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美少女超人キン肉マンルージュ

作者:マッフル
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第2試合
  【第2試合】 VSノワールプペ(7)

 暗塊が消え去り、キン肉マンルージュの姿があらわになる。そしてキン肉マンルージュの姿を見たミーノは、ひどく悲しい気持ちにさせたれた。
 リングの真ん中に立っている、ふらふらのキン肉マンルージュ。
 全身は汗でびっしょりに濡れている。まるでバケツの水を何度も被ったかのような、水滴が滴り落ちるほどの濡れっぷりであった。そして足元には汗の水溜りが出来ている。
 コスチュームは様々な場所が切り刻まれ、もはや半裸とも言えるほどに肌が露出している。見る者の方が羞恥の気持ちにさいなまれてしまうような、悩ましくも怪しい、妖艶な雰囲気さえ漂う、ひどい乱れようである。
 キン肉マンルージュの姿を見た観客達は、全員が全員、言葉を失ってしまった。そして心に、ある言葉が浮かび上がった。

“無残”

 あまりにも残酷……直接的な肉弾戦とは違い、ひどく間接的で陰惨な、とても悪魔らしい攻撃である。
 静まりかえる会場……そんな中、真・悪魔将軍プペはコーナーポストの先端で、あぐらをかいて座っていた。

「プペプペプペプペプペッ! ションベンガキ超人よ! 貴様の無様で淫靡ったらしい姿を見て、観客達がひいてしまったぞ? 目立ちたがりのキン肉マンファミリーの一員として、こういった雰囲気はよろしくないのではないか?」

 キン肉マンルージュは真・悪魔将軍プペの方に振り返ることもせずに、その場で口を開いた。
 そしてキン肉マンルージュは拳を握りながら両腕を開き、胸を張り、身を反らせ、空に向かって吠え上げる。

「……への……つ、つっぱりは……ご遠慮願いマッスルぅぅぅうううッ!」

「プペプペプペプペプペッ! 意地の咆哮か? それとも断末魔か? どちらにせよ、燃えカスとなったションベンガキ超人には、きちんと破滅の九所封じをかけて、完膚無きまでに滅ぼしてくれようぞ」

 真・悪魔将軍プペはリング上に着地し、ゆっくりとした歩みでキン肉マンルージュに近寄っていく。

「……マリ様……きっとこんな絶望的な状況でも……マリ様はキン肉マンルージュ様を信じて……だからこそずっとずっと、見守り続けて……でも……ミーノだって信じていますですぅ、キン肉マンルージュ様のことを……でも……それでも……ミーノには無理なのですぅ! 見守るだけなんて、出来ないのですぅ! このままでは、キン肉マンルージュ様が死んでしまうのですぅ! ミーノにはキン肉マンルージュ様を見殺しにするなんて、絶対に出来ないのですぅ!」

 ミーノは涙を流しながら、リングをバンバンと叩く。

「キン肉マンルージュ様ぁ! 変身を解くのですぅ! キャンセレイションするのですぅ! そうすれば、受けたダメージは無くなりますぅ!」

 キン肉マンルージュは動かない身体を無理やりに動かし、ミーノの方へと向き直る。

「だめ……だよ……それじゃ、負けになっちゃう……正義超人は悪を前にして……絶対にギブアップ……しないんだよ……」

「そ、そんなこと! そんなこと言ってる場合じゃないのですぅ! このままではキン肉マンルージュ様が壊れてしまうのですぅ! 死んでしまいますぅ! そんなの……絶対に嫌なのですぅぅぅ!!」

 ミーノはリングを叩きながら懸命に叫び上げる。そんなミーノにキン肉マンルージュは笑顔を向けた。

「……大丈夫……だよ……わたし……まだ戦えるよ……マッスル守護天使、キン肉マンルージュは……無敵の正義超人なんだよ……」

「だめですぅ! だめなのですぅ! お願いなのですぅ! 変身を解いてなのですぅ! お願いですぅ! お願いしますですぅ!」

 キン肉マンルージュは目から何かが流れるのを感じた。

「あれ? なんだろう? 涙が勝手に……」

 キン肉マンルージュは手の平で涙を拭った。

「これ……赤い? ……これ、涙じゃない……血……血だよ……」

 赤く染まった手の平を見て、キン肉マンルージュは困惑した。目から、つうっと、血が流れてくる。

「プペプペプペプペプペッ! 血の涙か? 身体がぼろぼろすぎて、涙腺にまでダメージが及んだか。プペプペプペプペプペッ! こいつはよい!」

 真・悪魔将軍プペは笑い上げながら、キン肉マンルージュの目の前にまでやってきた。

「プペプペプペプペプペッ! そのうち目だけではなく、全身の穴という穴から血が吹き出るようなる! キン肉マンルージュよ、貴様の名前の通りに、全身がルージュに染まるのだ!」

 真・悪魔将軍プペは両の手を開き、手の平をキン肉マンルージュに向ける。手の平にはデヴィルディスペアが集まり、ゆらゆらりと、怪しく揺り動いている。

「間もなくこのリングは、貴様の血で染まることとなる。自らの血で、血の海となったリングだ。貴様のようなションベンガキ超人にはもったいないほどに、素敵な死地であろう?」

 真・悪魔将軍プペはデヴィルディスペアで真っ黒になった手を、キン肉マンルージュに寄せていく。

「マリ様! お願いですぅ! キン肉マンルージュ様を助けてくださいですぅ! マリ様、助けてですぅ!」

 泣きながらマリにすがりつき、叫び上げるミーノ。しかしマリは、ミーノに顔を向けようともしない。リング上にいるキン肉マンルージュを、ただただ静かに見守っている。

「そんな……マリ様……いくらなんでも……あ、あんまりなのですぅ! もういいのですぅ!」

 ミーノはマリから離れ、会場に向かって叫び上げる。

「だ、誰か、助けてなのですぅ! キン肉マンルージュ様を、助けてほしいのですぅ! お願いですぅ! お願いしますぅ! 誰でもいいから、助けてですぅ!」

 ミーノの懸命な訴えも空しく、誰ひとりとして名乗り出る者はいなかった。
 この会場には実質、真・悪魔将軍プペを止められるような強者など、誰一人としていないのである。

「無様だな、ミーノよ。そうやっていつまでもあがいておれ。そして成すすべ無く、こやつが滅び去るのを見物しているがいいわ!」

 真・悪魔将軍プペはキン肉マンルージュと握手をすべく、キン肉マンルージュの手を掴もうとする。

“ばちぃんッ!”

