて大型の汚染獣が接近してくるのを見てニーナとクララが錬金鋼を構える。
だが、攻撃を仕掛ける前に傍に寄って来た念威端子からの声がそれを押し留める。
『隊長待ってください、あれは敵ではありません。ハルペーと名乗りましたがレヴァンティンとは敵対しているものです』
蝶の形をした念威端子から聞こえてきたのはフェリの声。ハルペーとレヴBとは共に戦い、グレンダンまで連れて来てもらった経緯もあり敵ではなくどちらかといえば味方だと認識している。
戦闘態勢を解いた二人の前にハルペーの巨体が舞い降りる。その背中から男が飛び降り四人に向けて歩いてくる。
誰なのか判断がつかない二人と念威越しのフェリを置いてサヤが駆け出す。
男に抱き締めると男もサヤを抱き締め返す。
「アイン、あなたに再び会える時を、あなたの傍でまた眠りにつける日を待っていました」
「俺もだ、お前と会うために永い時を費やしてきたからな。だがお前が眠るにはあれを倒さなければならんな」
抱擁を解くと今度はニルフィリアに向き直る。サヤはアイレインの左側に並んで立つ。
「ニル、お前とも久しぶりになるな」
「女に会うのを我慢しきれなくなって出てくるなんて、情けないったら無いわね。あれほど時間が有ったのにその程度すら我慢できるようになれなかったなんて信じられないわ」
アイレインの周囲を漂う煌きに冷たい一瞥を投げかけ、冷たく返すニルフィリアにもアイレインの顔から微笑が消えることは無い。
「ニルもあれを始末するんだろ?」
「当然よ、あれは私の敵だもの。必ずね」
意志を確認するような会話をすると、最後にニーナとクララに向かう。
「お前が運命の子か。どこかで見たような気もするが……、ああ、あの時か」
「お前……、いやあなたがアイレイン・ガーフィート、武芸者の祖なのか」
一人で何かに納得しているアイレインにニーナがおずおずと問いかける。傍にいたクララは思いがけない内容に驚いている。
「まあ、そういうことになるな。それよりお前の名前は、俺は知らないんだが」
「あ、私はニーナ・アントークと……って何だクララ」
途中で横からクララが腕を引いて中断する。振り向いたニーナにクララが小声で問い詰める。
「いったいどういう事ですか、武芸者の祖って。それに知り合いなんですか」
「私達武芸者の能力はあの人の能力が基になっていて云わばコピーなんだそうだ。会った事は無いと思うんだがな」
ニーナも小声で答えるとアイレインに向き直る。
「それより私はやはり『運命』なのか」
「そうだな、あれを倒す運命の席に座っているのはお前だ。それに奴もお前に倒して貰いたいだろう」
「それで先輩はもう戻れないのか」
「無理だな。この世界……いや、お前やツェルニのために奴自身望んで一体になったんだからな」
それを聞くとニーナは思いつめたような顔で獣へ向けて歩を進めようとする。
が、それを止めたのはまたもクララだ。
「ちょっとニーナ、何する気ですか」
「私が倒さねばならんのだろう、だからだ」
「一人では無理ですって、陛下達だってすぐに来ますから」
「だがこれは私が」
なおも言い張るニーナにクララの怒りが爆発する。
「分からない人ですね、例え運命だからって一人で背負う必要は無いんですよ。あの時だって勝つために私と組んだんじゃないいんですか。それとももう私なんてどうでもいいんですか」
レイフォンと野戦グラウンドで戦ったときの事を喩えとして持ち出す。
レヴァンティンの脅威に打ち勝つため、小隊の違うクララと訓練しレイフォンにも組めば勝てる力を身につけてきた。
思わず言葉に詰まるニーナにクララが更に続ける。
「それにニーナがなんと言ったってみんな勝手に参加するんですから」
「さっき俺は『運命』と言ったがな。お前がここにいるのは『運命』が決めたわけじゃないぞ」
割って入ったアイレインに二人とも怪訝な顔をしてそちらを振り向く。
