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真・恋姫†無双 劉ヨウ伝

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第117話 州牧制復活

 
前書き
更新遅れすみませんでした。
 

 
 劉協との邂逅から一週間が経過した頃、また皇帝陛下から宮廷へ招かれました。
 前回の内朝とは違い、今回向う場所は謁見の間ですから内密な話ということでないと思い、揚羽を連れてきませんでした。
 「車騎将軍ではありませんか?」
 謁見の間へ向う途中声を掛けられ、私を声の聞こえた方を向くと四十歳位の上品な女性が立っていました。
 「これはこれは宗正」
 朧げな記憶を辿りながら私は彼女に返事をしました。
 この前の西園軍の馬揃え式には出席していませんでしたが彼女は劉虞だと思います。
 司隷校尉時代に彼女のことを遠目から見たことがありますが直接話をしたことはありません。
 彼女の現在の官職は「宗正」。
 宗正は後漢の皇室親族の問題事を一手に管理します。
 早く皇帝陛下の元に向う必要があるのに皇族の重鎮とこんな場所で会うとは嫌な巡り合わせです。
 「急ぐので失礼します」とぞんざいに言うと不興を買って要らぬ恨みを買うかもしれないです。
 「車騎将軍が私を覚えていてくださるとは嬉しいですね」
 劉虞は優しい笑みを浮かべ、ゆっくりとこちらに向ってきました。
 彼女の服装は皇族の重鎮の割には華美ではなく上品な薄水色の絹の服を纏っていました。
 人に好印象を与えるとはこんな人物のことを言うのだと思います。
 前漢の皇族である私達は彼らにとって劉氏の宗室ですが、後漢の皇族でないので皇族ではないです。
 私と同じ前漢の皇族である劉焉、劉表も皇族でありません。
 前漢の皇族は後漢の時代優遇されていたわけではなく立身するには実力で這い上がるしかありませんでした。
 そのことも相まって前漢の皇族は後漢の皇帝への藩屏たる意識は低いです。
 中原で劉協が浪々の身の上のとき彼を助けにいかなったのが良い例です。
 ただ、この世界の劉焉、劉表がどのような身の上かは分からないので私の知識通りであるかはわかりません。
 対して彼女は後漢の東海恭王(光武帝の長男)を祖とする名門中の名門で、後に曹操が打ち立てた魏の劉曄とは遠戚に当たります。
 私と彼女では天と地程の差があり親密な友好関係を築く機会がなかったことは当然と思います。 
 「皇族であられる宗正のご尊顔を知らぬ者など居りましょうか」
 私は拱手をして劉虞に頭を下げました。
 今は宗正となり皇族の長老の存在といえる劉虞の不興を買いたくありません。
 「そう、畏まらなくてもいいのですよ」
 劉虞は私と数歩の距離に来たところで私に言いました。
 「いいえ、皇族であられる宗正に失礼があっては参りません」
 「私とあなたは同じ劉氏ではありませんか。あなたは私と同じ高祖のお血筋」
 劉虞は物腰柔らかに笑みを浮かべながら返事をしました。
 劉虞は私に何かようなのでしょうか?
 わたしは早く皇帝陛下のもとに急がないといけないのですが、早く解放してくれないでしょうか。
 「ところで車騎将軍は本日は何用なのですか? 車騎将軍であるあなたが宮中に居るのはおかしくはありませんが、普段宮中でなく地方に滞在されているので気になり失礼と思いましたが呼び止めさせてもらいました」
 「皇帝陛下に呼ばれまして、これから向う途上でした」
 「奇遇ですね。私も皇帝陛下に呼ばれて向う途中でした。ご一緒に向いませんか?」
 劉虞も皇帝陛下に呼ばれていると彼女から聞き、一週間前のことがあるので嫌な予感がしました。
 「畏まりました」
 「では、ご一緒に」
 劉虞と肩を並べて歩いていると、彼女の歩みの遅さに苛立ちを覚えました。
 亀のようにのんびりと歩くので、戦場で迅速な行動が常だった私にはストレスを感じます。