 乾いた打撃音が周囲に響き渡る。真・悪魔将軍プペの手をキン肉マンルージュが弾いた。
 手を払いのけられた真・悪魔将軍プペは、驚いて呆然としている。

「プペェ! い、いまのは……」

 キン肉マンルージュは自らの手の平を見つめながら、驚きと疑問を言葉にかえる。

「なんだろう……今、すごくうまくいった……自然に身体が動いた感じ……」

 真・悪魔将軍プペは間髪入れずに、再びキン肉マンルージュの手を握ろうとする。

“ずびちぃんッ!”

 キン肉マンルージュはゆっくりとしたモーションで、しかし隙の無い動作で、真・悪魔将軍プペの手を払った。

「プペェ! こ、こやつ」

「なんだか、わかった気がするよ!」

 苦々しく顔を歪める真・悪魔将軍プペ。
 対して、自信に満ち溢れた顔をしているキン肉マンルージュ。

「イメージ……そう、イメージ! マッスルアフェクションで動かすんじゃなくて、マッスルアフェクションが自分の身体そのものだっていう、イメージ!」

 真・悪魔将軍プペは目で追えないほどの速さで、右ストレートを放つ。

“びゅおん”

 真・悪魔将軍プペの右腕が空を切る。

「プ、プペェ! い、いない?! ど、どこへ行きよった!」

「おーい、真・アクペちゃん! こっちだよお!」

 背後から声が聞こえた真・悪魔将軍プペは、慌てて背後を振り向いた。
 そこにはコーナーポストの先端で片足立ちをしながら、お尻を突き出しながら手でハートを作っている、キン肉マンルージュの姿があった。

「ば、馬鹿な! この異常なスピード……これではまるで……まさか、そんな馬鹿げたことが……」

 真・悪魔将軍プペはキン肉マンルージュの変化に驚かされ、信じられないとばかりに何やら呟いている。
 そんな真・悪魔将軍プペを見て、マリは口を開く。

「真・悪魔将軍プペ、あなたはこう言いたかったのでしょう? これではまるで、マッスルアフェクション使いの熟練者ではないか! と」

 真・悪魔将軍プペはきつくマリを睨みつけた。

「ほざくな! ……確かに、このションベンガキ超人の動きは、マッスルアフェクションの使い方をマスターしている者の動きだ……だが、府に落ちん点は、それだけではない……さっきまで虫の息であったションベンガキ超人が、なぜだか今は活気と気力に満ち溢れた顔をしている……どうなっておるのだ? まったくもって理解不能な事態だ」

 マリは落ちついた、とても静かな声で、真・悪魔将軍プペに言葉を返す。

「あなたがキン肉マンルージュを追い詰めるために行った、地獄のメリーゴーラウンドによる追尾、追跡。確かにこれは、キン肉マンルージュの体力を極限まで削り、肉体的にも精神的にも、追い詰めに追い詰めたわ。そして与えられたダメージも甚大だわ。でも……」

「でも、なんだ? 答えろ! マリよ!」

 真・悪魔将軍プペはマリに向かって凄んでみせるが、マリは眉ひとつ動かさずに説明を続ける。

「でも、キン肉マンルージュはあなたから逃げきったわ。最後まで逃げおおせた」

「余から逃げっきた? 逃げおおせた? 馬鹿なことを言うものではないな、マリよ! 余は、わざとションベンガキ超人に追いつかず、あくまで付かず離れずで、背後からプレッシャーを掛け続けていたのだ!」

 マリは小さく顔を振った。

「いいえ、違わないわ。 最初のうちは確かに、キン肉マンルージュを追いまわしながら、追いかける速度を調整していたのでしょう。でも途中から、あなたは本気を出してキン肉マンルージュを追い掛けていた。違うかしら?」

 真・悪魔将軍プペは、わざと強く、会場中に聞こえるような舌打ちをした。

「……確かに、そうだ……」

「真・悪魔将軍プペ、キン肉マンルージュはあなたに追い掛けられていたあいだじゅう、必死になって不慣れなマッスルアフェクションのコントロールをしていたの。命を削りながら、必死になって、懸命になって、ひたむきに、一生懸命に、マッスルアフェクションをコントロールし続けたの。そしてその結果、キン肉マンルージュは知ることができたの、マッスルアフェクションで肉体を操作する秘訣を。そして修得したのよ、マッスルアフェクションをコントロールするすべを」

「それでは、何か?……余はションベンガキ超人を追い詰めていたつもりが、その実、こやつを成長させてしまったと……」

 ミーノは呆然としながら、頬を濡らしている涙を拭うことも忘れてしまうほどに、マリと真・悪魔将軍プペの会話に聞き入っていた。

「通常は数十年とかかるマッスルアフェクションの修得を、キン肉マンルージュ様は真・悪魔将軍プペから逃れることで……一気になし得てしまったのですぅ……そして真・悪魔将軍プペはキン肉マンルージュ様を追い込んでいるつもりが、逆にマッスルアフェクションの修得を超飛躍的に早めてしまった……マリ様はこうなることがわかっていたから、あんなにも冷静でいられたのですぅ?」

