| 携帯サイト  | 感想  | レビュー  | 縦書きで読む [PDF/明朝]版 / [PDF/ゴシック]版 | 全話表示 | 挿絵表示しない | 誤字脱字報告する | 誤字脱字報告一覧 | 

ソードアートオンライン 無邪気な暗殺者──Innocent Assassin──

作者:なべさん
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。 ページ下へ移動
 

SAO
~絶望と悲哀の小夜曲~
  表と裏

朝の白い光の中、レンは肩を揺さぶられたことによる振動ででゆっくりと目を覚ました。

そして目蓋を開ける途中で、寝ぼけた思考の中、ハテ?と思う。よく来るキリトが、広すぎんだろ!と連呼され続けているこの城の内部には、自分と五人のメイドNPCがいるのみだ。

しかもそのメイドNPCの基本行動は決まっており、一人は紅茶などのお茶請け係、二人目は料理全般、三人目と四人目は城内の掃除、五人目は特に伸びもしない庭整備。

そのどれの基本行動にも、《起こす》などと言う二次元的なアレは入っていない。

ナンデスカこの素敵イベントは~ッ!と目をバッチシ開けると───

目の前に色の違う大きな眼が二つ。

「へ?」

口から洩れ出る間抜けな声。なぜかフルバーストしていた頭のギアが、ぶすんという不吉な音を伴って停止する。

目の前に二つの眼。向かって右側の眼が銀、そして向かって左側が眩しいほどの金色だった。

それが覗き込んでいるのだ、まじまじと。ぶっちゃけ驚きよりも、恐怖のほうが湧き上がってくる。

「の……のぅわあああぁああぁぁぁぁァァァァァー!!!」

体が半自動的に緊急回避を試みる。

だが、寝起きで回転不良な頭脳と足に絡まった毛布のせいで、レンは盛大にベッドから転げ落ちてしまった。

だが、それは相手も同じだったかもしれない。

なにせ起こしていたら、急に奇声を上げて勝手にベッドから転げ落ちたのだから。これではただの変人にしか見えないではないか。

身体に纏わり付いている毛布の地獄から開放されたレンが見たのは───

きょとんとこちらを見る、あの白い少女だった。

引っぺがした毛布が、今頃になって落下してくる。その中、少女は何が可笑しかったのか、くすりと笑った。

それはとても、いやかなり幻想的な光景だった。

思わず見入ってしまうレン。

だがその間も少女は笑い続け、微笑がやがて笑いに、笑いがやがて爆笑へと変わっていった。

朝の空気の中、少女の小気味良い笑い声が心地いいBGMとなって耳に入ってくる。

気が付けば、レンも笑っていた。不思議と自然に笑えた。

あの狂気の日以来、レンは初めて心の底から笑った。

朝の空気の中、二人の笑い声だけが充満した。










「へえ~、マイちゃんってゆーんだぁ」

「うん、そーなんだよ。レン」

いつもの朝の景色。だが、向かい合うソファーに座る少女だけがそのいつもから外れていた。

あれから、二人してひとしきり笑った後、とりあえず少女を今に誘い、温かいココアをメイドNPCに注文してから、そういえばお互いの名前を知らないことに気付き自己紹介しあったのだ。

