ISーとあるifの物語ー
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6.決着 ~嵐の予兆~
6.決着 ~嵐の予兆~
『 最も大きな危険は勝利の瞬間にある ナポレオン 』
『 運命をはねつけ、死を嘲り、野望のみいただき、知恵も恩恵も恐怖も忘れてしまう。 お前達も知っているように、慢心は人間の最大の敵だ シェークスピア』
『 人生においては最も耐え難いことは、世の経験をつんだ多くの人々の言によると、 悪天候が続くことではなく、雲ひとつない日が続くことである カール・ヒルティ 』
『油断』
たかをくくって気を許し、注意を怠ること。
油断大敵という言葉があるとおり、油断は失敗のもとであるから大敵である。
誰だって気の緩みなんて事はあるし、それが当たり前といってもいい。一度も油断しない人間などいないのだ。
だからこの言葉は、ならその『油断』をいかに最小限で済ますかが求められてくる。
『勝って兜の緒を締めよ』ということわざもある通り、いかに慢心しないかが勝利の鍵を握るのだ。
何事にも『絶対』など存在しない。
人が知らないだけで、まだ知らない『なにか』があるかもしれないのだ。
だから俺は一瞬たりとも油断なんざしねぇ。いや、出来る筈がねぇんだ。
だって俺はあいつと約束したんだ、こんなとこで破るわけにゃいかん。それがあいつの出した『条件』なんだからーーーーー
セシリア自身も決してその気はなかっただろうが、油断している部分はやはりあった。
警戒は勿論している。しかし、心の何処かではやはり『まだISを操縦して間もない男』という印象であったことも間違いではなかった。
垣根の突撃は、結果としてはセシリアにダメージを与えるには至らなかった。
事実あの機体の機動力には凄まじいものがあるとセシリア自身も認識していたし、その為の対処としてここを通ってくるだろう進路を予想し、広範囲にブルーティアーズを展開した。
勿論スナイパーライフルのスターライトmkーⅢも忘れてはなく、ビットとの同時射撃で迎え撃った。
そう、『迎え撃った』のだ。
だが結果はセシリアが予想していたように上手くはいかなかった。
垣根に接近を許し、こうして今も突き、横薙ぎと上手く間合いを取って攻撃してくる。
狙いも肘、腹、太股など絶対防御が発動するであろう場所を的確に狙ってくるから一瞬たりとも気が抜けない。
だが、やられっぱなしという訳でもなくセシリアも反撃をしていた。
広範囲に展開したブルーティアーズを上手く使って死角から容赦ない射撃を行い、それを補うように進路を予想しスターライトmkーⅢを撃つ。
右肩、左脇腹、右足、正面、後頭部、左肘、右足、左脇腹……
ビット、ビット、ライフル、ビット、ライフル、同時射撃、ビット、同時射撃……
と、こんな具合にフェイクなどを織り交ぜながら射撃を行うセシリアに対して垣根は
………
「ふっ! ほっ! っ! せい! 」
まるでこのような攻撃なんて事ないと言っているかのように、軽やかにーーそして余裕ありげにこちらの射撃を躱す。
そんな垣根に苛立ちを隠せないセシリアは、自分では気づかない程に冷静さを欠いていた。
元々貴族とのこともあってか、人一倍プライドが高い彼女は馬鹿にされるという事に過敏に反応する。それ故だろうか、垣根ばかりを見ていてセシリアは周りの様子に微塵も注意を向けていなかった。
そして、自分に迫り来るモノにも気がつかない程に…………
「ッ!!!!! 」
自分の真横から鈍い痛みを感じたかと思うと、セシリアは右方向に吹き飛んだ。
え……? という気持ちも束の間、次の瞬間……
「か……はっ………」
今度は自分の真上ーーー後頭部に凄い衝撃を感じ、思わず飛行する余裕すらないほどに苦しむ。
泣き叫ぶとかそんな生易しいモノではない。人間ホントに痛いと感じてる時には、あまりの痛みに声すら出せない時がある。今の彼女はまさにそれだ。
意識もままならなく、凄いスピードで地面に落下していく。
ドンッ!!!!! と凄い音がアリーナに響き、辺りに砂煙を巻き起こす。
観客の生徒達もなにやら驚いたような顔をしている。さっきまで俺が負けると思っていたのが蓋を開けてみたらこの状況だからなぁ………まぁそりゃ驚くか。
でもセシリア・オルコット、俺の攻撃はまだ終わっちゃいないんだぜ?
