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失われし記憶、追憶の日々【ロザリオとバンパイア編】

作者:月下美人
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原作開始【第一巻相当】
  第十六話「弟子」

 
前書き

アンケートです!

白夜ことハクはいずれ擬人化する予定ですが、彼女をヒロインに入れるべきか否かを皆さんに問いたいと思います!
入れるべきと思う方は1を、いや彼女はあくまでペットだという方は2を。
期限は19日の00:00をもって締め切らせて頂きます。ご協力よろしくお願いします!
 

 


「弟子?」


「はい!」


 俺の目を真っ直ぐ見つめながら頷く青野。その顔からはある種の覚悟が窺えた。


 青野の弟子発言に耳をピクピクさせたハクが胡乱な目で顔を上げた。


「……何に対する弟子か知らんが、取りあえず話を聞こうか」


「俺、今回のことで思ったんです……。周りの人たちと比べたらなんの取り柄もないただの人間で、先生が言った通り、今までの常識が通用しない……。最低でも自分の身を守れる力が無いと、ここでの生活はすごく難しい――いえ、生きていけないってわかりました……」


 ここでは人間は無力な存在だ。この変えようのない事実を改めて思い知ったのか、青野は膝上に乗せた手をギュッと握りしめた。


「そこまで分かっているなら何故、この学校に残ろうと?」


「……友達が出来たんです」


 ポツリと漏れ出た言葉に思わず目を細めた俺は興味深げに青野を見やる。手元に視線を落としている少年は僅かに強張っていた顔に笑みを浮かべて、とても嬉しそうに言葉を続けた。


「その人はとても強くて、綺麗で……こんな俺を友達だって言ってくれました。自暴自棄になってひどいことを言ったのに、それでも、俺を友だって……」


 それは嬉し涙か、はたまた悔し涙か。肩を震わせた青野は言葉を続ける。


「俺は、そんな彼女に報いたい。胸を張って友達だっていえる人間になりたい……! そのためには力がいるんですっ! この世界で生き抜く力が!」


「…………」


 まるで慟哭のような心からの声。俺はそんな青野の本心を前に目を瞑った。


 命のやり取りを直に目の当たりにしたんだ。青野の気持ちは本物だろう。


 だが、まだ覚悟が弱い印象を受ける。


 ――……一度壁にぶち当たったくらいで人生観はなかなか変わるものではない、か。


 答えは出た。目を開くと固唾を呑んでこちらを見詰める青野が視界に飛び込んだ。その姿に思わず目尻が下がる。


「すまないが弟子にはできない。が、自衛手段を得られるまで鍛えてやろう」


「ホントですか!」


「ああ。先生も青野を見殺しにするのは本位ではないからな。早速、今日から始めようか」


「あ、ありがとうございますッ!」


 大きく頭を下げる青野。膝の上でハクが小さく鼻を鳴らした。





   †                    †                    †





 断られても何度でも頼み込むのを覚悟で弟子にしてくれるよう頼んだ。それがまさか、一発OKだなんて。


 先生のようなすごい人に師事すれば俺もちょっとは強くなれるかもしれない。せめて萌香さんの友達として胸を張れるくらいには強くならないと。


 その前にまず、自分の身を守れるようにならないといけないけど。


 先生とは放課後に正門前で落ち合う予定になっている。今は四時限目だから、あと二時間近くある。


「――青野!」


「はいっ!」


 不意に目の前で自分の名前を呼ばれた。頬杖を突いて窓の外を眺めていたのを見られたのかも。


 慌てて前を向くと、目と鼻の距離に大河原麻呂先生の顔があった!


「うわっ!」


「お主、先程から外を眺めておるが、麻呂の授業がつまらぬのかえ?」


「い、いえ」


「ならば、ちゃんと授業に集中するでおじゃる!」


「はい……」


 歴史の大河原麻呂先生はいつも時代劇で登場するような十二単衣を着込み、白塗り化粧で顔を真っ白にしている。眉毛も眉頭だけを残し、扇子で口元を隠しながら教科書を片手に教鞭を取る姿はあまりにも場違いに思えて仕方がない。


 この先生も妖怪なんだよな。一体、何の妖怪なんだろう?


