葛葉
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出会い
「はなこは?」
「いやよ。このこはく・ず・は。もう決めたの!!あんたってほんとバカね」
そう言うと、高彬の顔がへにゃ、と歪む。
「うぅ・・・」
「なきむし」
その高彬の頬を、大人しくあたしの腕の中にいた真白な子犬がぺろりと舐めた。
「・・・・くずは?たかあきらのみかたするの?」
驚いたように舐められた頬を押さえていた高彬は、葛葉を見て、ゆっくりと笑顔になる。
「はなこ!!」
「くずはだってば!!」
だいたいそんなふるくさいなまえいまどきいぬにだってつけないわよ。あんたしゅみわるいわ。そう言いきってやると、一度は笑顔になった高彬の顔がまたくしゃくしゃになる。
べしょべしょしている高彬を、必死に舐めて慰める葛葉。
「・・・・・・ふん、だ」
あたしは鼻を鳴らして葛葉を高彬に押し付けた。驚いて泣き止んだ高彬が葛葉を咄嗟に抱くけど、力の加減がてんでわかってない。葛葉は苦しがって暴れて、高彬をがりがりと引っかいた。
顔を引っかかれて、高彬は葛葉を取り落とす。そして大声で泣き出した。
葛葉はキャンと一声鳴くと、高彬から離れたところまで走って離れた。そして毛を逆立てて高彬を威嚇する。
「まったくしょうがないわねぇ。くずは、おいで」
葛葉に向かって手を差し出すと、葛葉は差し出された手を見て、洪水のように泣いてる高彬を見て、そしてまたあたしの手を見た。
「るらいはたかあきらみたいにおとさないわよ」
あたしは葛葉に近寄って、ゆっくりと葛葉を抱き上げた。葛葉は抵抗しなかった。
「ひどいたかあきら。くずははたかあきらをなぐさめてあげたのに」
「だ、だって、だって、ぼく、ぼく・・・」
しゃっくりしながら泣き続ける高彬の頬に出来た引っかき傷から滲む血を、あたしは手のひらで拭ってやった。
「ほらもうなかないの。くずはももうひっかいちゃだめね。ふたりともなかなおりしなさい。たかあきらごめんなさいは?」
「ごめん、なさい・・・・はな、いたっ!・・・くずは」
「くずはは?ごめんなさいは?」
葛葉が高彬を警戒しつつも、くぅんと鳴いて、その場は一件落着。
あたしは片手に葛葉を抱いて、もう片手に高彬の手を引いて、家路に着く。
「くずは、るらいとたかあきらどっちがすき?」
「くうん」
「うん。るらいもくずはがすきだよ」
「るらいさんぼくのことは?」
「あんたキライ」
「なんで!?」
「なきむしだから」
「なんでぇ・・・」
「ほらまたすぅぐそうやってなくんだから。るらいはもっとにいさまみたいにかっこいいひとがすきなんですー」
「わん」
「ん?るらいはくずはもすきだってば。え?にいさまと?う~ん・・・。くらべられないなぁ・・・。どっちもだいすき」
「るらいさんぼくは!?」
「だからあんたはきらいだって。いまるらいはくずはとはなしてるの~。じゃましないでよ」
「るらいさぁん・・・」
「くずははおんなのこだからぁ・・・。るらいのいもうとにしてあげるね!るらいはにいさまはいるけどいもうとはいないから!!ね!」
「わん」
「よろしくね、くずは!」
それはまだ母上が生きていた頃のおはなし。
高彬といつものように遊んでいるときに小さな小さな子犬を見つけて、名前をつけて、家につれて帰って。
それはそんなちいさな葛葉のお話。
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