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ソードアートオンライン 無邪気な暗殺者──Innocent Assassin──

作者:なべさん
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SAO
~絶望と悲哀の小夜曲~
  パンドラの箱

反応は迅速だった。

鋭い舌打ちとともにカグラは素早く長刀を振るう。振るわれたそれは、一片の狂いも無くとうとうと意味の解からない言葉を羅列するマイの頭へと吸い込まれていく。

それは、無防備となっているマイの頭に音も無く入り込み、ごっそりと削り取る───はずだった。

紫色の閃光とともに、長刀がマイの頭の手前で止まる。音も無く浮上がる、紫色のウインドウ。破壊不能(イモータル)オブジェクトの表示。

HPが減らないようシステム直々に保護された、一般プレイヤーの手が届かない、神のステータス。

だが、カグラは宙空で止まったままの刀の刀身に残った左手を添える。

途端に、刀身から赤い光が洩れ始める。

過剰光(オーバーレイ)

「はあああぁぁぁァァァァーッ!」

カグラが呼気を吐き出しながら、ゆっくりと刀身を押す。

すると、ミシリ、と言う音がし、破壊不能を示すウインドウが少しずつ、しかし着実な速度でへこみ始める。

ピキリ、ビキリ、ビキッ

大小様々な悲鳴が確かな音量で、レンの耳に入る。助けに行こうにも、今のレンには手も足も無い。

「ッがあああぁぁァァーッ!」

レンは懸命に叫び立ち上がろうとするが、できない。いかな心意システムであれど、斬り取られた手足が再生するわけもない。

外部が叫び声で充満しているが、当の本人であるマイはそれらを見ていなかった。あまりにも感情の欠落した瞳で、まるで機械のように淡々と意味の解からない事を呪文のように呟いている。

まるで、そのためだけに生まれてきた《装置(システム)

「……の固定に成功。適格者との回路の確立を確認。脳波との固定リンク率86.23パーセント、ノイズ除去率57.09パーセント、ノイズ発生率3.958パーセント。許容範囲内と断定。システム的防壁の破損率、71パーセント。心意システムのものと断定。全体の処理率を10.37パーセントの上昇を申請……承認。適格者への脳細胞ダメージ10.53。適格者の大脳の推定限界活動時間、六分四十六秒。大脳ニューロンの活動率13.92パーセント。思考クロック域までの接続及び回路の確立を検討……成功。加速比率はテスト比率の1000倍で申請……承認。適格者のフラクトライトへのコンタクトを開始。光量子の状態は安定。結論、現状維持。適格者への………」

淡々と真っ白な少女は、無感情に言葉を紡ぐ。ゆっくりと確実に迫ってくる刀を気にもせず、ただただ紡ぐ。

対するレンは、不思議な感じを味わっていた。まるで、何者かに体を覗き込まれ、ほじくり返されているような感覚。だが、不思議と痛みはない。局所麻酔で手術を受ける患者さんみたいな気分だ。

それと同期するように、視界がどんどんクリアになっていくのを感じる。

どんどん視野が広がり、周囲の景色がよく見えるようになっていく。

同時に色もはっきり見えるようになり、カグラの緋袴の色やマイの純白の髪、周囲にいまだどぽどぽと広がり続けるレンの血が作る血溜まりの色も。

パキリ、と。明らかにこれまでと違う異質な音が響き渡った。

レンが思わず仰ぎ見るのと同時に、目の前に何かが落下して来た。紫色のそれは、明らかにマイを守る最後の砦、破壊不能表示ウインドウの欠片だった。

落下したそれは、ささやかな破砕音を振りまいて空中に溶けるように消えた。

「…………………………ッ!!」

喉が一瞬で干上がる。残された時間はもはや残り少ないことを、否応なく悟る。

「…システム的防壁の破損率94パーセント。これまでの侵攻速度から推測し、システム的防壁の残定耐久時間はおよそ一分十八秒と推測。結論、現状の作業能率では安定した状態で顕現させることは不可と判断。よって、現状態での顕現を検討……承認」

とつとつとマイの声が聴こえる。内容は全く判らないが、カグラには判るらしい。

よりいっそう険しい顔をし、ヒビの入った紫の窓を狂ったように殴りつける。

「止めなさいッ、やめなさいッ、ヤメナサイッ!!」

「…侵攻速度の上昇を確認。直ちに強制起動シークエンスを実行する。……周囲十メートルの座標adbfyozfnck,lnlclbbnl;vnvvmtl;muvwelfe16832432095432095からlnr;jf;skl;nddfg:sjgs;lgtyshgagjeo3259618941563649までの接続……成功。適格者は、指定のボイスコマンドの発声をやってください」

