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Dies irae~Apocalypsis serpens~(旧:影は黄金の腹心で水銀の親友)

作者:BK201
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第二十九話 流れ出す前兆、軍靴の灯火

 
前書き
突然だけど皆さんがDiesで好きな女性って誰なんですかね?ちなみに俺はベア子です。 

 

―――諏訪原タワー付近―――

「他力など当てにせん。俺は二度と蘇りたいとも思わない。であれば、この戦いを最後に幕を引くと、強く渇望するだけだ。
ハイドリヒが本当に俺を解放するかは、お前を殺して見なければ分からんが……少なくともお前がハイドリヒを斃すよりは、確率的にありえよう」

直接意識に語りかけてくるパシアスと目の前の敵マキナ。二人の言葉は俺を驚愕させるに値するものばかりだった。
蠱毒の兄弟、既知の感覚、非望の恋慕、共に駆けた戦友……次々と頭に思い浮かべては否定と肯定を繰り返す思考の煩雑。俺は一体何を感じているというのだ?

『貴方のその違和感は正しいものよ。貴方はそれを知っていると同時に経験した事実ではないということ。だから貴方はその経験をなぞるように模倣している』

なんだそれは。だとしたらそれはまるで俺という存在の根底は全くの別人(・・・・・)だということに――――――

「解せんな、如何いうことだ?」

マキナがそう呟き拳を振り下ろす。それをギリギリで躱した俺はそのまま半回転するように蹴りを入れ、その反動で距離を取る。奴が俺の一挙一動を理解しているのと同様に俺自身も感覚的に奴の動きを理解できていた。

「何がだ?」

俺はそれが何に対していっているのか全く検討も付かない。いや付きたくないだけなのかもしれないが。

「俺とお前はある日、何処とも知れぬ戦場で共に斃れ、ハイドリヒの城で目覚め殺しあった戦奴だ。だからこそ俺達兄弟は互いに動きを理解し、全く同じ戦いを見せるはずだ。だが今のお前の動きに俺は違和感を感じた。お前のその動きは俺の予想していたものと違うと」

何だと?俺はそんなものを全く感じずにいた。今も鏡合わせのように俺達は戦っているはずだ。現に奴が今、目の前で振り下ろしている左腕を俺が躱し、こいつは下から右腕を振り上げる気でいる。それすら避けたところで奴は俺の軸足を脚で捕る気でいることを理解した。
だからこそ俺は半歩分多くそれを回避する。奴もそれくらい予測できるはずだと俺はそう感じていた。

「何?」

そう思っていたにも関わらず、こいつは俺がそうやって躱したことに驚愕をあらわにする。だがその隙は見逃すほど小さいものではない。

「つ、オオオォォォォ―――!!」

絶好の反撃の機会。それは長引いていた闘争の中で漸く出来た致命的な隙だった。首を断つ一筋。奴は俺のこの反撃を対処することが出来ない。だからこそ違和感が俺にも募った。

―――都合が良すぎる。

これがカール・クラフトの望んだ結末にしては余りに…余りにも可笑しい。何故なら俺はこんな結末を知らない(・・・・・・・・・・)

悪寒が走る。己の足元がぐらつく様な感覚。今決着を尽ければ、俺は確実に堕ちる!
だがもう間に合わない。既に俺は振り下ろすこの一撃を止めることなど出来ない。だから、

「マリィ―――ッ!!」

瞬間、絡みついた泥を払い落としたかのような感覚を感じた。マリィが咄嗟に俺の言葉を聞き入れたんだろう。断頭の刃はギリギリでマキナを避けきった。

『もう少しだったのに、何で外したの?』

「やっぱりアンタ達が仕組んでたってことなのか」

「あら、もうばれちゃったの?あと少しだったのに、残念ね」

そう言いながら俺の前に現れたのは先程から語りかけていた赤髪の少女にすら見える顔立ちをしているパシアスだった。

「貴様は……アルフレートの傀儡が今更何のようだ」

距離を置いたマキナが体勢を立て直しながらそう呟く。その言葉には怒りが立ち込めており、凡そ感情を顕にしないであろう彼にとっては驚くべきことだと感じる。

「その彼の最後の命なの。だから貴方には死んでもらわないといけなかったんだけどね。勘のいい彼は私に先導されていることに気付いたみたいだけどね」

「先導……だと?」

「正確には意図的に貴方の意識をずらしたというべきね。特に貴方みたいな人器融合型は直情的だからやり易いもの。優れた鑑定士は優れた贋作家になれる様に、本当の美食家は生き物のどの部分が美味しくて、どう調理すればいいのかを知っている。つまり他者を食す私は他者を調理することも出来るのという事よ」

