とある誤解の超能力者(マインドシーカー)
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第3話 対メカ戦術
意識を取り戻した牧石は、周囲の状況を確認する。
「どう、やら・・・・・・、保健、室の、よう・・・・・・、だな」
牧石は全身に強いダメージを受けていたため、言葉がすぐにでてこない。
牧石の声に気がついたのか、離れたところから女性の声が聞こえる。
「ええ、それで正解よ、牧石啓也君。
私は、養護教諭の漆原牧子よ。
この学校に赴任してから2年目だけど、牧石君みたいな生徒は初めてね。
普通なら、君みたいに全身のダメージを受けたら、救急車で病院に運ばれるのが普通なのに、ここで警備員の監視下におかれるなんてどんなことをしたのかしら?
もっとも、事件性が高ければすぐに明らかになるのでしょうね。
でも、君の身元が確認された段階で、警備員がいなくなったのはなぜかしら?
君の身元が、当初警備員が考えた内容と異なるのであれば、君はどのように勘違いされたのか非常に興味があるわ。
あなたが、あの牧石君であることを知らないこと事態が、おかしな現象だし、超能力でも使用したのかしら?
でも、人の記憶を操る超能力は、基本的に市の許可がでない限り使用できないはずだから、おかしいわね。
ねえ、牧石君。
君はこのことについて、どう考えているの?
この前の詐欺事件を解決したという、あなたの考えを、是非とも知りたいわ。
ええ、もちろん、あなたが詐欺事件を解決したことについては、秘密事項になっているわね。
でも、その程度の秘密なんて知ろうと思ったら、すぐわかるものよ。
だいたい、君が半年もたたずにレベル5に到達したこと自体、特異なことなのよ。
養護教諭としても、私個人としても非常に興味があるわ。
あら、ごめんなさい。
君のような、かわいい顔を見るとつい、変なことを言ってしまったわ。
私の悪い癖だけど、こんな私の事、嫌いになるわよね?
いいわよ、別に気にしなくても、いつものことなのだから。
だけど、私は一度ねらったものは逃さないタイプだから。
安心していいわよ。
私は経験豊富だから、優しく教えてあげるわよ。
今の君は、体が動かせないのだから、すべて私に任せてもらえないかしら。
それではさっそく……」
漆原は、マシンガンも真っ青なほど早口でしゃべれたてると、牧石の目の前で白衣のボタンに手をかける。
「うちの生徒に手を出すなんて、よい度胸ね」
牧石の担任である、高野が漆原の行動を制止した。
「あら、高野先生、こられたのですか?
あまりにも遅いから、てっきり自分の教え子ではないと、職務放棄をされたのではと思っていました。
もっとも、高野先生のことですから、自分の教え子ではなくても、子どもであれば、しっかりと面倒を見るタイプだと思っていますよ。
そういえば、高野先生は結婚してから3年たちますが、お子さんは作られないのですか?
不躾だとは思いますが、普通の夫婦の営みをされているにも関わらず、子どもができないのであれば、良い病院を紹介しましょうか?
サイキックシティの医療技術は、確かに世界の最先端ですが、診察が遅くなれば出産リスクは高くなりますよ。
牧石君、顔を赤くする必要はありません。
こういったことは、確かに学業の成績にあまり反映されないことかもしれません。
ですが、牧石君と牧石君との将来の結婚相手のことを考えるのであれば、決しておろそかにしてはいけないのです。
恥ずかしいからといって、知らなかったり、偏った知識ばかり持っていたりすると困るのは牧石君になりますよ。
まあ、あまり心配はいりません。
今でしたら、この私が手取り足取りで、実技を交えながら……」
「牧子、何言っているのよ、そして勝手に人の家庭事情を暴露しないの!」
普段は温厚で知られている、高野先生が怒りに燃えていた。
普段怒ることのない人が怒ると、よけいに怖く感じると、牧石は思った。
「あら、先生という漢字は、先に生きるとあるとおり、先人の知識を後輩に教えるという意味があります。
それならば、私たちの経験をこのかわいい後輩に伝えることは、先生としての義務だと思います。
実際、そのためにはいくらでも肌を脱ぐ覚悟ができています。
もっとも、実際に脱ぐのは、肌ではなく、服を脱ぐことになりますが。
せっかくですから、高野先生も私の授業を受けてみてはいかがですか?
高野先生の勉強になるのはもちろん、私にとっても同性の反応がどうなるのかという点に非常に……」
「牧子!
