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東方守勢録

作者:ユーミー
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第二話

翌日、俊司・妖夢・鈴仙の三人は予定通り霧の湖にある革命軍の基地に向かった。

残党兵や新たな兵士の配置を考えて慎重に進んでいた三人だったが、幸い基地には兵士一人も見当たらず、破棄されているようだった。


「……前回来た時と比べると……あきらか静かですね」

「そうだな……とりあえず監視塔から調べてみるか。鈴仙、場所わかるか?」

「はい。案内しますね」


数分後、監視塔に着いた三人はなにか情報がないか調べ始めた。しかし、革命軍も後処理だけはきちんとしていたのか、これといってめぼしいものが見つかることはなかった。

その後も多くの施設を回って行ったが、見つかる情報はすでに分かっていることのみで、大きな成果を出すことはできなかった。


「やっぱり見当たらないか……」

「どうしますか?俊司さん」

「まだ医療テントには行ってないし……そっちに行ってみるか」


反半ばあきらめてはいたが、念のため医療テントも調べようと考え行動を始める俊司達。

その後ろでは物陰でこそこそしている黒い影があるにもかかわらず…






「……外来人」


遠くの物陰からメイド服を着た女性はそう呟いていた。


「それにその隣にいるのは……白玉楼の庭師と……永遠亭の月兎ね……どうして外来人と行動してるのかしら……」


三人を追いかけながら、女性は思考を働かせていく。


「とにかく、もう少し追ってみましょう……お嬢様の命令で食料を探しに来たのはいいけど、まさかこんなことになってしまうだなんて……」


そう言って女性は軽く溜息をついていた。




「俊司さん」

「……わかってるよ妖夢。誰かが俺たちを尾行してるんだろ?」


どうやら俊司と妖夢は背後からかすかに伝わってくる気配を感じ取っていたようだった。


「えっそうなんですか!?」

「しっ……鈴仙。普通に行動するように心がけてくれ……」

「あっ……すいません」

「医療テントに向かうのはやめよう。誰が尾行してきてるのかおびき出してみるか……」

「でも……どうするんですか?」

「ここで別行動をとろう……そっから尾行されなかった二人が誰かを確認してくれ」

「わかりました」


三人は軽くアイコンタクトを取ると、予定通りそれぞれ別のルートを決めて歩き始めた。





「別れた……」


女性は三人が分かれたのを確認すると、物陰に隠れて考え始めた。


「なぜ二人があの外来人と行動してるか……確かめるなら直接問いただした方がいいかもしれないわね。もし、あの外来人が革命軍なら……あの二人を助けないと……だったら……」


女性は三人が分かれたところまで行くと、辺りをきちんと確認しところどころに仕込んであるナイフの場所を確認して、そのまままっすぐに進み始めた。

その先には、外来人の少年がすたすたと歩いていた。


「やっぱり俺か……」


俊司は微かな気配と視線を背後から感じ取っていた。


「二人に誰か確認してくれとは言ったものの……そこからどうするべきか……」


妖夢と鈴仙から別行動をとり始めておよそ五分は経過していた。時間的に二人が尾行している人物を確認した可能性は高い。攻撃をしないということは尾行者が革命軍の人物ではないということなのだろうと俊司は考えていた。

とは言えど、何かしなければ状況が変わるわけではない。そこで考えた結果、俊司は挑発を行うことにした。

ポケットから自身の携帯を取り出した俊司は、誰かに電話をかけるマネをしてしゃべり始めた。


「……もしもし、里中です。はい……命令通り霧の湖の基地に来ましたが、予想通りやつらが徘徊している様子はありませんでした。……はい……」


もちろん全部独り言である。だが、尾行してくる人物をだますのにはちょうどいい芝居だった。




「やっぱり……革命軍ね。となると……あの二人はいいように使われてるのかしら……まあ、誰かを人質にとられたら何もできないものね……」


女性はそう言いながら数本のナイフを手にとり、しゃべり続ける外来人を睨みつけた。


「殺しはしないけど……行動ができないくらいにしましょうか……」


そう言って女性は目をつむり、ゆっくりと息を吐いた。

すると、さっきまで流れていた風は一瞬にして止まり、しゃべっていた少年もピタリと動かなくなってしまった。時間を止めてしまったのである。

女性はそれを確認すると、物陰から出て少年の周りにナイフを並べ始める。四方八方逃げられないように配置すると、女性は少年から再び距離をとり腕を組んだまま溜息をついた。


