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スーパーヒーロー戦記

作者:sibugaki
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第64話 第二次日本攻略作戦(前編)

 薄暗いゴルゴムアジトに設置された玉座に鎮座する者が居た。全身銀色のヨロイで身を固め、その顔は昆虫のそれを思わせる緑色の巨大な目と鋭い牙を模したデザイン。そして何よりも頭部に聳え立った二本の触覚がそれを連想させた。
 三神官の天、地、海の石を使い目覚めた新たな世紀王シャドームーンが今、創世王の座るべき玉座に座っていた。
 彼の腰に巻かれているベルトにはその目と同じ色の光が埋め込まれている。彼もまたキングストーンを埋め込まれたのだ。
 だが、光太郎のとは違い彼にはかつての、秋月信彦としての人格はほとんどない。あるのはゴルゴムの世紀王であり次期創世王としての人格のみだ。

「聞け、ゴルゴムの怪人達よ! ビルゲニアは無様に散った。今日より私がゴルゴムの全権を指揮する」

 片手を上げ号令を挙げる。それに伴い怪人達からは歓喜の声があがる。視線を目の前に下げる。其処には不気味なオーラを出す三人の神官が跪いていた。
 シャドームーン復活の為に自分達の命とも言える三つの石を差し出した三神官。ダロム、バラオム、ビシュムの三人である。本来ならば石を使いきった為に消滅する筈なのだが彼等はシャドームーンの力によりこの世に留まっていたのだ。
 
「三神官よ、お前達のお陰で私は目覚めた。そのほんのささやかな礼として、私の力の一部を貴様等に授けよう」
「おおぉぉぉぉ」

 三神官達が溢れ出る力に震えた。想像を絶する程の力が体の内から湧き出ているのだ。素晴らしい力であった。
 全くもって素晴らしい力としか言い様のない事実が其処にあったのだ。
 それに伴い、三神官達の姿が徐々に変わっていく。
 ダロムは三葉虫を思わせる姿の怪人になり。
 バラオムは狂犬、もしくは狼を模した姿をした怪人となり。
 ビシュムは蝙蝠を模した姿の怪人となった。

「今日より貴様等は大怪人と名乗るが良い。その力があれば裏切り者ブラックサン、嫌、仮面ライダーブラックとて恐るるに足りない」
「あり難き幸せに御座います」

 ダロムを筆頭に三大怪人が頭を下げて跪いた。その光景を見てシャドームーンはとてもご満悦であった。
 既に次期創世王は決まったも同然だったからだ。全ての怪人達は私に忠誠を誓っている。だが、それだけでは創世王は満足出来ていない。
 やはりキングストーンを手に入れねばならないようだ。でなければ自分もいずれは今の創世王の様な姿となってしまうのだろう。それだけは御免だ。

「シャドームーン様、早速我等に出陣のご指示を! 必ずや憎き仮面ライダーの首をシャドームーン様の元へ謙譲致します」
「まぁ、そう慌てるな」

 血気にはやる怪人達を一先ず宥める。玉座から立ち上がり数歩歩いた所で壁に取り付けられたボタンを押す。すると巨大なスクリーンが現れる。
 其処に映っていたのはデストロン最高幹部であるヨロイ元帥の姿であった。

「これはこれは、次期創世王様自らとは恐れ多い事に御座います」
「挨拶は抜きにしよう。ヨロイ元帥殿、早速例の話に移るとしよう」

 頷き、話が始まる。それに対しその場に居た怪人達はうろたえだした。無理もない。天下のゴルゴムがまさかデストロンと結託したと言うのだから。

「しゃ、シャドームーン様、これは一体?」
「見て分からんか? 我等ゴルゴムとデストロンは今日より同盟を組むのだ。相手は同じ仮面ライダー。問題はあるまい」

 簡潔にそう返された。だが、それを聞かされた三大怪人達は黙ってられない。そんな事をしたらデストロンに良い様に使われるのがオチだからだ。
 今までは互いに牽制しあってきた。それが今になって同盟など明らかに裏がある。

「我々は反対です! あんな低脳な人間の集まりの組織と手を組むなど断固反対です!」
「だが、我々だけで仮面ライダーに挑むのは些か愚作だ。それに、使える物は何でも使うのが戦略と言うものだ。そうだろう? ヨロイ元帥殿」
「シャドームーンの言う通りだ。我々の計画を幾度も破ってきた憎き仮面ライダー。奴を倒さない限り我等の悲願は成就せんのだ」