出て行きなさい!」
高野は、漆原を追い出した。
「まったく、牧子は変わらないわね。
気をつけなさいよ、牧石君。
牧子はレベル5以上の相手なら、誰でも絞り尽くそうとするから」
「……、絞り、尽くす……」
牧石は、体が動かないにもかかわらず、ごくりと唾を飲み込む。
「牧子は、第3区にある能力進化研究所に勤めていて、ここは、養護教諭の育休の代替として非常勤で来ているの」
高野が、真剣な目で牧石に向かう。
「牧子は、高レベルの能力者の精子や卵子を採取して研究しているの。
そのためなら、どんなことでも平気でするわ。
牧石君、搾乳機って知ってる?」
高野が、牧石に質問する。
「テレビで、見たことが、あります」
牧石は、牧場の中継映像を思い出しながら答える。
「あの、機械を改良して搾り取るのよ、牧子は。
牧子のせいで、視覚に女性が入っただけで気絶する子も出たわ。
だから、牧石君も気をつけてね」
「わ、わかり、ました」
牧石は素直に頷いた。
「説明に入る前に、最初に謝っておくわ。
ごめんなさい」
「い、いえ、別に先生の、家庭生活に、興味は、ありませんから」
牧石は次第にはっきりとしゃべれるようになってきた。
「その話ではありません!」
高野は、牧石をにらみつける。
「……すいません」
勘違いした牧石は素直に謝る。
「私が言いたいのは、あなたも牧石啓也だということがわかったからよ」
「僕も?」
「「牧石啓也」という、同性同名の二人の情報がなぜか、混在しているの。
そのため、今日の悲劇が起こったの。
現在、警察と市役所が調査しているのだけど、未だに原因はつかめていないの」
「そう、ですか……。
いや、あいつはロボじゃないですか。
空も飛んでいましたし……」
「牧石君。
もうひとりの牧石君に、変なことを言わないで!
牧石君は、転入生だから知らないと思うけど、サイキックシティの科学力なら、脳味噌さえ無事なら、なんとか生きることができるの。
それをロボットなんていったらだめです。
もう一人の牧石君も、立派な人間なのです」
「すいません」
牧石は、少年が自分の事を「アンドロイド」と言ったことを思い出したが、ここは素直に謝った。
「わかればいいのです」
「ところで、もう一人の牧石は?」
牧石は、高野に質問する。
「彼ならば、反省文を書いてもらっています」
「そうですか……」
牧石は、もう一人の牧石が軽い処分ですんだことを疑問に思ったが、この場では言わなかった。
おそらく、自分の事を牧石啓也という名前を語る、外部からの進入者と勘違いしたことと、全身に受けたダメージはそれほど重くなかったことが原因だろう。
全身が筋肉痛に近い痛みがかけ巡っているが、骨などには異常を感じなかったからだ。
そして、牧石は考えた。
自分には、戦いに特化した超能力を持っていない。
相手の思考を読んだりする能力は、本来であれば役に立つのだが、対サイリーディングアイテムが存在する以上、肌に触れない限り活用できない。
逆に肌に触れる距離まで近づけば、寝技や間接技の応酬で役に立つかもしれないが、打撃技には反応できない。
牧石は、超能力で何らかの攻撃手段を身につける必要性を感じた。
できれば、汎用性が高く、もう一人の牧石を打ち倒せるような強力な超能力が。
牧石は、前世で見ていたアニメを思い出す。
「力のベクトルを変えるのも汎用性が高いが、イメージが浮かびにくい。
やっぱり、電撃が解りやすくていいか。
彼女のパクリになるが、会ったこともないし問題あるまい。
そういえば、他のレベル5の話をあまり聞かないな?」
牧石は、ベッドの中で疑問に思った。
学園都市の中であれば、レベル5の噂が言われていると思っていた。
だが、サイマスターグルー以外で高レベルの超能力者の話を牧石は聞いたことが無かった。
「それよりも、あたらしい能力の開発だな」
牧石は、新しい能力の開発を決意する。
「いけません」
そばにある椅子に座っていた、高野が牧石の言葉を否定する。
「今日は、放課後まで休んでいなさい」
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
高級マンションの一室。
テーブルや床に散乱している書類。
散乱する書類の中心で、右手で顔を覆いながら考えごとをしているやせぎすの男、天野。
右手の指と指の間から見える視線は、憎しみと狂気で満たされていた。
「俺に、けんかを売るとは、良い度胸だ」
右手で隠すことのできない天野の口元は、残酷な意志が込められていた。
「打ち倒してやる。
この手ですべてを」
天野は、右手を前に出し握りしめた。
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