それによると、今目の前でカップに息を吹きかけている(猫舌?)少女の名前はマイ。

初めて目にする瞳の色は、なんとも珍しい金銀妖瞳(ヘテロクロミア)だった。

噂では、かなりのレアドロップ品で手に入るとか入らないとか。

「んー、じゃあマイちゃん。何であんなとこで漂流してたか覚えてる?」

レンがさりげなく、一番重要なことを訊く。だが、マイはしばらく沈黙を続けたあと、ふるふると首を動かす。

「………わかんない。なんにも、わかんない」

「う~ん」

重要なことが解からない。今のところ解かったのは、名前くらい。

「じゃあさ、マイちゃんのお母さんとか、お父さんとかって覚えてる?」

「あっ、うん。パパがいるんだよ。それと双子の妹もいるんだよ」

「そ、そう!じゃあさ、どこにいるかは覚えてる?」

マイは再び難しい顔で黙り込む。メイドNPCがテーブルの上からカップを取り上げ、再びココアを満たして目の前に置いても身じろぎもしない。

やがてマイは顔を上げると、プルプルと首を振る。

「そっかー………」

「でも………」

「ん?でも?」

マイは急に神妙な顔をし、こちらを見ずにテーブル上に置かれたカップをじっと見つめている。

「なんか……白いところにいたかも…。そこでマイとユイは眠ってたんだよ」

「ユイってゆーのは?」

「さっき言った、マイの妹のお名前なんだよ」

「へぇ~」

レンは口では相づちを打ちながら、頭の中では今聞きだせた情報を反復させていた。すなわち、目の前に座っているマイともう一人、ユイという子は父と一緒に一所にいたのだ。

何故マイだけが一人その場所から離れてしまったのか、という疑問はこの際置いておこう。

問題はその白いところ、と言うところを見つけることだ。だがさすがにそれだけでは見つけられるわけがない。レンの職業は、情報屋ではないのだ。

「ねぇマイちゃん。パパで覚えてることとかは?」

「パパ?う~んとね」

真っ白な少女は三度の熟考に入る。

「真っ黒なお服を着てたんだよー」

「………………………」

がっくりとレンは肩を落とす。全然全く何にも解からない。

どうしたものか。ここでレンの思考は止まってしまった。次の手がまったく思い浮かばない。

とりあえず、親と姉妹がいることは解かった。これだけでも儲け物だ。ということは、後はその両親か姉妹を何とかして見つけ出さないといけない。

だが、どうやって?

姉妹に付いては名前しか分かっていないし、父親にいたってはよく着る服の色しか分かっていない。こんな少ない情報で、本当に見つけ出すことなど可能なのだろうか?

だが、その前に、レンは自らの内に芽生え始めている感情を無視できなくなっていた。

それは──この少女を手放したくない、というもの。

レン自身にも、この感情がなぜ発生したのか、理解ができていなかった。

それまでレンは、自由気ままな一人暮らしを満喫していた。それを手放してまで、なぜこの少女を手放したくなくなってきたのか、全く判らない。

そんなことを思っていると、真っ白い少女がきょとんとした顔で、どうしたの?と訊いてくる。

「あ……い、いや。なんでもないよ。そ、それよりマイちゃんのパパを探しに行こう?」

「マイの?」

「うん」

純白の少女は、にっこりと笑って頷いた。この少女には基本的に疑う、という感情がないらしい。

ソファーを飛び降りるように降り、パタパタとこちらに駆け寄ってきたマイの頭を撫で、アイテムウインドウを開く。

少女の纏う白いワンピースは短いパフスリーブで生地も薄く、少女の髪の色も手伝い、初冬のこの季節に外出するにはいかにも寒そうだ。

もっとも、寒いと言ってもそれで風邪を引いたりダメージを受けたりということはないのだが──氷雪エリアで裸になったりすれば話は別だが──、不快な感覚であることに変わりはない。

レンはアイテムリストをスクロールさせて、昨日のうちに買い込んでいた厚手の衣類を実体化させ、その中から適当にセーターを引っこ抜いたところで、はたと動きを止めた。

通常、衣類を装備する時はステータスウインドウから装備フィギュアを操作することになる。

布や液体などの柔らかいオブジェクトの再現はSAOの苦手分野であり、衣類は独立したオブジェクトというよりは肉体の一部として扱われているからだ。

マイに訊いてみる。

「マイちゃん、ウインドウって開ける?」

案の定、真っ白な少女は何のことか解からないように首を傾げる。

「じゃあ、右手の指を振ってみてよ。こんなふうに」

レンが指を振ると、手の下に紫色の四角い窓が出現した。それを見たマイはおぼつかない手つきで動きを真似たが、ウインドウが開くことはなかった。

「………やっぱり何かのバグなのかなぁ。でも、ステータスウインドウが開けないってのはヤバすぎるなー。何にもできないじゃん」

レンがポリポリと後頭部を掻く。

その時、むきになって右手の指を振っていたマイが、今度は左手を振った。途端、手の下に紫色に発光するウインドウが表示された。

「でた!」

純度二百パーセントの笑顔でにっこり笑うマイの眼前で、レンは一人頭を抱える。もう何がなんだか、解からない。

「マイちゃん、ちょっと見せてねー」

レンはかがみ込むと、少女のウインドウを覗き込んだ。

だが、ステータスは通常本人にしか見ることができず、そこには無地の画面が広がっているだけだ。

「ちょっと手を貸してね」

レンはなぜかパタパタさせていたマイの手をキャッチし、その細い人差し指を移動させ、勘で可視モードボタンがあると思われる辺りをクリックさせた。

狙い違わず、短い効果音とともにウインドウの表面に見慣れた画面が浮かび上がってきた。

基本的に他人のステータスを盗み見るのは重大なマナー違反であるため、こういった状況であってもレンは極力画面に眼をやらずにアイテム欄のみを素早く開こうとしたのだが――

