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スーパーロボット大戦パーフェクト 完結篇

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第七十一話 内紛

              第七十一話 内紛
「貴様等三人を今この場で銃殺にする」
 ギワザがまた言った。
「よいな」
「はい」
 マクトミンはいぶかしみながらもギワザの言葉に答えた。
「ただ」
「ただ。何だ」
「一度調べられては」
 このことも言うのを忘れなかった。
「そうされては」
「この者達が白かどうかか」
「はい」
 言うのはこのことだった。彼はネイが裏切ったとは考えていないのだ。
「それはどうでしょうか」
「その必要はない」
 しかしギワザの返答は変わらない。
「この者達は間違いない」
「裏切ったというのですね」
「そして平然と我等の中に入りだ」
 ギワザはその言葉を続ける。
「中から食い荒らすつもりなのだ」
「馬鹿な、そんな」
 ネイがそれを必死に否定する。
「私はギワザ様の為に」
「黙れ!」
 だが、だった。ギワザはネイの言葉を否定した。
「そんな筈があるものか!」
「何故その様なことを」
「何度も言う。何故包囲されて逃がされた」
「ですからそれは」
「それこそが裏切りの証!」
 ギワザはそう決めつけていた。
「ネイ!貴様を今ここで処刑する!」
「うう・・・・・・」
「ネイ様、ここは」
「止むを得ません」
 アントンとヘッケラーがネイに言ってきた。
「一時ここからです」
「去りましょう」
「ギワザ・・・・・・」
 だが、だった。ネイは今明らかに怒っていた。信じていた、愛していた者に信じてもらえなかった怒りがだ。彼女を覆っていた。
 それでだった。すぐに銃を抜いたのだ。
「最早こうなれば!」
「何をする!」
「殺してやる!」
 怒りに燃えた目での言葉だった。
「ここで!このあたしが!」
「いかん!」
「ネイ様、いけません!」
 アントンとヘッケラーがここで動いた。
 彼等は銃を抜いてだ。それを乱射した。
「うわっ!」
「なっ!」
 それで何人から傷ついた。それからだった。
 アントンがだ。懐に手を入れてだ。
 何か四角いものを出してそれを床に投げ付けた。それで煙幕を張ったのだった。
「去りましょう!」
「ここは!」
「ギワザ!ギワザ!」
 だが、だった。ネイは完全に我を失っていた。
 あくまでギワザを殺そうとする。その彼女にだった。
 ヘッケラーがそっと近付きだった。当身を浴びせた。
「うっ・・・・・・」
「申し訳ありません」
「ではヘッケラー」
「うむ」
 アントンの言葉に応える。そしてだった。
 彼女を担いでだ。その場を逃げ出したのだった。
 煙幕が消えた時三人の姿はなかった。ギワザは右手を負傷していた。
 傷口を左手で押さえながらだ。彼は言った。
「追え!」
「は、はい!」
「それではすぐに」
「殺せ!見つけ次第殺せ!」
 傷が彼の怒りを増幅させていた。
「いいな、すぐにだ!」
「わかりました」
「それでは」
「御前達も行くのだ」
 十三人衆にも命じた。
「そして殺せ。いいな」
「はい、わかりました」
「それでは」
 こうしてだった。彼等はネイ達を追う。その中にはマクトミンもいる。
 彼だけはいぶかしむ顔だった。だがそれでも追っ手に加わるのだった。
 ネイ達は何とか格納庫まで来た。そしてだった。
「行くぞ」
「うむ」
 アントンとヘッケラーが頷き合う。彼等はまずオージェの中にネイを入れた。
 そして自動操縦にしてからだ。二人もそれぞれの機体に乗り込む。
 それから入り口をパワーランチャーで吹き飛ばしてだ。外に出たのであった。
「まさかこうなるとはな」
「無惨な話だ」
 こう言いながらも逃げていく。彼等はまずは生き長らえた。
