好き勝手に生きる!
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第十話「お友達が出来ました!」
「間に合ってよかったわ」
部室に着いたリアスちゃんはイッセーと僕が無事なのを確認すると、安堵の吐息を零しながら抱きしめた。僕も抱きしめられるとは思ってもみなかったので、ビックリです。
「フリード・セルゼンがイッセーたちの向かった先にいることが判明してね、急いで駆け付けたのよ」
「部長、あいつのこと知ってるんですか?」
「ええ、知りたくもないけどね……。僅か十歳で悪魔祓いになった天才。元、非合法悪魔祓い組織『黒の教団』の最凶戦闘集団第零班に所属していた【名前付き(ランカース)】第十三番」
「そして、禁忌を犯したため『黒の教団』を追われたはぐれ悪魔祓いですわ」
知らない単語がポンポン出てくる。経歴だけ聞いたらなんとなく格好良いんだけどね。
「なんですか? その黒の教団だとか、はぐれ悪魔祓いだとか」
いつものように僕はソファーに座ってチュッパチャップスを咥え、PSPを取り出してモ〇ハンをプレイ。隣にいた朱乃ちゃんが僕の脇に手を入れて持ち上げ、自分の膝上に座らせた。そして後ろからギュッと抱きしめてくる。そんなに抱き心地が良いですか?
イッセーが何やら睨んでるけど、そんな下僕の反応を無視してリアスちゃんは説明を続ける。
「悪魔祓いには二通りあってね、一つは神の祝福を受けた者たちが行う正規の悪魔祓い。これは神や天使たちの力を借りて悪魔を滅するの。そしてもう一つが戦闘に魅入られ、純粋な殺戮に快楽を覚える者たち。彼らは教会を追放されてその大半の者たちが堕天使の元に向かうわ。そんな彼らをはぐれ悪魔と呼ぶの」
「なんで堕天使の元に?」
「堕天使たちは先の戦争で仲間や部下の大勢を失った。失った戦力は外から集めることにしたのよ」
「はぐれ絵悪魔祓いは悪魔を殺したい。堕天使は悪魔が邪魔。利害が一致した彼らは徒党を組むことで戦力を強化したんだ」
壁に寄り掛かって缶コーヒーを呷る木場くん。んー、缶コーヒーよりおしるこ缶の方が絵になると思うな。
「そして、『黒の教団』はこの二つのいずれも当てはまらない組織なの。彼らは人であることに誇りを持ち、人間の力のみで悪を滅することを信条にしてるわ。神を信仰する者たちでありながら、神や天使の介入を良しとしないの」
「彼らは己が心の内にある神のみを信仰しますわ。信ずる神は人によって千差万別。彼らが信仰する神は教会が信仰する神とは全く別です。それも団員の一人一人が」
へー、よく不協和音が起きないね。トップは余程統率力があるんだろうねぇ。
「彼らの定める規則は神や天使、堕天使、悪魔などの『人外』から力を借りないこと。人を殺めないことだと聞きます。フリードはこれらすべてを破ったので、教団を追放されたのでしょうね」
「先の神父の背後には堕天使がついているわ。関わり合いになるのは得策ではないわね。イッセーの行った教会は恐らく神側ではなく、堕天使が支配しているものでしょうね」
ん? 確かこの街の教会って一つだよね。アーシアちゃんの家も教会。で、堕天使は教会を支配している、と。ということはアーシアちゃんは堕天使とグル?
…………敵?
でも、そんな感じはしなかったけど。それにあの素直な性格からだと利用されてるって考えた方がまだしっくりくるし。
あれ? そういうことなのかな?
