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Dies irae~Apocalypsis serpens~(旧:影は黄金の腹心で水銀の親友)

作者:BK201
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第三十話 散り逝くものと現れる雷光

 
前書き
書いてて思ったんだけど、やっぱエレ姐様とベアトリスのカップリングもいいよね。って思ってるんだ。 

 
―――教会―――

何かが崩れ去った音が聞こえる。それが一体何なのかはヴィルヘルムの知るところではない。だが、彼にとって一つ確信できたことはこの戦いがどうしようもなく愉しいものだという事だった。

「あー、何だこれは?アレか、まさかあの糞気狂い馬鹿の言ってた腐れ理論ってやつかァ?如何すリャ良いんだよ、最高ォに爽快過ぎて逆に嗤えてくんぞ」

彼は既にメルクリウスの呪を他ならぬアルフレートの干渉、ティベリウスによってシュライバーを殺し解かれている。故に、彼が至る行いはメルクリウスからの干渉を受けぬ限り、ある意味では未知といえた。
勿論、この場が未知に至った理由はそんな些細なことではない。だが、何一つ関係が無いかと問われれば疑念の余地が出てくる程度には関係があると言えた。その原因が何なのかは彼等の知りうることでは無いが。

「クハハハッ、逝けや、ヴァルハラァァ―――!!」

「ッ!不味ッ―――!!」

ともかく、遊佐司狼等にとってデジャブが消え未知を得たことは喜ばしいことではある。が、今の状況で楽観視出来ないものがある事も事実であった。
既知を知る故に回避できた死。それを失えば当然、死なないという理不尽な不滅性は失われる。
当然、ヴィルヘルムはそれらの出来事を知らない。知ることなど出来るはずもない。それを元々信じていないということもあるし、知ろうと考えることすらない。ヴィルヘルムに取ってそれは如何でも良いことであり、今現在、彼が欲しているのはこの闘争の決着のみであるといえる。

「良いぜェ、もっと俺に見せろや。何か有んだろ、考えて来たんだろ?俺を絶頂させろやァッ―――!!」

無機物すら砂のようになり始め、溶け出していく中、司狼達は寧ろ笑っていた。

「ハッ、ヤロウ…いつまでも吼えれると思うんじゃねえぞォ!」

ヴィルヘルムは先程の司狼の攻撃を受けても殆ど致命傷を負わなかった。魂の総量が増え、身体能力の強化と共に感覚が鋭くなったのが原因である。
つまり、司狼達の攻撃は不意打ちですら余程の策でなければ通用しないということだった。

《で、如何するわけ。アンタ達なんか策あるの?》

「策ねぇ?月を壊すとか如何よ?」

「如何って、ドヤ顔で何言ってんだよ。んなこと出来たら苦労しねぇって」

司狼もティトゥスも吸精を喰らいながら戦い続け、疲労感と共に傷も増え続ける。ジリ貧だとは分かってても反撃の機会すら徐々に減り始め、追い詰められる。
そして、最も早く膝をついたのはティトゥスだった。失っていた左腕とこれまでの無茶の連続によってとうとう力尽き始めていた。

「ッ…まだ終わるわけには往かないよね。こんなに満ち足りてる戦い何だからさ」

己の限界に至ろうとも強者との戦いに勝つために抗うティトゥス。だが、二対一で互角の体裁を為していた戦いは一時であろうとも一人が動かなくなることによって崩れ始める。

「ハッ、諦めろや。テメエ等の負けだ」

「グッ!?」

今まで自分にとって有利な距離を保ち続けてきた司狼だが、ティトゥスとの連携が取れなくなり接近を許してしまう。近接戦で喰らわせた鋼鉄(Eiserne)の処女(Jungfrau)はヴィルヘルムにとって牽制に成り得ない。その程度の事で下がるような臆病者では無いのだから。
頭を潰さんとしたヴィルヘルムの腕を身を捻って躱し、お返しとばかりに逆立ちしながら放った司狼の蹴りは掴まれ、逆に吹き飛ばされる。
そのまま教会に激突しる司狼。必死に痛みを堪え立ち上がるがティトゥスも含め、既に満身創痍、襤褸雑巾のような状態だった。

「ああ、今度こそこれで仕舞い見てえだな。ホントによう、テメエ等との戦いは満足いくもんだったぜ。あの狂犬野郎との戦いにも劣らねえよ。名残惜しいがまあこれでおさらばだ。死にな」

