好き勝手に生きる!
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。
ページ下へ移動
第九話「レイナーレ御一行、退場のお知らせ」
「へぇ、生きていたの。しかも悪魔? 嘘、最悪じゃないの」
現れたのは黒髪の少女。確かレイナーレ、だっけ?
イッセーを殺した張本人。僕がみすみす逃した堕天使。
今度は絶対に逃がさない、僕を敵に回したこと、後悔させてやる……。
「……堕天使さんが、何の用だ?」
「話し掛けないでくれる? 薄汚い下級悪魔風情が」
レイナーレちゃんは汚ならしいものを見るような目でイッセーを睨んだ。
「その子は私たちの所有物なの。返してもらえるかしら? ――アーシア、逃げても無駄なのよ?」
うにゅ? 逃げる? ……どういうこと?
「……嫌です。私、あの協会には戻りたくありません。人を平気で殺すところへ戻りたくありません。……それに、あなたたには私を――」
アーシアは珍しく嫌悪を露にしていた。
……教会で何かあったのかな?
「そんなこと言わないでちょうだい、アーシア。あなたの神器は私たちの計画に必要なのよ。さ、私と一緒に帰りましょう。あまり迷惑を掛させないで」
近づいてくるレイナーレちゃんから逃れるように、イッセーの後ろに隠れるアーシア。その身体は恐怖で震えていた。
「待てよ、アーシアが嫌がってるだろ。ゆう――いや、レイナーレさんよ、あんたこの子を連れてどうするつもりだ?」
「下級悪魔が私の名前を呼ぶな。名が汚れる。あなたには関係のない話だわ。さっさと尻尾を巻いて逃げるなら見逃してあげてもいいわよ? それとも、また死んでみる?」
レイナーレちゃんの手に光が集まり、槍が現れる。なんで槍なんだろうね?
「セ、セイクリッド・ギア!」
籠手を呼び出し身構える。レイナーレちゃんはイッセーの神器に目を向けると、失笑した。
「あなたの神器って、もしかしてそれ? 『龍の籠手』? アハハハハ! 下級悪魔にお似合いな最弱な神器じゃない!」
「うるさい!」
『Boost』
籠手から人工的な声を響かせ、イッセーが駆ける。あー、ダメだよ、そんな直線的じゃ。ほら――。
「か弱い乙女に殴り掛かるなんて野蛮ね。これだから下劣な悪魔は……」
ヒラリと避わし槍で太ももを貫く。
「ぐぁあああっ!」
あまりの激痛に膝をつくイッセー。目に涙を浮かべ、震える手で槍を掴んだ。
ジュッと肉の焼ける音がした。
「ぐぅぅぅぅ!」
「どうかしら、光の味は?あなたたち悪魔にとって光は猛毒。さぞかし痛いんでしょうね」
クスクス笑うレイナーレちゃん。趣味悪いねぇ。
「イッセーさん!」
「おっと、待とうね」
走り出そうとするアーシアちゃんを止める。
「イッセーなら僕がなんとかするから大丈夫だよ。それよりもアーシアちゃんはここにいなさい。連れ去られちゃうよ?」
本当は僕が潰したいんだけど、それだとイッセーのためにならない。
イッセーは弱い。自分の身を守れない程に。悪魔になったのだからこの先、戦場に身を置くこともあると思う。なら、今は少しでも経験を積ませるのが得策だ。
獅子は可愛い我が子を谷底に突き飛ばせって言うしね。
ここには僕がいるし、前に施したアレもあるから死ぬことはないでしょう。
まぁ、ここまでと判断したら、問答無用で殺らせてもらうけどね。ニフフフフ……。
レイナーレちゃんが再び槍を投げる。今度はお腹を貫き、とうとうイッセーは前のめりに倒れた。
「一の力が二倍になったところで所詮は二。私とあなたの力量は天と地程の差があるわ。よくわかったかしら、下級悪魔くん?」
「くそ……」
それでも目に敵意と闘志を宿し、起き上がろうと足掻く。
「イッセーさん!」
我慢出来なかったのか、アーシアちゃんが駆け出しイッセーのお腹や太ももに治癒の光を当てた。
「アーシア、その悪魔を殺されたくなかったら私とともに来なさい。『聖母の微笑み』はそこの悪魔の神器と違って上級クラスの神器。あなたの神器は私たちの計画に必要なのよ。従わないなら、その悪魔を殺すわ。それも無惨に、残酷に、ね」
槍をイッセーに向ける。
「うるせぇ! 誰がテメェなんかに――」
「……わかりました」
「アーシア!?」
アーシアちゃんの決断にイッセーが驚きの声をあげた。
