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ファイアーエムブレム~ユグドラル動乱時代に転生~

作者:脳貧
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第二十六話

 
前書き
王様は慰安旅行にでかけました。
 

 
 父上がイザークへの訪問のためレンスターを離れて1カ月ほどが経った。
兄上は国王代理としての重責をを担っているが無事に果たされている。
俺はそれに胡坐をかいて気楽にぷらぷらすることも無く、訓練の傍ら兄上の負担を減らせるよう、任せてもらえる範囲で国務の分担をさせてもらっていた。

具体的には各地の軍事拠点や農村などの視察に行き管理者や作業員にいい顔したり、これは以前からやっていたことの再開だが陳情に来た人々の話を聞き、要点をまとめて兄上に報告とか、衛士の方らの王都のパトロールの報告を受け、事件があれば対応などをやらせてもらっている。
土地争いに始まり刃傷沙汰の裁判などは法律家の補佐のもと兄上が裁くこともあるようだ。
これが普通?のファンタジー世界なら開拓農民をモンスターの襲撃から守れ!などのアツイ展開があるのでしょうけれど、先日のイレギュラー以外ではこの大陸に魔物は居ませんしね。
そうそう、外国からの使節の接待なども重要な任務です。

先日は遠くシレジアの方がいらしたのだが、父上への親書を託され、俺たちとも歓談されて行きました。
この方たちが偶々そうだっただけなのかも知れないが、やはり護衛のペガサス騎士の方々は美人揃いで、正使のおっさんやその側近はごついおっさんでした。
雪国の女性は美しいっていうあれでしょうか?





 忙しいながらも大きな問題も無くしばらくの時間が経ったが、日頃レンスターにばかり各国の代表が集まってばかりということで、返礼の為に各国の歴訪へ俺が行くことになった。
この働きかけは他三国から要請というように表向きはなっているが、コノートが裏で動いていたらしい。
最初にコノートを訪れ、マンスター、そしてミーズ城へも訪れる。
ミーズ城では駐留兵への激励を行うそうだ。
そこからマンスターに再び戻って、アルスターへ訪問するという段取りになった。
人質交換の際にマンスターとミーズは訪れているがコノートには領土の外縁部分を通過したくらいなので初めて訪れることになる。

コノートと言えば重度ロリ…じゃなくてレイドリックか。
俺をトラキアに送り込むという献策でカール王の身柄を取り戻し、敗戦の影響で国力を低下させたコノート王国の有力者の中で唯一相対的な地位を上げ、いまや副宰相となっているそうだ。
野心とそれに見合う才幹を伴っているだけに厄介だな。
訪問するのが俺と言うだけに奴も微妙な心境だろうが、挑発なりは控えておこう。
とりあえずは味方側の人間のはずだし。

随員についてはドリアス伯爵が名乗り出てくれたが、丁重にお断りした。
兄上ならば国を良く治めるなど造作も無いことだが、予想外の事態が発生した場合には伯爵の見識や経験、智略や武力があれば心配は無いだろうからだ。
俺の方は友邦領内を進む訳で大きな問題には遭わないとは思うが、気を配る必要はあるだろう…。
なんにせよ他国を知ったりなにか繋がりを得ることを期待して若い騎士や文官を中心にして編成し、その中にグレイドを指名し、彼はそれに応じてくれた。







 出発の数日前に頼みごとがあったのであのひとの元を訪れた。

「あなたにはいつもお願いごとばかりで心苦しいのですが、まずはわたしの話だけでも聞いてみてはいただけませんか?」
ドリアス伯爵の居館を訪ねてセルフィナさんに出立の挨拶を告げたあと、こう切り出した。

「いかな願いでありましても、わたくしが…ミュアハ様の申しつけに否やはございません」
すこし俯き加減の彼女も、そして俺もいささかばつが悪い。

「…セルフィ。わたしが不在の間、我が姉エスリンの話相手になってはいただけないでしょうか?異国の地で親しき者もそう多く無く、兄上は激務が続くことと思うのです。なれば時として人恋しくなることあるやもしれません…わたし自身、異国でそのような思いを経験したもので……」

「もちろんです、グランベルでの作法を学びたいと申し出ればよさそうです?」

「そうですね。ただ…アレだけはちょっとというのがあるので先にお知らせします。これは、そのぅ、してほしくないなぁというものでしてね…」
俺が下着の件を伝えると彼女は頬を赤らめた。

「いや、まぁ、あれですよ、きっと……女性には時として伴侶の愛を受け入れたくても体の方が付いて行かないことがあると聞き及んでいます。そんなことを男の側が知らずに伴侶の愛を求めて、拒まれた時にお互いに傷つかないように…という風習ではないのかと思うようになりました」

