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ファイアーエムブレム~ユグドラル動乱時代に転生~

作者:脳貧
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第二十四話

 北部トラキア連合の合同軍事会議がもうじき開かれるようだ。
開催の前にアルスター全権のコノモール伯爵より俺に書状が届き、特別顧問というなんだか偉そうな肩書での出席を願うので当日はよしなにとのことであった。
うーむ、伯爵とも改めて打ち合わせをしておかないと思わぬところで意見が違ったりしたらお互いに気まずいしな…
返事の書状はしたためたが、夕餐で父上にお伺いを立ててから出すべきかな。


その日の夕方、家族一同揃っての食事の席で俺はカルフ王に呼びかけてから

「父上、わたしの帰国の際、アルスターのコノモール伯爵にひとかたならぬお世話になりました。現在レンスターにご滞在のご様子なのでお礼を申しに伺ってもよろしいでしょうか?」

「そうだの。そうするとよい、しかしだなぁミュアハよ」

「はい、なんでしょう父上」

「臣下でもあるまいし、いちいち左様な申し立ては無用じゃぞ」
父上は苦笑すると俺にそう言ってくれた。

「ありがとうございます!」

「そうよ。みゅぅくんは真面目すぎよね、そんなことじゃグランベルに行ったら、マジメクーンとか言われてからかわれちゃうよ」
エスリンは含みのある目線で兄上をじぃっと見た。

「なぁんだ、その目は」
兄上は苦笑してエスリンの肩に自分の肩を軽くぶつけた。

「だぁってぇ、キュアンったら……」
その後しばらくエスリンは士官学校時代の兄上の話を語った。
のろけ話でしたごちそうさんですーってところかな、予想よりはグランベルの社交サロン的なのはくだけてるのか爛れているのか?
レンスターひいては北部トラキアの国々はグランベルから舐められないために格式ばっているのかもしれないなぁ。

「こと口でのいくさは、古来よりおなごには勝てぬものじゃキュアン」
話がひと段落したところで父上は飲み物に手を伸ばした。

「そうですね。なぁに、夜はこれからですしこの後ねえさまに反撃ですよ兄上!わたしも早くおじうえなんて呼ばれるようになってみたいですからね」
俺がそう言うと父上はぶーっと噴き出してむせている。
ねえさまにはとっちめられました。
いやー口は災いのもと!





 
 翌朝一番でコノモール伯爵の滞在先へ書状を届けてもらい、お互い時間を合わせて会見した。
型どおり挨拶を交わすと、お互いに細かい意見の擦り合わせを行った。
疑問に思っていることもあったのでそれも問うてみた。

「伯爵、四国会議に於いて我が兄キュアンは既に出席の経験あるでしょうか? わたしから申すのもおかしな話でありますが、まだ若輩ですし…それに先だってわたしが出席するといらぬ波紋が、わたしたち兄弟の間では無いとしても仕える者同士であるかもしれないと思い……」

「その点はご心配なく、キュアン王子はカルフ王の補佐官として既にその地位にあります。うーむ、それにしても殿下は……」

「わたしがなにか?」

「いや、失礼。流石は聖戦士の血筋だけはあると、まるで同年代同士で語っているかと時折思いましてな」
…コノモール伯爵はまだ30前後ぐらいだよなぁ、俺は中の人年齢だとそれより上なんだけれどこれって俺の方が精神年齢幼い?いや!心は少年!うんうんそう思おう。

「それは伯爵が大人なので、生意気なわたしに合わせてくださっているのですよ! ところで、今回の顧問の件ですが父上からも許可を得てもよろしいでしょうか? トラキアの奥地までの情報に通じているということであくまで戦に反対ということは伏せて……話の流し方で反対に流れるようにしたいと思うのですが…」

「なるほど、でしたらそのあたりの打ち合わせを少し変更しましょうか」

「お手数おかけいたします」

「……」
悪だくみ?は続いた。




 コノモール伯爵との協議のあと父上と話す機会を作った。

「お礼を申しにコノモール伯爵へ伺ったところ、トラキアの奥地までの様子を間近で知っているということで次回の軍事会議に顧問として招きたいと申し出があったのですがお受けしてもよろしいでしょうか?」

「ふむ。特に反対する理由もないな、お前も良い機会を得たと思う、思うようにやってみなさい」
ドリアス伯爵やゼーベイア将軍をはじめ主だった人間には反戦やトラキア寄りの話をしてきたが、父上や兄上の前ではしないようにしていた。
重臣たちも父上の耳には入れてなかったんだろう。

「ありがとうございます、皆のお役に立つことができるよう励みます」
…すまない父上、あなたのやろうとする戦、止められずとも規模を少しでも小さくできるよう無い智恵絞ってみます……ごめんなさい。







 会議の当日が訪れた、俺は正装し幾分緊張していた。
レンスターの代表では無くアルスター側で出席というのもそれに影響していると思う。
俺はコノモール伯爵とその随員に混じった。
ほとんどの相手が初対面なのでしっかりと挨拶を交わす。
議場に入り指定された席につくと会議が始まる時間が近づくにつれ鼓動が激しくなる。
落ち着け、落ち着け、命が取られるわけでなし、そんな長時間の演説でもするわけでもないんだ。