 互いに意見は一致していた。ならば何の問題もない。まずは目の前の敵を叩く事が先決と言う事なのだ。
 そんな時、複数のモニターが突如として現れた。其処にも様々な面々が映し出されていた。

「こ、これは! ミケーネ帝国に百鬼帝国!」
「それに、ベガ星連合軍に星間連合まで!」

 其処には地球制服を狙う組織の殆どが顔を揃えていたのだ。
 暗黒大将軍、ブライ大帝、ベガ大王、異次元人ヤプール。
 それらの面々が顔を揃えたのだ。

「聞いての通りだ皆の衆。我等の敵は皆同じ! ならば、此処は我等一致団結してそれの撲滅に当たろうではないか!」

 諸手を挙げておおっぴらにそう宣言するシャドームーン。その言い分にモニター越しの面々は揃って頷いた。皆考えは同じだったのだ。
 世界を征服する為には邪魔な存在を片付けるのが先決。ならば、此処は互いに手を組み数で倒すのが定石と踏んだのだ。

「今、奴等は互いに分裂状態にある。この好機に乗じ、我等は此処に【第二次日本攻略作戦】を開始する事を宣言する!」

 モニターの奥からそれぞれの歓喜の声があがる。それは此処ゴルゴムもまた同じであった。まずは目の前の障害を取り除く。
 その目的の一致から此処に悪の組織の同盟【侵略同盟】が結成されたのであった。




     ***




 戦闘を終えた一同は一度アースラへと帰還した。そして、其処でそれぞれの戦闘報告をする事となった。
 そして、結城丈二こと、ライダーマンの悲報が告げられた時、ブリッジは静まり返った。

「そうか、あの男が……」
「良い奴だったんだがな」

 鉄也は彼の死を哀れみ、隼人は胸のペンダントを握り締めて静かに黙祷を捧げた。他にも、誰もが結城丈二の死を悲しんでいた。
 またしても頼もしい仲間が死んでしまった。先の巴武蔵に続き、今度は結城丈二であった。
 余りにも辛い別れであったのだ。
 そして、それを報告した面々もまた暗い顔をしていた。
 特に風見志郎に至っては普段の顔以上に暗い顔をして俯いてしまっていた。元デストロンのメンバーでありながらも風見と結城は何処か親友の様な関係であった。
 堅物な風見を結城が茶化す。そんな場面が良くアースラ内で見られた。今でもその光景が懐かしく浮かび上がる。
 だが、もうその光景を見る事は出来ない。彼はもう死んでしまったのだ。

「辛いでしょうけど、いつまでもこうしている訳にはいかないわ」

 気持ちを切り替えるかのようにリンディが皆に言う。此処で涙に崩れていてはそれこそ彼の死は無駄死にとなる。そうさせない為にも此処で生きている自分達が頑張らねばならないのだ。それが、今生きて居る者達の勤めでもある。

「今、地球はかつてのジュエルシード事件以上の危機に見舞われています。ですが、それに対して私達の戦力は余りにも乏しいものです。ウルトラマン、ウルトラセブン、マジンガーZ、ダブルライダー、そしてなのはちゃん、彼等の居ない分私達が頑張らないといけないんです!」

 確かに戦力的にはかなりキツイ所がある。ウルトラマンとウルトラセブンは去ってしまい、ダブルライダーもまた消息不明。そしてマジンガーZの操縦者兜甲児と高町なのはの二人は今どう言う訳か守護騎士達と行動を共にしている。

「そもそも、何故あの二人はヴォルケンリッターと行動を共にしているんだ?」
「それが分かりゃ苦労しねぇだろ」

 竜馬の疑問に隼人が不機嫌そうに答えた。彼等にとってヴォルケンリッターは倒すべき敵なのだ。クロノの恩師でもあるミサトを殺し、今尚悪事を働く騎士達。その騎士達と何故か行動を共にしているなのはと甲児。
 一体彼等は何故悪人と行動を共にしているのだろうか。

