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ファイアーエムブレム~ユグドラル動乱時代に転生~

作者:脳貧
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第二十七話

 ミーズ城に辿りついた俺達一行は市街を抜け城内に入った。
太守や将兵らへ激励の演説文を読み上げ拍手なども受けたが、実際のところ慰問物資のほうが喜ばれていただろう。
他の二都市と異なり、ここでは三日多く過ごした。
せっかくなので防衛戦について実戦経験の豊富な士官から指導を受けたり、なるべく多くの兵に声をかけたかったのでそういう日程を最初に組んでもらっていたのだ。
ここしばらくは小競り合いも無く平和だそうだが、俺がトラキアを脱出した時には追跡部隊を引きつけたレンナートさんが間一髪でここミーズに逃げ込むという事件があり、その時トラキア兵らと短時間ながらも激しい衝突があった。
その際に負った傷を今も療養中の兵を見舞うことも目的の一つであった。


 ミーズでの日程を終えると残りの大きな任務はアルスターを訪れるのみとなり、俺達には気の緩みも出てきたのだろう。


襲撃を受けた。


それは、マンスター領西部の宿場町や宿営所と呼ばれる小さな人の営みがある場所で起こった。
俺達一行はその日の旅程を終え、その宿営所で身を休めようと旅装を緩め、金を払い食事と寝場所の提供を願い出、ゆっくりとめいめいが身を休めはじめた。
ほどなく経営者の老婆と給仕が俺達一行に、料理の方はもうしばらくおまちくださいね、なんて言いながらぶどう酒をふるまった。
生真面目なグレイドは手をつけず俺もこれが白ワインなら手をつけたが、あまり好きでは無い赤なので手をつけず、小用でも済ませようと席を外した。
俺の小用に付き合うと付いてきた三人と共に戻ってみるとグレイドが老婆と給仕に短剣で襲われていた。
他の随員は苦しそうなうめき声を上げて突っ伏したり、背を丸めて喘いでいたりと惨憺たる有様であった。

休憩に入る前に一行の武器は預けてあったので俺は大声を上げてから椅子を老婆と給仕に投げつけ、こちらに注意を惹かせた。
俺以外の人間が触ると弾かれるのもあり、そういう面で不審がられたくはなくて、これだけは預けられないとつっぱねて手元に残した長剣に手をかける。
未だ鞘から抜けたことのないそれに手をかけ鞘ごと引き抜き身構える。

「納屋かどこかに武器を持っていったはずだ、誰か取ってきてくれ!」
声をかけると老婆と給仕に突撃した。

仲間は丸テーブルの脚を持って盾代わりに構えたり椅子を投げつけたりと武器の回収に向かった者の援護を行う。
老婆は片手にもった杖を俺に向け、奇怪な声を上げた。
一瞬俺にまとわりつく違和感があったが、振り払う。
これが奥の手であったのだろうか?茫然とした表情に狼狽を交えて舌うちが聞こえた。
一足飛びで俺は間合いを詰めると鞘ごと長剣で殴りかかり首筋をとらえ、老婆を昏倒させた。
グレイドは転がるようにして給仕の攻撃を避けていた。
俺はテーブルや椅子を給仕に押しやりグレイドの援護を行う、仲間の投げつけた椅子が給仕を掠め、体勢を立て直したグレイドは椅子を掴むと盾と武器代わりにして身構えた。

「いったい誰の差し金で俺達を襲った!」
おそらく答えは無いだろうが問わずにはいられない。

「大変です殿下!外にも敵が!」
納屋に向かった仲間がそう叫び、なんとか持ちだせた武器を床に放りだし、残りの俺の仲間はそれを拾い上げこの建物の出入り口で身構えた。

グレイドと二人がかりで給仕を無力化すると、俺もグレイドも入り口で防戦一方の仲間の援護に向かう。
俺は長剣を背負うと床に落ちている槍を拾いあげ建物の窓から外に飛び出した。
十騎ばかりであろうか。