「アーシアちゃんって、利用されてるの?」
ゲーム画面から顔を上げて朱乃ちゃんに問うと、同じ考えなのか頷いた。
「恐らくはそうでしょうね、なにを考えての行動か分かりませんが。でも助けるのは難しいでしょうね」
ふーむ。
「部長、俺はあのアーシアを!」
「無理よ。どうやって救うの? あなたは悪魔で彼女は堕天使の下僕。彼女を救うということは堕天使を敵に回すっていう意味なの。そうなったら、私たちも闘わなくてはならない」
ぐうの音も出ない様子のイッセー、まあ正論だね。僕から言えば、正論なんてクソ食らえだけどね。
† † †
僕は退屈が嫌いだ。大嫌いと言ってもいい。そのため、土日などの休日や祝日もやることがなくて嫌いだ。土日なんて無くなってしまえばいいと思う。
今日は日曜日。家にいても暇なので外に散歩に来ています。取り合えず、イッセーの家に襲撃しようかな。Myお茶碗と箸を持ってご飯をたかるんだ。
「んー?」
兵藤家に向かう途中でイッセーとアーシアを発見した。二人はマクドナルドから出てきたところでアーシアに至っては笑顔を浮かべている。
僕は気配を殺して背後からイッセーに近づき、いつものように背中に飛び付いた。
「い~せっ、なーにやってんの?」
「うわっ……、ってレイか」
「あ!あなたはこの間の」
アーシアちゃんが驚いた顔で僕を見た。
「やあやあ、この間ぶりだね。僕は姫咲レイっていうんだ」
「アーシア・アルジェントです! よろしくお願いします!」
「うんうん、元気があっていいね。よろしくねー」
ペコッと頭を下げるアーシアちゃんに、ポワッとした笑顔を返す僕。イッセーの頭をペチペチ叩いた。
「で、何してんのイッセー?」
「ああ、アーシアと遊びに行く途中で――」
「僕も行くー!」
「言うと思ったよ……アーシアはどうだ?」
「はい、私は構いません」
おお、やっぱりいい子だねぇ。そんないい子には飴をあげよう。
「あ、ありがとうございます」
勿論、あげるのはチュッパチャップス。最近ハマっているプリン味だ。苦労して包み紙を剥がしたアーシアちゃんはパクッと食べると、パァッと顔を輝かせた。
「――美味しいです! 私、飴食べるの初めてですけど、甘くて美味しいんですね!」
――ッ!
あ、飴を食べたことがない……?
いかん、いかんよアーシアちゃん! それは人生の半分をふいにしているよ!
くっ、宗教によっては厳しい私生活を過ごさないといけないなんて聞いたことがあるけど、なんて不憫な……。
潤んだ瞳から涙が零れないように我慢しながらイッセーの背から降りた僕は、ポケットから取って置きの飴を取り出す。
「アーシアちゃんにはこれをあげよう」
僕のお気に入り、レインボー味。製造数限定で味が七度、変わるという幻のチュッパチャップス。チュッパチャッパーにとって喉から手が出るほどの逸品だ。
目を白黒しながら受け取ったアーシアちゃんの頭を撫でた。髪がサラサラしていて気持ちよかったと言っておこう。
その後、ゲーセンに向かった僕ら。UFOキャッチャーではイッセーが千円も費やしてチカチューのぬいぐるみをアーシアちゃんに贈呈したり、プリクラでは三人で撮った写真に面白可笑しく落書きをして笑ったりと、終始笑顔が絶えなかった。
「んー、楽しかったねぇ」
「はい! こんなに充実した日は初めてです!」
「にはは、それなら良かったよ」
公園に寄り、ぶらぶらと歩きながら一日を振り返る。僕もイッセーもアーシアちゃんも楽しめたし、良い休日だったと思う。
ふとイッセーが怪訝な顔で僕を見た。
「そういえばレイって普通にアーシアと会話してるけど、英語できたっけ? 俺は悪魔だから大丈夫だけど」
あー、アレね。悪魔に転生した時の特典で言葉の壁を取っ払うんだっけ? でもそれって言語限定だよね。英語のテスト百点だぜって豪語してたけど、筆記だと意味ないよイッセー。
ちなみに僕は英語の成績は可もなく不可もなくといったところ。英会話なんてとてもじゃないが出来ないけど、そこはほら、僕だし? ちょちょいと『力』を使えば余裕さね。必死になって英会話に力を入れてモテようと画作していた元浜くん乙って感じ? やっはー。
「まあ、僕だから?」
「……そうだよな、レイだしな」
あれま、納得しちゃった。イッセーの頭の中では僕はどんな人なのかな。
「おっとと」
石に躓き転ぶ。むー、ちょっと気分が高揚し過ぎたかな。
肘からはうっすらと血が滲んでいた。……ジンジンして痛い。
「肘、見せてもらっていいですか?」
アーシアが肘に手を当てると、温かい光が照らす。
緑色の光。アーシアちゃんと同じ瞳の色だ。
「これでどうでしょうか?」
「おー、全然痛くない。これって神器?」
曲げ伸ばししても痛みはない。肌もいつものツルツルお肌。弱酸性ビ○レのお蔭ですね。ありがとうございます。
「ああ、アーシアも神器持ちで悪魔でも治せるんだ」
何故か得意気のイッセーが答える。あんさんには聞いてないよ。
「実は俺も神器を持ってるんだ。とはいっても対して役に立ってないけどな」
「イッセーさんも神器を持っていたんですね。もしかして、レイさんも?」
「んにゃ、僕は持ってないよ。でもアーシアの神器は凄いねぇ。悪魔でも治せちゃうんだ」
アーシアちゃんは複雑そうな顔をすると、少しだけ俯いた。そして、その頬を一筋の涙が伝う。
涙は次から次へと流れだし、地面へと落ちていった。
あれ……もしかして、僕、やっちゃった? 何かアーシアちゃんを傷付けるようなことを言ったのかも。うー、どうしよう。こんな時どうやって慰めればいいんだろう。
見ればイッセーも突然泣き出したアーシアちゃんにどうすればいいのか分からない様子。
飴でもあげれば落ち着くかな?