 マリは違うとばかりに顔を振り、そしてミーノに優しく微笑みかけた。

「私もこうなることは全く予想していなかったわ。でもね、私は信じていたの、キン肉マンルージュという超人を。キン肉マンルージュは絶対に大丈夫だと、ずっと信じていたのよ」

 ミーノは言葉を失った。そして胸が張り裂けそうな、それでいて心が満杯にまでいっぱいになったような、不思議な気持ちにさせられた。
 キン肉マンルージュという超人を信じきることができなかった自分が、ひどく情けない。
 その一方で、マリが凛香を想う気持ちの大きさ、偉大さ、愛の深さと凄さを肌で感じ取り、これ以上ないほどに感動した。
 ミーノはマリという人間の凄さが、身にしみてわかった。

「とうッ!」

 キン肉マンルージュは勇ましい声を上げて飛び上がり、リング上に着地した。

「すごい……すごいよ! 今までみたいに肉体を動かしていたときよりも、マッスルアフェクションを使う方が全然すばやく動ける! 力もアップしてる!」

 キン肉マンルージュは目で追えないほどの速さで、様々なポーズをとっていく。

“しゅばッ! びしぃッ! ぎゃぴーん! ずぴぎゅーん! ばぎゅじょーん!”

 キン肉マンルージュがとっているポーズのバリエーションがあまりにも豊富で、そしてそのポーズが全て彼女のオリジナルだという事実が、観客達に不可思議な迫力を与えている。

“………………なんだか、すごいな、ルージュちゃん”

 言葉を失っている観客達をよそに、キン肉マンルージュは会場中に響き渡るような大声で独り言を話す。

「これなら、いけるよ……絶対、いけちゃうよ!」

 真・悪魔将軍プペはキン肉マンルージュから只ならぬ気配を感じた。そしてとっさに両腕で上半身をガードしながら、後方に飛び退いた。

「ざーんねーんでーした、だよ! そんでもって真・アクペちゃんの後ろをゲット、だよ!」

 背後から声が聞こえた真・悪魔将軍プペは、後ろを振り返ることなく裏拳を放った。しかし、そこにはキン肉マンルージュはいなかった。

「またまた、ざーんねーんでーした、だよ! 正解は、真・アクペちゃんのお尻にいた! でしたー」

 真・悪魔将軍プペの背後で身をかがめていたキン肉マンルージュは、両脚で真・悪魔将軍プペの臀部を思い切り蹴り上げた。
 蹴られた勢いで真・悪魔将軍プペは真上へと飛ばされてしまう。そして真・悪魔将軍プペを追うように、キン肉マンルージュも真上へと飛び上がる。

“あああっとぉぉぉ! こ、この体勢はぁ!”

 アナウンサーが興奮しながら声を荒げる。
 キン肉マンルージュは宙で真・悪魔将軍プペをキャッチし、肩で真・悪魔将軍プペを担ぎ上げる。そして真・悪魔将軍プペの股を開くように、両脚の大腿部を押し下げる。

“間違えありません! この技はキン肉マンを象徴する伝家の宝刀! キン肉バスターだあ!”

“ずごどごごおおおぉぉぉん!”

 リングがたわむほどに激しく、キン肉マンルージュの放ったキン肉バスターが見事にきまった。

「プペェ……さすがは幾多の超人達を苦しめた元祖バスター、キン肉バスターよのう……結構に効いたぞ……だが、この程度では余は倒せぬぞ?」

「うん、そうだよね。わたしだって、これだけで倒せるなんて、ちっとも思ってないよ? まだまだ技の途中だもん!」

 キン肉マンルージュは真・悪魔将軍プペを担ぎ上げたまま、真上へと飛び上がった。

“おおおっとぉぉぉ! キン肉マンルージュ選手! またも飛び上がったあ! 今度は一体、何をするのでしょうかあ!?”

 キン肉マンルージュは真・悪魔将軍プペの身体を下方に向け、両足首を掴んだ。そして真・悪魔将軍プペの両腕に、自らの両足を乗せる。
 これでキン肉ドライバーの完成である。しかしキン肉マンルージュは更に真・悪魔将軍プペの両腕を自らのふくらはぎで挟み込み、がっちりとホールドした。そして自らの身体を後ろに反らし、同時に腰を後ろに向かって曲げ、真・悪魔将軍プペの胸を反らさせた。更にお尻をアシュラマン・ザ・屍豪鬼の頭に乗せ、顎が激突するように顔を上げさせる。

“こ、これはぁ! 先の試合で見せました、キン肉マンルージュ選手オリジナルのファイバリッドホールド! キン肉ルージュドライバーだあ!”

“ごずどごずごごぉぉぉおおおん!”

 先程のキン肉バスター以上に、リングが、ぐわりと、大きくたわんだ。
 そして真・悪魔将軍プペの身体は、まるで名古屋城のしゃちほこのように、海老反りになって突き刺さった。
 キン肉マンルージュは真・悪魔将軍プペから離れ、そのまま飛び上がり、自陣のコーナーポストの前で着地した。

“うおおおおおッ! す、すんげえ! キン肉バスターとキン肉ルージュドライバーの2連撃! やばすぎるでしょう、これは!”

“フェイバリッドホールドの連続技! ひとたまりもないよ、これは!”