「多分、なのはも甲児さんも騙されてると思うんです。あの二人、結構情に深い面がありますし」
「確かにな、あの二人ならそう考えられるだろう」

 二人を知っている者が頷く。あの二人は優しい面もあるが反面情に脆い面もある。その為眼の前の敵に対して行動が遅れる場面も些かあるだろう。特になのはがそれに一番当て嵌まる。
 彼女は生粋の戦士ではないのだ。いざ戦闘になればその優しさ甘さが足かせとなる。其処を奴等はついてきたとしか思えない。

「だとしたら許せねぇぞ。人の心を操るなんざ外道のすることじゃねぇか!」
「俺も同感だぜ。外道は外道らしく地獄に叩き落すのが筋だからな」

 誰もがヴォルケンリッターに対する怒りを露にしていた。許さない。あいつらだけは。その思いが皆の胸にあったのだ。

「気持ちは分かるけどくれぐれも殺人を犯しては駄目よ。ちゃんと捕獲して来て頂戴。そうして彼等を操っている黒幕を見つけ出す事が最大の目的だから」

 リンディの言う通りだった。手駒の騎士を捕まえるだけでは終わらない。その騎士達を裏で操っている黒幕を捕まえる事こそ最大の目的でもあるのだ。
 そうすれば甲児もなのはも目を覚ます筈だ。

「騎士達をとっ捕まえたら、フェイト、お前が高町達を説得してやれ」
「はい、必ず説得してみせます!」

 風見の言葉にフェイトは強く頷いた。ふと、半年前と立場が逆転した事にフェイトは気づいた。半年前は逆に自分が説得される立場であった。それが今度は自分が説得する立場になったのだから。
 世の中とは何が起こるか分からない事ばかりである。

「それから、クロノ」

 リンディがクロノの方を向く。そのクロノと言えばやはり深く俯いていた。その隣では彼を気遣うようにそっと背中を押すユーノの姿がある。

「気持ちは分かるけど……頼むわよ」
「分かってます。殺さず生かして連れてきます」

 一番守護騎士達に恨みを抱いているのはクロノだ。彼にとって恩師とも呼べる存在。それを奪われた恨みは計り知れないのだ。故にリンディは釘を刺しておいた。
 間違いがあっても騎士達を殺しては元も子もないのだから。それでも、分かっていても。クロノの顔から黒い感情が晴れる事はなかった。

「クロノ……」
「今はそっとしておいてやろう。あいつも辛いんだよ」

 声を掛けようとしたが、フェイトに今のクロノに掛けてやる言葉が見つからなかった。後ろでアルフがそっと肩に手を置いてかぶりを振る。今の自分達にクロノを慰める言葉はない。下手な言葉を言ってもそれは彼を傷つける事になるだけだから。
 突如、やかましいアラートが鳴り響いた。その音を全員に耳が捉え、只事ではないと言う事を確定付けた。

「どうしたんだ?」

 皆の視線がエイミィに向けられる。アラートが起こった時に真っ先に彼女にその情報が流れるからだ。彼女の指が流れるようにボードを叩く。その結果、全員が見えるようにモニターが映し出される。それは日本中の各都市を我が物顔で暴れ回る者達の姿が映し出されていた。
 それだけならさして珍しい事ではない。だが、今回のそれは違った。殆どの敵が出ているのだ。
 戦闘獣、百鬼ロボだけでない。怪獣、果ては怪人までもが一斉に現れて各都市を破壊し始めている。
 こんな状況は初めてであった。今までは各勢力がバラバラに動いていたのが今回は違う。一斉に全ての勢力が行動を開始したのだ。これには皆驚かされた。

「どうなってんだ? あいつらが手を組んだってのか?」
「詮索は後回しにすべきだ。まずは目先の奴等を片付けるのが先だ」

 鉄也の言う通りだ。疑問は後で解けば良い。大事なのは眼の前の問題を片付ける事だけだ。そうこうしている間にも、奴等のせいで犠牲者が増えるばかりなのだから。




     ***




「妙だな」
「何がだよ?」

 アースラ隊が行動を起こすよりも前にヴォルケンリッター達は海鳴市に出現した怪人達の掃討を行っていた。そんな時シグナムがそう呟いたのだ。

「こいつらはゴルゴムの怪人じゃない。奴等は生物を元にした怪人を作るのが主だがこいつらには機械が内臓されている。こんな怪人今まで見た事ないぞ」

 眼の前で骸となって転がる怪人を見ながら言う。確かにそうだ。彼女達はゴルゴムに作られた存在だ。故にゴルゴムの怪人は心得ている。だが、こいつらは知らない怪人だったのだ。全く見覚えがない。