意識をずらす、それはつまり奴は俺の意思すらも自由に出来るということだ。不味い、こいつは危険だ。そう奴を断とうと思い構えた瞬間、黒い戦奴はパシアスに殴りかかった。

「貴様の目的が何であろうと構いはせん。だが、俺とこいつの決闘を邪魔だてしようとした事だけは許さん」

「フフ、邪魔立てねぇ?私が介在したことで負けそうになったから文句でも言いたいって訳?」

しかし、マキナのその拳はパシアスに避けられ、その横の地面に打ち付けられる。

「違う。奴との勝敗そのものはここでは重要ではない。俺達の聖戦に貴様のような何一つ関係ない人間が紛れ込むことが、この戦いを侮辱することになるというだけだ」

そう言って再度振りかぶるマキナ。だが彼女はそれを先と同じように躱し、それどころか逆に影を解き放った。

「つーかまえた、っと。それにしても何一つ関係ないなんて大きくでたわね」

マキナは立ち止まり、いや立ち止まされていた。アレはおそらくルサルカの創造の一端なのだろう。影に捕まったものを動けなくする。それ自体は前に戦った時点で気付いてはいた。

「事実だ。貴様は俺達の蟲毒を知らん」

「まあ、確かにあなた達の城での殺し合いはしらないわ。でもあなた達の生きてきた世界はそれだけではないでしょう?」

問いかけるようにというより、試すかのように声を掛けるパシアス。俺はそれを聞いて何かが可笑しいと感じ始めていた。

「そう。貴方も彼もそして私自身も忘れてしまったその片鱗。それが此処に来て共鳴しあうように響いてるのよ」

―――■■■ス・■■ヒ■■■―――

「ッ!!」

何だ、俺はどうしたって言うんだ。このノイズは一体……?

―――■ハエ■・■■■ト■■―――

「これは……」

誰かの名前か?でも一体誰の……俺は知らない。だったら何でこんな……

―――ア■■・■ュヴ■■ゲ■■―――

パシアスとマキナが話し合う中で俺は一人頭に流れ続けるこの名前や記憶(ノイズ)に侵蝕される。それから少しでも逃れようと俺はガムシャラに思考を反芻し続ける。

「マリィ……」

恐怖に震える。自分が自分で無くなる感覚。俺はアイツじゃないと否定するのにそれに飲まれてしまいそうになる恐怖。このままじゃ俺が消えてしまうんじゃないかと感じてしまい、縋りつくように俺はマリィに声を掛けた。

「大丈夫」

マリィのその声がやさしく響き、俺を安らげる。

「蓮はきっといなくならない。だからその声を聞いてあげて。蓮が私にそうしたように」

マリィは大丈夫だって言ってくれる。だけど、それでも俺がいなくなってしまうかもしれない不安はぬぐえない。
俺は怖いよ。苦しいよ。
痛いのなんか平気だし、死ぬのだって怖くない。
だけど俺は、ただマリィ―――