マイが発したその言葉がレンの聴覚を揺らす前に、レンの脳裏に電撃のように短い単語が閃く。

半ば反射的に叫ぶ。

「バースト・リンクッ!!」










世界が止まっている。

そのことにレンが気付いたのは、かなり遅まきだった。気付いたら周りの景色が止まっていた、と言う風なのだ。

狂ったように長刀を叩きつけていたカグラも、木々の葉のさざめきも、宵闇に凪ぐ弱い夜風さえも。

全てが、ビデオの一時停止ボタンを押したようにピタリと止まっている。

「なん…だ………これ……」

横たわったまま、レンは小さく呟く。いつの間にか、カグラに断絶された四肢の痛みが消えている。ちらりと見ると、切断面が綺麗に消失して元に戻っている。それをぼーっと見ながら、軽く拳を握ってみる。

若干ゆっくりではあるが、五指はちゃんと動いてくれた。

「う…………」

軽くうめきながら、立ち上がる。少しふらふらするが、立てないということは幸いなさそうだ。

そこまできて、やっとレンは周囲を見渡す。第一印象と同じ。

やっぱり全てが止まっている。近くの木の枝に止まっている鳥も、空中を飛んでいる蝶すらも空中で止まっている。

それをいささか思考が付いて来てない感がある頭でレンは見ていた。

その時───

ビギリ………………

「……ッ!…が……う………あァ」

明確な鋭い痛みが脳裏で響いた。同時に、無機質な声がレンの聴覚を揺らした。

「やはり完全なリンクは不可能なようですね」

レンが振り返ると、少し離れたところに瞳の色をなくしたマイが静かに佇んでいた。

「マイちゃん!」

思わず呼びかけたレンの声を完璧にスルーし、マイはぶつぶつと意味不明な言葉を羅列する。

「やはりシステムとのバランスは困難ですね。生命活動を無視すると、5000倍なるのですが……。しかしそうなると、データの収集が追いつきませんね。………まったく、人間と言うものはどうしてこう脆いのでしょうか」

あの無垢な彼女の口から発せられたとは思えない冷たい言葉に、レンの体が気圧されて一瞬固まる。

だが、気をどうにか持ち直して細い彼女の肩を掴む。

「ねぇマイちゃん、いい加減に教えてくれない?この時間が止まったような世界は何?君は何なの?」

マイはちらりと掴まれた肩を見たが、幸いにも何も言わずに口を開いた。

「この世界はあなたが思った通りの世界ですよ。正確には止まっていませんがね」

「止まってない?」

レンはもう一度周囲を見回す。全く景色は変わっていない。……いや、違う。さっきとは微妙に鳥や蝶の位置がずれている。

「うッ………ッ!」

そこまで見た時に、再び頭に鋭い痛みが走ってレンは思わずうずくまる。それをマイはあくまで無表情で見下ろす。

頭蓋骨が割れるような、凄まじい痛み。ぎしぎしと頭が軋むような気すらもする。

再び、頭上から無機質な声。

「……やはり、いくら適格者とは言っても限界がありますね。脳細胞の死滅が始まっていますか」

あくまで無機質を貫き通すその言葉を聞いて、レンは思わずぎょっとする。脳細胞の死滅?脳細胞って……あの脳細胞?

「これ以上の続行は難しいですね。だとすればどうしましょうか」

フム、とおとがいに手を添えるマイの外見をしたモノの眼前に、音もなく一つのウインドウが出現した。それを一瞥したマイの表情が、若干だが初めて変わった。

「……これはこれは。運命と言うのは時としてとんでもない悪戯をすると言いますが、この場合はまだ現実的な範囲でしょうか?」

ふふ、と笑みを洩らすマイであり、マイではないモノ。

そしてこちらをちらりと見るマイ。

「あなたの全ての質問に答えられなくて本当にすいません。ですが、私が何者か、と言う質問に関してはあなたは間もなく知ることになるでしょう。それまでは───」

そこで言葉を切り、マイの外見をしたモノがしゃがみ、レンの口元に自らのそれを近づける。その口元に浮かんでいるのは妖艶な笑み。

「私の体をよろしくお願いいたします」

その夢魔のような笑みに思わずドキッとしたレンの前で、ゆっくりと可愛らしい口が動く。

「バースト・アウト」

時が止まった世界の中、その声はありえないくらいはっきりと響き渡った。










─────自業自得でない悲劇などありえない。全く自分の所為ではない不幸が次々に襲い掛かってくる芝居があったら、抱腹絶倒の大喜劇に違いない─────バルタザール────── 
 

 
後書き
なべさん「始まりました!そーどあーとがき☆おんらいん!!」
レン「いぇい!んじゃあ、早速お便り紹介行こっか」
なべさん「んー」
レン「ルフレさんからのお便りで、マイちゃん何者!?だって」
なべさん「んー、前回の終わりかたが意味深すぎたからねぇ。しゃーないか」
レン「さすがにこれは、ネタバレすんなよ」
なべさん「言わないって!その振り上げた拳を下ろせ!こえーんだよ!」
レン「……………………」
なべさん「ま、まあ、これだけはな。物語の核心だし」
レン「……………………チッ」
なべさん「今舌打ちした!?舌打ちしたよね!」
レン「はい、自作キャラ、感想を送ってきてくださいね~♪」
──To be continued── 
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