「でもよぉ、それがどうしたってんだ?」
「もしかしたら、ゴルゴムが何者かと手を組んだと言う事実が浮かばないか」
「考え過ぎじゃねぇの?」

 もしそうなら大変な事だ。だが、出来る事ならヴィータの言った通り考え過ぎであって欲しい。そう思えた。只でさえゴルゴム相手に苦戦を強いられていると言うのに其処へ来てまた別の勢力が加わるなど最悪以外の何物でもない。

「とにかく今は主達と合流しよう。心配だ」
「だな、はやてもまだ戦い慣れてないしな」

 急ぎその場を後にする二人。既にこの近辺の怪人の掃討は済んだ。流石は守護騎士である。怪人程度であれば難なく倒せるのだから心強い。それに光太郎も戦闘に大分慣れてきた為にそれも拍車が掛かる要因となっている。
 しかし一番大きいのははやての存在だ。まだ未熟ながらも魔導師としての力に目覚め既に前線で戦える程にはなっている。しかし経験が不足な為か多少危ない面もある。

「どうやらそちらは片付いたようだな」
「えぇ、しかし見た事のない怪人が居ました」
「そちらもか」

 益々悪い予感が増して来た。これは只事ではない。只の偶然ならばこう見た事のない怪人が頻繁に出る事がないのだ。
 ふと、心配していたはやての方を見る。魔導師状態のはやては両足で立てるらしいが未だふらついている。戦闘疲れもあるしまだ自分の足で歩く事に多少不慣れな感覚があるのだろう。

「はやてちゃん、疲れた?」
「う、うん……ちょっとな」

 尋ねながらはやてに肩を貸してバランスを取る。なのはなりの気遣いだ。彼女だって未だに力が戻っていない。ディバインバスターは撃てるようになったがせいぜい一発で打ち止めだ。最大火力を誇るスターライトブレイカーはまだ撃てない。やはり現状での主戦力は仮面ライダーと守護騎士達だと言える。

「大介さんと甲児兄ちゃん達は?」
「彼等なら研究所の防衛に向っています。円盤獣が襲来したと言いますので」

 何処でも同じであった。突如襲来した敵軍団。それに対し守護騎士達はすぐさま行動を起こしたのだ。
 だが、戦力的に足りない現状では一つの区画を守るだけで精一杯である。

「皆傷を癒すから集まって」
「すまない」

 シャマルの治療魔法を受ける為一同は一箇所に集まる。今の所治療魔法が得意なのは彼女だけだ。その為彼女の存在は何よりも大きい。傷が瞬く間に塞がっていく。体から失った力が戻って来る感覚がした。

「とっとと片付けちまおうぜ。他の地区は例の管理局ってのがどうにかしてくれるだろうしさ」
「そうだな。口惜しいが今の我々には日本全てを守る余裕はない」

 珍しくシグナムが弱気な発言をした。嫌、それが真実なのだろう。少人数では出来る事に限界がある。それを越えた事をすれば忽ち無理が祟ってしまうのだ。その上、今彼等は追われている立場にある。余り下手に動いてこれ以上騒ぎを大きくしたくない。

「ぐっ!」
「どうした、光太郎!?」

 突如光太郎が頭を抑えだした。皆が光太郎に集まる。首を激しく左右に振り皆を見る。

「だ、大丈夫だよ。少し頭痛がしただけだから」
「何処かやられたのか?」
「嫌、そうじゃない……でも、この感覚は―――」

 感覚に覚えがあった。それはつい最近感じた感覚だ。そして、光太郎はその感覚を放つ人物を知っている。
 足音が響いてきた。機械的な音を放つ足音だ。そして、その足音を聞いた光太郎が真っ先にその音のする方を向いた。其処にはその足音を立てる主がやってきていた。