「さてと……少し我慢してもらいましょうか……」


と言って女性は再び時間を動かす……




はずだった。




「うわっ……ご丁寧にナイフをばらまいていらっしゃる」


俊司はそう呟いて携帯をポケットにしまった。

女性は腕を組んだまま表情一つ変えず俊司を見ている…と言うよりかは止まっているようだった。そう、今度は俊司の能力が発動し、彼以外の時間が止まってしまったのである。


「尾行していたのは咲夜さんだったのか……確かにここから紅魔館は近いからな。またどうしてこんなところに……」


そう言いながら俊司は女性の背後に立つ。


「う~ん、おそらくもう一回攻撃してくるだろうしな……ちょっとからかってみるか」


俊司はハンドガンを取り出すとセーフティをはずし非殺傷モードに切り替える。

そして、それとほぼ同時に時は再び動き出した。





「なっ……」


咲夜は目の前で目標に当たることなく、次々と地面に突き刺さっていくナイフを見て目を見開いていた。


(そんな……時間は止まってたはずだし……なにせ逃げ場なんて……)

「逃げ場なんてなかった……普通はな」

「!?」


少年の声は咲夜の背後からだった。もちろん、演技をしている俊司の声である。

咲夜は懐からナイフを素早く出すと、何も言わず後ろに投げる。それに合わせるかのように発砲音が鳴り響き、金属音が鳴り響いた。




「……能力持ちね」

「ああ、なかなか鋭いじゃないか……十六夜咲夜さん?」

「……」


俊司が咲夜の名前を言っても、咲夜は表情を微動だに変えず俊司を睨んでいた。どうやら、外来人が自分たちのことを知っていることは、すでに把握しているようだった。


「……一つ聞こう……ここに何をしに来た?」

「あなたには関係ありません」

「そうか」

(くっ……こうなったら!)


咲夜はすぐさま時間の止めると、さっきとは比べ物にならない量のナイフを、再び俊司の周りに並べ始めた。もう、殺す殺さないのレベルではない。自分が無事に戻れるようにひたすらナイフを並べ続けた。


「これで……大丈夫のはず」


咲夜は今度こそ勝利を確認したのか、安堵の溜息を漏らし時間を戻す。

だが、目の前に現れたのは、勝利ではなく絶望だった。


「同じような攻撃を二回も続けるなんてな」

「!?」


咲夜が設置したナイフは、さっきと同様目標に当たることなく地面に突き刺さっていた。それだけではない、その攻撃をかわしたあげく俊司は咲夜の胸倉をつかんでいたのだ。


「どうして……」

「さあ?どうしてだろうな!!」

「きゃっ!」


俊司はそのまま咲夜を強く押し倒し、黒く光る銃口を咲夜の額に押し付けた。


「悪いが……俺は他の奴らと違って、見過ごしたり情けを与えることはしないんだ……」

「ぐっ……」


咲夜は必死に動こうとするが、俊司が強く押さえつけているため抜け出せそうにない。能力を使うことも考えたが、どう考えてもさっきと同じ状況になってしまう。

詰みだ……咲夜はそう確信していた。


「主人にはきちんと伝えといてやるよ……お前の遺体でな……」

「くっ……お嬢様……申し訳ありません……」


泣きそうになる自分をこらえようと、咲夜はスッと目蓋を閉じた。こんなかたちで自分の人生が終わる。ここで死ねば、自分をここに向かわせたお嬢様はどうなってしまうのか……咲夜の脳裏には後悔や心配の文字ばかりが浮かびがっていた。

だが、そのあとに現れたのは死後の世界でも新しい世界でもなかった。


「いたっ……え……?」


訪れたのは軽く指で叩かれたような小さな痛みと、


「あははっごめんごめん、驚いた?」


と言いながら笑う俊司だった。 
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