固まった状態のそこへ俺が突進すると馬は暴れたり逃げ出したりと、思った通りの挙動を行った。
その中で槍を振りまわし襲撃者を混乱させた。
落馬した者を見捨てて、その一団の頭目が逃げ出すと他の者もそれに倣った。
入り口での戦いも終わったようで駆けよってきたグレイドが追うそぶりを見せたので制し、捕らえた者の尋問と毒を盛られた者の手当てを優先するよう指示を出した。

「追っても間に合わないし、待ち伏せされての逆撃こそが狙いかもしれません。それよりも皆の手当てと捕らえた者から口を割らせましょう」

入り口での戦いで敵の兵は全て討ったようだが、落馬した者は縛り上げてある。
建物の中へ連れて行き尋問を始める前にまずは苦しんでいる仲間たちの処置を急いだ。
水を飲ませて吐かせるくらいしかやりようもないが…
騒ぎを聞いて駆け付けた別の宿や商店の人たちの助けも借りたが多くの者が命を落とした。
そして、納屋の中からこの宿営所の本当の経営者と従業員の遺体が発見された。
偽の給仕はいつの間にか舌を噛み切って死んでおり、老婆は気絶したままだ。
そこで俺たちは落馬した男を尋問することにした。
なだめ、すかし、時にはこづいたり殴ったり、拷問をちらつかせるとようやく重い口を開いた。

「い…言うよ、雇い主は…レイ…ド、うぐっ、ごはぁ」
老婆はいつのまにか目を覚ましたのかあるいは気絶した振りをしていたのか……。
関節を外したのであろうか、縛めを解くと禍々しい呪文書を取り出し、この男を魔法で殺した。
そうしてから奇怪な笑い声を上げ己の胸を短刀で突き、すぐに息絶えた。

「これは…ロプト教の…」
グレイドは老婆の手に握られた禍々しい呪文書を足でつつき、俺はそれに頷いた。


翌日、俺はマンスター王と関係機関への書状をしたため、グレイドに届けるよう指示を出すと犠牲者の埋葬の許可をこの宿場町の管理者から得て街外れに埋葬した。
加害者のほうはマンスターの役人からの調べがあるだろうから、被害に遭った宿営所の納屋に並べた。
その日の内にグレイドはマンスターから付けられた護衛の兵を引き連れ、俺達の警護に当たった。
数日をここで過ごし、捜査に協力した後に俺たちはマンスターへ赴き、二ヵ月ばかりの時を過ごした。
俺はこの襲撃の差配はレイドリックのものと口を割った男の言葉から断定したが、物的な証拠もなく、証人もこの世には居ないのだから声高に主張することも出来ない。
悪くすると俺がトラキアに送られた私怨を晴らす為にレイドリックを陥し入れたと思う者とて出てくるだろう。
いずれ奴には今回のことを後悔させてやるとしても…ロプトの魔道士を使っているのか、それとも使われているのか…。
事件自体はロプト教の狂信者によるテロとされ、迎えに寄越されたドリアス伯爵の引率する部隊と合流し、俺たちは旅程の途上で帰国した。

 



 「…明確に関連付ける証拠はありませんが、捕らえた者がレイ…ドと言葉を遺したのでわたしはレイドリックの差し金だと思っています。これはわたしの他数名も耳にしております」
帰りの道中で伯爵と俺はいつものわるだくみ?をしていた。

「彼の動機はいろいろあると思います。まず、わたしからの復讐を恐れて先に手を打っておこうということ。そして、コノートの国王夫妻が娘を私に嫁がせようとしたことを知り、
そうなった場合わたしが邪魔になるであろうということ。さらには…ロプトの魔道士も関わっていたので操られていたという可能性も」

「ふぅむ。わたしはそれに加えて、やりたかったのではないかと思いますぞ。戦を。ゆえに戦を止めた殿下を見過ごすことが出来なかった。己はこれから老いていくというに殿下はこれからのお方、早めに芽を摘もうと…」

「なるほど…しかし戦をやりたかったというと合点がいかぬこともあります。コノート領を見るに、今は戦どころでは無いと思われます。なにか必勝の策でもあると?」

「ありますな」

「あ!寝返りですか!」

「そうです。我らを裏切り、トラキアと組んで後背から襲いかかると言う必勝の策が」

「むむむ…」

「しかし、それが殿下によって押しとどめられたということで奴は方針を変えざるを得なかったと。
殿下ご自身が先だって、コノートの離反もありうると警告なされたので、手の者を使い調べさせました」