「私が行けば、イッセーさんは見逃してくれるのですね?」
「ええ。約束するわ」
「でしたら――」
「行っちゃ駄目だ、アーシア!」
「イッセーさん……」
泣きそうな顔でイッセーを、そして僕を見る。涙で揺れる瞳には確固たる意思が宿っていた。
――何がなんでも救うという、意志が。
「私、短い間でしたけど、イッセーさんとレイさんのお友達になれて嬉しかったです。今日一日、ありがとうございました。さようなら……」
「そういうことよ、悪魔くん。さて、帰りましょうかアーシア。今日の儀式であなたは苦悩の日々から解放されるのよ」
「はい……」
いやらしい笑みを浮かべるレイナーレ。絶対よくないことだよね、それ。
「――……レイ! 頼む! 俺の分までアーシアを守ってやってくれ!! 頼む……っ!」
屈辱と自分への不甲斐なさで歯を食い縛り、僕へと懇願する。本当は自分で助けたいだろうが、イッセーにはその力がない。その願いには万感の想いが込められていた。
「言われるまでもないよ」
レイナーレちゃんが突然イッセーの隣に現れた僕の姿に驚愕する。
「あなたはこの前の! ――いえ、いつからそこにいた?」
「ん? 始めからだけど。馬鹿には見えない結界を張ってたのさー」
僕はチュッパチャップスを食べながら指をイッセーに向ける。
「――『完全再生』」
残りのダメージは消えたから、イッセーの方はこれで良しと。じゃあ、次は――。
ピッとアーシアちゃんの方に指を向ける。
「――『引き抜き』」
アーシアちゃんがレイナーレちゃんの元から消え、僕の元に現れた。これで人質の心配も無しと。良し良し。
レイナーレちゃんが口を開こうとしたが、すかさず僕は手の平を向けて待ったをかけた。
「あー、僕が何者だとか、何をしたって聞くのなら止めてくれる? 教える義理は無いし、言ったところで理解できないし、どうせ無駄に終わるからね」
何せ、キミの運命はもう確定してるのだから。
立ち上がったイッセーの頭をナデナデ。よく頑張りました! 流石は僕の一番の友達だね。
「よく頑張ったねイッセー、格好良かったよ。アーシアちゃんも、もう何も心配しなくていいからね。後は万事僕にお任せあれだよ」
イッセーとアーシアちゃんの手を繋ぎ、空間跳躍の準備に入る。座標はオカルト研究部、と。
「僕はちょーっと用事があるから、先に戻ってて。じゃあ、また後でね」
ちょっと一方的だけど、二人を部室へ跳ばす。そして隔離結界を張ってこの公園を外界から隔離した。これでもう、逃げられない。
さてさて、お楽しみの時間だね。ニフフフフ……。
「これは、結界……? アーシアたちを隠したのもあなたの仕業のようだし、何者なの? 少なくとも人間じゃないわね。私の槍を受けて無傷な人間なんていないもの」
「んー、その質問には答えないって言ったばかりなんだけど、もう忘れちゃった? 堕天使って鶏並みに記憶力が低いんだねぇ。ニプププっ」
「……ガキが、調子に乗るんじゃないわよ。人間の分際でこの私に楯突いたことを後悔するがいい!」
「にはは! 僕から言わせればキミの方が余程小娘なんだけどね。じゃあ、最近運動不足なことだし、運動しますか!」
レイナーレちゃんが槍を投げてきた。その数は五本。
「死ね、人間!」
「イヤだ!」
縮地で回避した僕はレイナーレちゃんの翼の片方目掛けて手刀を振るう。魔力を帯びた手刀はレイナーレちゃんの翼を難なく切り裂き、その根元から切り離した。
「あぁあああああ! 私の翼がぁああああ!!」
「うっさい、黙れブス」
悲鳴を上げる彼女の頭を鷲掴みにして、地面に叩きつける。その威力に地面は陥没し、手応えから鼻骨と頬骨が砕けたのが分かった。
「僕ね、実は結構怒ってるのよー」
髪を掴んで引き上げ、お腹に拳を叩き込む。
「ごふ……っ」
地面に両膝をついて吐血するレイナーレちゃん。彼女の顎を蹴り上げた。
「イッセーはねー、僕の最初の友達なんだよ~」
跳躍し、宙を舞うレイナーレちゃんを飛び越えてそのお腹に踵落としを見舞う。隕石のように豪速で下降したレイナーレちゃんは地面をバウンドして砂埃を撒き散らした。
「……ア……ア…………」
「アーシアちゃんもね、最近できた友達なんだ~」
俯せになって顔を上げる彼女の頭を踏みつけ、残りの翼に手を掛ける。