取り合えず僕たちはベンチに腰を下ろしアーシアちゃんが泣き止むのを待った。
やがて、落ち着きを見せたアーシアちゃんは鼻をスンスンと啜りながらも語りだす。それは、彼女のこれまでの人生、『聖女』としての在り方だった。
† † †
アーシアの語る話は凄惨の一言に尽きた。
産れてすぐに親からは捨てられ、発現した神器に目を付けたカトリック教会に『聖女』として担ぎだされる。教会の門を叩く信者たちに加護と称して治癒を施し、噂が噂を呼び『聖女』として崇められた。アーシアの意志に関係なく。
それでも、アーシアに不満は無かった。教会の待遇は悪くなく、関係者は優しく接してくれる。怪我をした人を直すのも嫌いじゃない。
自分の小さな力が人々の役に立てる。それが嬉しかった。
しかし、同時に寂しくもあった。アーシアには友達と呼べる人が一人もいなかったからだ。
人々を救う力を持っていても、異質は異質。自分とは違う『モノ』には排他的な傾向がある人間にとって、アーシアは「人を治癒できる生物」としての認識でしかなかった。
ある日、アーシアは怪我を負った悪魔と出会う。
生来の優しさもあり、悪魔とはいえ怪我を負っているのを見捨てることが出来なかったアーシアはいつものように治癒を施したが、そこを偶然目撃した教会関係者が司祭に報告した。
教会の判断は迅速かつ非情。悪魔を癒すことができるアーシアを魔女と罵り、教会から追放した。これまで治癒を持った者は世界各地にいたが、治癒は悪魔や堕天使には効果がないというのが皆の共通した認識だったからだ。
神の加護を受けない悪魔、堕天使を治癒することが可能な力。それはまさしく「魔女」と呼ぶに相応しい力と所業。
聖女として崇められていたアーシアは悪魔を治癒することが出来るというだけで、今度は魔女として恐れられ、教会から呆気なく見捨てられた。
行き場のないアーシアを拾ったのは、極東に拠点を置くとある「はぐれ悪魔祓い」の組織。つまりは堕天使の加護を受けなくてはならなくなった。
しかしアーシアは教会に見捨てられど、堕天使の庇護下にあれど、神へ変わりない感謝と祈りを捧げた。
――いつか、神様が救って下さる。
そう信じて疑わなかったアーシアだが結局、神が救いの手を差し伸べることは無かった。
教会を追われた時も誰も庇ってくれない。誰も見てくれない。
少女の味方はどこにもいなかった。
「……きっと、私の祈りが足りなかったんです。ほら、私って抜けているところがあるじゃないですか。ハンバーガだって一人で買えないくらいバカですし」
そう言って弱々しく微笑み涙を拭うアーシアの姿に、俺はかける言葉を失った。
「これも試練なんです……。私がダメなシスターだから、こうやって神様が試練を与えて下さるんです。今は我慢の時なんです」
どこか、自分に言い聞かすように言うアーシア。もう、それ以上言わなくていいんだ……。
やるせない気持ちが俺の胸を貫く。
「私、夢があるんです……。お友達を作って一緒にお買い物に行ったり、ご飯を食べたり……おしゃべり、したり……」
涙を溢れさせていた。その小さな肩は細かく震えて、涙声で自分の「夢」を語るアーシア。
俺は、そんなアーシアの姿を見て、どうしようもない怒りを感じた。
隣に座るレイは普段の天真爛漫な部分が抜け落ち、無表情だ。普段のコイツからは想像が出来ない程に怒気を滲ませている。付き合いの長い俺には分かる。こいつのこの顔は本気で怒った時の顔だ。
俺は天にいるであろう神を睨んだ。
なにが、神だ……! こんな子一人も救えないで!