 観客達は興奮しながら、沸きに沸いた。
 先程まで一方的にやられていたキン肉マンルージュの、見事すぎる復活劇。そして大技の連続アタック。
 観客達は胸を熱くして、キン肉マンルージュに声援をおくる。

「プペプペプペプペプペッ! いい気になるなよ、ションベンガキ超人めが! たかだか正義超人なんぞが放った、ただの連続攻撃ではないか! ノーダメージとまではいかないまでも、余にはこんなもの、全く効かぬわ! 効かぬといったら効かぬわ!」

 真・悪魔将軍プペは全身を揺らし、起き上がろうとする。しかし真・悪魔将軍プペの身体はかすかに揺れるだけで、しゃちほこの格好のまま動かなかった。

「プペェ! な、なんだこれは?! ……う、動かぬ……動かぬぞ!」

 真・悪魔将軍プペはむきになって身体を揺するが、しゃちほこの格好から動くことができない。

「またまたまた、ざーんねーんでーした、だよ! 真・アクペちゃんは、絶対に動けないよ!」

「な、なんだと?! どういうことだ!?」

 キン肉マンルージュは薄い胸を張りながら、腰に手を当てて説明をする。

「キン肉バスターは別名、五所蹂躙絡み。つまり5ヶ所の急所を封じることができるんだよ。それでもって、キン肉ルージュドライバーは4ヶ所が封じれるの。だからね、計9ヶ所を封じたんだもん、動けるはずがないよ」

「封じた? だと……9ヶ所を封じた、だと……それでは、貴様……余に九所封じを仕掛けたと、そう言いたいのか?」

 キン肉マンルージュは薄い胸を更に反らせながら、フンと鼻息を吹き出して答える。

「そうだよ! これが正義版九所封じ、不滅の九所封じだよ!」

 真・悪魔将軍プペは動かない身体を揺らしながら、高らかに笑い出した。

「プペプペプペプペプペッ! プペプペプペプペプペッ! なるほど、そうか! 不滅の九所封じときたか! だがな」

 真・悪魔将軍プペは両手をキャンバスにつけて倒立し、勢いをつけてリングに着地する。そして何事もなかったかのように、キン肉マンルージュに立ちはだかる。

「ッ! な、なんで?! どうして動けるの!?」

「プペプペプペプペプペッ! 教えてやろう、なぜ余が動けるのかを!」

 そう言うと、真・悪魔将軍プペは全身から大量のデヴィルディスペアを噴き出させた。真・悪魔将軍プペの全身を覆っているデヴィルディスペアが、ゆらゆらと妖しく揺れている。

「貴様がマッスルアフェクションで肉体を操っているのと同じで、余もデヴィルディスペアで身体を操ることができるのだ。つまり余の身体を封じても、無意味だということだ」

 そして真・悪魔将軍プペは頭のてっぺんを、人差し指でとんとんと叩いてみせる。

「更に、貴様は九所封じに失敗している。正確には、貴様が封じたのは7ヶ所。残りの2ヶ所である余の思考力と、そしてここ、脳天を封じておらぬわ」

「そんな……あと2ヶ所、足りなかったなんて……」

 落胆するキン肉マンルージュを、真・悪魔将軍プペは愉快そうに眺める。

「余は思考力と脳天の2ヶ所、そして貴様は思考力と首の2ヶ所、互いに封じ残しているということだ。どうやらこの試合、残り2ヶ所を先に封じた者が勝者となりそうだな」

 キン肉マンルージュは真・悪魔将軍プペとの距離を長く取り、防御に特化した構えをとる。そして、真・悪魔将軍プペの思考力と脳天を封じる手立てを模索する。

「……真・悪魔将軍プペの脳天を封じる技……キン肉バスターとキン肉ルージュドライバー以外で……キン肉ドライバーは脳天にダメージのある技だけど……でも、きっとダメ……キン肉ドライバーよりも威力と破壊力のある技じゃないと……でもそんな技……思いつかないよ……」

 間合いを取るばかりで、攻撃をしてこないキン肉マンルージュに、真・悪魔将軍プペは高速タックルを仕掛ける。

「どうやら余を封じる技が見つからぬようだな。対して余は、ちゃあんと決まっているぞ。貴様を滅する技を!」

 キン肉マンルージュは高速で間合いを詰めてくる真・悪魔将軍プペを、まるで跳び箱を飛ぶかのように、馬乗りになって飛びまたいだ。

「プペプペプペプペプペッ! 愚か者めが! むしろ隙だらけだわ!」

 真・悪魔将軍プペは飛び越そうとしているキン肉マンルージュの足を掴み、そのまま上へと振り上げた。

“ぶぅぉん”

 うなる様な風鳴りの音がする。
 真・悪魔将軍プペは振り上げたキン肉マンルージュを、今度はキャンバス目掛けて振り下ろす。

“ぼぉぅぉん……ずどがぁッ!”

 キン肉マンルージュはキャンバスに叩きつけられ、身体がバウンドする。そして真・悪魔将軍プペは、宙にいるキン肉マンルージュに掴みかかる。

「破滅の九所封じ、八の封じ、ダブルシェイクハンドブリッジ!」

 真・悪魔将軍プペは、宙でキン肉マンルージュの両の手を掴み上げた。そして自らの腕をクロスさせる。すると真・悪魔将軍プペの動きに合わせるように、キン肉マンルージュは腕をクロスさせられる。
 真・悪魔将軍プペはキン肉マンルージュの両足を踏みつけ、その場から動けなくする。そしてキン肉マンルージュにのしかかるように倒れこみ、キン肉マンルージュの背を強制的に反らせる。
 キン肉マンルージュは真・悪魔将軍プペにブリッジをさせられ、両腕はクロスさせられたまま、両の手を掴まれている。

「あああっとお! これは地獄の九所封じとは違う“握手”だあ! 破滅の九所封じでは片手だけではなく、両手を握手しているう!」

 アナウンサーの言葉を聞いて、真・悪魔将軍プペは笑い上げた。

「プペプペプペプペプペッ! 手は2つあるからなあ。両の手を封じるのは当然だろう?」

 キン肉マンルージュはブリッジを崩さないことに、必死になっていた。そのせいで握手にまで気が回らなくなっている。
 キン肉マンルージュは動けないまま、抵抗もしないまま、ただただ素直に握手をされ続ける。

