とある誤解の超能力者(マインドシーカー)
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第2話 敗北
「君は、どうしてそこにいるのだね?」
先生の言葉を受けて牧石は、少年のほうに言葉を続ける。
「君は、別の教室と勘違いしているようだけど、ここは1ーCの教室だよ?」
牧石はやさしく、少年に声をかける。
少年は、牧石に視線を移すが、口はふさがったままだ。
そのかわり、先生が答えた。
「わかっているなら、話が早い。
君は、ここが1ーCの教室であることを知りながら、どうして、ここにいるのかね?」
「どういうことですか?」
牧石は先生の方に向き直る。
1ーCの担任である、高野槙(こうや まき)は、見た目は若い普通の新任の女性教師である。
初々しい、スーツ姿とか、施されている化粧の種類が「肌をごまかす」という目的ではなかったりすることとかからも想像できる。
だが、高野の生徒に対する口調は気さくで、何年も生徒たちとやりとりしてきた内容であった。
その口調は、本来受け持つ生徒である牧石にも向けられるべきものであるはずだったが、実際には異なっていた。
「君は、うちのクラスの生徒に何を言っているのかな?」
高野の言葉には、少し堅いものが見える。
「確かに君の姿は、少し前の牧石によく似ている。
だが、本物がここにいる以上、偽物は帰ってくれないか?」
「偽物?」
牧石は、目の前にいる少年に視線を移す。
服装は、暑いこの時期にも関わらず長袖を着ていること以外は普通で、黒い学制服や下駄をはいているわけでもない。
少年の背中に、ぜんまいがついているわけでもない。
ただ、手首についているわずかな隙間があった。
「僕が本物じゃないですか。
この子の腕は……」
「君は、俺を怒らせたいのかね」
目黒が牧石を睨みつける。
「啓也の手は、子猫を助けるためにトラックに曳かれた時に失ったものだ。
君は、腕が生身で無いと言うことだけで、牧石全体を否定するのかい?
啓也の子猫を救うために取った行動を、偽物だと言うのかい?」
目黒の言葉は、説得力のある内容であった。
だが、牧石は自分が牧石であることを知っているので納得はできない。
「目黒。
じゃあ、銀色の足も同じことなのか?」
牧石は、少年の足をしめしながら、目黒に指摘する。
「それは、別のけがだ。
落下する鉄骨から少女の身を守るために、犠牲となったのだ」
目黒の口調は攻撃の度合いを強める。
「ならば、この顔はなんだ?
最後にあってから大きく顔が変わっていることになぜ、気が付かない?」
「にせ牧石くん。
彼の顔は、火事に巻き込まれた女性を助けるためにやけどして、整形をしたものなのだ。
へんな言いがかりは、よしてくれ」
目黒は、牧石をにせもの扱いした。
「よく考えろ、目黒。
こいつは昨日、目黒の宿題を手伝ったかもしれないが、それだけで牧石と断定できるのか?
それに真惟ちゃんは、僕のことをちゃんと牧石と認識したぞ」
「そうか、偽物よ」
目黒は、肩を震わせながら牧石を睨みつける。
「貴様は、目の前の牧石だけでなく、俺の大切な妹に手を出したのだな。
許さない」
目黒はたちあがり、牧石に近づく。
「め、目黒、待ってくれ。
僕や君の妹の為に怒ってくれたことに感謝する。
ただし、これは目の前の牧石との本質的な問題だ。
頼むから、僕の前で暴力を振るわないでもらいたい」
「そうか、そうだな」
目黒は、怒りを抑えきれないまま、それでも再び椅子にすわった。
「さて僕も君も、両方とも自分の事を本物だと思っている。
どうすればいいのかな?
ふたりとも、本物というオチや二人とも偽物で3人目が登場するという展開はないだろうから、どちらかが偽物でもう一人が本物ということになるね」
「そうだな。
牧石啓也は、僕一人で十分だ。
偽物という名称もおもしろくない」
牧石は少しだけ考えると、
「君には、メカ牧石……」
牧石は目の前の少年に名前を付けようとして、
「メカって、言うな!」
少年に吹き飛ばされた。
牧石は、全開になっていた窓から仰向きになって外に飛び出す。
牧石は、少年から繰り出された右の拳が回避できないと認識した時点で、衝撃を回避するために背後の窓に向かって自らを飛ばす。
教室が2階であること、地面が、夏休みの間に整備が施されなかったために延び放題となっていた芝生であった点も考慮にいれていた。
「超魔召喚をしていなければ、やられていたよ」
牧石は起き上がると、ズボンについた草を追い払う。
牧石は、夏休みのあいだ、サイランドで「超能力者が魔法世界に召喚されたようです」略して「超魔召喚」をクリアした。
それは、超能力の修行のためだけに行ったものではない。
「とある魔術の禁書目録」の原作で発生した事件に巻き込まれても対応できるようにするためだった。
直接的な戦闘能力を得るために、「仮面の男」というキャラクターを選択し、ゲームの世界で戦闘を行っていた。
今の牧石の戦闘能力なら、サイキックシティの軍隊を相手に戦うことも可能だ。
「そうか、面倒だな」
少年は、二階の窓から飛び出すと、空中で制止していた。
牧石は、少年が飛行の超能力を持っていると思ったが、少年の背後に見える、白い物体でそれを否定する。
「……」
少年は、空中浮遊を可能にするためのユニットを装着していた。
白くて細長い4本の推進機構で構成された飛行ユニットは、少年の背中から羽のように生えて、先端から赤い光を確認することが出来る。
少年が装着により取り付けているのではなく、少年の銀色の背中に直接接続されていた。
「君に戦闘能力があるとは思わなかった。
君を無力化したほうが、お互いにとってよかったのだが……」
「ふざけるな、偽物。
これで、君がロボだと思うだろうね」
牧石は少年の背中を指摘する。
