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シモン=ボッカネグラ

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第一幕その八


第一幕その八

「私のか?」
 シモンはその言葉に顔を顰めた。
「そうですよ、ご自身で命令したというのに!」
 ガブリエレは手を掴んでいる群衆から離れ彼を指差して叫んだ。
「何!」 
 それを聞いてシモンもその場にいる議員や群集達も思わず驚きの声をあげた。
「嘘をつけ、総督がその様な事を為されるか!」
 群集の一人が叫んだ。
「そうだ、こいつは自分の罪を総督になすりつけろうとしているんだ!」
 パオロが咄嗟に叫んだ。この際全ての嫌疑をガブリエレに被せて消してしまおうと考えたのだ。
「信じないか、だが私の潔白は神が御覧になっている!」
 そう言うと腰の剣を引き抜いた。
「覚悟しろ、シモン=ボッカネグラ!」
 そう言うとシモンに跳びかかろうとする。だがそれは出来なかった。
「見ろ、人殺しがまた剣を抜いたぞ、今度は総督を殺す為にな!」
 パオロは群集を煽る様に叫んだ。
「そうはさせるか!」
 群集がガブリエレに逆に跳びかかる。
「クッ、何をする!」
 彼はそれを必死に振り払おうとする。だがそれは出来なかった。多勢に無勢で取り押さえられた。
「おのれっ、ここまで来て!」
 取り押さえられながらシモンを決死の形相で睨み付ける。パオロとピエトロはそれを見てにんまりと笑った。シモンは身じろぎもせず彼を見ている。
「さっさと処刑場へ連れて行け!」
 パオロが叫んだ。しかしその時だった。
「待って下さい!」
 会議室に誰かが入って来た。アメーリアである。それを見たパオロとピエトロの顔が真っ青になった。
「アメーリア・・・・・・」
 ガブリエレが彼女の姿を認めてその名を呼んだ。彼女はシモンとガブリエレの間に割って入る。そして恋人を庇う形で言った。
「彼の言った事は本当です。彼は私を助けようとしただけです」
「本当か!?」
 群集も議員達も彼女の言葉に耳を傾ける。パオロとピエトロは群集の中にコソコソと隠れる。
「ですから総督・・・・・・」
 シモンを見る。娘として。
「彼を助けて下さい」
 懇願した。シモンはそれを黙って聞いていた。
「・・・・・・・・・」
 チラリとガブリエレを見る。まだ自分を睨んでいる。だが取り押さえられ剣も奪われている。
「手荒な真似はするな」
 彼を取り押さえている群集達に対して言った。
「もう害は無い。そこまでする事もあるまい」
 群集達はそれに従った。ガブリエレは縛られたがそれだけに留まった。
「ではアメーリア」
 シモンはそれを見届けるとアメーリアに顔を向けて問うた。
「では事情を話してはくれないか。そのさらわれそうになった経緯を」
「はい」
 アメーリアはシモンに一礼して口を開いた。
「あれは心地良い夕方のことでした」
 パオロとピエトロはそれを聞いて身体をさらに奥へ隠そうとする。
「どうしたんですか、お二人共」
 市民の一人がそれに気付いた。
「いや、何も」
 二人はそれを必死に誤魔化す。その間もアメーリアの告発は続く。
「その時刻私はいつも浜辺を散策しているのですがその時三人の暴漢に取り囲まれ小舟に押し込まれたのです」
「それはご災難でしたね」
 貴族出身の議員の一人が言った。彼はガブリエレと親交のある議員である。
「はい。そして私が連れて来られたのはロレンツィーノの邸宅だったのです」
「何とそれでは彼の言った事は正しかったのか」
 皆ガブリエレの方へ顔を向けた。
「そうです。そしてその邸宅にこの方が駆けつけてくれたのです。偶然私がその邸宅に連れ込まれるのを見て」
「それは非常に幸運でしたね」
 その貴族の議員が言った。そうしてガブリエレを擁護しようと話を回そうと仕向ける。
「はい。これも神のご加護とこの方のお力あっての事です」
「では貴方はレディーを救った高潔な方ということになる」
 議員はそう言ってガブリエレを見た。
「その通りです」
 アメーリアもそれに同意した。彼女はさらに言葉を続けた。
「しかしロレンツィーノの後ろには黒幕がいたのです。私はそれを告発する為にここへ来たのです」
「それは誰だ!?」
「まさか・・・・・・」
 群集達の脳裏に先程のガブリエレの言葉が浮かぶ。
「いえ、総督ではありません。総督は私を常に護って下さいます」
 彼女はそれを否定した。シモンはそれに対し目でアメーリアに礼を言った。
「では誰なんだ」
 群集達が少し前に出た。その時パオロとピエトロの姿がアメーリアの目に映った。目が合った。
 それを見たアメーリアの目の色が変わった。パオロとピエトロの顔がさらに青くなった。最早蒼白である。
「その者は今ここにいます」
「えっ!」
 アメーリアの言葉に一同騒然となった。
 
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