「忘れたくないッ」

君の事を忘れ、その手を離してしまうかもしれないことが、何よりも嫌で――――――

「だったら……私があなたに貰ったもので皆を包むよ」

その言葉を聞いて俺の恐怖が消えていくのを感じる。

「だから、勝って。それで思い出させてあげよう」

その声は何処までも透き通っており、宝石のように輝いていて―――

「わたしがみんなを抱きしめるから」

それはなんてやさしくて、なんて綺麗な宝物。無くしちゃいけない、日常の海にある宝石の欠片。

「わたしがいなくなることなんて、ないと信じて」

そして世界は無限に広がる。



******



―――諏訪原大橋―――

櫻井螢とエレオノーレによる互いの一撃(・・・・・)は予想通りの決着となった。

「クッ…痛ッゥ……」

櫻井螢は自身の持ちうる力を全力で正面への敵へと突貫した。一方でエレオノーレはその攻撃を完全に届かせない消し去る程の砲撃を放った。結果は相殺。だがこの一撃での敗者は螢の方であったといえる。
砲撃での一撃によってエレオノーレに失うものなど精々その弾薬とそれに込めた魔力ぐらいである。一方で螢は己の身で突貫した以上、相殺したところでその衝撃を受け止めることとなるのだ。例えるなら同じ武器をもつ戦車と歩兵が戦うようなもの。威力が同じであってもぶつかれば被害は確実に後者の方が上なのだ。さらにいうなら螢は同じ威力を得る為に他を犠牲にしている。砲を前には心許ない甲冑と頼りない剣。紙にも等しい鎧と相手に届く武器。
結果、螢は前者の防御を捨て、少しでも勝つ可能性の高い後者を取った。そして、螢はその上で敗北しただけの話。

「貴様ッ……」

だがしかし、あくまでも予想通りなのは互いの一撃に関してのみ。この場で起きた出来事はこの場にいた二人にとって明らかに予想外だといえる状態だった。

「クク、反らされたか」

両者の決闘に無粋なまでに乱入してきた相手。それは黒く染まった大剣を片手に持つカリグラだった。

「惜しい、実に惜しいな。
今の絶好の機会を俺は逃してしまうなんて……」

今まで彼等の決闘を影で見て、この一撃に乱入してきた人物の正体はカリグラだった。狙いすましたタイミングは両者の溜めの一撃を放ったその瞬間。
そして、彼が機会を伺っていた理由はその剣を持ってして櫻井の唯一の血筋である螢を取り込もうとした為だ。
どれ程、極めた人間であろうと溜めの一撃、それを放った直後は隙を見せる。その一瞬を狙ったカリグラが螢を殺すことに失敗した理由は皮肉にも螢と相対していたエレオノーレであり、螢が砲撃に焼き尽くされなかったのもまた皮肉なことにカリグラのせいであった。
エレオノーレはカリグラの介入を直前で気付き、砲撃を無理矢理、二者に狙いを定めるようにしたのだ。その結果としてそれはカリグラの剣を反らすことになり、螢はエレオノーレの砲の直撃を受けることが無かった。

「ナウヨックスは飼い犬にすら手を噛まれたか。まあそんなことは如何でもいい。貴様、カリグラといったな―――失せろ」

そう言った直後、放たれる砲撃。エレオノーレはカリグラに対する興味など全くといっていい程持ち得ない。だから、そこに容赦などというものは当然のごとく存在しなかった。だが、

「う、オォォオラァァアァァ!!」

その砲撃をカリグラは正面から叩き返した。

「…何?」

その光景を目の当たりにし、流石にザミエルも驚愕を顕にする。ザミエルの今の砲撃は平団員では受け止めることの出来ないものだ。少なくとも今起き上がれていない螢では防ぎようの無いものだっただろう。
当然、無傷とは行かない。叩き返した剣を持つ両腕は焼け爛れており、その余波も防ぎきれなかった為か所々に火傷を負っていた。それでも彼はザミエルに対して挑むことの出来る土俵にいることは事実だった。

「カハハハッ!俺はアルフレートの聖遺物を奪って糧にしたんだよ。その分の魂は俺が奪って強化されてるってわけだ。まあ、アンタにはまだ届かない。だからコイツにアレを取り込ませてやろうって思ったんだよ」

そう言って黒円卓の聖槍を見せ、螢の方へと首を向けるカリグラ。それが癪に触ったのかエレオノーレは苛立ちの様子を深める。

「そうか。それで…貴様の言い分はそれだけか?」

驚愕があろうともエレオノーレにとってそれは地を這う虫が跳び跳ねたことに驚く程度のものであり、それが例えどれ程のものであったとしても大した意味をなさない。芋虫が蝶や蛾になった所で人がそれに対して脅威を感じないのと同じことだ。