 その頃ロンド=ベルはギワザの本拠地に向かっていた。その中でだ。
「あれっ」
「どうしたの?」
 タリアがメイリンに問うた。
「何か見つけたの?」
「前方から何か来ます」
 メイリンはこう報告するのだった。
「三機です」
「三機だけなの」
「はい、三機だけです」
 それだけだというのだ。
「それだけです」
「敵かしら」
「偵察部隊ですかね」
 アーサーがここで言う。
「それですかね」
「偵察部隊ね」
「その可能性もありますけれど」
「そうね。けれど多分違うわ」
 タリアは首を少し傾げさせながら述べた。
「あれはね」
「違いますか」
「偵察部隊にしては」
 タリアはモニターに映るその三機の駒を見ながら述べる。
「一直線よね」
「そういえば」
「突撃して来るみたいにね」
「突撃って」
「そうでしょ?凄く速いでしょ」
「はい、確かに」
「どう見ても偵察のそれじゃないわ」
 こう言うタリアだった。
「あれはね」
「じゃあ何でしょうか」
「多分」
「多分?」
「逃げてるわね」
 目を鋭くさせての言葉だった。
「あれはね」
「逃げてるんですか」
「そう思うわ」
「じゃあ脱走兵ですか?」
 メイリンが言った。
「あの三機は」
「そうみたいね。それでメイリン」
「はい」
「どのマシンかわかるかしら」
 こうメイリンに言うのだった。
「そろそろ」
「はい、ちょっと待って下さい」
 まずはこう返すメイリンだった。
「今調べます」
「ええ、御願いね」
「ただの兵士ですかね」
 アーサーは首を捻りながら言った。
「それで戦局がまずいからとか」
「ううん、それで私達に投降かしら」
「そうじゃないですかね」
「そうね。多分そうね」
 タリアも今はその考えになった。
「即断はできないけれどね」
「ええ、じゃあ捕虜にして」
「後で後方に移送ね」
「レジスタンスの人達に連絡もしないといけませんね」
「それは後でね」
 こんな話もした。そしてであった。
 映像が出た。それを見てだった。皆驚いた。
「えっ、あれって」
「オージェ!?」
「しかもあの二機は」
 その左右の二機も見られた」
「バッシュだけれど」
「ってことは」
「あの三機は」
「間違いありません」
 ダバも強い顔で言う。
「あれはネイです」
「それにアントンとヘッケラー」
「そうだな」
 アムとレッシィも言う。
「あの三人よね」
「どういうことだ、一体」
「まさかと思うけれど」
 タリアは今は眉を顰めさせていた。
「彼等が脱走したのかしら」
「あの、普通の兵士じゃなくてですよね」
 アーサーも今は呆然となっている。
「あの三人がって」
「一体何があったのかしら」
「わかりません。ただ」
 ダバがタリアに対して言う。
「これは只事ではありません」
「そうね、十三人衆の中でとんでもないことが起こってるわね」
「だとしたらそれは」
「レーダーに反応多数!」
 メイリンが叫ぶようにして報告する。
「三機の後ろから来ます!」
「追っ手!?」
「まさか」
 そのまさかだった。大軍がだ。三機の後ろに出て来たのだ。
「速い!」
「じゃあやっぱり」
「あれは追っ手か」
 その通りだった。チャイが先頭に立ち己が率いる軍に対して言っていた。
「いいか、三機共だ」
「撃墜ですね」
「そうですね」
「そうだ、そうしろ」
 こう命じるのである。
「いいな」
「はい、それでは」
「照準に入り次第ですね」
「撃て」
 チャイはまた命じた。
「わかったな」
「しかしだ」
 そのチャイにだ。ワザンが言ってきた。
「あの三人、特にネイがだ」
「何が言いたい」
「裏切ったのか」
 彼もまたそのことが信じられないのだった。
「やはりここは」
「ギワザ様の御言葉を疑うのか」
 チャイはここではギワザをバックにして言った。
「そうするというのか」
「いや、そうではない」
 ワザンはそれは否定した。
「では、か」
「そうだ。殺す」
 チャイは鋭い顔になって言い切った。
