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『もしも門が1941年の大日本帝国に開いたら……』

作者:零戦
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第二十話






「エルフに神にドラゴン……だと?」

 部下からの報告を聞いたルーズベルトは思わず椅子から転げ落ちそうになるが何とか踏ん張って部下からの説明を求めた。

 確かに日本政府から特地からの重大発表があると言っていたので記者を送っていたがまさかこんな大事になるとは思わなかった。

「それと日本から内密に特地で採取したドラゴンの鱗等を渡して来ました」

「何と……」

 ルーズベルトは日本の対応に驚いた。

「今は移送中でアメリカに到着次第、研究所に回す予定ですが……これはドイツとイギリスにも渡したようです」

「何?」

 炎龍との戦闘後、第三偵察隊は炎龍が落とした鱗等を多数採取していた。帰還後に現地で実験をした結果、短砲身五七ミリ戦車砲は勿論の事、三八式野砲、九〇式野砲で鱗を貫く事は出来なかった。

 唯一、鱗を貫くかヒビを入れたのは九一式と九六式十五サンチ榴弾砲であった。そのため大本営は炎龍対策として新たに九一式を十門と九六式を八門の特地輸送を決定した。

「……特地は我々が予想しているよりも遥かに想像を絶するかもしれんな」

 ルーズベルトはそう呟いた。

 一方、ドイツではアシカ作戦を中止して対ソ戦の準備をしている最中に日本から鱗等を渡す事が通知された。

「ドラゴンだと? あの伝説上の生物だぞ?」

「は、それに写真ではエルフもいるようで……」

「何? エルフもか?」

 部下からの報告にヒトラーはルーズベルト同様に驚いていた。

「それに日本からの情報ではドラゴンはかなりの厚い鱗を纏っているようで二十ミリでも効かないようです」

「……むぅ……兵士達が手頃で使える対戦車兵器を作るか……日本に売ればかなり使えるかもしれんな」

 門の利益を手にするためにあれこれと手を打とうとするヒトラーである。

「急ぎ、ドラゴンにも通用する対戦車兵器を作るのだ。それと日本に技術支援として技術者を送るのだ」

 この決定で史実より早めにドイツ軍のパンツァーファウストが開発されてドイツから対戦車用成形炸薬弾(夕弾)の構造を支援して四二年に夕弾が各砲に配備されたりする。

 世界各国の思惑が特地に向けられる中、アルヌスの丘周辺には日本軍と現地の交流の場としてコダ村から避難していた避難民達が店を作っていた。

 今村中将も現地と交流するならいいと思い、許可したのだ。最初は小さな店であったがイタリカから定期的に商人がやってきてこの世界の物と日本の物と交換したりして日本の物を貴族等に売ったりして利益を上げていた。

 詳しくは原作で。

 政府も品物の販売も悪くないとして特地へ渡る希望者を募って避難民と共に店を出させた。

 この商売で多く売れたのが日本刀と日本酒であったりする。

「如何でしたかな殿下?」

「……言えるのは貴国が帝国より遥かに上だと言う事です」

 今村中将の言葉にピニャはそう素直な感想を言った。今村中将は特地に戻ってきたピニャ達に対して日本がどれ程の戦力があるかを知るために特別観閲式を敢行したのだ。

 この観閲式には五個師団、一個砲兵大隊、三個戦車連隊、陸海航空隊が参加してピニャ達の肝は相当冷えたものであった。

「(……これを見て確信した。ニホンと講和しなければ帝国は滅びてニホンの物となる……)」

 この時、ピニャの脳裏にはボロい服でツルハシを持って働かされている自分やボーゼス、ハミルトンの姿が浮かんできた。

「(何としてもニホンと講和をせねば……)」

 ピニャは菅原から貰った捕虜の翻訳書を持ちながらそう思った。そしてピニャは直ぐに帝都に戻って議員達と接触するのであった。

 それから数日後、今村中将は一人のダークエルフと面会していた。

「……つまり、貴女の故郷が炎龍によって滅びようとしているので助けてほしいと?」

「その通りです」

 今村中将の問いにダークエルフ――ヤオ・ハー・デュッシはそう頷いた。

「我々も炎龍の退治は検討しています」

「そ、それでは……」

「だが場所が悪いのです」

 今村中将はそう言って地図を指指した。

「貴女の故郷はシュワルツの森ですが、そこは帝国との国境を越えたエルベ藩王国なんです。軍が国境を超える意味は語らずともお分かりになりますな?」

「そ、それは……」

 今村中将の言葉にヤオは言葉が詰まった。

「た、大軍でなくても良いのです。茶と草の人……数十人程だと聞き及んでいます。その人数なら軍勢とは言えないはず……」

「滅相もない。そんな人数で危険な炎龍と相対させるなど部下を死地に追いやるも同然。自分にはそのような命令を下す事は出来ません」

 いくら大日本帝国軍であっても兵士達には家族や妻、両親がいるのだ。無理矢理死なせるわけにはいかない。

 ヤオは両手で顔を覆ってただ声を殺して涙を流していた。涙は掌から手首へと伝わり、そのまま肘へと流れ落ちていく。

「くふぅ……」

 漏れた嗚咽に周りにいた参謀達も重々しい空気と痛ましさで黙りこんでいた。

「……ですが」

 その時、今村中将が口を開いた。

「我々は内地から炎龍撃滅の命令が来ております。取りあえず使者をエルベ藩王国に出して自国内の通過を認めてもらうようにしましょう」

「それでは……」

「我々の戦力が整い次第、炎龍の撃滅を開始します」

 その言葉はヤオにとって心が救われた瞬間であった。







 
 

 
後書き
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