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清教徒

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第一幕その二


第一幕その二

「何かあったのですか」
「いや、実は」
 彼はそれを受けて話をはじめた。
「エルヴィーラのことですが」
「何かあったのでしょうか」
「この前の戦いに赴く時私は言われたのですよ。あの方の御父上に」
「はい」
 それを聞いたブルームの顔が引き締まる。
「この戦いで功を挙げたならば私にあの方を与えて下さると。そして私は戦場で勇敢に戦いました。ですが」
「事情が変わったと」
「そうです。エルヴィーラはアルトゥーロと結ばれることになってしまった。何という残酷な運命なのでしょうか」
「リッカルド様」
 ブルームは落ち着いた声で彼に対して言った。
「はい」
「心を鎮められなさい。先程も言いましたが貴方には栄光と神がついておられます」
「神が」
「そうです。だから御安心下さい。貴方にはきっと幸福が訪れます。ですから心をお鎮め下さい。よいですね」
「わかりました」
 リッカルドはそれを受けて頷いた。
「それでは貴方の御言葉に従います。それで宜しいでしょうか」
「はい」
 ブルームも頷いた。そこでリッカルドを呼ぶ声がした。
「リッカルド様、貴方の隊が貴方を呼んでいますぞ」
「はい」
「貴方は彼等の隊長です。行かなくてはなりませんぞ」
「わかっております。それでは」
「はい」
「私も途中まで同行しましょう。では行きましょう」
「お願いします」
 こうして二人は庭から去った。庭には花が咲き乱れている。それが朝もやの中に浮かぶ様はまるで夢の園のようであった。
 ミサが終わるとそれに参加した者はそれぞれの部屋に戻った。質素なゴシック調の城の中を慎ましい服に身を包んだ者達が進む。その中にはエルヴィーラもいた。
 赤い服を着ている。その服は決して豪奢なものではないが彼女によく似合っていた。そして黒い髪を長く垂らしている。まるで黒絹のような髪である。
 黒い瞳は琥珀の様である。それが白く整った顔で輝いている。まるで宝石のようであった。
 唇は赤く炎の色をしちえる。そして鼻は高い。何処かギリシア彫刻を思わせる美貌であった。背も高く歩く姿も落ち着いたものであった。遠くからでも目につく印象的な容姿の持ち主であった。彼女がエルヴィーラである。この城の城主の娘でありイングランドにその美貌を謳われた絶世の美女でもある。この日彼女は幸福の中にいた。
「叔父様」
 彼女はゴシック調の窓がある自分の部屋に入ると後ろにいる白い髪と髭の老人に顔を向けた。見ればやはり質素な服とマントに身を包んでいる。彼の名はジョルジョ、彼女の叔父である。
「どうしたのじゃ」
 彼は優しい声でエルヴィーラに話しかけてきた。
「今日のことですけれど」
 エルヴィーラは不安と期待を混ぜ合わせた声で彼に対して言った。
「うむ」
「どうなるのでしょうか、私はこれから」
「不安なのだな」
「はい」
 彼女はそれに答えた。
「不安です。これからのことを思いますと」
「それなら心配ない」
 ジョルジョは美しい姪に対して優しい声でそう語りかけた。
「そなたは自分を信じるのじゃ」
「自分を」
「そうじゃ」
 彼は言った。
「そなたの様な心まで美しい者はそうはおらぬ。その様な者を神がどうして選んでおらずにいられようか」
「神が」
「そう、神じゃ」
 彼は強い声で彼女に対して言った。
「そなたには神の御加護がある。だから安心するがよい」
「わかりました」
 エルヴィーラはそれに頷いた。
「けれど私は誰と結ばれることになるのでしょうか」
「不安なのか」
「否定はしません」
 彼女はこくり、と頷いてそう言った。
「この心の不安を何としても取り除きたいのです」
「そうか」
 ジョルジョもそれを聞いて頷いた。
「そなたは誰と結ばれるのかそれを知りたいのだな」
「はい」
 彼女は答えた。

 
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