「あれと戦う奴の席があるのは運命が用意したともいえるが、そこに座ったのはお前の意志だろう。お前に座る資格はあったが座らない事も出来たんだからな。まあお前らがした選択の結果を運命と呼ぶかもしれんがな。いずれにせよ奴は倒す、サヤ頼む」
「分かっています、アイン」
サヤは頷くとどこからか取り出した二丁の銃をアイレインに渡す。
その言葉にニーナはグレンダンでのことを思い出す。
ディック、そしてニルフィリアからこの戦いから降りる選択肢を示され、それを跳ね除けてここまでやってきた。
それ以前にも世界の真実へ続かない道を選ぶことは何度も出来た。
だがニーナは常に自分の意志でこの道を選んできたつもりだ。
『隊長が道を示すのなら私達は付いていくだけです』
『突進するニーナを俺様がフォローしてやらないとな』
念威端子からフェリ、続いてシャーニッドの声がする。
第十七小隊で皆と一緒に、皆で強くなると目標を立ててきた。
一人に、レイフォンだけに任せることはしないと決めてきたことを再び思い出していた。
「そうだった、すまない……いや、ありがとう」
クララに、そして端子の向こうにいるであろう二人に向けて頭を下げる。
「それで戦うにしても急に連携は取れるのか?」
「周りの方達はエルスマウさん達が何とかするでしょうし、リンテンス様や先生達なら合わせる価値があれば合わせてくれます。ニーナなら合わせられますよ。大丈夫、行きましょう」
ニーナの心配を一蹴すると背中を押すように叩く。
アイレインが歩き出すのと同時にハルペーは再び空に舞い上がりニルフィリアも己の闇を深くしていく。
「ところでニーナ、さっきから言ってる先輩って誰のことなんです?」
「私が狼面衆と出会ったときに助けてくれ、雷迅を教えてくれたツェルニの先輩だ」
「えっ、でも雷迅はレイフォンが教えたって聞きましたけど」
「確かにそれも間違いではない。だが雷迅は先輩オリジナルの剄技で先輩が言うには「覚えられるように事象が動く」ということだからな。恐らくだがレイフォンは雷迅を知らなかったと思う。私が雷迅を習得するのに先生役として白羽の矢が立ったのだろう」
「そうですか、まあ私としてはニーナがあれを倒すのに躊躇いが無ければそれでいいんですけどね。もっとも気負い過ぎられても困りますが」
疑問に答えるニーナ。ただそれを聞いたクララはそれほど興味が無いようでニーナを促がして進む。
女王や天剣達は未だグレンダンの上からその様子を見、念威越しに会話を聞いていた。先方での話が終わり、動き出そうとするのに一応は合わせる。
今後もあわせることになるかはその時次第だ。
「クララ、あの子といつの間に仲良くなったのかしら。ま、それはいいとしてそろそろ私達も出るわよ。目標……言うまでも無いけどあのデカブツ、地獄も最終章かしらね」
武芸者の祖だの老成体のようなものが現れたのにも構わず女王が残る天剣に号令を発する。
それにあわせてバーメリン、トロイアット、ハイアが動く。その場から消えたと思うほどの高速で戦場へと向かう。
彼らにとってもそんな事はどうだっていい事だ。戦場においては敵を倒すだけであり、敵でないものは自分達の邪魔にならなければそれでいい。
「おい」
残っていたリンテンスが念威端子に向けて声をかける。
『何でしょうか』
呼ばれて寄って来た蝶型の念威端子の持ち主、エルスマウに告げる。
「周りの奴らに言っておけ、『戦場を汚すな』とな」
言い捨てると後ろで念威で何か揉めている様にも聞こえるが無視して自身も先に行った者を追って飛び出す。鋼糸はグレンダン上からでも届くが近づいた方が強力な技を使いやすいからだ。
後書き
変な所で切ってますがご容赦。
アイレインって眼帯つけたリンテンスですよね。イラスト的に。性格も余り変わらない気もしますが。
レイフォンが出てこないのは嫌いだからじゃないですよ、他のキャラの方が好きなんでそっちを優先(以下略)。
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