トゥーランドット
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第一幕その二
第一幕その二
「父上、リューお久し振りです。まさか再びお会い出来るとは思っておりませんでした」
彼はそう言うと二人を抱き締めた。
「本当に、とくご無事で」
リューはその手の中で涙を流しながら言った。
「ああ、そなたも無事で何よりだ」
彼はそんなリューに対して言葉を返した。
「そんな、勿体のうございます」
リューは彼の手から離れて謙遜して言った。
「いや、そんなことはない。私が父上とこうして再会出来たのへ全てそなたのおかげなのだ。このカラフ、心から礼を言わせてもらうぞ」
「殿下・・・・・・」
リューはそれを聞いて涙で服を濡らした。
「ところで父上、ペルシャの王子が処刑されるようですね」
カラフは処刑場へ向かう民衆を見て言った。
「お主は知っているのか?」
ティムールは息子に対して問うた。
「はい、この街に止まって暫く経ちます故」
カラフは暗い表情で答えた。
「この国の姫は自身の求婚者に謎を出すのです」
「ほう、そして」
ティムールはその話に興味を持った。
「答えられればそれで良し、しかし答えられぬ場合は・・・・・・」
「死か・・・・・・」
ティムールはそれを聞いて思わず呟いた。
「はい。そして今までに何人もの尊い命が散りました」
彼は顔を俯けて言った。
「そうなのか、惨い話よのう」
ティムールもそれを聞き表情を暗くさせた。
「しかしそれでも尚姫を求める者が出て来るのだ?聞くところによるとこの国は男しか国を継げぬというが」
彼は息子に問うた。
「それは姫があまりにも美しいからです。伝え聞くところによると姫はこの世のものとは思えぬ程の美しさだとか」
彼は父に対して答えた。
「湧き上がる心は抑えられぬということは例え命をかけようとも」
「はい。しかし既に多くの者が首を刎ねられました」
「それが城門に刺さっていた首・・・・・・」
リューも暗い顔をして言った。
「そう。答えられなかった者は月の出と共に首を刎ねられあの場所に晒されるのだ」
彼は言った。
「そして今日もまた一人か」
ティムールはうなだれて呟いた。
「はい、気の毒なことですが」
カラフは死にいくペルシャの王子に同情して言った。
「しかしそのお姫様とはそれ程美しいお方なのですか?」
リューが問うた。
「私はそれは知らない。だが絶世の美女だという話だ」
カラフはそう答えた。
「絶世の美女ですか」
彼女はそれを再び聞いて興味を持った。
「陛下、殿下」
そして二人に対して言った。
「もしよろしければそのお姫様を見に行きませんか?」
そして二人にそう提案した。
「あの姫をか」
彼はそれを聞いて言った。
「そうだな・・・・・・」
そして彼は考え込んだ。
「他ならぬそなたの頼みだ。私には異存は無いが」
そう言うと父のほうに顔を向けた。
「父上はよろしいでしょうか?」
そして父に尋ねた。
「わしは構わんぞ」
ティムールはしわがれた声で言った。
「そなた等がそれを願うのならな。そなた達の好きにするがいい」
「わかりました」
二人はそれを聞くと彼に頭を垂れた。
「では行くとしよう」
「はい」
こうして三人は処刑場に向かった。
処刑場には多くの人々が集まっていた。台の上には首切り役人が大きな刀を持って用意していた。
「おい、まだか」
民衆の一人が言った。
「まだだ、月は出ていないぞ」
処刑場の中に警護を務める兵士の一人が言った。
「そうか、そういえばお役人はまだ刀を磨いているな」
みれば首切り役人はその刀を念入りに磨いている。
「しかしあの人も忙しいよな」
民衆の中の誰かが言った。
「ああ、あの刀が乾く日はないんじゃないか」
別の者が言った。
「本人はあまり乗り気じゃないみたいだけれどな」
見ればその表情が暗い。
「そりゃそうさ。誰だってあんな仕事はしたくはない」
そうであった。首切り役人の気は晴れなかった。
「またこうして罪も無い者の首を切るのか」
役人は磨き終えた刀を見てそう呟いた。
「一体こうしたことが何時まで続くんだ」
暗澹たる気持ちだった。だがそれを顔に出すわけにはいかない。
「そろそろ月が出る頃だな」
彼は暗くなった空を見てそう言った。
「銅鑼が鳴れば全ては終わりだ」
見れば刑場の端にある銅鑼の前で銅鑼を叩く兵士も空を見ている。彼もまたその表情は暗い。
「そろそろだぞ」
民衆達も空を見ている。そして言った。
「出るぞ」
城門の上に明るいものが姿を現わしてきた。皆その顔が暗くなる。
「出たぞ・・・・・・」
遂に月が姿を現わした。首切り役人も銅鑼の前の兵士も暗い表情で配置についた。
銅鑼が鳴った。蒼白い月の下その音が刑場に響き渡った。
「来たぞ」
馬に乗った将校を先頭に兵士達の一団がやって来る。それぞれ手に槍や剣を持っている。
その中央に両手を後ろで縛られた若者がいる。浅黒い彫の深い顔をしている。服はペルシャの貴人の服だ。彼は蒼ざめた顔で前を歩いていく。
「まだお若いというのに」
民衆は彼の姿を見て気の毒そうに言った。
「ああ、だが謎を解くことが出来なかったからな」
彼に聞こえないように小声で言う。だがそれはおそらく耳に入っている。
「はじまるのですね」
刑場の中でも特に見通しのいい場所にいたリューは隣にいるカラフに対して言った。
「うむ、あの若者の命がこの血生臭い場所の露となる」
カラフは唇を噛み締めて言った。
「お情はないのですか!?」
リューは問うた。
「無駄だ、姫は氷の様に冷たい心を持っているという。彼の命は今ここで終わる」
「そんな・・・・・・」
リューはその言葉に絶望して言った。
見れば民衆もリューと同じ考えである。
「おい、何とかして恩赦はないものか!?」
誰かが言った。
「そうだ、謎を解けなかったというだけで死刑なんて酷過ぎるぞ!」
別の者が言った。
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