DQ4TS 導く光の物語(旧題:混沌に導かれし者たち) 五章
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五章 混沌に導かれし者たち
5-11温泉とおねえさんとおにいさんたち
ホフマンを加え、四人になった一行は、月明かりの砂漠を、馬車とともに歩く。
「馬車があるのに、外を歩くってのもな。なんつうか、悔しいぜ」
「魔物が出ますからね。ぼくが十分強ければ、みなさんに中で休んでもらってもいいんですが。すみません」
「あー、そういう期待はしてねえから気にすんな」
「そうですよ。荷物を運べるだけで、ずいぶん助かるんですから。徒歩ではとても、砂漠越えに必要な装備は運べませんからね」
「そう言ってもらえると、助かります。ユウさんは、大丈夫ですか?ひとりくらいなら、休んでもらっても大丈夫ですが」
「大丈夫。わたしは、戦わないと」
「無理ならちゃんと言えよ、嬢ちゃん」
「うん」
「十分休んだとは言えないんですから。本当に、無理はしないでくださいね」
「うん」
話しながら歩く一行に、魔物の群れが近付いてくる。
「出やがったな。今日は嬢ちゃんも疲れてるだろうから、とりあえず吹っ飛ばすぞ。残ったのは、頼むわ」
「足場が悪いのに、無理することもないからね。手早く片付けよう」
「うん、わかった」
「はい!頑張ります!」
ホフマンは鉄の槍とうろこの盾を構え、前に出る。
「技術はないけど、体力はありますから!前衛は、任せてください!」
「おお、頼もしいな」
「僕らは元々、前衛向きじゃないから。助かるね」
「……死なないでね」
「はい!」
ある程度、敵を引き付けたところで、マーニャがイオラを放ち、魔物の群れを半壊させる。
ホフマンを先頭に少女とミネアが続いて突撃し、まだ息のあるものに止めを刺す。
傷を負うこともなく、一行は最初の戦闘を無難に終えた。
「なかなかやるじゃねえか、ホフマン」
「これなら、万一ということもなさそうですね」
「ほとんど、マーニャさんの魔法で片付いてましたから。みなさん、すごいんですね!」
「うん。マーニャとミネアは、すごいの。」
「ユウさんも、すごいですよ!ぼくなんかは技がないですけど、そのぼくから見ても、よく訓練されてるのがわかります!」
「嬢ちゃんは真面目だからな。技がねえってんなら、旅のついでに教えてもらったらどうだ」
マーニャの提案に、ミネアが呟く。
「自分で教える気はないんだね……」
「芸人の剣習ったって仕方ねえだろ」
「ご迷惑でなければ、そうさせてもらおうかな。ユウさん、いいですか?」
「教える……?わたしが……?」
「ご迷惑なら、いいんですが。」
「そうじゃ、ないけど。だって、わたしは弱いのに。」
「ユウさんは、弱くないですよ。目指すものがわからないので、強いと言っていいのかわかりませんが。ぼくからしたら、十分強いです!」
「強い……?わたしが……?」
「ユウ。これも経験だと思って、やってみたらどうですか?人に教えることで、自分が学ぶこともありますよ。いつもの訓練の、ついででいいんですから。」
「経験……。……うん、わかった。旅に出る前に、毎朝早く起きて訓練するんだけど。大丈夫?」
「はい!最近はこもってましたが、元々は早く起きて、宿を手伝ってたんです!朝は強いので、大丈夫です!よろしくお願いします!」
「うん、よろしくね。教えるのは初めてだから、うまくできるかわからないけど。頑張るから。」
やる気と気合いに満ちたホフマンと、真摯に応じる少女の様子に、またミネアが呟く。
「ああ……。本当に、誰かに爪の垢を煎じて飲ませたい……。」
「ぶつぶつ言ってねえで、さっさと行くぞ」
慣れない砂漠に足を取られ、移動に手間取りながらも、繰り返し襲ってくる魔物は問題なく退け、夜が明ける頃には砂漠を抜け、平原に入った。
「ここまで来れば温泉の町、アネイルはもうすぐですね!」
「ずいぶん元気だな、おい……。引き籠ってやがったくせによ……」
「体力はありますから!」
「ユウ、大丈夫ですか?」
「うん。大丈夫」
「嬢ちゃんも、意外と元気だな……」