そしてその腕は司狼を貫かんと動き―――――――



******



俺は膝を着いてから数瞬程だが自分の意識を失っていることに気付いた。それでも銃を持ち、立っていたのは長いこと戦場を駆けた本能が勝手に動いたのだろうと判断する。

「ッ…まだ終わるわけには往かないよね。こんなに満ち足りてる戦い何だからさ」

体の自由は利かないが、これまでもそれ以上に危険だった状態でいた事が過去に何度かある俺にとっては今更のことだった。そう思うと同時に、司狼が吹き飛ばされるのが目に映る。
ヴィルヘルムが何か言っているが耳が遠く、よく聞き取れなかった。尤も口元の動きから充足と名残惜しさを感じているのだろうと予想出来たけど。
視界にはゆっくりと、だが現実にはとても速くヴィルヘルムの腕が司狼を貫こうとしているのが見えた。そして、

「――――ッ…ガハッッ……」

気付けば俺は無意識に司狼の前に立ち、『物質生成(Die Generation des Materials)』で造られた歪な丸い物体を持ちながら心臓を貫かれていた。

「テメエ、まだ動けたのか?まあいい、そのまま死ねや」

心臓を貫いた張本人であるヴィルヘルムがそう呟く。確かに俺自身ですら今の状態で先程までいた位置から動けるとは思っていなかった。だが、

「カフッ……どうせなら一緒に死になよ」

「アァ?」

今が良いなら未来のことなんか如何でもいい。と常々思っている俺だが、この先の司狼や櫻井、藤井達の未来が良いものだったら良いのにと柄にもなく考えていた自分に驚く。俺は彼らの輪から一歩引いて見ていただけだったけど、予想以上にそれは居心地の良いものだと思ってたらしい。
そしてこちらは非常にらしいと思うが今を満ち足りる人生にするために自滅覚悟でヴィルヘルムを道連れにしようとする自分が居た。

「Auf Wiederseh´n. とは言わないよ。どうせ行き先はお互いに地獄だろうしね」

ピン、とえらく甲高い音がなる。それが俺が手に持っていた丸い物体で有る事に気付いたヴィルヘルムはそれを見て驚愕していた。

「テメェッ!?」

持っていたのは特殊な爆弾。唯の爆弾とはわけが違う。本来の手榴弾は火力そのものよりも爆発した際の金属片による負傷が目的なのだ。
だがこれは火薬の量そのものが桁違いあり、火力はそのあたりに手榴弾などに比べても圧倒的な代物。ついでにいうなら俺の込めれる限りのありったけの魂を注ぎ込んだ特注品。生前、白き狂獣と戦ったときに最後に使った相打ち用の兵器。俺の手持ちの最凶の武器。

(ドライ)(ツヴァイ)(アイン)(ヌル)

カウントダウンを唱え、それが零となると同時に目を覆い尽くすような熱量を持って爆発する。痛みは無い。そんな感覚はとっくの昔に麻痺してしまったのだろう。焦っている様子を見せていたヴィルヘルムの顔を見て笑ってやった。まあ、どうせ最後に見るなら美少女とかの顔の方が良いなと思ったけど。
そして、ふと思う。今しか見ず未来も過去も省みないような俺が未来を何度か考え、挙げ句、二度目の生を受け入れたのは、もしかしたらアイツ等の為だったのではないかと。
だったらまだ俺にも人間らしい友を思う心とか有ったのかなって思えて……それが何となく心地良いような気がして―――――――――――――――



******



爆発、轟音、目の前を駆ける熱量はとても目を開けていられるようなものではなかったが、それでもオレは目の前の光景に目をそらす訳にはいかなかった。何を思ってなどとは言わないし、如何してなんて詰らないことも尋ねはしない。
ただ、アイツが命散らせてでも創った最大にして最後の一筋の勝算。それを無駄にする気も無為にするつもりも無かった。