「いろいろ知ったような事を申しておいて、自分が情けなくなります…ところで伯爵」

「はっ、いかがされました」

「随員に名乗り出てくださったのをお断りした上に、結局はこうして伯爵のお力に縋ってしまいました。申し訳ありません。そして、ありがとうございます」

「何をおっしゃる! もし私が同道したとしても盛られた毒に気が付かずあの世で殿下に詫びていたと思いますぞ。 よくぞお命保ってくださいました」

「いやいや、それは偶然です。 出されたのが白でしたら私もあの世行きでした…そして、今回の随員のうちあの四名には目をかけてやってはくださいませんか?」

「仰せの通りにいたしましょう」






 レンスターに帰りついた。
アルスターへの使節が出せなかったことは書状などのやりとりを行い了承してもらっていた。
父上も既に帰国しており、兄上は国王代行の重責から解放されつかの間の安らぎを得ているのではないだろうか。
俺は任務の完遂が出来なかったことを詫びたが許され、生還できた随員達と共に恩賞を受けた。
それは今回の犠牲になった随員の遺族らに等分して見舞金として配り、彼らの冥福を祈った。

ねえさまとセルフィナさんには不在の間の鉢植えの世話を頼んでおいたが、どうやら枯らさずにいてくれたようでありがたい。




「…という次第で、コノートのレイドリック卿には心を砕いて当たらねばならぬとの殿下と、そしてわたしからの言上であります、陛下」

「うむ、獅子身中の虫とでも呼べばよい者か。引き続き動向を探り、充分な材料揃わばカール王のお力となり、必要な措置を執らねばなるまい」

「父上、我が国がそれを表だって行っては良からぬ感情をコノートの民、ひいては他の二国に抱かすやもしれませぬ。先だってより我が国はコノートより多額の補償金を得、四国会議の票も預かっていたこともあり一口では言い表せない感情を抱かせております。ゆえに、こちらが正しきことをしていても彼らにとっては自国の有力者を他国の者が罰しては主権の侵害、やがては併呑をも企むと恐怖心をも抱かせかねません、そしてコノートの次は自分の番だと他の二国も…」

「ならば、アルスターとマンスターに渡りをつけ、三国共同で該たるかの」

「御意」

「……それにしても」

「陛下、いかがなさいました?」

「うむ、こんな時にな」
父上は一通の書状を示した。

「グランベルよりミュアハも士官学校で学べとな…」

「むむ、そういえば殿下も、もう1年余りで十五となられますか」

「ええっ? 第二王子のわたしまで?」

「お前に限らんぞ、レンスターはグランベル公爵家と同格とみなすから貴族でも騎士の子でも、試験に受かれば平民でも学ぶ機会を与えてやるとな。クルト王太子からのありがたいおぼしめしじゃ」
父上は不機嫌にそう吐き捨てると椅子の肘かけに身をもたげた。

「良いではありませんか陛下、殿下がより見聞を広められれば恐れるものなど何もありますまい」

「我が国ではまともな士官も育成できんと言われているようなものだぞ!」

「父上、今は耐えましょう。10年、20年先には逆にグランベルから我が国に留学生が訪れるような、そんな国を築きましょう」

「…ふん。せっかくトラキアから戻ってきたばかりというに、またわしのもとを離れる。あまり父に心配をかけんようにな。あー!腹が立つ!伯爵もお前も揃いも揃って物わかりが良すぎると言うものじゃ!」

伯爵と俺は顔を見合わせて笑うと拗ねた父上の機嫌を取るように肩を揉んだり腰のマッサージを行った。
おぬしらのはくすぐったくなるだけじゃわい!と、父上も笑いだした。







 --3章おわり-- 
 

 
後書き
三章、つまらなかったかも知れません、申し訳ないです。

序章 + 1章1~12話
2章13~20話
3章20~27話となったので次の章も7話構成目指してみますが、なにぶん初心者なので
うまく行かなかったときはバカデスネーwと笑い飛ばしてくださいましー!

グレイド< レイ…ド、ヤバスw俺ぴんち?w 
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