「鍛え方が違うからね。兄さんだって、踊りで鍛えられてそうなものなのに」
「地味に歩き回るようなのは、性に合わねえんだよ……」
「あ!見えてきましたよ!」
平原を通り抜け、早朝で人影も疎らなアネイルの町に入る。
「なんだか、へんなにおい……」
「硫黄のにおいですね。ユウさんも、温泉は初めてですか?」
「うん。おんせんってなに?」
「温泉というのは」
「おい。そんな話は後にして、とりあえず宿に入ろうぜ」
「そうだね。あそこに見える宿でいいかな?何軒か、あるみたいだけど」
「なんでもいいってか、奥のはずいぶんぼろっちいな。近いし立派だし、手前のでいいだろ」
「そうだね。じゃあ、行こうか」
ホフマンが宿の手続きを買って出て、その間にミネアが少女に説明する。
「温泉というのは、水ではなくお湯が湧き出る泉のことで、そのお湯を使ったお風呂のことでもあります。色々な成分がお湯に溶け込んでいて、身体に良いと言われていますね。さっきホフマンさんが言っていた硫黄というのも、その成分のひとつです」
「沸かさなくても、自然に沸いてる、お風呂?それが、身体にいいの?」
「はい」
「入れるの?」
「もちろん」
「旅に出てから、お風呂のある宿屋さんはなかったから。うれしい」
手続きを終えたホフマンが、戻ってくる。
「お待たせしました!三部屋、取れました!入湯料金は宿代に含まれていて、必要なものは部屋に備えてあるのを持っていけばいいそうです!」
「おお、ご苦労。じゃあ休む前に、早速入るか」
「温泉は、広いの?」
「そうですね。それなりに、広いと思いますよ」
「一緒に入るの?」
「……嬢ちゃんは、別だぞ」
「どうして?」
「……こういうのは、旅に必要な知識に入らねえのかよ」
「……想定、してなかったんじゃないかな」
「……説明、しろよ」
「……」
「……ホフマン!行け」
「ええ!?」
「宿屋の息子だろ!」
「関係ありますかそれ!?」
「なんでもするっつったよな」
「……。……わかりました。……えーと、ユウさん。温泉とか、大きなお風呂で、何人も一緒に入れるときでも、普通は男女は別々になるように、分けてあるんですよ。」
「どうして?」
「よほど小さな子供なら別ですが、普通は、男女が一緒に入るのは、……恥ずかしいと、思うものなんです。」
「……どうして?」
「……もう少し、大人になったら、わかりますよ。」
「そうなの。わからないけど、わかった。じゃあ、わたしはひとりで入るのね。行ってくるね」
鍵を受け取り、部屋に上がって行く少女。
鍵を渡し少女を見送り、がっくりと項垂れるホフマン。
マーニャが、ホフマンの肩を叩く。
「ご苦労」
「……確かに、なんでもするって、言いましたけど!言いましたけどっ!!非道くないですか!?ぼくだって、まだ若いのに!おふたりよりも、若いのに!!」
「損な役回りだな」
「マーニャさんに言われたくないですよ!」
「運命に、導かれし者たちか……。あと五人……。だれか、女性がいないかな……」
「ま、済んだことを、いつまでもごちゃごちゃ言ってねえで。さっさと、行こうぜ」
「うう……。確かにもう、済んだことですけど……」
「将来は、宿を継ぐなりするんだろ?いい経験だったと思って、諦めろ」
「うう……。…………確かに。これを思えば、もう何も怖くないですね!では、行きましょうか!」
「お、開き直ったな」
「さあさあ!行きますよ!」
少女と男性陣は、それぞれ温泉に移動する。
先客の若い女性が、少女に声をかけてくる。
「あら、お嬢ちゃん。ひとりなの?」
「みんなは、男だから。別々なんだって。」
「お父さんか、お兄さんと一緒なのね。」
「……おにいさん、たち?」
「まあ、ご兄弟がたくさんなのね。」
「……?」
「ところで……うふふ、その胸は、お父さんに似たの?」
「……??」
(よく、わからないけど。おとうさんは、本当の親じゃ、ないから)
「たぶん、ちがう」
「あら、お母さんもそうなのね。……でも、まだ若いし。大丈夫よ!これから、これから!元気、出してね!」
「……?」
(本当に、よくわからないけど。励まして、くれてる?)