「さて、フィナーレといきますか!! 」
俺は最後の締めの為に準備を済ませ、煙の中に飛び込んだ。
▲ ▲ ▲
『一体なにがどうなってるのですの? 』
今正に現在進行系で考えているセシリアは、そんな事を思いながらスクッと立ち上がる。
さっきあれほどまで感じた痛みも、今はすっかり収まっていてまるでさっきまでが嘘のようになんともない。
( 取りあえずなんとかこの砂煙の中からでないと話になりませんわねー…… )
さっきの攻撃には驚いたが、ここでボーッとしていたらあちらの的だ。さっさと体制を整えて………?!
そこでセシリアは気付く。砂煙で辺りがぼやけて見えない。だが、普通ならすぐに晴れるはずの砂煙が今もなんで舞っているのかをーーー
普通に考えてみたら可笑しいのだ。確かにあの正体不明の攻撃のせいで飛行すらままならなかったのは事実だし、受け身も落ちた瞬間に体が覚えていたレベルでしかやってないので、受けた衝撃は決して軽くはなかった。
だが、それだけだ。ISに乗っている以上、絶対防御がある限り搭乗者の身の安全はほほ100%保証されるので問題点はそこじゃあない。
何故今現在も砂煙が止まないか………だ。
普通に墜ちてきた衝撃で砂煙がたつのはわかるが、あくまで少しの間だけだ。そんな長くは普通では有り得ない、そう有り得る訳がないのだ。
そしてセシリアはここでようやく気付く。この砂煙が普通では無い事に………
「嘘……ですわよね……………………………………………ハイパーセンサーどころか五感全てに影響するISなんて…………」
原理はどうなってるかは理解できないが、この男のISには特殊空間力場を作れる兵装があるのだろう。普通の人なら「嘘だろ? 」と疑ってしまうだろうが、無理もない。
第一この機体の生産国は、確かイギリスと同じイグニッション・プランにも出てきたテンペスト型の最新機な筈だ。セシリア自身代表候補生という立場もあってか合同演習などで機体を見たことがあるが、あんな機能なぞ付いていなかった。
「よぉ…貴婦人、調子はどうだい? 」
「最悪ですわね……頭から砂埃は被るし、もうホント早く部屋に戻ってシャワーでも浴びたい気分ですの」
そんな軽口を言いながらも、セシリアは気をぬかずに辺りを見回していた。
依然垣根の姿は見えず、声も響くような声でどこにいるのかも特定出来ない。まぁどっちにせよこの特殊空間のせいで実際見えていても誤認させられているだろう。
( 兎に角、現状はこの特殊空間から抜け出す事が先決ですわね……… )
そう考え、セシリアが今からどうしようかと考えていると………
「えっ…………………?!」
さっきまでここら一帯を覆っていた砂埃らしい何かが消え、正面には先程と変わらない姿の垣根が姿を現した。
「一体どういうつもりですの? 敵に情けを掛けるなんて随分余裕なんですのね……?」
そう言うセシリアの顔は、普段の彼女からは想像も出来ないほど酷く歪んでいた。
今セシリアはどうしようもない気持ちが沸き上がってきた。頭が熱くなり、目の前の垣根を見ると無性にイライラする。
そんなに私を馬鹿にして楽しいか、この男は。この私、セシリア・オルコットを馬鹿にしてそんなに楽しいのかこの男は………………!!
「いや、別に情けなんざ掛けるつもりは露ほどもねぇよ。ただ、もう必要無くなったわけだ…」
そう言って持っていた槍を展開する。フン、そんな離れた所からなにをやるかは知りませんけどそんな所からじゃ当たりませんわ!!
仮にも代表候補生。おおよその距離50m以上も離れたこの距離だったら、あんな化物じみた反射神経を持っていない私でも十分避けれる。後はその体制を崩した所に一斉射撃で終わりですわ!