「エリーッ!!」

『わかってるっての!』

恵梨依は自身の姿を形成し、オレと背中合わせで銃を構える。コルト・キングコブラとデザートイーグルを互いに構え、いつでも共に引き金が引ける状態だった。

「オオオオオオオォォォォォォォッッッッ――――!!!この畜生がァァァァッッ!!」

「往生際悪いぜ。潔く、さっさと地獄(ヴァルハラ)に落ちるんだな」

『だよねぇ、しつこい男は嫌われちゃうわよ』

体中が焼け燃えながらもそれを振り払い目の前の吸血鬼は倒れることをよしとしない。

「誰がァ、死ぬかッ!俺は死なねえぞ。夜の吸血鬼は不死身なんだよォ!!」

咆哮を上げながらオレ達を見据えるヴィルヘルム。全身は焼け爛れ、一見その体に無事な所など無いように見える。だがこれで五分。オレと恵梨依の二人で今の奴と同格なのだ。撃ち斃すの先か、貫かれるのが先か。どちらが勝つのかは分からず天秤の針は揺れ続ける。

「俺に、勝てるのは………『あの人』だけだアアァァァァ―――――――――――――――!!!」

「蓮以外に………俺が負けっかよォォ――――――――――!!!!」

放たれる二つの銃弾。それと同時に飛び出したヴィルヘルム。二つの凶弾はヴィルヘルムを穿ち、血飛沫を飛ばす。確実に致命傷といえるそれ。だが、

(勢いが、止まらねぇッ!?)

決して軽視出来ない、どころか致命的な傷を前に止まることなく、寧ろ勢いを加速させる。

―――敗北―――

脳裏に浮かぶその言葉、否定できる材料が見つからず。ほんの一瞬、間に合わない。後一歩、いや半歩という僅かな差で届かない。走馬灯なんて馬鹿げたものは見えず、目に映るのは腕を伸ばし勝利を確信している白皙の魔人だけ。諦めなどない。しかし、勝てる要素が存在しない。
そんな中で俺は完全に既知《とき》が止まるのを見た。



******


―――諏訪原大橋―――

現れたキルヒアイゼンは螢に近づいて抱きしめる。それを邪魔立てするほどカリグラも無粋ではなかった。尤もザミエルがそれを警戒していたことも理由ではあるが。

「ベアトリス……」

「久しぶり、螢。ありがとう」

それだけの短い会話とも言えぬような言葉。だが、それでも彼女達にとってはそれだけで十分だった。抱きしめるのを止め、離れると同時に声が掛かる。

「久しいな、キルヒアイゼン」

「ヴィッテンブルグ、少佐……!」

「ああ、やはり違うよ。そこの小娘に僅かにでも幻想を懐いた自分を責めたいな。貴様はそうでなくてはならん。六十年ぶりだ。積もる話も数多あろう」

「私は……」

「ああ、悪くない。よく戻ってきた嬉しいぞ。
アレの茶番に乗ってやった甲斐もある。褒美を受け取るがいい」

瞬間、鋼鉄の沸点すら越える灼熱がベアトリスを飲み込み、橋は溶け、共に別の戦場へと移す。

「何人たりとも邪魔はさせん。貴様と私と二人だけのあの頃へ―――還り、共に語らおう。待ち望んだぞ、この時を」

「私は、私も……あなたを救います、ヴィッテンブルグ少佐!剣も誇りも、人であることも棄てたあなたに―――私は絶対負けたりしない!!」

「ふふ、ふははははははははははははははは――――――――抜かせ小娘がァッ!!」

(凛冽で、清冽で、どこまでも青臭い愚かな、気高き百合のような戦乙女よ。やはり貴様は、未来永劫私のものだ)



******



「ベアトリス!!」

業火に押し潰されたキルヒアイゼンを目の当たりにし、螢は叫ぶ。橋は中央から完全に溶け落ち崩れ始めていた。そしてエレオノーレの炎が海にぶつかり水蒸気爆発を起こす。爆発に吹き飛ばされ、螢は公園側へ、ベアトリスは遊園地側へとそれぞれ分断されたことを理解する。

「他人を気にする暇がアンタにあるのか?」

「―――ッ!」

飛び跳ねる様にその場から離れると同時に、先程までいた場所の地面が砕かれる。そこに立っていたのは一族の剣を奪った張本人であるカリグラ。別に剣自体を奪ったことは如何でも良い。結果的にはだがキルヒアイゼンが蘇り、螢自身は次代の贄として選ばれなくなったのだ。寧ろ感謝気持ちすら芽生え、芽生え……

「芽生える訳、あるかッ!!」

兄の事は既に諦めた。だが、だからどうした。それでもほんの僅かにでも救える可能性が有ったかも知れないのにと。そうじゃなくても兄との数少ない繋がりを奪ったと、そう思うと怒りが込み上げてくる。