「ありがとう。頑張る」
「そうそう!こういうのも、努力が結構、大事なんだから!頑張ってね!」
一方、男湯。
「はー、沁みるぜ……。温泉てのは、いいもんだな」
「僕は、このにおいがちょっと苦手かな」
寛ぐ兄弟に、ホフマンが疑問を投げかける。
「ところで、聞いていいのかわかりませんが。ユウさんは、どういう人なんですか?世間知らずというだけでは、ちょっと説明がつかない気がするんですけど。運命がどうとかいうのも」
「うーん。あんま、勝手に言いふらすような話じゃねえんだがな」
「やっぱり、聞いたらまずいですか」
「何も言っておかないのも、かえって良くないですね。実は私たちは、最終的には世界を救うための旅をしているんです」
「そうなんですか!みなさんは、ただ者ではないと思ってました!」
「その鍵になるのが、彼女なんですが。そのために、魔物の目から隠す目的で、世間から隔離されて育ったようで。旅の知識や戦いの技術は、年齢に見合わないほど、あるんですが。それ以外は。」
「ああ……なるほど。それで。」
「でも、その村が魔物に見つかって。」
「!……そ、それで、村は……?」
「残念ながら。助かったのは、彼女ひとりだそうです」
「……そうですか……」
「嬢ちゃんの前で変に落ち込んだり、気い使ったりするんじゃねえぞ」
「……そうですね……そうですね!ぼくが落ち込んでも、仕方ありませんもんね!ここは、明るくいかないと!」
「そうそう。その意気だ」
温泉を出て、宿の部屋に戻る途中、三人を見つけた少女が追いついてくる。
「みんな」
「ユウ。温泉は、どうでしたか?」
「きもちよかった」
「それは、良かったですね」
「うん。……おとうさんに似てるのは、良くないの?」
「女性は、父親に似ると良いと聞いたことがありますし。良くないということは、ないと思いますが。なにか、あったんですか?」
「胸が、おとうさんに似たのかって。温泉で、おねえさんに言われた」
「……」
「わたしのおとうさんは、本当の親じゃないから。たぶん、ちがうって言ったんだけど。そしたら、若いからまだ大丈夫って、言われた。頑張ってって」
「……」
「なにが、大丈夫なの?」
少女から目を逸らし、ミネアはホフマンに話を振る。
「……ホフマンさん。お願いします」
「ミネアさんまで!?」
「ホフマンさんは、知ってるの?」
「え!?えーと……それも、大人になったら!わかりますよ!!」
「でも、頑張らないといけないんだって。なにを、頑張ればいいの?」
「ええっ!?そ、それはひとりで頑張っても仕方ないと言うかって、そうではなくて!大丈夫です!!そのままでも、別に!!」
動揺して口走ったホフマンに、兄弟が疑惑の目を向ける。
「おい」
「ホフマンさん……まさか……」
「ああああ!!違います!!」
「年齢差で言えば、まあアリか」
「それでも、まだ早いだろ」
「だから違いますって!!」
「よく、わからないけど。大丈夫なのね」
「はい……大丈夫、です……」
また項垂れるホフマンに構わず、マーニャが話を変える。
「ところで、このあとだが。まずは、メシだな。温泉でまあまあ疲れも取れたし、メシのあとは町でも回ってみるか?今から寝ちまうと、明日に響きそうだしな」
「それが良さそうだね。ふたりとも、元気そうだし」
「今のでだいぶ、消耗しましたけどね……」
「疲れたの?大丈夫?」
「だ!大丈夫です!!元気ですよ!!では、一旦部屋に戻って荷物を置いて、食堂に集合ですね!!」
「うん、わかった」
宿の食堂で食事を取り、町に出る。
「あんま、観光地って感じでもねえんだな」
「気軽に来られるような立地でもないからね」
歩き出した一行に、ひとりの男が近寄り、気さくに声をかけてくる。
「やあ、こんにちは!この町は、初めてかい?なんなら、案内しようか?」
「あ?まあ、そうだな。せっかくだし、頼むか」
「おい、兄さん」
「こんな片田舎で詐欺ってこともねえだろ。それにいざとなりゃ、吹っ飛ばしゃいいんだからよ」
「いざというときの、相手のほうが心配ってどういうことだよ」
「ははは、ご心配なく。おっしゃる通り、ここは田舎だからね。詐欺なんかやったら、町で生きていけなくなるよ。」
「すみません。なにも疑っているわけでは、なかったのですが」
「町のことは、地元の人に聞くのが一番ですからね!せっかくだから、お願いしませんか?」
「それもそうですね。ユウも、いいですか?」
「うん」
「よーし、じゃあオレについてきてくれ!」
先導して歩き出した男のあとに続き、四人も歩き出す。
「そこに並んでるのが、武器屋と防具屋!装備はここで、調えるといいね。」
「あとで、覗いてみるか」