怒りで普段の冷静さを欠いていたセシリアは故に気付かない。至近距離で戦闘を行うのに適している槍をなぜ、距離を取ったか。
そして気が付かない。槍とは決して接近でしか使えないわけではない事を……
「あ、そうとお前ーー」
「あ? なんですの? 」
最早お嬢様にあるまじき言葉遣いをしているセシリアを、垣根はまるで「床に消しゴムが落ちてるよ」というような軽いノリで、声をかけた。
「お前ーーーそっから1cmでも動いたら…………………………死ぬぜ? 」
一瞬背筋にいきなり冷水をかけられたような、なんともいえない悪寒を感じる。
わからない。別に目の前にいる垣根は睨んでいるわけでも、ましてや威嚇しているわけでもなんでもない。
わからない、それなのに、なんで………こんなに怖いのだろう……
セシリアは知らなかった。今まで代表候補生であるが為、戦闘訓練などは幼少から数えられないくらいやったが本物の殺気というものを受けた事がなかったのだ。
一流の殺し屋は殺気だけで人を気絶まで追い込むというがまさしくその通りだろう。現にセシリアは垣根が言葉を発した直後から一言も喋ってはいない。
「ま、取り敢えずハイパーセンサーを赤外線モードに切り替えて自分の今いる周りをよく見てみろや。ハイパーセンサーは360゜見渡せるから動かなくても大丈夫だろ? 」
赤外線モードとは、サーモグラフティなんかみたいに温度を感知してそれを写す夜間戦闘の時を想定されて搭載された、第3世代の主流の一つともいえる機能だ。
言われた通り、ハイパーセンサーを切り替え赤外線モードであたりを見渡す。
すると……………
「なん…………ですのこれは…………?」
セシリアの目に写ったのは………自分の周りを覆うおびただしい数の高熱源体のレーザーーーそれも360゜文字通り少しでも動けば当たるであろう角度でぎっしりと敷き詰められている。
「なにって…………ただの設置式特殊ENダガーだけど? 」
そう言って、上げた左手にはあのタガーが握られていた。
そして、セシリアにはそのダガーに見覚えがあった。
「それは………ッ?! まさか、あの時のは!! 」
「おー、ようやく気付いたか。まぁ気が付かれてたらそれはそれで凄ぇけどよ」
そう言ってカラカラと笑う垣根。そして、今更ながら……ホントに今更ながらに垣根が初回に何故
槍ではなくダガーを、それも自分とは検討違いな所に投げていたかがわかった。
「貴方…………ワザとでしたのね……あのダガーの投擲は……」
「当たり前だろ? なんでお前狙ってあんな検討違いな方向に投げなきゃいけねぇんだよ」
俺はノーコンじゃねぇんだよ、と付け加えるが今のセシリアにはそんな事頭に入っていなかった。
やられた、とセシリアは思っていた。
ISに乗って間もないという事もあって、操作に慣れていないのであろうと勝手に納得していた自分が馬鹿だったのだ。
しかも私を狙っているであろうように見せかけて、検討違いな方に投げるのもしてやられた。
あからさまに違う所に投げていたら誰だって怪しむ。それをさせないようにわざわざそのギリギリのところで投げられていたので、気にもとめていなかった。
そしてセシリアはそれを知ったと同時に、垣根に驚愕した。
( なんですの? それじゃあこのお方は私の攻撃を紙一重で避ける一方こうして投げた場所に誘導しながら戦っていたというのですか? ISに乗って間もない男が? )
有り得ない。有り得る訳がない。
自分がISに乗って間もない頃、こうして同じ動きが出来ただろうか? いや、こうして今現在でも厳しい物がある。
それをこの男は、初心者というのも逆手にとり、こうしてここまで戦況を持ってきたのだ。これを驚かずに何を驚くのか。
『垣根 帝督』
改めてこの男の規格外さをセシリアが垣間見た瞬間だった。
そして、無自覚だがセシリアが『男』という認識を改めた瞬間でもあった。
「さて、んじゃあそろそろフィナーレといくかね……」
そう言って、手に持っていたダガーとランスを消し、新たた兵装をだした。それは………
「じゃあな、セシリア・オルコット。まぁ取り敢えず…………眠っとけや! 」
セシリアは知る訳ないが、その槍ーーー罪の槍は垣根が戦いの時に未元物質を生成してそのまま量子変換で今の今まで直していたモノだ。
垣根は振りかぶり、セシリアに向かって槍を放たれる。
後は多分皆の想像通りだ。セシリアは辛うじて腰に付いているミサイルで迎撃を計ろうとしたが、それよりも早く槍は物凄いスピードでセシリアのビットへと向かい、そして………
「もう一度ここで絶望しやがれ、セシリア・オルコット! 」
最後にセシリアが覚えているのは、目の前で起きたミサイルの至近距離爆発、ENレーザーの爆発
、そしてーーー垣根の心配そうな顔だった。
( ホント………変なとこで不器用なんですのね )
そんな事を思いながら、セシリアは落下していった。
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