シモン=ボッカネグラ
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プロローグその二
プロローグその二
「マリアが手に入らなくとも?」
パオロはシモンを見て言った。その名を聞いたシモンの顔色が一変した。
「それは・・・・・・」
その名を聞いてシモンの様子が一変した。
「どうなんですか?」
彼はさらに突っ込んできた。シモンはそれに対し狼狽したがすぐに落ち着きを取り戻した。そして彼に対し言った。
「もう終わった事だ今更言っても。しかし御前はマリアについて何か知っているのか?」
「ええ」
パオロはそれに対して答えた。
「あそこにいますよ」
そう言って右手の屋敷を指差した。
「フィエスコの屋敷か・・・・・・。あの男の屋敷か」
彼はその屋敷を見上げて忌々しげに呟いた。
「はい。あの男は娘を閉じ込めているんですよ」
パオロはシモンを煽る様に言った。
「俺と交際し子供までもうけたからか。・・・・・・相変わらず血も涙も無い奴だ」
シモンは知らず知らずのうちにその煽りに乗ってしまった。
「そう思われるでしょう。しかし総督になればすぐにでも助け出せますよ」
「すぐにでも・・・・・・」
シモンは屋敷を見た。夜の街に冷たくそびえ立っている。それはまるで牢獄のようであった。
「どうです、それは最早貴方の一存なのです。総督になるか、ならないかの」
「・・・・・・・・・」
シモンはその言葉に沈黙した。そして逡巡した。
「・・・・・・全ては俺の一存なのだな」
「そうです」
シモンの問いに対して答えた。
「さあ、どうします?」
「それは・・・・・・」
彼が言おうとしたその時だった。左手から多くの人が来る気配がした。
「誰か来たみたいですね。今はまだ見つかるとまずいです。隠れましょう」
「ああ」
シモンは教会の向かい側に去って行った。パオロはフィエスコの屋敷の陰に隠れた。
「ん、あいつか」
見ればピエトロであった。職人や水兵達を連れ何か言っている。
「いいか、明け方ここに来てくれよ」
彼は連れて来た連中に頼む様に言っている。
「成程、早速やっているな。よしよし」
パオロはそれを見ながらほくそ笑んだ。
「で、俺達に頼みって何だ?」
職人のうちの一人がピエトロに尋ねた。
「ああ、悪いが皆明け方にここに来てくれないか」
彼は皆に頼むように言った。
「どうしてだい?」
水兵の一人が尋ねた。
「うん、今度の選挙の事なんだが」
ピエトロは皆に顔を向けて言う。
「ああ。確か今はロレンツィーノが優勢だったな」
「おお、金貸しのな。同じ平民だし」
一人が言った。
「当然だろう?貴族の奴等を総督にするわけにはいかないからな」
皆が言った。ピエトロはそれに対し顔を顰めさせて言った。
「・・・・・・悪い事は言わない、あいつは止めておいたほうがいい」
「どうしてだい?」
皆はそんな彼に尋ねた。
「あいつは貴族と裏で繋がっている。総督になったらあいつ等と結託するぞ」
「本当か!?」
「ああ、それもこのフィエスコの奴とだ」
彼はそう言って右手の屋敷を顎で指し示した。
「よりによってフィエスコの奴とか・・・・・・」
「何て野郎だ」
フィエスコはこのジェノヴァでも有数の権門である。それが為に平民達からは目の敵にされているのだ。
「じゃああいつは止めだ、冗談じゃない。では替わりに誰を立てる」
「一人適任の人物がいるだろう」
ピエトロはニヤリと笑って言った。
「?誰だ?」
一同はそんな彼に尋ねた。
「英雄だ」
「英雄?」
「そうだ、英雄だ」
ピエトロは一同に意味ありげに言った。
「英雄はいいが俺達平民の間にそんな凄いのいるかなあ」
「ああ、それもフィエスコとかを抑えられるような奴だろ。ちょっとやそっとじゃなあ」
一同は首を傾げて話し合った。
「おいおい、いるだろうが一人凄いのが」
ピエトロはそんな一同を笑いながら言った。
「だからそれは誰なんだよ」
「まさかあんたってんじゃないだろうな」
「えっ、俺!?」
ピエトロは自分を指し示されて思わず噴き出した。
「おいおい、いくら俺でも自分が総督に相応しいとは思っていないぜ」
「じゃあ早く言えよ」
「そうだそうだ、勿体ぶらず早く教えろよ」
皆彼を取り囲んで迫る。彼はそれを見てゆっくりと口を開いた。
「シモン=ボッカネグラの旦那だ」
「おっ、あの船長さんか?」
職人の一人がその名を聞いて言った。
「確かにいい船長さんだけどな。強いし優しいし」
水兵の一人が言った。彼は部下の間では評判がいいのだ。
「そうだ、あの人なら適任だろう?」
「確かにな。あの人なら貴族を抑えられる」
一同ピエトロの言葉に頷いた。
「これで俺達の天下だ」
皆ピエトロのその言葉に頷いた。彼等は貴族を激しく憎んでいた。そして自分達が街の権益を独占しようと考えていたのだ。
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