「そして私はこの戦いの後でさらにだ」
「ではだ」
 ワザンの方からの言葉だった。
「ネイ達はだ」
「裏切り者は殺す」
 あえてこう言うチャイだった。
「裏切り者はな」
「それだけか」
「ネイ達は裏切り者だ」
 チャイもおおよそ察していたがそれでもこう言うのだった。
「だからだ」
「そうか」
「ワザン、あんたはどうなんだい?」
 リィリィがワザンに問い返す。
「その辺りは」
「私か」
「そうさ、あんたはどうなんだい?」
 また問う彼女だった。
「そこは」
「私はだ」
「戦うだけかい?」
「そうだ」
「ふうん、そうかい」
「軍人は与えられた任務を全うする」
 ワザンの言葉は味気ないものだった。
「それだけだ」
「ふうん、よくわかったよ」
 あえて深くは問わないリィリィだった。
「その辺りはね」
「そうなのか」
「テッドもだね」
「・・・・・・・・・」
 だがテッドは答えないのだった。無言で頷くだけだった。だがリィリィはそれをよしとした。
「わかったよ」
「それにしてもだ」
 リョクレイも言う。
「クワサンは今どうしているのだろうな」
「さてね」
 リィリィは彼女には無関心であった。
「あんな奴のことはどうでもいいさ」
「そう言うのだな」
「だってそうだろ?あれはポセイダルの手駒だっただろ」
「そうだ」
 それはリョクレイも否定しない。
「その通りだ」
「ならもうどうでもいいさ。あたし達にはね」
「その通り」
 無論マクトミンもいた。
「我々はただ戦うのみだ」
「あんたが言うと何か不気味だね」
「そうかな?ふふふ」
「ほら、やっぱり不気味だよ」
「私は楽しんでいるのだよ」
 自分ではこう言う彼だった。
「それだけだよ」
「だといいんだけれどね」
「さて、ネイ=モー=ハンの向こうにロンド=ベルがいる」
「倒すだけだ!」
 チャイが叫ぶ。
「あの連中への雪辱を果たしだ」
「立身出世かね?」
 マクトミンはチャイにはいささか冷淡であった。
「そう言うのかね?貴殿は」
「何か問題があるか」
「いや」
「ないな」
「貴殿がそれを望むなら望むといい」 
 マクトミンはそれには興味がないようであった。
「好きなだけな」
「十三人衆に止まらぬ」
 チャイの野心はそれよりも上だというのだ。
「やがて。ペンタゴナ軍の総司令官か首相にだ」
「まあ頑張るのだな」
「好きなだけね」
 リィリィも言う。その間にだった。
 十三人衆率いる反乱軍はネイ達に迫る。それを見てだった。
 まずダバが出撃しようとする。
「お、おいダバ!」
「まだ出撃命令は!」
「けれど。どちらにしろ」
「まあそうだけれどな」
「十三人衆次は私達に来るけれど」
 キャオとアムはダバを止めながらも彼の言葉に頷く。
「ネイ達を倒したらな」
「すぐにでもね」
「それに」
 ダバは今は前を見据えていた。そのうえでの言葉だった。
「ここでネイ達を見過ごすことは」
「できない」
「そう言うのね」
「それに俺のせいでああしたことになったとしたら」
 責任感も見せる彼だった。
「余計に」
「わかったぜ、それじゃあな」
「行きなさいよ」
 ここで二人はそのダバから手を離したのだった。そのうえで言うのだった。
「戦いの後の修理は任せな」
「私も出撃するからね」
「あのですね」
 ここでベンが彼等の前に出て来て告げる。
「もう三十秒待って頂ければです」
「そうしたら一体」
「どうなるの?」
「出撃命令が出ます」
 こうダバとリリスに答えるベンだった。
「ほら、もう」
「あっ、確かに」
「今」
「総員いい?」
 ミサトの声が全員に伝わる。
「あの人達、あのままじゃ駄目よね」
「ああ、そうだ!」
「その通りよ!」
 誰もが彼女のその言葉に頷く。
「一気に出てそれで」
「あんな奴等蹴散らしてよ!」
「義を見てせざるは勇なしなり」
 京四郎はこう言ってからニヒルに笑う。
「俺も変わったかな」
