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皇帝ティートの慈悲

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第二幕その二


第二幕その二

「ヴィッテリア様」
「どうしてここに」
「逃げるのです、セスト」
 アンニオを無視してセストを見据えて言うのだった。
「貴方は。逃げなければなりません」
「ヴィッテリア様、何を」
「貴方には関係ないことです」
 彼女は止めようとしたアンニオを退けた。その冷然とした気迫で。その気迫は確かに皇帝の血を持つ女のものであった。紛れもなく。
「下がりなさい。宜しいですね」
「いや、僕は」
「下がるのです」
 反論は許さなかった。その気迫にアンニオも押されてしまっていた。
「私に何かを言えるのは陛下のみ。それはわかっている筈です」
「くっ・・・・・・」
「わかったのなら下がりなさい。いいですね」
「・・・・・・わかりました」
 気迫には逆らえなかった。彼も頭を垂れるしかなかった。
「ではこれで。セスト」
「彼に声をかけてはなりません」
 ここでもヴィッテリアに敗れてしまった。
「早く下がりなさい。いいですね」
「わかりました。では」
 止むを得なく下がるしかなかった。彼が退いたのを見届けてからヴィッテリアはあらためてセストに対して言うのであった。冷然とした態度はそのままに。
「貴方の命を私の名誉を守る為にです」
「逃げよと」
「そうです」
 セストより小柄な筈なのにセストよりも大きく見えた。
「貴方が見つかれば私の秘密は公になってしまうのですから」
「いえ。それは御安心下さい」
 だがここでセストは強い決意の顔でヴィッテリアに述べた。
「私は決して話すことはありません」
「信じよというのですか」
「そうです」
 言葉も強い。
「ですから。御安心下さい、私は何があっても」
「私は私以外の誰も信じません」
 ヴィッテリアの偽らざる本音であった。
「その私に。貴方を信じよと」
「そうです」
 やはり言葉は強いものだった。
「どうか。この僕を」
「果たしてそうなるか」
「そうなるかとは?」
「私は誰も信じません」
 このことをまた告げたのだった。
「だからです」
「貴女は・・・・・・」
「セスト」
 またプブリオが彼に顔を向けてきた。それを見てヴィッテリアはすっとセストから離れた。
「君は陛下を殺めたと思ったな」
「はい」
 彼の言葉にこくりと頷いた。
「それが違ったなどと」
「あの方は間違いなく生きておられる」
「しかし僕はあの方を」
「剣で刺したと言いたいのだな」
「そうです」
 その感触は他ならぬ自分の腕にあるからこその返答だった。
「それでどうして」
「その時君は辺りをよく見てはいなかった」
 だがプブリオはこのことをセストに告げた。
「よくな」
「!?それでは」
「君はただ宴の場の肉を刺してしまったのだ。あの方ではない」
「間違える筈がありません」
 その可能性はすぐに否定するセストだった。
「あの時。僕は」
「煙と喧騒の中で見えなかったのだ」
 理由はプブリオの方がよくわかっているのだった。実際は。
「だからだ。わからなかったのだ」
「そうだったのですか」
「そうだ。それでだ」
 それを語ったうえでまたセストに告げた。
 
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