葛葉
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「あははははははははは!!!やだってば、くずは!くすぐったいってばぁ!!」
耐えかねてあたしがそっぽを向くと、葛葉も負けじとあたしの顔を追う。べろべろとあたしの顔を飽きずに舐める葛葉の頭をあたしはぺしぺしと叩いている。
「?瑠螺蔚?」
「あ、にいさま!!」
葛葉とあたしに影が差す。ぱっと顔をあげると兄様がいた。
今日も兄様は女子みたいに『うるわしい』。意味はよくわからないけれど。
あたしは葛葉を押さえ込んで、畳から起き上がった。
「それがこの間連れて来たって言う・・・」
「うん!!くずはだよ!るらいのいもうとなの!」
「瑠螺蔚の妹か。なら僕の妹でもあるわけだ。挨拶しておかないと」
兄様が近寄ってきて、葛葉を覗き込む。
「・・・・・・・・・」
「にいさま?」
「瑠螺蔚、葛葉を抱いてもいいかい?」
「いいわよ?」
兄様にはいと渡した葛葉はまるで借りてきた猫のように大人しくしていた。
兄様は、葛葉をジーッと見つめている。その瞬間、あたしははっとした。
そういえば、前に、「俊成に見つめられて好きにならないこはいない」って誰かが言っていた気がする・・・。
「にいさま、くずはのことすきになっちゃったの?だめよ。くずははるらいのいもうとなの!にいさまにはあげないんだから!!くずはとにいさまがけっこんしたらるらいは、るらいは・・・・あれ?るらいはくずはのおねえさんだからにいさまのおねぇさまになるの?でもるらいはにいさまのいもうとだからくずはのいもうとになるの?あれ?あれ?」
うーんと悩んでいるとあたしの頭の上に兄様の手がぽんと載った。
「・・・・・・・・瑠螺蔚。ひっじょーに言いにくいんだけど・・・」
「なぁに?にいさま」
「葛葉は女の子じゃなくて男の子だよ」
「え?」
「だから葛葉は瑠螺蔚の弟だね」
あたしはがばりと跳ね起きた。
「うそ!?にいさまうそついてる。くずははおんなのこだもん!!」
「瑠螺蔚・・・」
「うそよ!うそつくにいさまなんてきらい!!だいきらい!!」
憤慨したあたしはそう叫んで襖を蹴り倒すと駆け出した。
「瑠螺蔚!」
兄様の声が追ってきたけど、止まってなんか、やらないんだから。
「瑠螺蔚!」
それでもあっけなくあたしは兄様に掴まってしまった。
足には自信があったのに。やっぱり、兄様には敵わない。
「うそ、うそだもん…。にいさまなんてきらいなんだから………」
「瑠螺蔚」
涙で濡れそぼった顔。頬にあふれる涙を兄様が優しく袖で拭いてくれる。
「男の子はだめなの?弟は欲しくないの?」
「たか、あきらが、いるもん・・・」
「高彬は弟じゃないだろう?似たようなものだとは思うけどね」
「いもうとがほしかったの!!」
「どうして?」
「たかあきらが、ゆらとあそんでたの・・・。ゆらによしよし、ってしてあげたりしてたの・・。るらいもゆらみたいないもうとがほしかったの!」
「高彬が弟なら、由良は瑠螺蔚の妹じゃないの?」
「ゆらも、そうだけど・・・。ゆらとはあんまりあそべない・・・」
「由良は赤子の頃体が弱かったからね。北様が心配して外にあんまり出さないんだよ」
「だから、いもうとがほしかった、のに・・・」
「瑠螺蔚、妹じゃなくなった葛葉はいらない?弟が二人では嫌?いらないのなら捨ててこようか?」
「!ダメ!」
「どうして?」
「・・・・・・おとうと、ふたりいても、わるくない、かも」
「そうだね。妹は母上に頼もうか」
「うん」
ふわりと優しく笑って差し出された兄上の手を、あたしはきゅっと握った。
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