…会議が始まると、もう戦をするかどうかという議論では無く、既に開戦が前提となっており各国がどれほど軍勢を動員するか、戦術面はどうするかという点からになっていた。
父上が言うにはミーズから兵を送りだし敵軍の主力をを引きつけている間に、あらかじめ騎兵を中心とした部隊をターラに潜伏させておき、敵主力を釘付けにしている間に騎兵部隊で一気にトラキア本土とトラキア首都を陥すというものだ。
俺がターラでコノモール伯爵と出会ったのも伯爵がターラの首脳との交渉を行っていたからだ。
たしかにうまい手だと思うのだが…穴も多い。
例えば騎兵部隊でトラキアを突破するにしたってトラキア城周辺に近付くに従い窪地が多い、走りなれた平野でそこに窪地があると分かっているのならいいだろう、だがほとんどの兵にとっては未踏の地だ。
窪地も多いとなれば行き足も鈍り突破力も落ちるだろう。
それを克服し主要な都市に攻め入れたところで攻城兵器があるわけで無い、下馬した騎士で城攻めはどうであろうか?完全な虚でも突ければ別であろうが…
そうして城を陥したとして、その後はどうだろう?兵站ルートを寸断されたら占拠した拠点に立て篭もったとしてもすぐに食糧不足で無力化されることだろう。
加えて疫病だ。
俺は一応アジア式の種痘ならやり方自体はわかっているが、受ける側の兵士は抵抗感が強いだろうし、運の悪い2%に入ると死ぬのも士気に関わるだろう…牛痘法が良いのは知っているが俺は牛の病に詳しくないからかかった牛を見分けることも出来ないし都合よくかかった牛が居なければ実行もできないしな…

そんなことを考えていたところ発言するように求められた。
一気に緊張した。

「今回はアルスター代表団の方々のおかげを持ちまして発言の機会を与えられました。レンスター第二王子のミュアハと申します。」
緊張するのでここまで言ってから一礼し、

「ごく最近まで異国で命ながらえておりました。それが出来たのも各国みなさまがトラキア王国への食糧援助を誠実に執行されていたからです。ありがとうございます」
まばらに拍手が鳴った。

「さて、2年余りわたくしは彼の地で暮らし、首都トラキアをはじめ他いくつかの村などに滞在しその国土全てではありませんが幹線ルートのようなものを多少なりと知ることが出来、今回の作戦の進軍ルート策定にわずかばかりでも貢献できるのではないかという思し召しにより発言の機会を与えていただきました」
緊張の余り流れた脂汗を懐からハンカチを取り出し拭い、その間に少しでも落ち着こうと試みた。

「彼の地は南に行くに従い、乾燥化が激しく、そのために地下水くみ上げが影響し窪地が非常に多いです。この窪地自体にも、窪地を人為的に拡張し兵を潜みやすくした防御陣地とでも申しておきますか、そのように守るに易い立地になっており、いかに我が軍の武勇誉れ高くとも何の抵抗もなく速やかに突破できるかと問われた場合わたしは返答をためらわざるを得ません」
ここまで言うとちらほらと唸るような声が聞こえてきた。

「特にトラキア城に向かえば向かうほど窪地は不規則に、無数に存在しており、彼の国が飛竜を用い、騎兵を補助的に用いる事の裏付けともなっているということ、ご理解いただけるのではないでしょうか?」
ここまで言うと、俺は用意されていたグラスを手に取り水を一口含む。

「我が軍の誉れ高き武勇なれば、城を落とすことも叶いましょうが、その地を永劫守り通せるかと問われた場合、わたしはまたも返答をためらわねばなりません。 なぜなら、彼の地の食糧事情を鑑みるに、駐留した我が軍の兵力を養うには余りにも不足しているからです。
わたしの滞在した村での話になりますが、痩せこけ老婆の如きに見えた女性がいまだ三十の齢にも満たず、知らずに接したわたしは深く彼女を傷つけたと思います。過酷な労働と粗食、それがその不幸な女性を生みだしたのです。
しかし!その女性は生まれたその村で暮らせていただけまだ良かったのです。
すこしでも目鼻立ち整った女児が生まれたら貧しい食事でも優先的にその子に与え、14か15か、それくらいになれば着飾らせて周辺の自由都市、あるいは遠くグランベルやアグストリアにまで娼婦として売りに出し、その子の稼ぎで命を繋ぐ一家というのが多いのですから……
そのような暮らしの中でさえ、人としての心を持ち、卑劣なトラバントに害されそうになったわたしを身を呈して守り続けてくれた領主どのがおられました。
この方はわたしのために、わたしが人質の任務を投げ出した訳でなく、やむなくトラキアの地を離れたのでわたしを罰さないで欲しいと文書を発行してくださいました。己の立場を投げ出してまでです。
決して、残虐で智恵や文明を持たない蛮人ではないのです!」
ここまで話してから俺は一呼吸置き、会場を見渡してから

「かような地を奪い、支配したところで何を得るでしょう? あるとするのならば恨みと我らの悪名のみがトラキアの民の心にいつまでも刻まれるでしょう。 思い出していただきたい、トラバントがミーズを速やかに明け渡したのはミーズ周辺の民からの恨みを買うことを避けた為です。城を得ても保つ力が未だ足りずと思ったのでしょう。それに倣えとは申しません、ただ、いまのわたしの報告から各国の代表皆さまが感じ取る何かがあればと思います」
一礼して俺は着席した。
まだ伝え足りないことは多いだろうが、これでいいだろうか…
万雷の拍手とまでは行かないが議場では拍手が鳴り響いた。

父上の顔を見るのが恐ろしかった。
だが、視線を向けない訳にはいかなかった。
そんなことをしてしまったら、俺はもう二度と……


腕組みをして俯いていた父上は意を決したように一度上を見上げてから拍手に加わった。
怒りとも悲しみとも笑顔とも呼べない顔で俺のほうを見ると頷いてくれた。  
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