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最期の祈り(Fate/Zero)

作者:歪んだ光
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開幕

 
前書き
すいません。間違って、前回下書きの方を投稿しちゃいました。 

 
IS学園の第3アリーナに四つの影があった。シャルロット・デュノア、ラウラ・ボーデヴィッヒ、布仏本音、衛宮切嗣……
学年別トーナメント、それは文字通りIS学園の生徒が学年別 でISを用いた勝ち抜き戦を行うというものだ。これだけを聞けば、一風変わった学園行事と受け取れない事も無い。しかし、実態は違う。これは、ただのデモンストレーションだ。代表候補生の力を見るためだけの場だ。或いは、代表候補生にどれだけ一般生が食らい付けるかを見物するための見せ物と言っても間違いではない。これは公平という理念と真っ向から対峙するものだ。そもそも今のこの世界に……いや、人類史を紐解いても公平だったことなんて一度も有りはしない。より正確に言うなら、人は発展と引き換えに平等であることを失った。人の本質が悪という考えもあながち捨てたモノでない。その発展の裏で泣くモノ達を無視し続けてきたのだ。賛同せずとも否定は出来ないだろう。
そんな必要悪の巣窟、科学の叡智が集った学園の中で、更なる異端を示す闘いの幕が落ちようとしていた。

