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ファイアーエムブレム~ユグドラル動乱時代に転生~

作者:脳貧
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第四十二話

 
前書き
六章開始です! 

 
 
 ……俺たちを乗せた船は、一路ヴェルダンへと向かっている。
目的はディアドラ王女の保護と、もう手遅れかもしれないがサンディマをはじめとするロプトの魔道士への警戒を促す為だ。
クロード神父の発案で、ヴェルダンに於けるエッダ教の布教や、個人レベルで開設している礼拝所への激励、国王との謁見が叶えばジェノアやマーファなどの集落への教会開設の許可願いと言う名目を立てて行うことになっている。
グランベル王宮に対してはブラギの塔へ巡礼した際に、神から啓示を受けたのでこの訪問を行うという理由の書状をエーディンさん、シルヴィア、ブリギッドに託し、バーハラへ先に戻ってもらった。
その護衛はレイミアと随伴する傭兵達に任せたので問題無いだろう。
彼女らと一時の別れは寂しくもあったが、ヴェルダン人の民度を考えると、美しい彼女らを帯同していればトラブルの種となるのは火を見るより明らかだからだ。
シルヴィアの説得には骨が折れたが、あのときよりはずっと聞き分けが良く、彼女もどんどん大人になっていると思う。
俺なんかが自分と比べたり評価するのも彼女に失礼かも知れないけれど。



 レイミアと彼女の部下達は護衛の任務が終わったあとはそのままグランベルに留まり、しばらくはユングヴィ姉妹のやっかいになったあと、俺とクロード神父が目的を終えて帰国したらまるごと俺の私兵となる予定だ。
 まぁ、俺の士官学校卒業までは外面上彼らにはクロード神父やエッダ領や教会の警備をやってもらう予定ではあるのだが。
 それは今、一緒に船に乗っているヴォルツやベオウルフ、それに随伴する傭兵達も同じだ。
 スポンサーはクロード神父のエッダ家が引き受けてくれる運びとなっている。
 それと言うのもダーナに潜伏し、757年に起こる事件を未然に防ごうという計画を皆で相談し、立てたからだ。
 ただ、レイミアの傭兵隊全てを雇えた訳ではなく、マディノに残留して今まで通りの海運業や海上警備の仕事を希望する者達も少なくなく、そういう者達の為にジャコバンをマディノに残しまとめ役になってもらった。
 原作ではダーナは何の備えもしていなかった為に一夜で陥落したと言われている。
 それならば俺達で城門や要所を守り抜き、義勇兵でも城内で募って抵抗を続ければ、ろくな補給も望めない砂漠だけに追い返すことも出来るだろうというのが基本方針だ。
 現地に着いたら現場の状況に合ったまた違う案も出て来るであろうし、籠城を続けていれば部下の不始末ををつけにマナナン王が乗り込んできて解決が成る可能性だってある……もっとも、そのままマナナン王というかイザーク軍がダーナを陥し、俺たちもしくは別の組織の仕業と仕立てあげることだってあるのかも知れないから、マナナン王の人格面への過剰な期待は避けておくのが良いかも知れないが……




 アグストリア西方の海岸線を行く手に見ながら航海は続き、旅程の半ばあたりからは俺もだいぶ船酔いに慣れて苦しみもやわらいできた。
 最初は陸路を提案されたが所要時間がかかりすぎるのと、それにもしイムカ王が想定より早く亡くなればシャガールのことだ、旅人にどんな嫌がらせをしてくるのか予想もつかないので海路のほうが安全だろうから俺一人の我慢で良いということで海路を選択した。
 船も乗組員もブリギッドのもので、旅程の最後にはユングヴィ南の港へと入港予定だ。
 いずれ彼女が海軍でも作るつもりなら、その中核メンバーになるのではないだろうか。
 最初は船長であるブリギッド無しでの航海に難色を乗組員に示されたが

 「お前らがおしめの取れない赤ん坊ならまだしも、任せられる力量があるから任せるんだよ!これ以上言わせるな恥ずかしい!」
 ブリギッドがこんなふうに一喝したところ、彼らは機嫌良く全面的に協力してくれている。

 途中、ノディオンに入港し補給やヴェルダン方面の海図を求めた。
 ヴェルダンと貿易をしている商会を探し出し交渉をしたところ、海図そのものは商会の宝なので譲れないとのことで、仕方なく水先案内人を借り受けることにした。
 俺たちの目的が交易だとしたら彼を借り受けることも出来なかっただろう。
 多少なりともエッダ教への敬意を払う相手だっただけに運が良かったとも言える。



 ヴェルダン王国とその名を同じくする都に辿りつくまでに、浅瀬ややっかいな海流などが何か所もあっただけに水先案内人を雇ったのは正解だったのは間違いない。
 港で彼の役目は終わり、例の商会が数日後に送りつける交易船の帰りの便に乗って帰るということで別れを告げた。
 港の役人に俺たちの身分や旅の目的を告げ、ノディオンで発行してもらった通行証を示しカネを握らせると翌日に港の役所に顔を出すよう言われた。
 乗組員にしろ傭兵にしろ丘に上がって明日まで自由と知ると、目指すはそう、酒場と売春宿だ。
 喧嘩や殺しを厳禁ときつく言い含めてはあるが、果たしてどの程度守ってくれるものか……
 心配であるので何件かある酒場を回ってみたところ、とりあえずはうちの関係者は騒ぎを起こしていないようで安心した。
 時間の経過とともに酔いが進んで気が大きくなり、気の緩みで問題を起こすかも知れないので、その後何度も巡回し、その度に飲みもしない酒を頼まざるをえないのがもったいなかった。
 ミルク!とか頼んでもトラブルになるだけですしーw