「邪魔立てするというなら、貴方を斃して向こうまで行きます」

「それで退くとでも?」

いいや、寧ろ退いてもらっては困る。八つ当たりに近い感情もある。自分じゃ役不足だと言われてしまったようでちょっとだけベアトリスにジェラシーを感じたりもする。だが、

「いいえ、貴方は此処で消えてもらいます」

「逆だ、消えるのはお前だよ。そしてアイツ等も俺の糧とする。最後にはラインハルトだって殺す。俺は世界の頂点に立つんだ」

こういうのを蛮勇っていうんだろう。でも、似たようなことをしている馬鹿みたいな彼とは似ても似つかない。目の前にいるのは無謀で彼がそうじゃないって言うわけじゃないけど、それでも違うと、そう思いながら螢は剣を構える。

「俺の糧となるが良い」

「いいえ、負けるのは貴方の方よ」



******



―――遊園地―――

「今も昔も変わらんな」

「何がです?私の態度がですか?それともあなた自身のことですか?」

「貴様の態度も含めた阿呆共のことだ。クリストフが自虐し、ブレンナーが目を逸らし、ナウヨックスが女々しく、貴様はふらふらとうろつくばかり。そればかりか最後に私の手を煩わせるところまで変わらんときた。まったく―――」

間を置き、エレオノーレは笑う。楽しくて堪らないといった風に、何よりも謳歌していると言わんばかりに。

「戯けが」

「少佐の方こそ、以外に面倒見がいいところは変わってませんね。どうせ私を斃した後はナウヨックスさんの尻拭いもするのでしょう?」

「あの程度の雑事であれば尻拭いと言うほどまでに手間は掛からんだろうさ」

カリグラの事を暗に示すベアトリス。それに対して明確な肯定も否定も示さないが、苦笑しながら認めはした。

「少佐はそういう目に見えない優しさがあると思いますよ。何だかんだ言いつつも私達とあの子を離れさしたことも含めて」

「そう思うのは貴様の勝手だ。私はただ貴様との決闘に横槍を入れられたくなかっただけだ」

「そういうことにしておきますよ。まあ、老婆心という単語もなんだか嫌なものですね。ずっと若くいられるのが、結構好きではあったんですけど。後は若い子達に任せます。元々人の世話を焼く性分でもないし」

自嘲気味に微笑みながら剣を構えるベアトリス。剣をかまえる理由は実に自分勝手で個人的な用件に過ぎない。

「そもそも私は、追いかける側の人間ですから」

命懸けで、弾雨の下を、狂気の嵐を、怒号と騒乱渦巻く激動の時代を追いかけ続けた。

(怖かったし辛かったし腹が立ったし悲しかった。でも今の今までなおも挫けずに走り続けたのは―――)

「あなたがいたからです。ヴィッテンブルグ少佐」

士官学校を出たばかりの小娘に過ぎなかったあの頃から。

「私には敬愛する人がいます。その人はちょっと恐くて、かなり傲慢で信じられないくらいの理想主義者で。
付き合わされる部下としては、堪ったものじゃありませんよ。その人は自分に出来ること、やれることを、周りもやって当然だと思ってます。そしてまた困ったことに、かなり有能だから性質が悪い。
お陰で馬鹿とか阿呆とか鈍間とか、散々言われて怒られて」

(小突かれ、蹴られ、叩かれて、そしてときには待ってくれて……)

「追いかけて追いかけて追いかけて追いかけて――――――」

少女はまるで恋する乙女のように付き続けて、理想に達したときに見せてくれる景色はどんなものなのかと思い描いて、必死に追いかけ続けた。

「それなのに……行き着く果ての楽園(ヴァルハラ)は、こんな所なのですかッ!!」

剣先から雷光が迸る。それを目にしながらエレオノーレが浮かべる表情は失笑であった。

「嘆かわしいですよ、少佐」

あなたの描いた理想はこんなものだったのかと。嘆くように呟くベアトリス。それに対するエレオノーレの解は、

「くだらん」

その一言に全てが集約されていた。

「口上はそれまでか?ならば来るがいい。“私 に 抜 か せ れ ば 貴 様 は 終 わ る ぞ ”」

その言葉が開戦の狼煙だった。阿吽の呼吸ともいえる両者の発端。言葉と同時に迸る稲妻。
迅雷一閃―――これが両者の決闘の幕開けだった。 
 

 
後書き
よし、死亡フラグ回収!残っているのはあと一つ。 
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