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魔弾の射手

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第二幕その四


第二幕その四

「だがいい。ことは俺の望む通りに進んでいる。今のところはな」
 彼はここで腰にある水筒を手に取った。中には酒が入っている。
 それを飲む。そして気を昂ぶらせた。
「だが問題はこれからだ。マックスの奴、果たしてここまで来るか」
 窯の中の火を見る。見れば弱くなっているので薪をくべる。するとその周りに梟やその他の魔性の鳥達がやって来て翼を動かした。それで火が起こった。
「手助けしてくれるか」
 カスパールはそれを見てニヤリと笑った。
「有り難い。どうやら俺は魔物にも助けられているらしい」
 そう言う彼の顔はそこにいる梟や他の鳥達と同じ顔になっていた。それは完全に魔性の者の顔であった。ここで上から何か物音がした。
「ムッ!?」
 それを聴いた彼は上を見上げた。するとそこにはマックスがいた。
「遂に来たか」
 カスパールは彼を見て笑っていた。だがマックスはそれには気付いてはいない。
「地獄の沼を見下ろすようだ」
 マックスはそのカスパールがいる谷を見下ろして呟いた。
「雷の音がして黒い霧と雲が覆っている。月の光すら届いてはいない。まるで魔界だ」
 そう、そこはまさに魔界だったのだ。
「梟が時折姿を見せ赤い木の枝が私を誘うように蠢いている。風に揺られているのだろうか」
 確かに谷の中は二つの流れの風が吹き荒れていた。マックスはそれを見てさらに顔を青くさせた。
「恐ろしい、だが行かなければ」
 それでも行かなければならないのはわかっていた。
「アガーテの為に」
 全ては彼女を手に入れる為に。彼は谷への入口に一歩踏み込んだ。
 彼の心は不安と恐怖に揺れ動いていた。だがカスパールはそんな彼の心を見透かしたうえで笑っていた。
「そうだ、来い」
 彼は言った。
「来て俺の身代わりとなるのだ」
 彼の心にあるのはあくまで身代わりのことであった。マックスをものとしてしか見てはいなかった。
 だがそれはやはり顔には出さない。マックスが側に来るとあえてにこやかな顔を作った。
「よく来てくれた」
「ああ」
 マックスは青い顔をして答えた。
「しかしとんでもないところだな」
「ここのことか」
「ああ。噂には聞いていたが」
 マックスはそう言いながら谷の底を見回した。
「まるで魔界だ。上から見下ろすより余程恐ろしい」
「そうか」
 しかしカスパールはその言葉を笑い飛ばした。
「だが俺はここで御前さんを待っていたのだぞ」
「済まない」
「まあいいさ」
 あえて許した。
「時間がない、早くはじめよう」
「わかった」
 マックスは頷く。それを見届けたカスパールは彼を円陣に誘い込んだ。
「これは」
「見ればわかるだろう」
 カスパールはそう彼に答えた。
「魔法の陣さ」
「それはもしかして」
 一体何に使うのかは彼も知っていた。
「驚く必要はない」
「しかし」
 カスパールに宥められても彼の心は平穏ではいられなかった。
「恐いのか」
「ああ」
 彼はその恐怖心を抑えることができなくなっていた。
「あれを見ろ」
 マックスは森のある場所を指し示した。
「あそこにいるのは母さんだ」
「?俺には見えないが」
「僕には見えるんだ。死んだ時の姿で僕に帰れと言っている」
「馬鹿を言え」
 だがカスパールはそれを否定した。
「御前さんの幻覚だ。怯えているからそんなものを見るんだ」
「いや、違う」
 だが彼はそれを否定した。
「あそこにアガーテが見える。見えないのか!?」
「ああ、見えないな」
 カスパールはそんな彼を一旦突き放した。
「いい加減に落ち着け」
「これが落ち着いていられるか。死人の様に青い顔をして死に装束を着ているのに」
「そりゃそうだろうな」
 カスパールはそれを聞いて独白した。
「明日死ぬのだからな」
 やはりこれはマックスには聞こえなかった。マックスはまだ言う。
「ここは一体何なんだ!?何故僕だけがこんな幻覚を見るんだ」
「それは御前さんが怯えているからだ。さっきも言っただろう」
 やはりカスパールの声は冷たいものであった。
「違う、絶対に違う」
「じゃあそう思っておけ。だが気持ちは落ち着けろ。いいな」
「・・・・・・ああ」
 マックスはそれには同意した。そしてカスパールは彼に酒の入った水筒を差し出した。
「飲め」
「わかった」
 言われるままにその酒を飲んだ。そしてとりあえずは酒の力で気持ちを抑えさせた。
 
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