「ふぅあああぁぁぁん……頭がぼぅっと……だめぇ、このままだとぉ……まっしろにぃ……まっしろになっちゃうぅ……頭の中、まっしろだよぉ……」

 キン肉マンルージュの思考力が、どんどんと失われていく。頭の回転は急激に鈍くなり、何も考えられなくなっていく。

「はひゅぅぅうううん……なんだか身体に……力、はいんないよぉ……ああぅ、だめだよぉ……なんだか、見えなくなってきたよぉ……目の前まで、まっしろになってきたよぉ……」

 キン肉マンルージュの目からは、どんどんと光が失われていく。
 光を失った目は、もうどこも見てはいない。
 キン肉マンルージュはぼんやりとした、どこも見ていない目で、真・悪魔将軍プペを見つめる。

「プペプペプペプペプペッ! だいぶ効いてきたようだなあ。だが、まだだ。貴様の思考力を、完全に奪い取ってやるぞ!」

 真・悪魔将軍プペは握手している手の握力を倍加させた。キン肉マンルージュの手からはバキボキッと、鈍い骨音が聞こえる。
 キン肉マンルージュは痛みを感じていないのか、無表情のまま、真・悪魔将軍プペの握手を受け続ける。

「ひううぅうぅん……ふひゅぅぅううん………………」

 キン肉マンルージュは口角からよだれを垂らしながら、うめく声すら上げなくなってしまった。
 そしてぐらぐらと、ブリッジが揺れだす。

「そろそろか」

 真・悪魔将軍プペがそう言うと、背を反らせていたキン肉マンルージュは、力なく背をキャンバスにつけてしまう。

“どずぅん”

 ブリッジは崩され、真・悪魔将軍プペの身体がキン肉マンルージュの身体を押しつぶす。

「………………」

 キン肉マンルージュは苦しむ様子もなく、何も無かったかのように、ただただぼんやりと遠くを見つめている。

「プペプペプペプペプペッ! なんともはや無様であるな。もはや心臓が動いているだけの、ただの肉塊だな」

 真・悪魔将軍プペは、のそりと身体を起こす。

「ッ! ひゃあああああッ! ですぅ!」

 全身が完全に弛緩してしまっているキン肉マンルージュを見て、ミーノは驚きの悲鳴を上げた。
 微動だにしないキン肉マンルージュは、目から、鼻から、口から、涙と鼻水と唾液を垂らしている。
 唯一の救いというのか、不幸中の幸いと言っていいのだろうか、異常なまでにおもらしを気にしていたキン肉マンルージュは、尿だけは垂れ流してはいなかった。

「プペプペプペプペプペッ! ほう? ションベンガキ超人のくせに、ションベンを漏らさんとはな。たいがいの奴は、派手に放尿や脱糞を見せつけてしまうのだが。まったく、サービス精神に欠ける小娘だな。いっそド派手に、ションベンとクソを撒き散らせて見せたほうが、観客も沸きに沸いただろうに! プペプペプペプペプペッ! まあ、それが歓喜の声なのか、嫌悪の悲鳴なのかは、わからぬがなあ」

 ミーノは唇を噛み締めながら、ひどく悲しい顔をして、真・悪魔将軍プペに叫び上げる。

「ど、どこまで腐っているのですぅ! 真・悪魔将軍プペ! なんでそんなひどいこと、平気で言えるのですぅ!」

「プペプペプペプペプペッ! 悪魔の将である余が、どこまで腐っているかだと? さあなあ、どこまででも腐っておるし、どこまででも汚いだろうな、貴様ら正義を語る下等どもから見れば。だが、余にしてみれば、ひどく当然で当たり前な光景なのだ。見てみよ、ミーノよ。余の足元に、下等がひれ伏している。これが現実であり、この現実さえあれば、他のことなど無意味であり無価値なことだ」 

 真・悪魔将軍プペはキン肉マンルージュの額を片手で掴み上げ、アイアンクローを掛ける。そしてそのままキン肉マンルージュの身体を持ち上げてしまう。

「プペプペプペプペプペッ! 魔のショーグンクロー!」

 全く動かなくなったキン肉マンルージュに追い討ちをかけるように、真・悪魔将軍プペはキン肉マンルージュを痛めつける。その光景を目の当たりにし、ミーノは言葉を失った。

「プペプペプペプペプペッ! いい顔をしているな、ミーノよ。そのいかにも絶望している顔を、更に恐怖と憎悪と嫌悪で歪ませてやろうぞ!」

 真・悪魔将軍プペはキン肉マンルージュを掴んでいる手を振り回し、勢いをつけて真上に投げ飛ばす。

「プペプペプペプペプペッ! 破滅の九所封じ、九の封じ、破滅の断頭台!」

 真・悪魔将軍プペはキン肉マンルージュを追うように飛び上がる。そして上空でふたりの身体が重なると、真・悪魔将軍プペは片膝を折り、スネをキン肉マンルージュの喉元に食い込ませた。

“ぼぉぅぅん”

 真・悪魔将軍プペはキン肉マンルージュの喉元に食い込ませたスネに、奇妙な違和感を感じた。
 真・悪魔将軍プペは不信に思い、キン肉マンルージュに目を移す。しかしキン肉マンルージュはぐったりとしていて、生気を失ったままである。

「余の気のせいか」

 真・悪魔将軍プペはキン肉マンルージュの両脚を、片脇に抱え込んだ。そしてもう片方の脇で、キン肉マンルージュの両腕を抱え込む。更に抱え込んだ両脚と両腕を引っ張り上げ、キン肉マンルージュの喉元に食い込んでいるスネを、更に深くめり込ませる。

「プペプペプペプペプペッ! 今度こそ超人墓場に送り届けてくれようぞ!」

“ずがどどごぉおおおぉぉぉん!”