「信彦!」
「ブラックサン、今こそ次期創世王の座を賭けて私と勝負しろ!」

 紅い刀身を持つサタンサーベルを携え、シャドームーンが一同の前に現れた。全身から漂ってくるオーラはかつてのビルゲニアの比じゃない。

「目を覚ましてくれ信彦! 俺達が戦う理由なんてないんだ!」
「こちらにはあるんだブラックサン。そして私は既に秋月信彦ではない。シャドームーンだ」

 光太郎の言葉を聞き入れず、シャドームーンが迫る。その切っ先に殺気を込めて。一歩ずつ歩み寄ってきた。光太郎にその殺気を払い除ける事は出来なかった。
 戦えない。何故なら、あのシャドームーンは親友であり共に育った兄弟でもあるのだから。

「信彦兄ちゃん!」
「むっ!」

 今度ははやてが叫んだ。すると、今まで光太郎の言葉を無視してきたシャドームーンに動きが見られた。突如として歩みを止めたのだ。

「目を覚ましてよ信彦兄ちゃん! そないな事するの信彦兄ちゃんやないよ!」
「また貴様か……何故、貴様の言葉を聞くとこうも頭痛がするのだ」

 はやての言葉を聞く度にシャドームーンは苦しんだ。理由は分からない。だが、彼女の言葉を聞く度にシャドームーンは苦しむのだ。これでは勝負にならない。彼女が居てはとても戦えそうにないのだ。

「仕方ない、本来なら私の流儀に反する行為だが止むを得んか」
「気をつけろ! 奴は何かする気だ!」

 騎士達がはやてを守るように陣取る。光太郎となのはも同様に構える。そんな中、シャドームーンの中で笑みがこぼれた。

「シャドーフラッシュ!」

 突如、シャドームーンの腰のベルトから緑色の閃光が放たれた。その閃光はその場に居た殆どの者達の視界を奪っていく。だが、それだけであった。
 皆の体にはさして外傷はない。単なる目潰しだったようだ。

「皆、怪我とかないか?」

 はやてが皆に問う。それに光太郎となのはあ頷いて応えた。だが、守護騎士達だけは全く動じない。まるではやての言葉を聞いていないかのようだ。

「ど、どないしたんや? シグナム、ザフィーラ、シャマル、ヴィータ、皆返事しぃや」

 はやてが騎士達の名前を言う。その名前を聞いて振り返った時、騎士達の顔色が代わっていた。まるで軽蔑するかの様な冷たい目線をはやてに向けていたのだ。

「我等の名を気安く呼ぶな。下等な人間風情が!」
「え?」

 はやては一瞬耳を疑った。それはシグナムの口から放たれた言葉だったのだ。だが、その放たれた言葉は信じ難い言葉であった。

「な、何冗談こいとるんや? そんなのおもろないで?」
「うるせぇな。人間如きがあたしらの名前勝手に呼ぶんじゃねぇよ!」
「我等の名を呼んで良いのは我等の主だけだ。貴様ではない!」
「死にたくなければ失せなさい」

 シグナムだけじゃない。ヴィータも、ザフィーラも、シャマルも、皆はやてに対し冷たい言葉を放ってきた。その言葉にはやては目を見開き口を振るわせた。

「何て事を言うんだ!」
「酷いよ! そんな言い方ってないですよ!」

 隣に居た光太郎となのはがすぐさま吼える。だが、そんな二人になど全く構わず四人はシャドームーンの前に歩み出た。そしてその場に膝を下ろし跪いたのだ。

「答えろ、お前達の主は誰だ?」
「我等の主……それは、次期創世王であらせられるシャドームーン様一人です」

 筆頭であったシグナムがそう言った。その言葉は今その場に居た三人に衝撃を与えた。まさか、そんな事は有り得ないのだ。何故? 何故騎士達がシャドームーンを主と呼んだのか?

「皆、何時までもボケかましてたら私怒るよ! 早く戻って来てや!」

 目に涙を浮かべ、はやてが叫ぶ。だが、その声も騎士達には届かない。

「信彦! シグナムさん達に何をした?」
「ブラックサン、こいつらは元々我等ゴルゴムが作った騎士だ。故に次期創世王候補である俺の守護をすると言う使命が優先されたのだ」
「信彦兄ちゃん! 今すぐ皆を元に戻してよ!」
「それは出来ない。お前が居ては折角の勝負に水を差される恐れがあるからな」