シャルロット・デュノア、ラウラ・ボーデヴィッヒ。両者とも西欧圏の強者に名を連ねる射手だ。かたや、如何なる場合にも安定した力を発揮できる、プロという語がふさわしい女性。もう片方は、1対1では絶望的な力を誇り、場合によっては国家代表と渡り合う力を持つ規格外の死神。
この両者が組むのだ。勝てない敵は無く、見るものは皆これを闘いとは認識していない。……普通なら。
実際はそうではない。いや、そう認識させない何かを醸し出す男がいた。
衛宮切嗣。ドイツとフランスの代表候補生がタッグを組む異常性すら、この男の前では霞んでしまった。黒いスーツを身に纏い、その上から未だ足りぬと言わんばかりに黒いコートを身に纏う。現在製造されているIS専用スーツとは一線を画すその装束に、普通のISとは似ても似つかないフォルムのISを装備する。その姿は、殺し屋を想起させる。しかし、それすらも副次的な要素でしかない。目だ。他のメンツが覚悟や緊張をたたえる中、切嗣の目は死に絶えていた。死に絶えた中で静かに炎を燃やす、異様なまでの落ち着き……
貫禄と言えば良いのだろうか、そんなオーラが見るもの、対峙する者に沈黙を強いていた。
ただ、仕合のルール説明が淡々と続くなかその場に居合わせた者全てがある一つの感情を抱いた。
――切嗣が、怖い――
そのあり方は、鋭く研がれた日本刀の様であり、刹那的に見えたからだ。
全てが凍結した時間の中、切嗣とラウラの目があった。だが、何も言葉を発する事なく静かにじっと目の前の敵を見合った。言わずとも解る。本気だと。
開始まで後30秒も無い。
「……それではこれより、学年別トーナメント第一回戦を行います。開始のアイズまで、一切の行動は禁止ですので両チームは注意をして下さい」
それは刹那の様な時間でありながら、果てしない闇の彼方へ堕ちていく様な永劫を感じた。
しかし、永遠など存在しない。開幕のブザーは無慈悲にアリーナに響き渡った。
ブーと少し間の抜けた音が鳴り響く、と同時に四人は動いた。
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「……」
シャルロットは無言で連射式の近接型ガトリングガンを構え、ラウラはワイヤーブレードを展開した。このチーム、唯一の欠点は「一人一人の技量が高すぎる」事だ。つまり、タッグ戦をするには多少我が強すぎるのだ。故に、彼女達は試合前にたった1つの作戦をたてた。相互不干渉――要するに、1対1の状況を作り出したら、以後原則的には手助けはしない。するにしても援護射撃に留める程度の話。
これではタッグ戦のメリットを活かせないと言われるかもしれない。しかし、あながち悪手とは言えない。セシリアと鈴音の二人がラウラに挑んだ際の一番の敗因は、タッグで挑んだ事だ。お互いに長所ばかりを潰し短所を際立たせる事だって、意志疎通が十分で無いならあり得る。そんな最悪の事態を避けるための作戦だ。最善では無いが、最悪からは程遠い。それについて当初の予定では切嗣をラウラが、本音をシャルロットが対処する筈だった。多くの生徒もラウラとシャルロットがペアを組むと聞いたとき、その方針をまず思い付いた。その予想は的中し、現にその作戦が実行されようとしていた。
なので、魔術師殺しは遠慮なくその作戦に乗らせて貰った。
「なっ……!」
その悲鳴は誰のモノだったか。
切嗣の作戦通り、『もし、ラウラとシャルロットが個人戦に持ち込もうとした場合』……
布仏本音はガトリングガンの弾を撒き散らしながら逃走を開始した。
『布仏本音は全力でシャルロットから逃げるように』は恙無く実行された。
「……いけ、シャルル!」
苦々しそうにラウラが指示をとばす。この闘い、切嗣が恐れていたのは死角からの狙撃だ。ラウラと戦うなら他に気を割いている余裕など無く、援護射撃などが加わった暁には万に一つも勝ち目は無い。故に、個人戦に持ち込むなら徹底した1対1にする必要があった。その思惑に二人は気付いただろう。だが、乗らざるを得ない。二人で切嗣に挑む時、狙撃されるのは自分達だ。本音を放置する事は出来ない。そして、シャルロットは空に羽ばたいた本音を追うため飛翔した。
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高速移動をしながら、シャルロットは目前の敵に弾を送り込む。
「やっぱり……」
玉の殆どは本音を直撃する。試合開始から五分間が経過しようとしており、本音のIS「打鉄」のエネルギーは既に半分をきっていた。当然だ。何のフェイントも無く、直線的に翔んでいればかっこうの的だ。
一方のシャルロットのIS「ラファール・リヴァイヴ・カスタムII」のエネルギーは移動する際に使用した分以外は減少していなかった。時折、本音もガトリングガンの弾を撒き散らしているのだが、いっこうに当たらない。
しかしこの状況、裏を返せばシャルロットは決定打を打てないでいた。逃げに徹した相手を捉えるのは楽ではない。
「完全に時間稼ぎに徹するつもり?」
ここまであからさまに逃げ回っていれば嫌でも気付く。
「ん~。やっぱりばれちゃったか~」
相も変わらず、のんびりした声が返ってくる。
「切嗣を助けに戻らないで良いの?一度戦ったけど、ラウラは強いよ」
コンビネーションは皆無とはいえ、流石にお互いの実力を一切知らずに戦いに挑む愚は犯さず、3日前に二人は模擬戦を行なった。結果は、シャルロットの完敗だった。ラウラにダメージらしいダメージを与える事が出来ず、AICの防御を突破出来なかった。幾ら、切嗣のISが常識はずれとは言え、完璧で無いにしろラウラは必ず対策をたててくる。
「だいじょ~ぶだょ」
しかし、そんな忠告を本音は杞憂だと言う。
「だって、切嗣は勝つって言ったから……」
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空で一方的な戦いが広げられる中、地上でも死闘は繰り広げられていた。
左手で持ったキャレコから吐き出された弾がシュヴァルツェア・レーゲンを襲う。