 キン肉マンルージュは成すすべなく、破滅の断頭台を喰らってしまった。そしてこの瞬間、破滅の九所封じは完成してしまった。
 キン肉マンルージュはリングにめり込んでしまい、下半身だけがだらしなく見えている。

「プペプペプペプペプペッ! それでは皆に見てもらおうか! このションベンガキ超人の変わり果てた姿を!」

 真・悪魔将軍プペはリングにめり込んでいるキン肉マンルージュの髪を掴み、強引に引き出した。クアッドテールの4本の髪束を掴まれ、キン肉マンルージュは首吊りのような状態でぶら下がっている。

「ッ! うあああああッ! ですぅ……キン肉マンルージュ様が、またも……全身が真っ黒に……ですぅ……」

 宙吊り状態のキン肉マンルージュは全身が真っ黒に変色していた。
 全身を覆っていたマッスルアフェクションは、いつの間にか消え去っている。

「プペプペプペプペプペッ! どうだ? 見事に真っ黒であろう? もちろん、ここもきちんと真っ黒よ!」

 真・悪魔将軍プペはキン肉マンルージュの顎を掴み、強引に顔を持ち上げた。そして隠れていた首の部分が晒される。

「プペェッ! ば、ばかな?!」

 真・悪魔将軍プペは驚きの声を上げ、キン肉マンルージュの首を覗き込んだ。
 キン肉マンルージュの首は元の真っ白い色のままであった。まるで水着の日焼け跡のように白い色が際立ち、目立っている。

“ぎゅかあぁぁぁああッ”

 突然キン肉マンルージュの首がピンク色に輝きだした。

「ッ! プペェッ!」

 真・悪魔将軍プペはピンク色の光に目を眩ませ、苦しそうに手を振り回した。そしてキン肉マンルージュは、真・悪魔将軍プペに投げ捨てられる。
 宙に放られたキン肉マンルージュは、全身がピンク色の光に包まれる。そして光の塊となったキン肉マンルージュは、リング上に着地した。

「ばかな……いったい、何が起こったというのだ?」

 現状が把握出来ないでいる真・悪魔将軍プペは、その場で立ち尽くしている。
 そんな呆然としている真・悪魔将軍プペに向かって、ピンク色の光の塊が突進する。

“ずどぉむぅ!”

 光の塊は真・悪魔将軍プペのみぞおちを打ち抜いた。
 打たれた真・悪魔将軍プペはコーナーポストにまで吹き飛ばされ、そのまま激突してしまう。

「48の殺人技のひとつ、マッスルヒップスーパーボム!」

 光の塊がそう言うと、ぱぁんと光が弾け飛んだ。そして光の中から、お尻を突き出しながら可愛らしいポーズをとっている、気力に満ち溢れたキン肉マンルージュが現れた。

「へのつっぱりはご遠慮願いマッスル! マッスル守護天使、キン肉マンルージュ!」

 決めポーズをとり、そして輝かんばかりの笑顔を真・悪魔将軍プペに向けるキン肉マンルージュは、元の真っ白い肌色に戻っていた。

「ばかな! なぜなのだ?! なぜ破滅の九所封じが効かない!? ……そんなはずはない! 破滅の九所封じが破られるなど、絶対にありえぬのだ!」

 取り乱す真・悪魔将軍プペにキン肉マンルージュはフフンと鼻をならし、ドヤ顔を向ける。

「それはわたしが無敵の守護天使、キン肉マンルージュだからだよ!」

 強く言い切ったキン肉マンルージュを見つめながら、マリは静かに口を開く。

「悪魔将軍が使う技と言えば? と、質問をしたら、ほとんどの人が……いえ、全員が全員、地獄の断頭台と答えるでしょう。それほどまでに、悪魔将軍という超人には、地獄の断頭台のイメージがついているのよ」

「……何が言いたいのだ、二階堂マリよ」

「キン肉マンルージュも同じだったのよ。悪魔将軍といえば地獄の断頭台。そういうイメージが頭の中に強くあった。だからキン肉マンルージュは常に意識していたの、“首”を」

 真・悪魔将軍プペはハッとする。そして苦々しく顔を歪める。

「……そういうことか……地獄の断頭台は首に一極集中してダメージを与える技……その首を意識するあまり、ションベンガキは無意識のうちに、首にマッスルアフェクションをまとわせていたのだな……デヴィルディスペアを使う余だからわかる……特に守りたい箇所、強く意識している箇所には、無意識のうちにデヴィルディスペア……こやつの場合はマッスルアフェクションを、その箇所にまとわせるのだ。オートプロテクション、自動防御システム、防衛本能とでも言えばよいか……つまりこやつは、余と戦う前から、無意識ながらも首を守っていたと……そういうことなのか?」

 ミーノは興奮した様子で、ふたりの会話に割って入る。

「つまり! キン肉マンルージュ様は相手が悪魔将軍だと知った時点で、首を防御したいたのですぅ! 戦う前から、断頭台という技に対して、対策済みだったのですぅ! だから破滅の断頭台を2度も喰らってしまったですが、結果として無効化することが出来たと……すごい! すごいすごいすごぉい! すごすぎなのですぅ! 破滅の断頭台は戦う前から、既に破られていたのですぅ!」

 興奮してぴょんぴょんと跳ね回り、はしゃぎまくるミーノ。
 マリとミーノの説明を聞いて、更に痛烈なドヤ顔を向けるキン肉マンルージュ。

「いいキになるなよ、クソオンナどもがーーーーッ!!」

 真・悪魔将軍プペの胸にあるノワールプペの顔が、怒りに狂った目でキン肉マンルージュを睨みつける。

「ハメツのキューショフージがやぶられたからって、てめーが、かったわけじゃねーんだよ! それにおまえだって、まだ2かしょ、ふうじれてねーじゃんよ! どーすんだ? ああん! どーすんだよ! あるのか、てめーに、このオレサマをふうじるワザが! ねーんだろ? プペプペプペプペプペッ! だったら、いっしょじゃねーか! オレサマとおんなじだ! キサマのフメツのキューショフージだって、カンセイしないまま、シッパイにおわるんだよ!」