 「車騎将軍は皇帝陛下のご用に検討がついておいですか?」
 「宗正、皇帝陛下の深慮を家臣である私が推測するなどもっての他でございます」
 私は劉虞の質問を軽く交わしました。
 「ふふ。車騎将軍は真面目で居られるのですね。今回の呼び出しは太常の画策と聞いています」
 劉虞は私は微笑ましいように笑みを浮かべ上機嫌な様子で以外な人物の名前を出しました。
 現在、太常の地位に居るのは劉焉、彼は後の益州牧であり劉璋の父ですがこの世界では女だから母でしょうか。
 劉璋は存在するかはさておき何で劉焉なんでしょう。
 彼に関係することといえば「州牧制」です。
 もしや、私は州牧の任官で呼ばれたのでしょうか?
 「太常が画策とは?」
 「詳細は分かりませんが太常は皇帝陛下の周囲を忙しくしておいででした」
 劉虞は口元を扇で隠し、意味深な薄い笑みを浮かべていました。
 冀州も幽州も私の影響下に入っていますが未だに土地が荒れている上に匪賊が多いことが悩みの種です。
 地道にやっていくしか手がないのでしょうが、朝廷の権威が弱まっているのは確かです。
 州牧制はその状態を打破するために復活させた制度ですが逆効果な結果になりました。
 州内の行政と軍事を完全に掌握する州牧は大き過ぎる力になり朝廷に弓を引くことすら可能にします。
 高祖が封地を行なう際に郡国を上限にし王には劉氏以外は認めなかったのも反乱の危険性を詰むためです。
 州牧制は皇帝陛下にとって博打に近いものでしたが結果は言うまでもないでしょう。
 今日の呼び出しが州牧制の任官なのかはわかりませんが期待してしまいます。
 私は劉協の件でブルーな気分でしたが州牧へ任官されるかもと気持ちが高ぶりました。
 「車騎将軍、何か嬉しいことがありましたの」
 劉虞は私の様子を訝しむように私の表情を窺ってきました。
 「皇帝陛下のもとに参りますのに不謹慎ですが、皇帝陛下の御用がおわり次第、久方ぶりに姉上の元を訪ねようと思いまして」
 「ふふ、あまりに嬉しそうでしたので不思議に思いました。車騎将軍と侍中は姉弟仲がよろしいのですね」
 劉虞は私を見つめながら微笑ましいそうに言いました。
 「失礼いたしました。姉とは五年以上会っていなかったもので」
 「車騎将軍、いいのですよ。弟が姉を想うのは当然のことです。褒められることはあっても非難されることではありません」
 その後、私と劉虞は皇帝との面会の場である玉座の間へつくまでの間、何気ない会話をしました。

 

 玉座の間に到着すると劉焉、劉表、黄琬、張譲の四名がいました。
 劉焉、劉表、黄琬の三名は外見からして劉虞と歳も近いと思います。
 張譲は玉座の一段下に控え、私と劉虞を確認するとこちらに近づいてきました。
 「これこれは宗正、ご足労をおかけして大変申し訳なく存じます。車騎将軍もご足労をおかけいたしました」
 張譲は劉虞へは仰々しい挨拶を行ないましたが私には一応拱手をしていましたが軽く返事をしてきました。
 待遇の差を感じなくもありませんが、皇族と宗室の私では待遇の差があるのは当然ですし、もともと張譲と仲が良い訳でもないです。
 「皆様、皇帝陛下をお呼びいたします。しばし、平伏してお待ちください」
 私達は張譲の指示通り、玉座を正面にして平伏をすると皇帝が来るのを待ちました。
 着座の順は左から劉虞、劉焉、劉表、私、太僕の順です。
 皇帝が来るまでの時間が凄く長く感じました。
 海千山千の政治家である彼女達の前では私はお子様なのでただ皇帝陛下を待っているのは正直心労です。
 皇帝陛下、早く来ないでしょうか。