「さて、話を戻すでおじゃるが、このように平安時代の貴族は大変優美で気高い存在でおじゃる。特に平安京の貴族はそれはもう素晴らしく――」


 歴史の授業なのにこの先生が話す内容は平安時代の話ばかり。先生を見ていると平安時代からやって来たのかもと思えてくる。


「ここもテストに出るからマークしておくようにの」


「先生ー」


「なんでおじゃるか、宮崎」


 おかっぱ頭の女子が手を上げた。首を傾げながら教科書を指差す。


「平安時代よりも戦国時代の話をしてほしんですけど」


 それは俺も賛成だった。別に戦国時代でなくても良いけど、平安時代以外の話を聞きたい。


 大河原先生はこめかみに青筋を浮かべると、くわっと目を見開いた。


「だ、だまりゃー! あんな野蛮な時代の話なぞしとうないでおじゃる!」


 唾を飛ばしながら突然激昂した先生は早口で捲し立て始めた。


「よいでおじゃるか。日本が出来上がって様々な時代を経て平成の世となったでおじゃるが、麻呂は平安時代こそが至高の時代だと思うのでおじゃる。第一、刀を振り回すしか能のない野蛮な脳筋どもの話のなにが面白いのでおじゃるか。やはり平安時代こそが至高にして至福の時代でおじゃる。当時の貴族は――」


 先生のマシンガントークに手を上げた女子もタジタジだ。


 俺としては何でもいいから早く授業が終わってほしいんだけど。





   †                    †                    †





 今日の業務を無事終え、帰宅準備も済ませた俺は正門前で青野の到着を待っていた。


 既に青野の訓練内容は考えてある。後は彼の頑張り次第だ。


 肩に乗ったハクとスキンシップを図りながら時間を潰すこと十分。大きなリュックを背負った青野が息を切らしてやって来た。指示した通り、なかには替えの着替えが入っているのだろう。