 キン肉マンルージュは言葉を失った。ぐうの音も出ない。図星であった。
 残りの2ヶ所、頭頂部と思考力を封じることができるような強力な技を、キン肉マンルージュは知らない。

「プペプペプペプペプペッ! もうキューショフージとか、どーでもいいや! キサマのようなションベンガキチョージンは、めっためたの、ジャッキジャキに、きりきざんでやんよ!」

 真・悪魔将軍プペは両手から剣を出現させた。そして全身をダイヤモンドに変化させる。

「あれは! 真・悪魔将軍プペは地獄のメリーゴーラウンドを放つつもりなのですぅ!」

 叫び上げるミーノに、真・悪魔将軍プペは嫌味たっぷりな笑いを返す。

「プペプペプペプペプペッ! バーカ! これはジゴクのメリーゴーラウンドなんかじゃねーよ!」

 そう言うと真・悪魔将軍プペの指が、ダイヤモンドの剣に変化する。そして剣はデヴィルディスペアに覆われて、ギラギラと真っ黒い光を放っている。
 10本の指すべてを剣に変化させた真・悪魔将軍プペは、ゲラゲラと笑い上げながら、指を揺らしてガシャンカシャンと剣を鳴らす。

「プペプペプペプペプペッ! ハメツのメリーゴーラウンド!」

 真・悪魔将軍プペは高速回転しながら、キン肉マンルージュに向かって突進する。

「48の殺人技のひとつ、マッスルトルナード!」

 キン肉マンルージュは身体を高速回転させながら、真・悪魔将軍プペに突っ込んでいく。

“どぉごぉおおぉぉぉん”

 両者がぶつかり合う肉音が、周囲に響き渡る。

「プ……プペェ……」

 そして真・悪魔将軍プペから苦しい呻き声が漏れ出る。
 キン肉マンルージュの頭が真・悪魔将軍プペの胸にあるノワールプペの顔に、深々と突き刺さっている。

「真・アクペちゃん。破滅のメリーゴーラウンドって、実は身体の中心……つまり頭と胸とお腹がノーガードなんだよね。だから真・アクペちゃんの真ん中を狙って、突進したんだよ。そしたら大当たり! お顔にヒットだよ!」

 真・悪魔将軍プペはキン肉マンルージュの声が聞こえているのかいないのか、ふらふら、よたよたしながら、リング上をさ迷い歩く。

「プペェ……な、なんてことしやがんだよぉ……いたい……いたい、いたいよぉ……マッスルアフェクションたっぷりのイシアタマでなぐりやがって……ひでぇよ……こいつ、アクマだよ!」

 キン肉マンルージュはよたよたと歩いている真・悪魔将軍プペの正面に立ち、真・悪魔将軍プペの股に頭を突っ込む。
 そして身体を起こしながら真・悪魔将軍プペを持ち上げ、そのまま真上にジャンプする。

「プペェ! な、なにするんだよぉ! なにしやがんだ!」

「うーん……やっぱり脳天を破壊する技って、これしか思いつかないんだよね……」

 キン肉マンルージュはジャンプの頂点に達すると、抱えていた真・悪魔将軍プペを下方に向けて両足を掴んだ。そして真・悪魔将軍プペの両腕を踏みつけにし、キン肉マンルージュと真・悪魔将軍プペはリングに向かって落下する。

「プペプペプペプペプペッ! なにかとおもえば、キンニクドライバーかよ! だーかーらーさあー、このワザじゃムリだっつの! イミねー! ちょーダセー!」

 キン肉マンルージュはキン肉ドライバーを掛けたまま、考え込んでいた。

『うーん……このまま回転して、キン肉トルナードドライバー! ……違うなあ……じゃあ、顎で金的をアタックして、キン肉ゴールデンクラッシャー! ……ダメだよねえ……どうしよう、いいのが思いつかないよお……』

「プペプペプペプペプペッ! キンニクドライバーもキンニクバスターも、つかいふるされたジダイオクれなワザなんだよ! もうとっくに、ヒッサツワザなんてよべるシロモノじゃねーんだよ!」

『キン肉ドライバーとキン肉バスター……確かにどちらも研究しつくされた必殺技だけど……あッ! でも、だからこそだよ! そうだ、その手があったよ!』

 キン肉マンルージュはひとりで納得しながら、掴んでいた真・悪魔将軍プペの両足を離した。
 そしてすぐさま両の手で真・悪魔将軍プペの股を開き、ふくらはぎを掴んで押し下げる。

「プペェ?! な、なんだこりゃあ!?」

 真・悪魔将軍プペは困惑する。自分の身に起きていることが把握できない。

「あああっとお! これは一体なんだ?! キン肉マンルージュ選手、キン肉ルージュドライバーに引き続き、またも見たことのない技を披露するう!」

 アナウンサーが興奮して叫び上げる。それを聞いた真・悪魔将軍プペは、初めて自分が未知の技を極められていることに気がついた。

「この技は……相手の下半身をキン肉バスターに……上半身をキン肉ドライバーに極めて……まるでキン肉バスターとキン肉ドライバーが合体したような技なのですぅ」

 ミーノは未知の技を見つめながら、呟くように言った。

“ずどごぐしゃらががぐごごがががあああぁぁぁあああん!!”