「しかもあの連中絶対に私達のところにも来るから」
 ミサトはこの現実も話した。
「だから余計にね」
「はい、やりましょう」
「ここは」
「じゃあ総員いいわね」
 あらためて言う彼女だった。
「出撃よ」
「了解!」
「それじゃあ!」
「今から!」
「こういうことです」
 ここでダバにまた言うベンだった。
「では。それでは」
「曹長、すいません」
「何、軍規を守っただけです」
 ベンは穏やかに笑ってこう言うだけだった。
「それでは今から」
「はい、行って来ます」
「ダバ」
 その彼にだ。クワサンも声をかけてきたのだった。
「それじゃあね」
「ああ、オリビー」
 ダバも微笑んで彼女に応える。
「言って来るよ」
「ええ」
 彼を見送ってだった。クワサンも微笑むのだった。
 こうして全員出撃する。そうしてだった。
 レッシィとギャブレーがネイ達に通信を入れた。
「おい、ネイ」
「ここはだ」
 まずはこう声をかけるのだった。それからだった。
「いいね」
「共闘だ」
「ふん、よく言うね」
 だが彼女の言葉はきついものだった。
「誰のせいでこうなったと思ってるんだい」
「済まない」
 その言葉にはダバが応えた。
「まさかこうなるとは」
「悪いって認めるのかい?」
「それで許されると思っちゃいない」
 こうも言うダバだった。
「しかしそれでも」
「ふうん、そう思ってるんだね」
「ああ、そうだ」
 率直に答えたダバだった。
「そして今は」
「わかったよ」
 不意に出た言葉だった。
「それじゃあね」
「何っ、それは」
「どういうことよ」
 ギャブレーとアムがネイの今の言葉に問う。
「意味がわからないが」
「あんた何が言いたいのよ」
「アントン、ヘッケラー」
 だがネイは二人の言葉に今は答えずにだった。
 二人に声をかけてだ。そのうえでだった。
「ここはだ」
「はい、わかりました」
「そうされるのですね」
「追っ手の奴等を返り討ちにするよ」
 こう二人に告げた。
「いいね、それで」
「わかりました」
「それでは」
 二人も彼女の言葉に頷く。そうしてだった。
 三人で小隊になりだ。そのうえで陣を組んだ。
「さあ来い!」
「我等とてただやられるつもりはない!」
 アントンとヘッケラーが言う。
「ここで一機でもだ」
「多く撃墜してみせよう」
「素晴しい」
 カラスはその彼等を見て感嘆の言葉を漏らした。
「ああするべきですね、まことに」
「そうなんですか、先生」
「そうですよ、トビア君」
 こうトビアに対しても話す彼だった。
「人は最後まで諦めてはいけません」
「あえて戦うこともですね」
「はい、必要なのです」
 そうだというのである。
「それが優れた者の証の一つなのです」
「最後まで諦めない」
「最後の最後までです」
 こうも話す彼だった。
「そうあるべきなのです」
「そうなんですね」
「はい」
 またトビアに話す。
「トビア君もですよ」
「最後の最後まで戦う」
「決して諦めてはいけません」
「わかりました。それなら」
「どうも私もここに来て考えが変わりましたが」
 それは認めるカラスだった。
「しかし。諦めないというのはです」
「変わらないか」
「それはか」
「どうしてもです。変わりませんね」
 ザビーネとドレルにも答える彼だった。三人が乗るその戦艦の中でもだ。
「ではここはです」
「攻撃だな」
「射程に入れば」
「そうです。広範囲の攻撃でいきましょう」
 こうして彼等も攻撃を続ける。だが相手はだ。
 チャイはあくまでネイ達に固執していた。
「まだだ!狙え!」
「狙え?」
「ネイ=モー=ハン達をか」
「そうだ、あの女を粛清するのだ」
 あくまで彼女にこだわる彼だった。
「そうすれば私は」
「しかしだ。それはだ」
「今はそれよりもだ」
 ワザンとリョクレイがその彼に言う。
「ロンド=ベルだ」
「あの者達の相手をするべきだ」
「いや、まだだ」
「まだだというのか」