――ブチブチブチッ。
「アァァァァァァァァ………………ッ!」
鮮血で濡れる翼をもぎ取り、ペイッと捨てる。
「僕ねー、怒ってるんだよ~」
身体は傷だらけで背中からはおびただしい量の血を流しているレイナーレちゃん。その身も心もボロボロで、先程までの威勢はなりを潜めて、ポロポロと涙を零していた。
だけど、残念。ここからが本番なんだよね~。
「――『完全再生』」
レイナーレちゃんの傷をすべて癒す。何が起きたか分からずポカンと口を開けた彼女に僕は笑いかけた。
「だから、楽に死ねると思わないでね?」
そして、その顔が恐怖に歪む。
側頭部に回し蹴りを叩き込み、吹き飛んだ方向へ回り込んで肘鉄を食らわせる。足を払って空中に浮いたレイナーレちゃんを天に目掛けて蹴り飛ばした。
空高く舞い上がるレイナーレちゃんに虚空から取り出した四本の剣を投擲。寸分の狂いなく四肢を貫き、レイナーレちゃんを空間に縫い止める。
跳躍して足元に魔方陣を敷き、空中に大の字で固定されたレイナーレちゃんの元に着地。
恐怖と苦痛で歪んだその顔に手を当て、笑い掛けた。
「じゃあ、もう会うことは無いだろうけど。バイバイ」
――『次元跳躍』
必死になって何かを訴えかけようとしたレイナーレちゃんは、次の瞬間にはこの世から姿を消した。
彼女を送った先は時の狭間。そこは時間の概念も死の概念も何もない場所。死ぬことも餓死することも出来ず、永遠に彷徨い続ける場所だ。まあ、僕を怒らせたんだから、このくらい当然だよね?
んー! まずは一人だね。じゃあ、次に行こうかな。
抉れた地面や薙ぎ倒された木々を元に戻す。隔離結界は結界内と外界を遮断するだけでなく、結界を解いた時に、結界内の環境を以前と同じ状態に戻すことが出来る。隠蔽が楽チンなのですよ。
公園を元に戻した僕は不備がないことを確認すると、一つ頷いてその場から姿を消した。
† † †
向かった先は教会。アーシアちゃんのお家だ。気配を探ると、中に人の気配が十五。堕天使と思わしき気配が三つ。
んー、全員相手にするのも面倒だしなー、どうしよっか?
玄関前で顎に手を当てて考え込む。すると僕の後ろから聞き覚えのある声がした。
「あれあれあれぇ~? そこにいるのは何時ぞやの少年じゃあーりませんか~!」
振り向くと、そこには白髪の神父――フリードくんの姿があった。
「もしかして、僕チンに遭いに来てくれたのかなぁ? いやーん、フリード、カ・ン・ゲ・キ! 先日の一軒以来、僕チンは君にフォーリンラブなんですよ~! もう寝ても起きても君しか考えられないって感じ? いやー、メンゴメンゴ! というわけで、死んじまいなぁ!」
懐から二丁の拳銃を取りだしたフリードくんは照準を僕に合わせる。
「アーメン!」
「ん、Amen」
引き金を引くよりも速く、僕はフリードくんの背後に回ると手刀で突き刺した。
「……おいおい、なんだよそりゃ……」
フリードくんの眼下に突き出た腕。その先には心臓が握られていた。僕は肘を曲げて腕を突き刺したまま心臓をフリードくんの眼前に持っていき――、
――ブシュッ。
握り潰した。
腕を引き抜いてフリードくんの遺体をポイッと横にどかす。一瞬、僕の身体を炎が包み、身体や服に付着した返り血を浄化する。
「んー、やっぱ全員相手にするのは面倒だから、まとめて潰しちゃうか」
そうだ、久しくアレをやってなかったから、やっちゃうか。
なら、教会一帯を認識阻害結界で囲んで、と。これで外からは教会を認知できないし、何が起こっても気にならない。これで準備は万端だ。
「じゃあ、始めますか!」
両手を地面につけて魔力を流す。魔力は円を描くように渡り、教会を中心に巨大な魔法陣となった。
「――『黒陽・大炎上』」
突如、魔方陣から巨大な黒い火柱が立ち昇る。直径三十メートルはある黒い炎はすべてを灰燼にして、瞬く間に教会そのものを焼き尽くした。
後に残ったのは焼け焦げた土地だけだった。
「ん、終わり! あー、良いことした後は気持ちがいいねぇ」
じゃあ、帰ろうかな。リアスちゃんにアーシアちゃんのこと説明しなくちゃいけないし。既にイッセーがしてるかもだけどね。
新たなチュッパチャップスを取出し、僕は部室へ向かうのだった。
後書き
感想および評価募集中!
ページ上へ戻る