今アンタに一番救いを求めてるのはこの子じゃないか! なのに、なんで助けないんだよ!
俺はアンタのことを何一つ知らないし、信仰もしたことがない。おまけに悪魔だ。そんな俺でも、こうしてアンタに声を掛けることは出来るんだぞ! 神器はアンタが渡したんじゃないのかよ!
こんなの、こんなのって、ねぇよ……!
…………。
あー、もういいし。わかった、ならこうしてやる!
俺はアーシアの前にしゃがむと彼女の手をそっと両手で包み、涙で揺れるその目をまっすぐ見つめる。
「アーシア、俺が友達になってやる。いや、俺たちはもう友達だ」
俺の言葉にアーシアはキョトンとした。
「悪魔だけど大丈夫! 代価なんて取らないし、気軽に遊びたいときに俺を呼べばいい! あー、ケータイの番号とアドレスも教えてやるからさ」
「……どうしてですか?」
「どうしてもこうしてもあるもんか! 今日一日アーシアと遊んだだろう? なら俺たちはもう友達だ! 悪魔とか人間とかは関係ない!」
「……それは、悪魔の契約としてですか?」
「どうしてもこうしてもあるか! 俺が友達になりたいと思ったから友達になるんだ! わけのわからないことは抜き! そういうのは無しだ! 話したいときには離して、遊びたいときには遊ぶ。そうだ、買い物も今度付き合うよ! 花とか服とか見て回ろうぜ!」
我ながら下手な会話だと思う。気の利いたことの一つも言えないし、身振り手振りで俺の気持ちを伝えようと必死だ。木場なら洒落たことが言えるんだろうな。
けれど、アーシアは口元を手で押さえながら再び涙を零した。
それが、悲しい涙ではないと信じたい。
「うんうん、青春だねぇ。おにいさん、感動しちゃったよー」
レイが腕を組みながら頷いている。
「じゃあ僕もイッセーに倣ってお友達になろうかな。アーシアちゃんのことも気に入ってるし。僕のマイフレンドリストに登録してあげようー」
ほにゃっとした笑みを浮かべたレイはアーシアちゃんにチュッパチャップスをあげながら、頭を優しく撫でた。お前、何かにつけてソレだな……。
「……なんで、レイさんまで」
「んー? 僕がなりたいからなっただけだよ。それ以上でもそれ以下でもなし。アーシアちゃんは今、貴重な友人を手に入れたのだー!」
特に僕はレアもレア、激レアだよ。経験値いっぱいだね、っとまた訳のわからんことを言うレイ。まあ、こいつなりに励ましてるんだろうな。
「……イッセーさん、レイさん。私、世間知らずです」
「これから俺と街へ繰り出せばいい! 色んなもん見て回れば問題ないさ!」
「世間知らず? 結構結構。僕なんて「世間なんて美味しいの?」のスタンスで有名だからね。初志貫徹を狙います」
「……日本語も上手くしゃべれません。文化も分かりません」
「俺が教えてやるよ! ことわざまで話せるようにしてやらぁ! それに日本の文化遺産も見て回ろうぜ! スシ、テンプラ、ゲイシャだぞ!」
「なんなら僕の『知識』をあげるよ。頭痛がするだろうけどねー」
「……友達となにを話せばいいのかもわかりません」
俺はアーシアの手を強く握った。
「今日一日、普通に話せたじゃないか。それでいいんだよ。俺たちはもう友達として話せているんだ」
「そうそう、思ったことを言えばいいのさ~。パッと思いつく感じで、気が赴くままに、ってねー」
「……私と友達になってくれますか?」
「ああ、これからもよろしくな、アーシア」
「にはは、よろよろ」
俺たちの言葉に、アーシアは笑って頷いてくれた。その顔にはもう悲愴な影は見られない。
これでOK、万事解決だ!
なんか、今更になって恥ずかしくなってきたぁあああ! いや、後悔は当然無いんだがな!
内心、あまりの恥ずかしさでのた打ち回っていると、どこからともなく懐かしい声が聞こえた。
「無理よ」
声がした方を向いた時、俺は絶句した。
そこにはよく見知った顔があったからだ。
「あー! お前は!」
「夕麻、ちゃん……」
レイが指を差し、素っ頓狂な声を上げる。そう、俺の元恋人。天野夕麻ちゃんがそこにいた。
後書き
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