「……は、はぁ!?なにこれ!?」

画面上部を視線が横切った瞬間、驚きの言葉が口をついて出てきた。

メインメニューウインドウのトップ画面は、基本的に三つのエリアに分けられている。

最上部に名前の英語表示と細長いHPバー、EXPバーがあり、その下の右半分に装備フィギュア、左半分にコマンドボタン一覧という配置だ。

アイコンなどは無数のサンプルデザインから自由にカスタマイズすることはできるが、基本は位置は不可変である。のだが、マイのウインドウの最上部には《Mai-BBSCP001》という奇怪なネーム表示があるだけでHPバーもEXPバーも、レベル表示すら存在しない。

装備フィギュアはあるものの、コマンドボタンは通常と比べて大幅に少なく、わずかに《アイテム》と《オプション》のそれが存在するだけだ。

息を呑むレンと対照的に、マイ本人はウインドウの異常など意に介せぬふうで、不思議そうな顔でレンの顔を見上げている。

「これも……バグ…………?」

いや、バグというより、どちらかと言うともともとこんなデザインになっているように見える。

だが、これ以上考えても仕方がないか、とレンは軽く肩をすくめ、改めてマイの指を動かし、アイテム欄を開かせた。

その表面にテーブルから取り上げたセーターを置くと、一瞬の光を発してアイテムはウインドウに格納された。

次いでセーターの名前をドラッグし、装備フィギュアへとドロップする。

直後、鈴の音のような効果音とともにマイの体が光の粒に包まれ、淡い空色のセーターがオブジェクト化された。

「わあ!」

マイは顔を輝かせ、両手を広げて自分の身体を見下ろした。

レンは更に薄若葉色のスカートと黒いタイツ、ピンク色の靴を次々と少女に装備させ、最後に元々着ていたワンピースをアイテム欄に戻すとウインドウを消去した。

すっかり装いを改めたマイは嬉しそうに、ふわふわしたセーターの生地に頬を擦りつけたりスカートの裾を引っ張ったり、くるくる回ったりと忙しそうだ。

「さ、それじゃあ行こっか」

「うん!」

途端に差し出される手。

レンは一瞬驚き、その後照れたように苦笑しながら少女の差し出された手のひらを、優しく包み込むように握る。

そして互いに顔を見合わせ、笑う。

なぜだろう。この真っ白な少女の保護者が見つかればいい、という心が存在するのは確かな真実だが、同時に保護者が見つからなければいい、という心が存在するのもまた事実なのだ。

出会って僅か一日で、マイはレンのまだ残っている人間の心の大部分をすっかり占領してしまったかのようだった。

まるで──

まるで、かつて出会った、小さな黒猫のように。 
 

 
後書き
なべさん「はい、始まりました!そーどあーとがき☆おんらいん!!」
レン「えー、前回に引き続き、今回本格的に登場したヒロインのマイちゃんについての裏話を紹介していきますよー」
なべさん「ちなみに、お便り紹介コーナーは今回もお休みさせていただきます」
レン「んじゃあ早速聞いて行こーか。まず、だよだよ言うあの特徴的語尾はどっから持ってきたの?」
なべさん「そこからかよ!?……まぁ、いいですけどね。あれはですね。私の敬愛する某とあるのヒロインのシスターさんから参考にしました。あの語尾かわいいッスからねぇ~♪」
レン「はぁん、なーる。じゃあ、あの金銀でキンキラキンな目の色は?」
なべさん「あぁ、あれか。あれは完全なる自前だね。あえて言うなら、のら猫とか見てて思い付きました」
レン「あれってそんなとこから来てたのか!?まぁ、いい。じゃあ最後に、これだけは譲れない重要な質問だ。何でヒロインがロリ属性キャラなの?」
なべさん「フッ、とうとうその質問が来てしまったか。ぶっちゃけて言うとですね、主人公ショタ属性なのに、ヒロインが年上だとただの姉と弟の関係になっちゃうんじゃね?というものからですた」
レン「そんな理由からだったのかぁ~!!」ガンガンガン!(床を拳で叩く音)
なべさん「(こいつまさかシスコン(姉の方)だったのか!?)ま、まぁいい。自作キャラ、感想を送ってきてくださいね♪次回からは、元通りお便り紹介コーナーも復活するのでお楽しみに~♪」
レン「ちっくしょおおぉおおぉぉぉぉー!!」
──To be continued── 
ページ上へ戻る
ツイートする
 

全て感想を見る:感想一覧