 吐き捨てるように突っ返し、シャドームーンはサタンサーベルを手に持ち騎士達を見た。

「守護騎士達よ、なり損ないの世紀王を始末しろ! 方法は問わん」
「承知しました。我が主よ」

 頷き得物を携えて騎士達が迫ってきた。その目には殺気が宿り体からは不気味なオーラが漂ってきた。

「止めるんだ! 皆、正気に戻れ!」
「ブラックサン、其処を退け」
「シグナムさん、あんたは騎士だった筈だ。その誇りを自ら踏み躙るつもりか?」
「貴様如きに騎士の誇りは分かりはしない。私は只主の命に従ってのこと。貴様に分かる筈がない」

 話にならなかった。最早かつての優しき守護騎士達は眼の前には居ない。今居るのは殺意を秘めた殺人集団なのだ。

「なのはちゃん、はやてちゃんを連れて此処から逃げるんだ!」
「は、はい!」
「逃がすな、どんな事があっても殺せ!」
「信彦、貴様ああああああああああああああ!」

 怒りを胸にライダーブラックが殴りかかった。それを受け止めるシャドームーン。

「やっとやる気になったかブラックサン。では望み通り相手をしてやろう」

 掴んでいた手を地面に向けて叩き付ける。そのまま従うようにブラックの背中が地面に叩きつけられた。激しい痛みが全身を駆け巡りブラックの背中が大きく反り返る。

「どうしたブラックサン。その程度ではつまらんぞ。もっと私を楽しませろ」
「の、信彦……お前は、人間の心まで失ってしまったのか?」
「何度も言わせるな。私は既に秋月信彦ではない! 世紀王シャドームーンだ!」




     ***




 はやてを抱えてなのはは海の上を逃げていた。それを追い四人の騎士達も飛んでくる。速度が違いすぎていた。騎士達の方が圧倒的に早い。すぐさま追いつかれてしまう。

「止めるんやシグナム! こないなことしたらアカンよ!」
「戯言を。まだ我等の主気取りで居るつもりか?」

 吐き捨てるように言い放ちながらシグナムの鋭い一閃が放たれた。咄嗟にそれを避けたが、完全には避けれなかった。

「うっ!」
「なのはちゃん!」

 見れば、なのはの肩口が切れて出血している。掠ったのだ。それだけでもこれだけの威力だ。直撃すれば恐ろしい事になる。

「もう止めてよ! こんなのおかしいわ! 私達今まで仲良ぅやってたやん! 何でこないな酷い事するんや!」
「何能書き垂れてんだよゴラァ!」

 上から声がした。見ればヴィータが数発の魔力弾をこちらに放って来ていた。咄嗟にそれを魔力結界を用いて防ぐ。だが、それを防ぎ切った後に出て来たのはザフィーラの拳であった。

「我等が主の命だ。覚悟を決めろ!」

 愚直な拳があっさりと結界を叩き割る。そのまま拳は放たれてきた。咄嗟にはやてを庇うようになのはが盾となりそれを受けた。
 体がくの字に曲がる。深く鋭い拳がなのはの腹部に命中したのだ。

「ゲホッ!」
「あ、あぁぁ……」

 もう何が何だか分からなかった。騎士達は自分達を殺しに来ている。幾ら呼びかけてもその言葉に応じようとしない。そんな騎士達から自分を守ろうと親友が傷ついていく。心が痛む光景であった。
 突如、体が何かに縛られる感覚がした。シャマルのクラールヴィントだ。細い鋼線の様なそれが二人を雁字搦めに縛り上げていくのだ。

「無駄な消費をしたら駄目よ。シャドームーン様のお手を煩わせるつもり?」
「すまん、一撃で仕留めるつもりだったのだが」
「こいつらしぶとすぎなんだよ」

 動けないなのはとはやてに対し騎士達の言葉が突き刺さる。もう既に彼等の心は昔の優しい騎士達の心ではない。彼等はもうゴルゴムの一員となってしまったのだ。

「ならばこのまま一撃で仕留めるか?」
「その必要はないわ。此処は海の上……だったらこの方が経済的で良い筈よ」

 そう言うなり、シャマルはクラールヴィントから発せられた糸を切り離した。勿論、二人は縛られたままだ。この状態では飛行魔法など使えるはずもなく、第一なのはにはもう飛ぶだけの余力がなかった。
 そのまま二人は冷たい冬の海の中へと消えていってしまった。激しい水しぶきが上空に居る騎士達にまで届いた。