 「皇帝陛下のお〜な〜り〜!」
 静寂を破ったのは宦官の声でした。
 皇帝陛下が来られたことを知らせる宦官の声が聞こえてから暫くして玉座に誰かが座りました。
 「皆、よく参ってくれた。面を上げよ」
 皇帝陛下の声が聞こえたので言われるがまま頭を上げました。
 彼は私達の顔を左から順に見ると口を開きました。
 「今日呼んだのは他でもない。朕は『州牧』の官職を復活させようと思っている」
 私を含め劉虞、劉表は皇帝陛下の言葉に驚いていました。
 私は驚いている振りをしたまま劉焉へ視線を送りましたが、彼女は全然驚いている素振りもありませんでした。
 彼女が「州牧制」の発起人ということで間違いないでしょう。
 彼女のおかげで都から堂々と離れることができます。
 皇帝陛下も私を呼びつけ州牧の話を持ち出す以上、私だけ州牧から外すなんてことはないと思います。
 任地は何処でしょう。
 せっかく地盤を築きつつある冀州から離れるのは御免被りたいですが、劉虞が居るということは幽州に劉虞が入り込むということになります。
 私が冀州牧になると背後に劉虞を配されることになり私は迂闊に劉協を排す真似ができなくなります。
 まだ、劉虞も私も任地が決まっていないので何ともいえません。
 「皆が驚くのも無理はない。昨今の匪賊の反乱により朕の土地が荒れ果て人心が乱れきっておる。この由々しき状況を打破するには有能な人材の力を結集せねばと考えたのだ。だが、州牧は皆知っている通り大きな力を持つ官職である。この重責に耐えられるのは日頃より清廉と唱われる其方等しかいないと朕は思った。今日、其方等を呼んだのは州牧の任官を行いたいと思ったからだ」
 皇帝陛下はそう言うと張譲に視線で合図し張譲は後ろに控える宦官に指示を出しました。
 「劉虞、其方を幽州牧に任ずる。印綬を受け取るがいい」
 「皇帝陛下、謹んでお引き受けいたします」
 やはり劉虞は幽州ですか。
 「劉焉、其方を益州牧に任ずる。印綬を受け取るがいい」
 「皇帝陛下、謹んでお引き受けいたします」
 「劉表、其方を荊州牧に任ずる。印綬を受け取るがいい」
 「皇帝陛下、謹んでお引き受けいたします」
 「劉ヨウ、其方は年若なれど冀州、幽州での異民族鎮武の功と華北の情勢に明るい人物と見込み特別に冀州牧に任ずる。印綬を受け取るがいい」
  私の名が呼ばれると私の目の前に台が置かれ、次に印綬の入った箱が置かれました。
 「皇帝陛下、謹んでお引き受けいたします」
 私は興奮で震える手で印綬の入った箱を手にしました。
 私が冀州牧です。
 私がとうとう冀州牧になりました。
 私は興奮を抑えることができませんでしたが、皇帝陛下の狙いがはっきりとわかりました。
 劉虞を私の背後に配し、彼女に私を監視させつつ私が劉協に叛意を抱かないように牽制するつもりなのでしょう。
 当然と言えば当然の処置だと思います。
 皇帝陛下は私を信じきってはないのです。
 劉宏は暗愚な皇帝であると思っていましたが馬鹿ではないということがよくわかりました。
 今後、劉虞という頭のコブをどうするかが問題になると思います。
 少なくとも反董卓連合を結成し武力を持って洛陽を占領するまでは劉協を立てなければならなくなりました。
 いえ、劉虞が存在する限り劉協を悪し様には扱うことができなくなりました。
 私は皇帝陛下の思惑に歯嚙みをしました。
 当面の課題は劉虞を排すことですが、劉虞を直接排せば私の名声は地に落ち大陸統一の夢は適わないでしょう。
 私の頭に重い課題がもたげました。
 「黄琬、其方を豫州牧に任ずる。印綬を受け取るがいい」
 「皇帝陛下、謹んでお引き受けいたします」



 皇帝陛下は私達に印綬が行き渡ることを確認すると満足そうにしていました。
 「皆、朕の威光を各々の地で知らしめてくれ!」
 皇帝陛下は私達に印綬がわたるのを確認すると私達に檄を飛ばしました。
 「は! 皇帝陛下のご威光を我ら必ずや任地にてあまねく知らしめてご覧にいれて見せます」
 州牧となった私達は声を揃へ言いました。
 ともあれ私の目指す夢に一歩進み出ることができました。
 前途は多難ですが私は一人ではありません。
 麗羽、揚羽、冥琳、私に付き従う家臣と共に動乱の時代を生き抜き、必ずや大陸を統一してみせます。

 皇帝陛下は私達へ檄を飛ばした後、劉虞に視線を送りました。
 「劉虞、最果ての地である幽州へ其方を送るのは忍びないと思っている。劉ヨウ、其方は幽州と冀州の情勢に明るい。劉虞の力になって欲しい。劉虞も困ったことがあれば劉ヨウを頼るがいい」
 「お気遣い無用にございます。皇帝陛下のために働くは皇族として家臣として当然の努めでございます。冀州牧、私は地方の情勢に疎いこともあり迷惑をかけることもありましょうが力をお貸しください」
 劉虞はそう言うと私に頭を軽く下げてきました。
 「私は若輩の身でございますが幽州牧のお役に立てることできればご尽力させていただきます。逆に幽州牧のお力をお借りしたい時はよろしくお願いたします」
 「冀州牧、私の力でお役に立てることができればお力になりたいと思います」
 劉虞は柔和な笑みを浮かべ私に言いました。
 うがった見方かもしれませんが劉虞が善人にしか見えまないことが心にひっかかります。
 そんな完璧な人間がいるものでしょうか?
 私の知識の中で劉虞が公孫賛に敗れた時、劉虞自身はボロ服を来ていましたが妻子が豪奢な服に身を包んでいたと言います。
 歴史など権力者に脚色されて記述されるので何処まで信用できるか分かりませんが、この世界の劉虞が私の知る劉虞と異なるにしても念のために気をつけたほうが無難だと思います。
 転ばぬ先の杖とも言いますしね。 
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