「僕をロボと言うな!」
少年は、背中にある推進ユニットから、赤い光を大きく噴出させながら突入してくる。
「!」
牧石は、すばやく少年の軌道を予測すると腕を構え、カウンターがねらえるようにしていた。
少年は牧石に接近する直前で、推進ユニットを制止させ、牧石の予測をはずそうとするとともに、右足を振りあげ、牧石の胴をなぎ払うように繰り出す。
牧石は、攻撃に備えていた拳を素早く下げて防御に回る。
牧石にとって、相手のこの攻撃は予測されていた内容の一つだ。
単純に腕でだけで、蹴りの衝撃を緩和する事ができないことから、相手の攻撃にあわせて後ろに動くことも忘れない。
だが、打撃の威力を弱めるため故意に後ろに動いたことで、牧石はわずかに体勢を崩す。
そして、攻撃を回避された少年の追撃は終わらなかった。
少年は、いつの間にか右手を取り外すと、そこから光を凝縮していた。
「レーザーだと……」
牧石は、少年が光を収束させ自分に向けられたことを認識した直後に意識を失った。
少年は、意識の失った少年に対してつぶやく。
「僕は、ロボなんかじゃない。
僕は、アンドロイドだ・・・・・・」
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
超能力開発センター北川副所長室。
天野が研究所に到着して、最初に訪れた部屋であった。
所長を研究計画の面からサポートする役割を担う北川は、人的資材の確保や計画の統括責任者であった。
その副所長室は、3人の秘書が副所長のスケジュール、人事関係の連絡調整、研究計画の連絡調整の役割を果たすため、室内の机の上で作業を行っている。
また、小規模な会議室も併設されており、簡単な研究発表や、緊急時の対策本部の役割を担うことも出来る。
所長になんらかの事態が発生した場合に、スーパーコンピューター「エキドナ」を解放し使用することも出来る。
北川は、別用のため所内にいることを、秘書から告げられた天野は、応接用のソファーに身をゆだねて、思考の海を漂っていた。
天野は、自分の考えた研究プランを直接所長に提示することを考えたが、北川副所長から面会を求められたことから、考えを変えた。
北川にプランを提出し、受け入れてもらうことにした。
北川は、研究に必要な資源管理の最高責任者である。
所長から、直接的な命令がない限り、北川は自由に研究計画を指揮出来る。
所長に直訴するよりは簡単だと考えながら、天野は北川の到着を待ちわびていた。
天野が副所長室に入ってから10分後、北川副所長が入室した。
「またせたかね、天野君」
残暑の厳しさにも関わらず、白衣の下に紺のスーツを纏った北川が、天野に声をかける。
「待ちましたよ、北川副所長」
天野は、ソファーから身を起こすと、北川に向き直る。
「それは、すまない」
北川は、表情をわずかに曇らせると、手にしていた用紙を天野に手渡す。
「お疲れさま。
君の新天地での活躍を期待しているよ」
北川は、用事が終わったとばかりに、自分の机に座る。
「……、解雇予告書だと……。
どういうことです!」
手渡された用紙を読み上げた天野は、北川に向けて怒鳴った。
「天野君。
記載内容のとおりだよ」
北川は冷静に答える。
天野が受け取った、解雇予告書には次の内容が記載されていた。
研究中止によって、雇用を打ち切ること。
当初予定していた研究期間中に支払う予定であった報酬を支払うこと。
研究中に発見した研究結果や技術に関する特許権はすべて天野が権利を持つこと。
一般的な、解雇予告書に比べて優遇されている内容が記載されているが、天野は納得してはいなかった。
「なぜ、解雇されるのだ!」
天野は、北川に迫った。
「君の研究が不要になったからだ。
もともと、この研究所に君の研究は不要だった」
北川は、あくまで冷静に天野に対応する。
「なんだと!」
「君の研究は、エキドナの本来の使用を隠蔽するために必要だったのさ。
別に、他の研究でもかまわないのさ」
「それでは、あいつらはどうなる!」
「あいつら?」
北川は眉をひそめた。
「しらばっくれるな、磯嶋とあのクソガキの事だ!」
北川は、天野の具体的な言葉によりようやく理解すると、ゆっくりと答えた。
「・・・・・・ああ、磯嶋君のことか。
磯嶋君は、草薙研究所に出向して、ここにはいない」
「なんだと……」
天野は驚きの表情を隠せない。
天野は、磯嶋が自分の代わりに研究所に残っていると確信したからだ。
「君のいう、クソガキというのが、牧石啓也君というのであれば、彼も研究所にはいないよ。
今頃、学校にいるのでは?」
北川は、どうでもいいような口調で天野に教える。
「研究対象を放置していいのかよ?
あのガキは、二人目の全問正解者だろ?」
「たしかに、牧石君は全問正解した。
だが、それは『特異な条件下でのみ使用できる能力』であって、一人目の時とは事情が異なる。
……現時点で、彼は研究対象から外れている」
「……なんだと?」
天野は自分の考えを再修正する。
天野の計画は、提案する前に解雇という形でつぶされた。
そして、天野の敵である磯嶋と牧石はここにいない。
普通に考えれば、天野は再就職を考えることだろう。
だが、怒りに駆られている天野にとって、そんなことよりも重要な事があった。
そのための、手段を計算し始めた。
「いずれにせよ、研究所とふたりとは関係ないという事だ」
「そうか、わかった」
天野は、頭のなかで新たな計画を構築し、立ち上がる。
「今は、見逃してやる。
ただし、覚えておけ、貴様は後回しにしてやる」
天野は捨て台詞とともに、部屋を出る。
「そうですか、気をつけて」
北川は、立ち上がると天野を見送った。
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