「そうだね。次は港町に行くから、焦ることもないけど。見るだけでも見ておこう」
「わたし。盾があったら、ほしい」
「だいぶ力もついてきたし、今なら盾も扱えそうですね。探してみましょう」
「この町の品揃えはどうなのか、気になりますね!」
「ここが、道具屋。旅のお土産になるようなものは、置いてないけどね。」
「道具屋は、どこも変わりねえよな。ここは、いいか」
「一応、非常用のキメラの翼を買い足しておこう」
「使ったためしはねえがな」
「ホフマンさんに渡したのと別に、持っておきたいからね」
「なんか、すみません」
「こちらの都合なんですから。気にしないでください」
商店街を過ぎ、墓地の前を通りかかる。
「ここには、この町を救った偉大なる戦士、リバストが眠っているんだ。」
「眠ってるの……?ここで……?」
「死者の眠りのことを言ってるんですよ。ここは、亡くなった方たちのお墓なので、リバストさんも亡くなって、ここに葬られているということです」
「リバスト、さんも。偉大な、戦士なのに。死んじゃったの、ね」
「人間だからな。どんな立派な奴でも、死ぬときゃ死ぬもんだ」
「そう……。そう、よね」
考えに沈む少女に、意を決したようにホフマンが声をかける。
「……ユウさん!」
「……なに?」
「少なくとも、ぼくたちは、今、生きてます!」
「……そうね?」
「えーと、だからその……楽しくいきましょう!」
「……?」
考えからは引き戻されたものの、きょとんとする少女。
マーニャがホフマンに駄目を出す。
「さすがに、話が飛びすぎだろ」
「ああああ、そうですよね!えーと、うーと!」
考えをまとめようと慌てるホフマンに、ミネアが助け船を出す。
「つまりですね、ユウ。いつか起こるといっても、いつ起きるかわからない先のことばかり思い悩んで、せっかく生きている今を暗く過ごすのは、もったいないと。ホフマンさんは、そう言いたいのではないでしょうか」
「そう!そうなんです!さすが、ミネアさん!」
「そう。……そう、かな」
「そうです!」
「……そう。かも、ね」
墓地の近くの、教会に入る。
「そしてここが……。ちょっと、失礼。」
案内していた男が一行を離れ、シスターに声をかける。
「すみません、シスター。旅のお方に、あれを見せてあげたいんだけど。」
「いいでしょう。では、どうぞ、中へ。」
教会の奥の部屋に、通される。
「これが、戦士リバストの着ていたという鎧なんだ。この鎧は、とても不思議な力を秘めているって話だぜ。」
「ずいぶん、華やかな鎧ですね!」
「不思議な力、ねえ。なんか、感じるか?」
「……兄さんは?」
「なら、同じか」
「どうしたの?」
「あとで、説明しますね」
「うん、わかった」
教会を出て、温泉の前を通る。
「そしてここが、アネイル温泉。温泉に浸かれば、旅の疲れも吹っ飛ぶってもんだよ。」
「確かに、効いたな」
「このにおいさえなければ、通いたいくらいだね」
「また、入りたい」
「また、余計な知識を仕込まれてこないでくださいね……」
「よけいな……?」
「なんでもありません!なんでもないですから!!」
温泉を通り過ぎ、宿屋街に戻る。
男が、満面の笑みで振り返る。
「さて、ところであんたたち。今日の宿は、もう決めたかい?もしまだなら、この宿屋が、親切で安くておすすめだよ!それじゃ、オレはここで失礼。」
男は、一軒の宿屋の中に消えた。
「決めてなけりゃあ、そこにしてもいいんだがな。……って、あのボロ宿かよ」
「兄さんは、どうでもいいことには簡単にひっかかるから。先に決めてあって、良かったよ」
「どうでもよけりゃあ、ひっかかったとは言わねえだろ」
「商売には、いろんなやり方があるんですね!勉強になります!」
「宿屋さん、だったの。……わかった。ネネさんの、預かり所みたいなものね。」
「預かり所って、なんですか?」
「エンドールに、あるの。お店のお客さんを呼ぶために、お店で買い物した人の荷物とお金を、ただで預かってくれるの。」
「へえ!世の中には、上手いこと考える人がいるもんですね!お金なら、上手く運用すれば増やせるし、荷物は預けるにも引き取るにも店に行くし。なるほど、なるほど!」
「おやっさんの店は、サービスもいいが、品もいいからな。こんなボロ宿と一緒にしちゃ、おやっさんに悪いぜ」
「そんなに、できる方なんですね!ぜひ一度、お会いしてみたいなあ!」
話しながら歩き、商店街に戻る。
後書き
人と話すこと、交わること。
教わること、教えること。
次回、『5-12教わる、教える』。
7/3(水)午前5:00更新。
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