「成る程な。あの状態では泳ぐ事も出来ずそのまま溺死か。えげつない事を思いつくなシャマル」
「少しでも魔力を温存したいじゃない。あんな人間如きに使うなんて勿体無いわよ」

 笑いながらも言う事は残酷であった。とても昔のシャマルでは言う言葉じゃない。

「だな、それにあたしらにはまだやるべき事が沢山あるんだしよ」
「そうだ、この世界に住む人間共を一掃し、我等ゴルゴムの新帝国を築く事こそ我等の目的だ」
「ならば急ぐぞ。そろそろ我等が主の方も片が着いた頃だろうしな」

 騎士達はすぐさまシャドームーンと仮面ライダーブラックの元へと向った。海へと飛び込んでいったはやてとなのはの事など眼中にも触れず。




     ***




 冷たい海水が肌に突き刺さる。絡みついたクラールヴィントの糸が重くどんどん海底へと沈んでいく。
 なのはも、はやても、必死にその糸から逃れようと体をもがかせるが全く糸は切れない。やがて、日の光の届かない深さにまで沈みだした。
 眼の前に居たはやての口から大きな気泡が吐き出された。我慢の限界に達してしまったのだ。全ての息を吐き出し、そのまま意識を失ってしまった。

(死ねない……こんな所で、死ぬ訳にはいかないのに!)

 一人必死にもがくなのは。だが、そのなのはもまた限界に達し、口から気泡を吐き出してしまった。
 開いた口を塞ぐように海水が流れ込んでくる。呼吸が出来ない。意識が遠のいていく。

(いや……だ……死に……たく……ない……よ……)

 薄れ行く意識の中、なのはの最後の言葉がそれであった。そして、その言葉を最後に、静かに、そして力なく、その目蓋は閉じられた。




     ***




 南光太郎、仮面ライダーブラックと秋月信彦、シャドームーンは激しく戦っていた。次期創世王の座を賭けた避ける事の出来ない戦いであった。
 だが、南光太郎は戦えなかった。親友を手に掛ける事など出来なかったのだ。

「止めてくれ信彦! 俺はお前と戦えないんだ!」
「ならば死ぬが良い、貴様のキングストーンを奪い私が創世王となる」

 容赦ない攻撃がライダーブラックに降り注がれる。それに対しライダーブラックは防戦一方となってしまった。このままではこちらがやられてしまう。今倒れる訳にはいかないのだ。

「シャドームーン様!」
「むっ!」

 見上げれば四人の騎士達が戻ってきた。だが、其処にはやてとなのはの姿がない。まさか―――

「始末はつけてきたか?」
「はい、今頃は鮫の餌となってる事でしょう」
「そんな……」

 光太郎の体から力が抜ける感覚がした。はやても、なのはも死んでしまった。二人を殺したのは自分だ。自分がシャドームーンを倒す事を躊躇ったばかりに二人の少女を殺してしまったのだ。

「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」

 天に向かい、光太郎は叫んだ。その目にはもう一切の迷いがない。立ち上がり構えを取った。今まで幾体もの怪人を葬ってきた必殺技の構えだ。

「来るか、ブラックサン」
「信彦、嫌……シャドームーン、俺はもう迷わない! お前が人々を苦しめるのなら、俺はお前を倒す!」

 ライダーブラックのベルトから紅い光が放たれる。体中から力が湧き上がって来るのが感じられた。
 そしてそれはシャドームーンも同じであった。シャドームーンの腰のベルトが緑色に輝いていく。

「俺はもう迷わない! ライダァァァキィィック!」
「行くぞブラックサン! シャドォォォキィィック!」

 ブラックサンとシャドームーン。ライダーキックとシャドーキック。二人の必殺技が互いに激しくぶつかりあった。その威力は火花を散らし、辺りの空気を歪ませていく。
 閃光、一瞬辺りに眩い閃光が放たれた。それは回りに居る者達の視界を奪うには充分過ぎるものであった。
 そして、視界が晴れた時、勝負は決していた。

「がはっ!」

 ライダーブラックの体にシャドームーンのキックが突き刺さっていたのだ。
 シャドーキックを食らったライダーブラックが力なく地面に倒れる。其処へサタンサーベルを持ったシャドームーンが歩み寄る。