「しかしこの戦局は」
「ロンド=ベルなぞどうとでもなる」
 まだこう言うチャイだった。
「それよりも今は」
「こりゃ駄目だね」
 リィリィはもう匙を投げてしまっていた。
「ねえ、ネイ達はチャイに任せてさ」
「そうだな」
「我々はだ」
 ワザンとリョクレイはここで頷いた。そうしてだった。
 全軍でだ。ロンド=ベルに向かおうとする。チャイはその彼等に抗議しようとする。
「待て!何をするつもりだ!」
「そのままだよ」
 マクトミンがそのチャイに答える。
「今はロンド=ベルの相手が先決なのでね」
「しかし。それは」
「しかしも何もない。よく見るのだ」
 彼も今の事情はよくわかっているのだった。
「ネイ=モー=ハン達はどうとでもなるのだ」
「些細なことだというのだ」
「如何にも」
 そうだと言うのだった。
「我々は今はロンド=ベルを相手にするべきだ」
「いや、ここはだ」
「ならば貴殿だけでやるのだな」
 マクトミンは突き放しさえしてみせた。
「思う存分な」
「おのれ、あくまで私のやり方を否定するのか」
「そうだな。否定になるな」
 マクトミンも言う。
「それならだ」
「くっ、では私は」
「まだだ」
 まだ言う彼だった。
「私は。あの女を」
「それはいいがだ」
 マクトミンはまた彼に言う。
「貴殿一人でネイ=モー=ハンを倒せるのか」
「何っ!?」
「彼女をだ。それはどうなのだ」
「ふん、わかった」
 こう返すチャイだった。忌々しげな口調でだ。
「それではだ。今はな」
「そうするといい。貴殿では彼女の相手は無理だ」
「おのれ・・・・・・」
 チャイは歯噛みする。しかしだった。
 彼はマクトミンの言葉に頷くしかなかった。こうしてネイは今はとりあえず安心することができた。彼女への追っ手はロンド=ベルに向かったからだ。
 ロンド=ベルと彼等の戦いは激しいものになる。しかしだった。
 ここでだ。カラスが策を仕掛けた。
「さて、ここはです」
「どうするのだ」
「一体」
「横からですね」
 こうザビーネとドレルに話す。
「横から突き崩しましょう」
「敵の側面に軍を向けるか」
「そうするのだな」
「いえ、それはおそらく見破られてしまいます」
 そうではないというのである。
「ですからここは」
「一体どうするのだ」
「それで」
「まず敵を引き付けます」
 最初にそうするというのである。
「そしてです」
「我等の中央が退きか」
「そうしてか」
「はい、そうしてです」
 また言う彼だった。
「そのうえで、です。側面からです」
「攻撃を開始する」
「そうするのか」
「見たところ彼等の中で突出している軍があります」
 チャイの軍であった。彼はここでも功を焦っている。
「ですからここはです」
「あえて突っ込ませ陣を崩しか」
「そのうえでか」
「側面を攻撃しましょう」
 こう言うのだった。そしてだ。
 ザビーネとドレルもだ。暫し考えてからこう答えたのだった。
「そうだな、それがいい」
「今はな」
「賛成して頂けますね」
「うむ、それではだ」
「仕掛けるとしよう」
「はい、それでは」
 こうしてだった。彼等は一旦敵の攻撃に退いてみせた。中央がだ。
 それを見てだ。チャイが叫ぶ。
「攻めろ!今だ!」
「どう思う」
「そうだな。これはだ」
 だが、だった。ワザンとリョクレイは冷静である。それでだった。
「迂闊に動くべきではないな」
「そうだな」
「その通りだね」
 リィリィも二人のその言葉に頷く。
「ここは動いたら駄目だね」
「よし、それではだ」
「待つとしよう」
「チャイ=チャー」
 マクトミンも再びチャイに告げる。
「ここは動くべきではないな」
「またそう言うのか」
「死にたければ行くといい」
 これが彼への言葉だった。
「好きなだけな。骨は拾おう」
「くっ・・・・・・」
「さて、どうする」
 また彼に問う。
「ここは」
「・・・・・・わかった」
