皇帝ティートの慈悲
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第二幕その一
第二幕その一
第二幕 大いなる慈悲
己の罪を告白したセスト。彼は今取調べを受けていた。それが行われている一室で彼は今は親友であるアンニオと二人で立ちながら話をしていた。
「セスト、一つ言っておこう」
「何をだい?」
「君はあの方を殺してしまったと思っているな」
「違うのかい?」
アンニオの顔を見てそれを問う。
「僕はその罪を犯したのではなかったのかい?」
「あの方は生きておられる」
少し笑ってセストに告げた。
「騒ぎから逃れられ。宮殿に戻っておられる」
「そうだったのか」
「そうだ。僕が嘘をつくかい?」
毅然としてセストに対して述べた言葉だった。
「君に対して。それはどうだい?」
「いや、ない」
親友の言葉を疑うセストではなかった。そして彼のこともよくわかっていた。
「では君はやはり」
「真実を言っているのだよ」
静かに微笑んで彼に述べた。
「あの方は御無事だ」
「そうか。それは何よりだ」
まずはそのことに安心するセストだった。
「だが僕は」
「君の罪のことか」
「これは拭い去ることができない」
俯いての言葉だった。
「あの方を害しようとしたのは紛れもない事実なのだから」
「悔やんでいるんだね?」
「悔やまない筈がない」
言葉にもそれが滲み出ていた。
「祖国を。陛下を裏切ったその罪は」
「君は。あの方が助かったのにまだ己を」
「そういう問題ではない筈だ」
彼は己の罪を何処までも責めていたのだった。今もである。
「僕はあの方を殺めようとしたのだから」
「それはそうだが」
「アンニオ」
親友の顔を暗い顔で見据えて告げた。
「あの方を頼む。何があっても」
「何があってもか」
「そうだ。僕はあの方を裏切った」
何処までも己を責めるセストだった。
「だが君はあの方を裏切ることはない。だから」
「いや、駄目だ」
しかしここでアンニオは親友に対してあえて強い言葉をかけた。
「それは駄目だ、僕はそんなことは許さない」
「許さない?僕の罪をだね」
「いや、違う」
それもまた否定するのだった。罪を許さないのではないと。
「君は戻らなければならないのだ」
「何処に?」
「わかっている筈だ。あの方のところだ」
今までで最も強い言葉をセストに告げた。
「そして己の罪を幾度でも償わなければならない」
「僕にその資格はない」
「いや、ある」
言葉が厳格な鞭になっていた。それがセストを撃つ。
「君にはそれだけの忠誠心があるのだから」
「今の僕にはそんなものは」
「僕にはわかる」
なおもセストを撃つ。
「その忠誠心を示す行いを幾度でも見せるのだ。あの方に」
「惨い言葉だ」
「惨いのは承知のうえだ」
言葉が鞭になっているのは彼もわかっていたのだ。それでも言うのだった。
「君の苦悩が辛ければ辛い程あの方への憧れがあるのだから。だからあの方のところへ戻ろう」
「行くか留まるべきか」
セストの心がアンニオの言葉によって遂に揺れ動くことになった。今度はそれに悩まされることになるのだった。
「僕は。もう」
「いえ、駄目です」
だがここで姿を現わしたのは。ヴィッテリアであった。彼はすぐにセストの傍に来て彼に告げるのだった。アンニオは彼女の目には入っていなかった。
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