 「よぉ、あんた、口もつけねぇのに何回も来てどうした?」
 酒場の親父は俺にそう言うと屈託の無い笑みを浮かべた。

 「ノディオンから着いたばかりなので、うちの船の乗組員がこちらのシキタリを知らずにトラブル起こしてはマズイと見回りしていたのですよ、それはそうとご店主どの、腹が空いているんだが料理なんかはどんなの出せそうです?」
 あまり期待していなかったがその通りで、俺は揚げ魚を頼むと金を置き

 「他の店も見回って来るので、後でまた伺いますからその時までにゆっくり作ってください」


 その店を後にして別の店を訪ねるとヴォルツとベオウルフが酒をやりながらカードゲームらしきものをやっていた。
 俺は空いてる椅子を持っていき、一緒の卓につくと給仕を呼び蒸留酒を二杯頼んだ。
もちろんこの二人に対してだ。

 「やっぱり陸はいいですね」
 俺が肩をすくめてそう言うと

 「そいつぁ違いねぇ、ところで王子さん、アンタぁどうした? さっきから何回か出入りして」
 ヴォルツがそう言うので俺は見回りのことを伝えると

 「かーっ、そいつはいけねぇな、今夜くらい楽しまねぇと……って、オレの勝ちだな」
 ヴォルツはニヤっと笑うとカードをベオウルフに見せて金を巻き上げた。
 タイミング良く給仕が頼んだ酒を運んできたので代金を支払い、二人に奢りであることを告げ席を立とうとすると

 「ねぇ、遊んでいかな~い?」
 着古した赤い衣装を纏ったけだるげな、齢は三十手前だろうか? 金髪女が俺の肩に手をかけてきた。
もちろんストライクゾーンだが

「いや、そういう気分じゃなくてな、他を当たってくれ」
「つれないこと言わないでおくれよぉ、初めてだから照れてるんだろ? サービスするからさぁ……」
 「あなたを抱いたら四人目かな、俺のジンクスで四って数は縁起が悪くてね。 そっちのねぇさんも一緒に三人で楽しむってならアリだけど、いかんせんカネがたりなくてな。まぁ、そういうことで」
 ベオウルフにしなだれかかっている黒髪女を見やってから金髪女のほうへ顔を向け、にやっとして言うと、彼女は舌を出して顔をしかめた。

 「カワイイとこあるじゃん、一杯奢らせてほしいな」
 俺は席を立ち、給仕を呼んで頼むと多めに代金をテーブルに置き

 「俺はいいから、こっちの俺の兄貴分を楽しませてやってくれよ」
 ヴォルツのほうを見やって彼女を座らせた。

 「この方ぁ、さるやんごとなき身分のお方でな。坊やに見えるが国元にはおっかない嫁さんと愛人が二人もいてな、浮気がバレたら……ちょん切られるって話だ」
 ヴォルツが悪ノリしてそんなウソを言うもんだから

 「そういやドバールは、夜這いをミスって切られちまったのが運のツキでしたっけ」
キスマークをいくつかつけたベオウルフがにやっとしてそう言った。

 「そういう訳で臆病者は退散しますよ。良い夜を」
 俺は彼らに背を向けて店の出入り口へ向かいながら手をひらひらさせた。



 ……ドバールがブリギッドを執拗に狙った真相はそこにあった。



 他に何軒か見回り、先程料理を頼んだ店に戻ったころには若干冷まって、じんわり温かい揚げ魚が出来あがっていた。
 予想に比べて量が多すぎたので木の板に海藻を敷いてもらい、その上に載せた揚げ魚を船に持って帰って船の見張りや副長、それにクロード神父などの上陸していないメンバーとで分けていただいた。
 ずっと女っ気の無い航海を続けた後だけにヴォルツに譲った女の人に後ろ髪を引かれる思いが無くも無いが、この場には居ない彼女達(レイミア、シルヴィア……そしてあいつ)を裏切るような、そんな真似などできようものか。 


 翌日、俺とクロード神父、護衛リーダーにベオウルフ、船のほうは副長とヴォルツに任せて港の役所を訪問し滞在許可を得ると港からはやや離れた王都へと向かった。
 むしろ港町のほうが華やかと言えるくらいのヴェルダンの王都であり、王宮の役人に用向きや付け届け、そして神父様からの親書を手渡すと他の謁見希望者と共にじっと待つことになった。
 俺たちは明日にまた来るよう言われ、整理券代わりの割札を渡されて夕暮れの中、港町へと戻った。
 さらに翌日、今日は会えるだろうということで船倉に積んできた心ばかりの貢物を携えて簡素な王宮を訪れるとすぐに会見が行われ、俺は神父様とバトゥ王のやりとりを見守るだけであった。
 こちらの願いを快く聞き入れてくれて、国内での行動の自由を保障する書状を後日発行してくれる事になり、むしろこちらの名目であるエッダ教の布教活動を歓迎してくれて、マーファ城へ向かう為の水先案内人も用意してくれると言うことだ。
 サンディマなどロプト教への警告は出国前にと決めてあったが、それとなく会談の中で、昔俺が暗殺者に狙われた時は緑の衣を着たロプトの司祭に襲われたと語っておいた。
 名前については語らないでおいたが、出国前に伝えておけばいいだろう。


 これだけ物事がすんなり行くのはありがたくもあり、不安も感じてしまう。
 なんにせよ、ディアドラの発見と説得という大きな課題があるのだからここまで順調であっても先行きが明るいとは思わないでおこう……

 
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