DQ4TS 導く光の物語(旧題:混沌に導かれし者たち) 一~四章
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二章 やんちゃ王子の観光
2-09事件
偽王子がいるという宿の前には人だかりができ、口ぐちに偽王子の噂をし合っている。
「王子様、お優しそうだったわね」
「線が細くていらっしゃって。ああいうのを優美っていうのよね!」
「お顔が女性のように整っておいでで」
「まさに貴公子って感じよね!そのへんの男では、ああはいかないわ!」
「ああ、王子様とお近づきになりたい!」
「ちょっと女々しくなかったかねえ。王様になるんだからさ、あたしはもっと頼りがいがあるほうがいいねえ」
「宿の主人は、随分もてなしておるようだのう。わしも、少しばかりの蓄えを差し出そうかのう」
「似ているわけではないようだな」
それは良いが、弱そうだ。
「巷に出回る姿絵は、買い手が喜ぶように描かれた、似ても似つかぬものも多いですからな。姿をそのまま写す写真は、本人がおらねば撮れませぬゆえ、一般には出回っておりませぬしの。庶民には、王子のお顔などわからぬでしょう。小悪党ですな。」
「偽物などが。アリーナ様に似せようとしても、似るわけがございませんわ」
吐き捨てるように言うのはやめてほしい。
クリフトが怖いので早く済ませよう。
宿に入ると、主人が陽気に声をかけてくる。
「旅人の宿にようこそ!と、言いたいのですが、今日は王子様がお泊まりなので……。どうも、すみません。」
随分と嬉しそうだ。
「ああ、王子様に、ご挨拶に来ただけだから。王子様は、上かな」
主人は大袈裟に肩を竦めて答える。
「そうですが。お付きの方に止められたら、戻ってくださいよ。」
「もちろんだとも。では、失礼するよ。」
「しかし男の俺はともかく、女性のブライとクリフトが野宿というわけにはいかないな。やはり、成り済ましはやめさせるか」
「アリーナ様こそ、野宿だなんてとんでもありませんわ!偽物、やはり許せません!」
「いずれにしても、偽物の正体は暴かねばなりませぬ。王族の名を騙る罪は重い。相応の罰を与えねば。」
罰といってもなあ。
城に通報でもすれば、こちらまで捕まりそうだ。
階段を上がると、奥から叫び声がした。
「何をする!離せ!誰か、助けてくれ!」
さらに事件か。
瞬時に駆け出し、奥へと向かう。
駆け付けた先では、数人の暴漢に偽王子が捕らわれていた。
手前には神官風の男が倒れ、老人が立ち尽くしている。
偽物は供も弱いのか。
そして、供は男か。
普通、そう思うよな。
暴漢が叫ぶ。
「止まれ!近付くと王子の命は無いぞ!」
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