清教徒
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第一幕その一
第一幕その一
第一幕 破れた婚礼
ここはイングランド北西のプリマスの城である。ここに一つの城があった。遠くには山々が美しい景色を見せている。だが空はようやく明るくなってきた頃である。城の中では兵士達が警戒にあたっていた。
「異常はないか」
「ああ」
兵士達は口々にこう言い合う。そしてそれぞれの持ち場を守っている。そこに一人の兵士達のそれとは一風変わったやは豪奢な鎧を着た金髪の男がやって来た。兵士達は朝もやの中彼の姿を認めて声をかけてきた。
「これはブルーム様お早うございます」
「お早う」
彼は笑顔で兵士達に対して言葉を返した。彼はこの城にいる将校の一人である。この城は清教徒達の城であり当然彼も清教徒である。
「朝早くから御苦労だな」
彼は微笑んで兵士達に対してそう声をかけた。
「いえ、これも任務ですから」
兵士達はそう返事を返す。吐く息は白くその顔は引き締まっていた。
「そうか、頼もしいな」
「有り難うございます」
「戦いはまだ続くだろう、これからも頼むぞ」
「はい」
彼等はそう挨拶を交わした。そして分かれた。ブルームは庭に向かった。そこへ一人の若い兵士がやって来た。
「どうした」
「はい、今日のことを確かめたくて参上致しました」
兵士は慎んでそう答えた。
「今日はエルヴィーラ様のご婚礼の日でしたな」
「うむ」
彼はそれに頷いた。
「その証拠に聞くがいい」
彼はそう言って城の中を指差した。そこから賛美歌が聴こえてくる。人々は朝のミサを行っているのだ。
「いつもの歌とは違うだろう」
「はい」
兵士はその言葉に頷いた。
「まるで天界から聴こえてくるようでございます」
「天界からか」
「そう聴こえませんか」
「ふふふ、確かにな」
ブルームはそれに同意して微笑んでみせた。そしてまた言った。
「あそこにはな、エルヴィーラ様もおられるのだ」
「だからですか」
「そうだ。今のあの方は何時にも増してお美しい。そう、まるで天界から降り立たれたようにな」
ブルームは恍惚とした声でそう語った。
「今日の御声は普段のそれとはさらに違う。まるで天界の調べだ」
「全くです」
兵士もその歌をうっとりとして聴いていた。
「これが幸福に向かわれる方の御声なのですね」
「そうだ。そして我々がしなければならないことは」
「はい」
兵士はブルームに顔を戻した。
「祝うことだ。よいな」
「わかりました」
兵士は頷いた。彼等が庭に着くとそこには子供達がいた。彼等はその手にそれぞれ色とりどりの花を持っていた。
その花で庭を飾っていく。何時しか庭は花の園となっていた。
「御苦労」
ブルームは子供達に対してそうねぎらいの言葉をかけた。
「それでは今日のこの日を共に祝おう。よいな」
「はい」
子供達はそれに頷いた。そして庭から一人また一人と去って行った。ブルームはそれを見届けながら兵士に対して言った。
「そなたも今は持ち場に戻るがいい。よいな」
「はい」
兵士はそれを受けて敬礼してその場を離れた。そして庭にはブルーム一人となった。
彼は暫くその場にたたずんでいた。そして花を見ていた。
「美しい」
彼は一言そう呟いた。
「この花達こそあの方に相応しい。だがどれだけの花があろうともあの方御一人にすら適うことはできないのだ」
そう一人呟いていると庭にもう一人姿を現わした。蜂蜜色の髪と顎鬚を生やした若い男である。
やはり彼も鎧を着ていた。だがそれはブルームのものよりさらに立派である。そしてマントを羽織っている。それを見るとそれなりの身分にある男であることがわかる。顔も精悍で風格が漂っているが何処か陰がありそしてその表情は暗いものであった。
「ふう」
彼は溜息をついた。それから庭を見渡した。
「花で飾られているのか」
「はい」
ブルームはそれに応えた。
「先程城の子供達が飾ったものであります」
「そうか、子供達には褒美が必要だな」
「ええ。ところでどうかされたのですか」
ブルームは彼を心配するような声をかけた。
「普段のリッカルド様とは思えませんが」
「そうか」
その男リッカルドはそれを聞いて寂しい笑みを浮かべた。
「ブルーム殿」
「はい」
「今の私には何があるかな」
「それはまたご冗談を」
ブルームはそれを聞いて笑った。
「栄光と神が。リッカルド様にはその二つこそが相応しい」
「その二つだな」
「はい」
「ではそこに愛はないのですな」
「いや、これは失敬」
ブルームはそれを聞いて慌てて言葉を引っ込めた。
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