 ここでもだった。彼は頷くしかなかった。
「それではだ」
「今は重要な時かというとだ」
 マクトミンは戦術自体は冷静であった。
「そうではない」
「そうだな。今はな」
「まだ後がある」
「そういうことだ。今はそれ程焦ることはない」
 こう言ってだった。積極的な攻撃を止めたのだった。
 そのうえで次第に損害が増えていくのを見てだ。今度はワザンが言った。
「この辺りが限度か」
「そうだね」
 リィリィが応えた。
「ここはそうするべきだね」
「後詰はわしが引き受ける」
 そのワザンが申し出る。
「それでいいか」
「いやいや、ここは私が引き受けよう」
 しかしだった。マクトミンが申し出るのだった。
「ここはだ」
「そうするのか」
「そうだ。戦えるということは有り難いことだ」
 彼はそれを望んでいた。出世よりもだ。
「だからだ。それでいいか」
「どうしてもというのか」
「少なくとも貴殿に何かあっては困る」
 ワザンに対しては思いやりを見せていた。
「御子息のことがあるからな」
「だからか」
「だからだ。ここは任せてもらおう」
「わかった。それではだ」
 こうしてだった。マクトミンが後詰を引き受けたのだった。 
 ポセイダル軍は徐々に撤退していく。そうしてであった。
 彼等は戦場から離脱した。後には誰も残ってはいなかった。
 ネイは生きていた。無事生き残っていたのだ。
 その彼女にだ。ダバが声をかけた。
「ネイ」
「助けられたみたいだね」
 ネイはそのダバに対して言った。
「どうやらね」
「そうです、我々はです」
「彼等に助けられました」
 アントンとヘッケラーも言う。
「恩ができましたが」
「どうされますか」
「あたしは恩は忘れないさ」
 ネイも誇りがある。だからこそこう言うのだった。
「それにね。やっぱりね」
「ギワザですね」
「あの男に対して」
「そうさ、やってやるよ」
 これがネイの今の言葉だった。
「あいつはあたしのこの手でな」
「そうしてですか」
「だからですか」
「そうさ、そうしてやるよ」
「復讐か」
 ダバがネイの話をここまで聞いて呟いた。そうしてだった。
 彼はあらためてネイに声をかけた。
「それはいいがだ」
「何だい?」
「よかったら俺達と一緒に」
「戦えってのかい」
「行き場があればいいけれど」
「生憎だけれどないよ」
 口の端を少し歪めての返答だった。
「そんなのはね」
「じゃあ本当によかったら」
「ちょっと、ダバ」
「幾ら何でもこの女はだ」
 アムとレッシィがそのダバに言ってきた。
「私達を一番苦しめた相手じゃない」
「何をしてくるかわからないぞ」
「いや、それでも」
 だがここでもだった。ダバは言うのだった。
「俺はやっぱり」
「信じたいというのね」
「そう言うのか」
「そうなんだ。それでいいかな」
「ううん、そうね」
「ダバがこう言ったら引かないからな」
 二人もダバの性格はわかってきていた。ならばだった。
 それでだ。彼の考えに頷いたのだった。
「それならね」
「思う通りにするといい」
「そうだな。私も思うが」
 今度はギャブレーが言う。
「ネイは裏切りをする人間ではない」
「そう言うんだな、あんたは」
「そうだ。確かに敵としては手強い」
 キャオに対する言葉だった。
「だが。それでもだ」
「人間としてはなんだな」
「そこまで悪い人間ではない」
 そうだというのである。
「決してな」
「じゃあここは?」
「本人達さえよければ」
「そうよね」
「いつものパターンだけれど」
「そうなるよな」
「じゃあ」
 皆少し小声になってネイ達に尋ねる。
「あの、よかったら」
「本当にそちらがそうされるのならですけれど」
「どうですか?」
「私達と一緒に」
「ギワザに」
「そうだね」
 ネイは一呼吸おいてから答えた。
「それじゃあね」
「そうですね、我々もです」
「ネイ様がそうされるのならです」
 アントンとヘッケラーも言う。
「喜んでです」