「な、なるほど…そういう考え方なのですね。 いずれにせよ…ミュアハ様のお願いだからと言うだけに限らず、エスリン様と知己を得たいと思います」

「では、ご都合のよろしい時を教えていただけませんか? ねえさまにも話を通しておきたいと思います」



その日の夕刻に二人を引き合わせることができた。

「こちらはドリアス伯爵のご息女でセルフィナ様とおっしゃいます。わたしの…幼馴染なのです」

「こうして直接お会いいただく機会を初めていただきました。ドリアスの娘、セルフィナと申します。
ミュアハ殿下には…………妹…のように良くしていただいております」
彼女の万感の思いのような一瞬の言葉の詰まりに、俺は胸が痛くなった。

「わたしはエスリンよ、みゅぅ君と同じで礼儀正しいのですね。そして、みゅぅ君の妹さんならわたしの妹にもなってはもらえないかな?」
ねえさまは相変わらず春の日差しのように、にこっと笑うと膝を曲げてセルフィナさんと目線を同じ高さにした。

「畏れ多きことなれど申し上げます。 エスリンねえさま…」
セルフィナさんが少し顔を赤らめてその言葉を口にすると、ねえさまはセルフィナさんをぎゅっと抱きしめた。
原作と同じように二人が仲良くなってもらえそうで良かった。





 そうして、所定の日が訪れたので俺は諸国歴訪の旅に出た。
終わらせて帰るころには父上もお戻りであろう。
レンスターの国境を越えコノートの国境へと入った、関所のような場所で手続きを済ませ俺たちはコノート王国の領土に深く入っていった。
ここで直接戦があった訳でもないのに放棄された田畑に時として目を奪われる。
税が重すぎるがために希望を失い逃げ出した農民達の抗議の声そのものだ…。

幾日かの旅を続けコノートの王都に入った。
王城へと続く沿道には歓迎の意を知らすような垂れ幕や住民の姿があったが、その目は怨嗟や諦観、時には怒りを映していた。
誰かに尋ねたとしてもそれは逆恨みに過ぎないと言われるだろうけれど、コノートの住民はここ数年に渡ってレンスターへの莫大な補償金を支払い続け、そのしわ寄せは彼ら一般の市民に向かっているわけだから、俺達レンスターの使節へ風当たりも強くなることだろう…。

王宮へ到着し、出迎えのコノート王国の重臣と挨拶を交わし王宮の奥へと案内された。
護衛の随員らは別の建物へと導かれ、そこで旅の埃を落とすのだろう。
コノートのカール王とはルテキア城での一別以来で少し懐かしい。
あのときよりも多少は元気を取り戻してはいるようだが、時折レイドリックの視線を気にしている。
まずは挨拶だけで、本番はこのあとだな。
晩餐会とかパーティとか呼ばれる奴だ、正直苦手なんだが…。

正直、ダンスとかは苦手なのでそういうのはグレイドなんかに代わりに引き受けてもらったりしていたのだが、カール王の后にどうしてもと請われて引き受けざるを得なかった。
俺が苦手そうにしているのでリードしてくれました、ありがとうございます。

「殿下は、おいくつになりまして?」

「はい、十三の齢を重ねました。なれど、いまだ乳飲み子と変わらぬ手のかかりようと父や兄を悩ませております」

「まぁ、とんでもない。しっかりと落ち着いた佇まいに妾は感心しておりますの。さすがは盟主レンスター王の若君と」
ダンスの合間にこんな会話を交わしていた。
向こうも話しかけてはこなかったのでレイドリックとは関わることは無かった。
翌朝の朝食を共にしたいと国王夫妻が申し出てきた。
断る理由もなければそんなことも出来るわけがないので応じると、夫妻の小さな小さな娘を伴いやってきた。
あと10年もすればお互いお似合いでしょうからと、いきなり婚約を迫られて閉口した。

「国と国同士のこととなるのでカルフ王の裁可が必要であり、わたし個人の意思ではご返答いたしかねます。また、わたしの意思が許されるならば兄の配下のいち軍人で生を全うする所存ゆえ、貴国の姫を娶るなど滅相も無いこと」
なんて答えておきました。
王妃は喰い下がってきたが、カール王の取りなしで事なきをえましたよ。
その日はコノートの王都各所を接待巡りで、翌日には父上への親書を受け取り、コノートを離れてマンスターへと向かった。

マンスターは賑やかな大都市でレンスター以上の賑わいを感じるほどであった。
随員の中にはみやげとなる品を求めて市内の常設市場へと足を向けた者も多かったが、俺は市場へ行くことが日程上許されないのでみやげの品は彼らに頼み買ってきてもらった。




マンスターでの予定を完了させた俺達一行は三年ほど前のミーズ城を巡る戦のあった跡で足を止め、戦没者を弔う祈りを捧げ、略式の式典も行った。

はたしてそれは生者の自己満足に過ぎないものであろうか。

自戒と過ちを繰り返さない為にそうするものなのであろうか。

人の営みとは何かを己に問い続ける、ただその繰り返しなのかも知れない。 
 

 
後書き
みゅぅ君もバイロン卿にだまされた被害者のひとり。

 
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