「勝負あったな、死ね、ブラックサン!」

 トドメを刺すべくサタンサーベルを振り上げる。だが、其処へ突如バイクの音が木霊した。見ればそれはライダーブラックの愛用するバイクバトルホッパーであった。
 バトルホッパーが主を守る為単身シャドームーンに突っ込んできたのだ。

「むっ!」
「ば、バトルホッパー!」

 完全に動けないライダーブラックの眼の前で、バトルホッパーがシャドームーンを弾き飛ばす。その後も間髪居れずにシャドームーンへと突撃する。

「フハハハ、喜べブラックサン。地獄への共をつけてやるぞ!」
「な、止めろシャドームーン!」

 ライダーブラックが手を伸ばす。だが、そんな彼の願いも空しく一蹴された。
 シャドームーンへと突撃したバトルホッパーを出迎えたのは、シャドームーンの情け容赦ない一突きであった。それは一撃でホッパーのハンドルを切り裂きエンジンを切断し、動けないようにしていく。

「ハハハハハ、この私に逆らった者がどうなるか、この屑鉄で見せてやる!」
「止めろ、止めてくれえええええ!」

 動けないライダーブラックの眼の前で、バトルホッパーはバラバラに切り刻まれてしまった。顔を模したライト部分は抉られ、マフラーは引き千切られ、あらゆる部品が毟り取られた。その後もシャドームーンは笑いながらバトルホッパーを切り刻んだ。既にホッパーから声は届かない。
 もう、バトルホッパーは屑鉄と化してしまったのだ。

「ふん、要らぬ手間をさせられたな。さて、では仕切りなおしだ」
「信……彦!」
「ブラックサン、死んで行く貴様にせめて良い土産話をしてやろう。我等は貴様等を抹殺する為に手を組んだのだ。侵略同盟と言う名のな」
「何!」
「貴様等が悪戯に分裂して対立していたお陰で我々はなすべき事を出来た。感謝しているぞ。その礼だ……ひと思いに地獄へ送ってやる」

 サタンサーベルが頭上へと振り上げられる。紅い刀身が太陽の光を浴びて怪しく光り輝いていく。

「信彦、お前には分からないのか! 悪魔が微笑んだ星はいずれ滅びる。本当に必要なのは、互いに助け合う事なんだ。人間の心を思い出してくれ!」
「…………」

 心からの声にシャドームーンは応えなかった。只、無言のままサタンサーベルがライダーブラック目掛けて振り下ろされたのだ。その一撃は、ライダーブラックの、南光太郎の命を刈り取るには充分過ぎる程の一撃であった。

「ブラックサンは死んだ! この私が倒したのだ! 今日より私が創世王なのだ!」

 動かなくなったライダーブラックを前にシャドームーンがサタンサーベルを掲げて叫ぶ。それまで照らされていた太陽は暗雲に隠れ、不気味な雷光が放たれた。

「お見事です。シャドームーン様」
「お前達も良くやった。さすがは守護騎士達だ」

 満足げにシャドームーンが降りて来た守護騎士達を見る。彼等の目にはもうあの時の優しき目は微塵もない。あるのは只シャドームーンを守ると言う愚直なまでの使命に燃える目だけだ。

「さぁ、ブラックサンの体を切り裂きキングストーンを取り出してください。そうすれば貴方は次期創世王となれます」
「必要ない。弱い世紀王のキングストーンなど奪った所で返って弱くなるだけだ。それより、こいつを海の底へ葬ってしまえ。せめてもの手向けだ。義妹と同じ場所で死なせてやれ」
「承知しました」

 頷き、ザフィーラは動かなくなった仮面ライダーブラックを抱えて、海の上へと行く。

「さらばだ、ブラックサン。もう二度と会う事もあるまい」

 そう言い放ち、それを海へと投げ捨てた。水しぶきを上げて仮面ライダーブラックは海の其処へと沈んでいく。その光景をシャドームーンは満足そうに見つめていた。

「これで良い。引き上げるぞ! これからが忙しくなるのだ。我等がゴルゴムの帝国を築き上げる為に、邪魔な人間共を一掃する為の大仕事だ!」
「お手伝いいたします。創世王様」
「期待しているぞ。守護騎士達よ」

 仮面ライダーブラックは死んだ。太陽は暗雲に隠れてしまった。この世界は、悪の手に落ちてしまうのだろうか? それとも?




     後編につづく 
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