「すみません、遅れました」


「いや、大して待っていないから大丈夫だ。ん? 朱染も一緒なのか」


 青野の隣には銀色の髪を靡かせた萌香の姿があった。


 萌香は眉根に皺を寄せながら何故か俺の顔を凝視ている。


「どうした朱染。そんなに睨まれる覚えはないんだが」


「あ、いや、すまない……。なんだか先生とはどこかで会ったような気がしてな」


 ――流石に封印しても、記憶に引っ掛かるところが出て来るか……。


 俺個人としては覚えていてくれて嬉しいやら、思い出したらと思うと不味いやら、複雑な気持ちだ。


 いくら封印処置を施しているといっても六年も前の話。いずれ記憶が戻るだろうが、それはまだ今ではない。


「おいおい、いつも教室で会っているじゃないか。ボケるにしては面白くないぞ?」


「……そうだな。勘違いか……。すまない、忘れてくれ」


 頭を振る萌香。その隣では青野が首を傾げていた。


「先生は月音の正体は知っているのか?」


「ああ、青野から聞いている」


「そうか……」


 寮への道についた俺たちはここで萌香と別れる。青野を引き連れいつものバス停に向かうと、既にバスは到着していた。


「ヒヒヒ……久しいな少年~」


「ど、どうも」


 葉巻を咥えた運転手が低い笑い声を洩らしながら肩を震わせる。


 席に着くと扉が閉まり、バスはゆっくりと前進した。


「あの、先生……?」


「これから俺の家に向かう。そこで修業だ。詳しいことは向こうについたら改めて説明するから」


 ――詳しい話を聞きたがる青野には悪いが、説明は後にしてもらおう。今後に向けて少しでも睡眠を取っておかないと……。


 椅子に深くもたれ掛かりながら、しばしの休息を取ることにした。





   †                    †                    †





「――こ、ここが、先生の家……?」


 俺は呆然と目の前にそびえ立つ『家』を見上げる。


 眼前にはショッピングモールがあり、平日にもかかわらず大勢の客で賑わっている。少し視線を上げると、二階には大型映画館があった。


 そして、そこから更に視線を上げると、まさに天高くそびえ立つといった言葉が似合うようなマンションが……。


「ここって、ライブラマンションじゃないですか!」


 ここ数年前に新設された高級タワーマンション。一階がショッピングモール、二階が映画館、そして三階から五八一階までが居住区となっている超高層マンションだ。ここに住めるのは金持ちの中でも一部の人しか住めないって聞いたことがある。


 そんなマンションに住んでる先生って……。


 唖然としていると、追い打ちをかけるように先生が言う。


「言っておくが、このマンションすべて俺のものだぞ?」


「……は?」


「だから、このマンションそのものを購入したんだ。まあ、部屋数はそれこそ腐るほど余ってるから他の入居者に貸してるがね」


 ……開いた口が塞がらないよ。先生っていったい何者なんだろう? どこかの資産家の息子とか?


「ほら、いつまでも突っ立ってないで、さっさと行くぞ」


「あ、はい」


 促されて先生の後に続く。


 先生はショッピングモールの中心にある円柱状のエレベータに乗ると、懐からカードを取り出して差し込んだ。


 一から五七九階までのボタンが点灯する。


「入居者が持っているこのカードを使わないと使用できない、入居者専用のエレベータだ。そして――」


 ポケットから取り出した鍵を差して回すと、パネルの一部分がスライドして五八〇階と五八一階のボタンが現れた。


「俺の部屋は専用の鍵が無いと通行できない」


「映画とかでは見たことあるけど、始めて見た……」


「まあ、普通はあまりお目に掛かれないだろうな。特に、普通の生活を送っている奴はな」


 肩を竦める先生。確かにと思う。


 エレベータは五十人は優に入れるらしく、凄い早さで滑るように上昇した。みるみると眼下の光景が模型サイズまで小さくなっていく。


「ついたぞ」


 チン、という軽快な音とともに扉が開いた。


「うわぁ……」


 そこはまるでホテルのような構造だ。


 足元のレッドカーペッドは埃一つなく清潔感が保たれており、両サイドには等間隔で個室がある。しかも個室は十五畳ほどの大きさであり、中にはリビングやバストイレも完備されているらしい。個室の中だけで生活できるようだ。


 天井には大きなシャンデリアが吊り下げられている。


 先生は一番奥の扉を開くと、テーブルの上に鞄を置いて、ハンガーに背広を掛けた。


「さて、早速修業をつけるとしよう。ついてきなさい」


 再びエレベータに乗った俺たちは最上階に向かった。


 最上階も下の階と変わらない構造をしており、先生はその内の一つの扉を開けた。


「な、なんですかコレ?」


 しかし、中は違う。一言でいうと“異質”だった……。


 部屋は十五畳ほどの大きさは変わらないだろうが生活用品はすべて取っ払っており、唯っ広い空間だけがそこに在った。そして、床一面と天井に描かれた幾何学的な文字と図形の数々。


「これって、魔方陣……?」


「流石にコレは知ってたか」


 そう、よく漫画やゲームなどで登場するお馴染みのアレだった。


「青野、今から君に課す修業内容を説明する」


「――!」


 待ちに待った言葉。どんな言葉が言い渡されるのか不安が過る。


 だけど、この道は自分で選んだ道なんだ。途中で投げ出すのだけは絶対にしたくない……!


 覚悟を決めた俺は大きく頷き、先生を見上げた。

 
 

 
後書き

はい、わかった方はいるかもしれません、麻呂のモデルはあの方です。何故かパッと思い浮かんだので出してみました。いかがでしたでしょうか?
何でもいいので感想お待ちしております! 切実にお待ちしております!
 
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