「俺はこのヴェヴェルスブルグは随分便利なモノだと思う」

突然、話題を変えるカリグラ。何時に無く上機嫌な為か普段の言葉少なさに比べ、饒舌であった。

「確かアンタがコイツの初代に造る様に命じたんだろ。正直ありがたかったよ。これの性質は俺にとって非常に有用だ。似通ってるともいえる。俺の能力もコイツの能力も本質は奪うことだ」

礼すら述べるカリグラだがエレオノーレの怒りはその溜飲を下げたわけではない。苛立ちを込めながらも先の砲撃を防いだことを評価したのかカリグラに尋ねる。

「でだ、その程度の些事で私の邪魔をしたというのか」

ザミエルからしてみればどのような理由があろうとも自らの攻撃を邪魔立てされたことは許せるものではないのだ。

「ああ、その通りだ。俺は高みへと至りたいんだよ。アンタもアイツを取り込んだら仕留めてやるよ」

「よく言った。いいだろう、貴様から始末してやる」

そう言って砲を向けるエレオノーレ。だがカリグラは目の前の赤の砲兵を止める策を用意していた。

「知っているか?コイツは共鳴してるんだよ。なくした贄を取り返したいんだろうな」

そう言った瞬間、螢の右手に握っていた軍刀が黒円卓の(ヴェヴェルスブルグ)聖槍(・ロンギヌス)に反応していた。それを見てザミエルは攻撃を行うことを躊躇う。或いはカリグラが行おうとしていることは自分にとって利になる事ではないのかと思い。

「これは(ペルソナ)だった。それをどうやって創り上げたかは知らない。だが、今持つ奴の剣を再び取り込めばそれは鞘ではない、ある種の一つの剣として完成する。
そして今、世界は揺らいでいる。この状況でこれを利用しない手立てはないだろう」

歩を進め螢に近づくカリグラ。必死に体に鞭を打ちながら立とうとする螢。

「起きなければそのまま取り込むだけだ。目覚めなければそのまま壊すだけだ。だからそこまで必死に立ち上がらなくともいいぞ」

「まだ…だッ……」

カリグラの挑発に対して剣で支えながらも体を起こし、その身を燃やそうとする。

「此処に来てなお、戦乙女(ヴァルキュリア)は目覚ないか?お前だって界の揺らぎは認知しているだろう」

振りかぶり腐毒を撒き散らしながら螢を切り殺そうとしたその時、

『利用されるのは癪ですけど、そう思い通りにはなりませんからね』

螢は驚愕を顕にし、ザミエルは歓喜に奮え、カリグラは策が成った事に顔を綻ばせた。

「ハッハハ、ハハハハ―――!!さあ戦争を再開しようじゃないか!!」

雷鳴が轟く。魂を形成し、目の前に現れる金髪碧眼の一人の女性。蒼く、どこまでも澄み切ったその相手にカリグラは剣を再び構えなおす。
カリグラにとって確証などありはしなかった。彼女がこの場に現れる可能性など一割にも満たないであろうことすら理解していた。ラインハルトの顕現による揺らぎなど彼には見極めれることは無い。
だが、彼はあらゆる推測、予想を無視してでも確信していた。奪い去ったアルフレートの魂の記憶と自らが僅かな時間とはいえそれを持っていたが故に、それは起きるであろうと。

「―――ベア、トリス」

螢は呆然とどこか現実味のない光景に打ち震えながらもポツリとそう名前を呼んだ。

「はい、ベアトリス・ヴァルトルート・フォン・キルヒアイゼン、義妹の危機を救うために、そして頭の固い上司を部下として正すためにやってきました!」

カリグラはこの場で下策をもって上首尾を為した。彼女が目覚めなければ例え螢を取り込んだとしてもザミエルに届くことは無かっただろう。彼は目的を履き違えてなどいない。螢を殺し、その力を奪い取る。そのための時間稼ぎとしてベアトリスを宛がい、そしてその彼女すら斃し奪う、そうやって得た力でザミエルを屈する気なのだ。
四人は互いに武器を構え、己が戦場に立つ。ゆえ、少なくともこの戦争は些か以上に長引く事となるだろう。
 
 

 
後書き
(*´Д`)ベアトリスかわいいよ、ベアトリス、ハァハァ
まあ屑兄さんとのカップリングが好きなんですけどね。 
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