「共に」
「そうかい、わかったよ」
 ネイも二人の言葉を受けてあらためて頷いた。そうしてであった。
 彼女もロンド=ベルに加わったのであった。アントンとヘッケラーもだ。
 それでだ。ネイはダバに言うのだった。
「まあ何だね」
「どうしたんだ?」
「いや、奇妙なことになったって思ってね」
 こう言うのである。
「どうもね」
「俺達と一緒に戦うことがか」
「そうだよ。前まで敵同士だったじゃないか」
 このことだった。話すのはだ。
「それがこうして。今はね」
「それは私もだが」
 ギャブレーも出て来た。
「何度ダバ達と戦ったか」
「あの時しつこかったな」
「そうですよねえ」
「何度も出て来た」
 リョーコとヒカル、イズミも話す。
「こいついい加減死ねって思ったよ」
「海水浴の時にばったり会ったりもしたし」
「色々あった」
「あの時は会いたくて会ったのではない」
 ギャブレーはバツの悪い顔で話した。
「全く。運命はわからないものだ」
「ギャブレーも悪い奴じゃなかったのがよかったな」
「全くだ」
 サブロウタとダイゴウジもいる。
「かなり抜けてるけれどな」
「しかし悪い奴ではない」
「これでもポセイダル軍では有望株だったのだぞ」
 ギャブレーの表情はそのままだ。
「十三人衆にも入ったしな」
「まあできることはできたね」
 ネイもそれは認める。
「確かにかなり間抜けだけれどね」
「だからそれは」
「しかしな。悪い奴じゃないのは確かだね」
「そう言ってくれると有り難いがな」
「そのあんたもとはね」
 ネイは今度はギャブレーを見て話す。
「全くね。どうだというんだよ」
「運命とはわからないものだな」
 ギャブレーは今度は考える顔になっている。
「場所を変えて貴女とまた戦友同士になるとはな」
「人間の運命とはだ」
「本当にわからないな」
 アントンとヘッケラーもこのことを実感していた。
「しかしギワザはだ」
「あそこまで猜疑心が深いとはな」
「そうだね」
 ネイはここでは曇った顔になった。
「あたしも見誤っていたよ」
「そのギワザさんですが」
 ここでテッサが出て来て言う。
「どうもかなり焦っておられますね」
「焦ってる?」
「そうなんだ」
「はい、焦っています」
 こう一同にも話すのである。
「それもかなりです」
「二個艦隊規模の戦力は既にあるが」
「それでもなのか?」
 アントンとヘッケラーは怪訝な顔でテッサに問い返した。
「戦力はさらに集まっていたが」
「それでも焦っているのか」
「おそらく戦力をさらに集めたいのでしょう」
 テッサはく予測するのだった。
「今以上にです」
「そしてですか」
「そうしてなのですか」
「とにかく戦力を集めようとです」
 テッサの話は続く。
「焦ってますね」
「その通りだよ」
 ここでまた言ってきたネイだった。
「あいつはとにかく戦力をかき集めてたよ」
「そういうことですね」
「ああ。けれど」
 ネイはテッサを見てだ。彼女に問うた。
「それがどう関係あるんだい?」
「戦局とですね」
「あいつの焦りがだね。関係あるのかい?」
「はい、あります」
 その通りだというテッサだった。
「その焦りが今隙を作らせています」
「隙を?」
「それが今?」
「できてるっていうんですか」
「そうです。基地の方で動きがありました」
 テッサは言った。
「どうやら全軍を挙げてです」
「俺達を潰しに来た!?」
「そうだってのかよ」
「そりゃまた速いな」
「っていうか基地で地の利を活かして戦わないのかよ」
「普通そうしない?」
 皆怪訝な顔で話す。
「やっぱり焦ってるのね」
「そういうことかあ」
「それで今こうして出て来た」
「つまりは」
「迎撃に出ます」
 また言う彼だった。
「よし、それじゃあ」
「今から攻めるか」
「出て来たところをね」
「はい、そうしましょう」
 実際にそうすると言うテッサだった。
 そしてだ。彼女はここでこうも話すのだった。