「そんな豆鉄砲が効くとでも……」
AIC――「停止結界」とラウラが呼ぶそれは、運動エネルギーを限り無く0にする規格外の盾だ。だが、彼女は其れを滅多に使わない。確かにそれは絶対の武器だが、使用者に極度の集中力を強いる。最大の武器だが、同時に最大の弱点でもある。故に、ラウラは切嗣に対してAICを使う予定は無かった。一見すれば、AICを展開するほどの火力が在るとは思えなかったのもあるし、何よりこの男の前で弱点をさらすのは避けたかった。
切嗣が放った弾はAICを展開するまでも無く鉄の鎧に弾かれる。しかし、それに構わず切嗣はキャレコを撃ちながら、もう片方の手に新たな武器を呼び出した。切嗣のIS「シルバームーン」の武装の一つ、コンテンダーだ。嘗ての人生で切嗣を救い、多くの血を啜った血塗られた銃。切嗣は其れを右手で持つと、躊躇い無く引金を引いた。
魔銃から弾丸が発射される。50メートル近くある距離を弾は一瞬で駆け抜け、シュヴァルツェア・レーゲンの機体を吹き飛ばした。
「がっ……!?」
声に為らない悲鳴がラウラの口から漏れる。観客席からも驚愕が聞こえた。それはそうだろう。ISがハンドガンで吹き飛ばされたのだ。在っていい筈が無い。
「何が……?」
観客席から、当然の疑問が湧き出る。
確かに切嗣が撃ったのは魔弾に非ず。されど、魔術師としての誇りを持たない彼には科学技術の叡知を集結させた弾丸を使用することに躊躇いは無い。
使ったのは「加速弾」と呼ばれるものだ。初速度を犠牲に加速度がほぼ指数関数的に増加する、起源弾を除けば切嗣の持つ最大威力の武装だ。直撃すればISのエネルギーを総て持っていく。だが、
(避けたか……)
苦々しそうに、舌打ちをする。
被弾直前に回避したシュヴァルツェア・レーゲンを掠めた弾丸は機体のエネルギーを半分程削るだけに終わった。
「貴様っ!」
そして仕留められなかったのは致命的だ。
「瞬時加速!」
ラウラは瞬間的に距離を詰めながらレールガンを、収納し、代わりに連射性のあるサブマシンガンを物質化した。
切嗣の顔が驚愕に染まる。それは本来シュヴァルツェア・レーゲンには無い装備だ。ワイヤーブレードが切嗣の周囲に振るわれ、檻が完成する。
「くらえ……」
そして、マシンガンの雨が降り注いだ。しかし、その程度で切嗣が止まる訳がない。
「瞬時加速っ」
一瞬の間、物理法則に抗うかの如くその場から消える。ワイヤーブレードの檻も完成する前に脱け出せば、意味を為さない。結果、切嗣は総ての弾を回避し、
そして先回りしたラウラと対峙する事になった。
「バカな……!」
思わず、口から悲鳴が漏れる。
(衛宮切嗣、貴様の行動パターンは大方予想済みだ)
手首から出したプラズマブレードを切嗣に叩き付ける。
が、それより一瞬速く切嗣の行動が再度完了する。
「瞬時加速!」
今一度、彼の体が条理を越え後ろに流れる。
結果、プラズマブレードは彼の足を掠める程度に終わった。しかし、ラウラは勝ち誇ったような顔でシルバームーンを観察していた。
「やはりな……貴様のIS、シルバームーンの欠陥は確認した」
「……」
小休止かのように、ラウラの声がアリーナに響き渡る。自身のエネルギーが半分を下回っている状況とは思えない余裕が彼女から見えた。
あり得ない。
余裕とは、自分が他者より有利である場合に生まれる。
何故、彼女に余裕が生まれる?しかし、その理由はシルバームーンの残量エネルギーが語っていた。
そこには、既にエネルギーが1/10をきり、方膝をつく切嗣の姿があった。
――――――――――――
シルバームーン、その形故に小回り等には向く反面、防御に関して言えばどうしようもなく脆かった。プラズマブレードが掠めるだけで、ほぼ敗北が確定する様なシールドエネルギーが消費され、直撃すれば、間違いなく撃墜する。だから切嗣はマシンガンを掃射された時、切札である瞬時加速を使ってまで回避しようとした。しかし、結果としてただの延命治療に終わり、ダメージのフィードバックに苦しむ事になった。苦悶の表情が切嗣をおおう。
「さて、そろそろ終わらせるか」
そんな表情を堪能したのか、そう告げると、ラウラは切嗣に高速接近した。レールガンでは避けられる可能性がある。元が陸戦用の近接型ISであるため、確実な止めを刺すならプラズマブレードがいい。この期に及んでラウラは一切油断をしていなかった。
切嗣のコンテンダーに弾丸は装填されておらず、する暇もない。エネルギーは既に風前の灯火で、銃弾が掠めるだけで敗北は避けられない。おまけにダメージのフィードバックが彼の機動力すらも奪い、事実上切嗣は動きを封じられていた。
その事実を認識したのか、貴賓席にいた各国の大臣達は揃って談笑をし始めた。勝負は決まった。もう見る価値は無いと。
故に、彼等は決定的瞬間を見逃す事になった。アリーナ上方にあるソリッドビジョン式ディスプレイに結果が表示される。
『シュヴァルツェア・レーゲン。残量エネルギー0により敗北』
 
 

 
後書き
ステータス
衛宮切嗣。
使用IS : Silver Moon
Silver Moon
世代識別; 「親無し」
通常武装; キャレコ、コンテンダー、手榴弾等、聖杯戦争で用いた武装がメイン。キャレコ以外は改造されている。
固有武器; 多目的弾……様々な用途に合わせて弾を変更する事が出来る。
「力弾」……指数関数的に加速度が増加する。遠方の敵を狙えば狙う程、威力が増幅する。反面、初速度はほぼ0に近いのでゼロ距離で撃ったら、発泡スチロールを貫通させるのがやっと。また発射から大体80メートル直進するとエネルギー負荷により自壊する。
備考; シールドエネルギーの使用効率は最悪な代わりに、稼働効率は他の追随を許さない。また、質量が他のISとは比べ物になら無い程軽いので、瞬時加速を使用する際のエネルギーも、使用するまでの時間も極端に短い。
 
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