 未知なる技が極まった。
 リングに激突した衝撃で、会場中が大地震のように揺らいだ。更に激突の衝撃波が突風となって、会場を吹き流れる。

「48の殺人技のひとつ、キン肉ド(らい)バスター!」

 キン肉マンルージュは叫んだ。そして全身を覆っているマッスルアフェクションが、ごうっと吹き上がった。

「キン肉バスターとキン肉ドライバーのフュージョン、キン肉ド雷バスター! ……本当はキン肉デモリションって名前を思いついたんだけど、気がついたらキン肉ドライバスターって言っちゃってたよ」

 キン肉マンルージュはテヘペロしながら、真・悪魔将軍プペから離れた。真・悪魔将軍プペはリングに突き刺さり、微動だにしない。

“ぴぎゅわらららぁ”

 真・悪魔将軍プペの全身がピンク色に輝きだし、マッスルアフェクションに包まれた。
 それを見たミーノは、嬉しそうに話しだした。

「真・悪魔将軍プペの全身がマッスルアフェクションに覆われたのですぅ! つまり残り2ヶ所を封じることに成功したのですぅ! そして不滅の九所封じが完成したのですぅ! だから、だから、だから! キン肉マンルージュ様が勝ったのですぅ!!」

“かんかんかんかんかんかんかーーーん!”

 解説者のア●ランスゴールドの中野さんは興奮して、ゴングを連打した。そしてこの瞬間、キン肉マンルージュの勝利によって試合が終了した。

“うおおおおおッ! マッスル守護天使の完全勝利だあ!”

“恐怖の将、落つ!”

“すげえぜ! やっぱ、すんげえぜ! 無敵すぎんよ! ルージュちゃん!”

 観客は沸きに沸いた。
 グレート・ザ・屍豪鬼に続いて、ノワールプペをも倒したキン肉マンルージュ。伊達にマッスル守護天使を名乗ってはいない。

“ルージュちゃん! 連勝記念に、あれイっちゃって! 思いっきし、イっちゃって!”

 キン肉マンルージュはその場でくるりと身体を一回転させ、4本の髪の束をなびかせる。
 すると、きらきらとマッスルアフェクションが揺らめき、ぽわぁと全身がゆるく輝いた。

「正義は、みんなの中にある! みんなの正義を守りし、守護天使!」

 キン肉マンルージュは胸に何かを抱きかかえるように、両腕を胸の前に出して抱え込む格好をする。そして、ぱぁっと胸に抱いていたマッスルアフェクションを周囲に撒いた。
 周囲にはきらきらと光り輝く花びらのように、マッスルアフェクションが舞い散る。

「へのつっぱりはご遠慮願いマッスル! マッスル守護天使、キン肉マンルージュ!」

 キン肉マンルージュは小さく投げキッスをしながら、お尻を突き出す。

“ずびゅばちゅごーん”

 キン肉マンルージュの背後でピンク色の爆発が起こる。そして周囲にはピンク色に輝くハートが舞い散る。
 中心に“R”と刻まれているハートは、地面に落ちると、まるで降り落ちた雪のように、はかなく消えた。

“うおおおおおおおおおおッ! アキバに新しいアイドル降臨! 悪行超人を倒せる驚異の美少女超人! その名はキン肉マンルージュぅぅぅぅぅぅぅぅッ!!”

 リングサイドにはいつの間に現れたのか、見事すぎるオタ芸を披露する職人達が集まってきていた。そして恐ろしくシンクロ率の高い一糸乱れぬ動きで、キン肉マンルージュを讃える踊りが披露された。

「ひゃあああああッ! なにこれ、ヤバす! 堪んないのキターーーッ! 私のためにオタ芸職人さん達が躍ってくれるなんて……ああああああぁぁぁんッ! 凄いよ! ヤバすぎだよ! 嬉し恥ずかしすぎて、おもらししちゃいそうッ」

 キン肉マンルージュはぼそぼそと呟きながら、うっとりとオタ芸を見つめている。そして内股をもじもじさせながら、身体をふるふると震わせている。

「プペェ……ふざけんなよ……ボクはまだやれるよ……やれるんだよ……」

 真・悪魔将軍プペはのそりと動きだし、ふらふらになりながらも無理やりに立ち上がった。
 全身がピンク色に輝いている真・悪魔将軍プペは、よちよちしたおぼつかない足取りで、キン肉マンルージュに歩み寄る。

「ボクは……ゼネラルさまにごメイレイいただいたんだ……おまえを……てめーをぶっころすようにって……てめーを……」

 真・悪魔将軍プペは力を振り絞るように、手をキン肉マンルージュに向けて伸ばす。しかしその手は、ぼろぼろと崩れていく。

「プペェ?! な、なんだよこれ!?」

 まるで朽ちたフランスパンのように、ぼろぼろと砕けていく。
 全身が崩れていくのを見て、真・悪魔将軍プペは困惑し、嘆く。
 真・悪魔将軍プペの身体はどんどんと崩れていき、遂には立っていることもできないほどにぼろぼろになってしまう。
 真・悪魔将軍プペはバランスを崩し、リングに身体を打ちつけるように倒れた。すると真・悪魔将軍プペの身体は凍った薔薇のように、粉々になってしまった。
 そして胸にあったノワールプペの顔だけが、リング上に残った。

「ちくしょう……ボクは……ボクはまだ、やれるのにい……」

 顔だけになってしまったノワールプペは真っ黒い涙を流しながら、声を大きくして泣きわめく。

「ちくしょう! ちくしょうッ!! ちっくしょーーーーーーうッ!!! ボクはノワールプペ! ボクはあのおカタにつくられた、サイコーケッサク! まけてなんかいない! ボクはまけてなんかいないぞおおおぉぉぉ!!」

「キャハハハハハハハッ! しょーがない子ちゃんねェ~」

 甲高い幼い、しかし妙に色っぽい声が、真上から聞こえる。
 そしてノワールプペの顔が、真上に向かってふよふよと上がっていく。
 その場にいた者全員が、真上に顔を向けた。
 
 

 
後書き
※メインサイト(サイト名:美少女超人キン肉マンルージュ)、他サイト(Arcadia他)でも連載中です。 
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