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シモン=ボッカネグラ

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第一幕その七


第一幕その七

「良い。私は猛り狂った者達など恐れはせぬ。彼等を説き聞かせ落ち着かせるのが私の仕事だ。さあそれがわかったら早く行くがいい」
「わかりました」
 書記官はそれに従いその場を後にした。
「聞いたな、今の私の言葉を」
 シモンは議員達に向き直って言った。
「はい」
 議員達はそれに対して答えた。
「ならば気を鎮めよ。市民の代表としてな。わかったな」
「はい」
 議員達はそれに従い気を落ち着かせた。
 群集はまだ叫んでいた。だがすぐにそれも止んだ。
「収まったか」
 そして突如叫び声が再び起こった。
「万歳!」
 それはシモンを称える声だった。
「総督万歳!」
 そして彼等は官邸へ入って来た。
 彼等はすぐに会議室へと入って来た。皆平民達である。年寄りもいれば女も子供もいる。その手にはめいめいハンマーやツルハシ等得物を手にしている。彼等は自らの代表である平民出身の議員達の周りに来た。そして貴族出身の議員達を睨んでいる。
「ガブリエレ=アドルノはどうした?」
「こちらに」
 シモンの問いに対して一人の髭を生やした男がガブリエレを引き立てて来た。両手を後ろで縛られている。アメーリアの養育係であるあの老人も一緒だ。
「ム・・・・・・!?」
 シモンはその老人の顔を見て何か思ったようだ。だがすぐにそれは単なる思い過ごしだと考えた。
(あの男は死んだという。ここにいる筈はない)
 そして群集達に対して問うた。
「諸君、一体何をそんなに興奮しているのだ?」
「決まってます、復讐です!」 
 彼等はそう言ってガブリエレと老人を憎悪に満ちた目で睨んだ。
「その二人が何かしたのか?」
「ええ、人殺しですよ、こいつ等はロレンツィーノさんを殺したんです!」
 ロレンツィーノとは平民の実力者である。裕福な商人でパオロやピエトロとも関係が深い。
「おい、やっぱりそうみたいだぞ」
 ピエトロはそれを聞いてパオロに囁いた。
「ああ、かなりまずいな」
 パオロは顔を顰めた。
「これが民衆の声か?まるで血に飢えた野獣ではないか」
 シモンは興奮する民衆に対して言った。
「このジェノヴァに多くの者が法による判決無しで人を殺すという法は無い。アドルノよ、そなたは一体何をしたのだ?」
 シモンは改めてガブリエレに対して問うた。
「彼等の言う通りです。ロレンツィーノを殺しました」
 彼は悪びれもうなだれもせず頭を上げて言った。
「それ見ろ、こいつは罪人だ!」
 民衆達が叫ぶ。
「鎮まれ!」 
 シモンはそんな彼等に対して叫んだ。民衆はその声に沈黙した。
「何故彼を殺したのだ?」
 改めてガブリエレに対して問うた。
「グリマルディ家の娘をさらおうとしたからです」
「何っ!」
 シモンはそれを聞いて狼狽した。
「いや、それは本当か」
 だがそれをすぐに打ち消した。そして再び問うた。
「ええ、本当です。そして死に際にある事を言い残しました」
「ある事!?」
 パオロとピエトロはそれを聞いて顔を蒼ざめさせた。
「どうせ嘘に決まってる」
 民衆の中の何人かが囁いた。だがガブリエレはそれに構わずに言葉を続けた。
「あの男が言いました。ある人物に唆されてやった、とね」
 そう言ってシモンを見た。眼には憎悪の炎が宿っている。
「おい、まずいな」
「ああ、完全にばれている」
 パオロ達は完全に蒼ざめている。そしてヒソヒソと小言で話し合う。
「そしてその男の名は!?」
 シモンは冷静さを装って尋ねた。
「御安心下さい。あの男はそれを言う前に息絶えました」
 口の端を歪めて皮肉っぽく言う。それは明らかな揶揄だった。
「嘘だな」
 シモンはそれに対してすぐに言った。
「本当は誰だか言い残しているな」
「お聞きになりたいですか?」
 ガブリエレはそんな彼を睨みながら言った。
「当然だ。法の下審議する為にもな」
 彼の心には娘を害しようとした者への怒りが隠されていた。だがそれは隠している。
 ガブリエレの心は恋人をさらおうとした者への怒りで燃え盛っていた。それは表に出ていた。
「そうですか、では言いましょう」
 ガブリエレはシモンを見据えて言った。
「おい、何か様子が変だぞ」
 ピエトロがパオロのみ身元で囁いた。
「ああ、一度も俺達を見ないで総督ばかり見ているな」
「ご自分の胸に心当たりはありませんか?」
 ガブリエレはシモンに対して言った。
 
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