「そしてそのうえで」
「そのうえで?」
「何か仕掛けるんですか」
「ここは」
「そうすると」
「そうです。戦力の一部を敵の後方に回します」
 策だった。彼女は言うのだった。
「焦っている敵を引き受けそうしてですか」
「戦力の一部を後ろに回して」
「挟み撃ちですね」
「いえ、それよりもです」
 違うとだ。テッサは話すのだった。
「ここは敵のさらなる焦りを誘いたいです」
「沙羅に焦らせる?」
「そうするんですか」
「つまりは」
「はい、敵軍は浮き足だったところにです」
 また話す彼女だった。
「さらに攻めましょう」
「そうよね。それで戦いは終わるわね」
 小鳥も言った。
「十三人衆との戦いわね」
「そうだ。また一つ敵を倒せる」
 宗介も言う。
「だからだ。それでいくべきだな」
「はい。しかし」
 ここでまた言うテッサだった。今度は怪訝な顔になってだ。
「サードスターは動きませんね」
「そのフル=フラット?」
「何か独自の勢力になってるだっけ」
「確か」
「はい、そうです」
 またダバが仲間達に話す。
「彼女のことは俺もよく知らないですけれど」
「それでもなんだ」
「独自の勢力になって」
「そうしてなの」
「つまりは」
「はい、そうです」
 また話すダバだった。
「これまで動いたことはありません」
「けれどあれなんでしょ?」
 ミレーヌがダバに尋ねた。
「ポセイダルの派閥よね」
「それはその通りなのですが」
「動いたことないの」
「これまで一度も」
 またミレーヌに話すダバだった。
「ありません」
「ううん、何それ」
 今言ったのは小鳥だった。考える顔になっている。
「何かね。おかしくない?」
「予備戦力ではないでしょうか」
 テッサはこう考えたのだった。
「ここぞという時に投入する」
「そうでしょうか」
「その可能性もありますが」
 こうダバにも話すテッサだった。
「如何でしょうね」
「そうですね。その可能性はありますね」
 その通りだと返すダバだった。
「有り得ますね」
「若しくは完全に第三勢力となっているかですね」
「ああ、言っておくよ」
 テッサにだ。ネイが言ってきた。
「ギワザとフル=フラットは密約を結んでいたよ」
「えっ、じゃあやっぱり」
「完全に第三勢力になっていた?」
「それにポセイダルを裏切ってる」
「そうなるよな、やっぱり」
「そうよね」
 それぞれ話す。そうしてだった。
 ネイはここでまた話すのだった。
「ギワザは保険でポセイダルとあたし達との戦いの推移を見守るつもりだったんだろうね」
「そして勝った方につく?」
「つまりは」
「そう考えていた」
「そうよね」
「それだと」
「だろうね」
 ネイもそう考えるのだった。
「そう考えるのが妥当だね」
「じゃあやっぱり」
「フル=フラットは今は様子を見ている」
「動かない」
「そういうことか」
 皆それぞれフル=フラットのことを考えていく。そうしてだった。
 ここでだ。結論がダバから出た。
「とりあえずフル=フラットが動く前にです」
「まずはギワザを叩くか」
「ここで決着をつけるか」
「そうする?」
「やっぱり」
「はい、そうしましょう」
 また言うダバだった。
「ここは」
「ええ、それじゃあ今は」
「ギワザとの決戦に専念して」
「そうするか」
「そうよね」
「敵は一つずつ叩く」
 戦略の常識も述べられる。
「そういうことだよな」
「うん、じゃあ」
「ポセイダルを倒す前にもフル=フラットをどうかする前にも」
「まずギワザを」
 こうしてだった。彼等はギワザがいるその基地に向かうのだった。ここでもまた決戦が行われるのだった。新たな仲間達と共に。


第七十一話   完


                         2010・11・3  
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