スーパーヒーロー戦記
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第53話 風と稲妻
風見志郎抹殺の為に放ったイカファイヤーが倒された報告は既に此処デストロン本部に伝わっていた。
【何だと? イカファイヤーが倒されたと言うのか?】
「はっ、何でも奇妙な力を使う娘も一緒だったとの報告があります」
【それは誠か? ヨロイ元帥よ】
「確かな情報です」
全身に鎧を纏ったデストロン幹部であるヨロイ元帥の言葉にデストロン首領は黙り込んだ。暫しの沈黙の後首領は口を開く。
【こうなれば、あの技術を使う他あるまい】
「あの技術? と言いますと」
【かつて死神博士が考案した擬似ジュエルシードだ。それを今度の怪人に埋め込め。そうすれば仮面ライダーV3のキックは通用しなくなる】
「分かりました。早速取り掛からせます」
イカファイヤーが倒されたのも束の間、デストロンは新たな脅威を画策していた。果たしてこの脅威に仮面ライダーV3はどう立ち向かうのか?
***
「そう、風見志郎君に会ったのね?」
「はい、ですが協力を拒否されました」
その頃、フェイトはリンディに現状の報告を行っていた。当初の目的どおり風見志郎とは接触できた。だが、彼に協力を申し上げたのだが拒否されてしまったのだ。
「きっと、風見さんの家族が何か関係あると思われるんです。もう少し調査をしてみます」
「分かったわ、でも気をつけてね。貴方の報告から察するとそのデストロンと言うのはかつてのショッカー以上の組織みたいだから」
「分かりました」
一通りの会話を終えて通信を切るフェイト。調査してみるとは言ったものの、果たして何処から調査すべきか。
「とりあえず、また風見邸を調べてみようかな」
今の所情報を得られるとしたら其処しかない。とは言う物の、先ほどのあれを聞かされた後ではどうにも行き辛い心境にはなる。
「殺人事件の起こった場所に行くってのもちょっと気が滅入るなぁ」
幾ら嘱託魔導師になったところでまだ9歳の少女だ。人の死んだ場所へわざわざ訪れるのには抵抗があっても当然である。だが、そうも言っていられないのが今の状況だ。
今は一刻も早く風見志郎と再び出会わなければならない。
ふと、フェイトはまた丘の上に立てられた墓を見た。
特に理由はない。只何となく見ただけだった。
其処に、本来居る筈がない者が見えた。
少女だった。黒い髪の少女が墓の前に立っていたのだ。
「え?」
フェイトは驚いた。
今まで此処に人が来る気配を感じはしなかった。
一体何時の間にやってきたのだろうか。
「あの……」
フェイトは少女に近づき声を掛ける。
少女はその声に反応し振り向いた。
その目はとても悲しげであった。見れば自分より少し上位の少女だった。
その少女が何故墓の前に立っているのか。
「君は誰? 一体何処から来たの?」
フェイトは尋ねた。
しかし、その問いに少女は答える様子がない。
嫌、寧ろその少女からは生気が感じられないのだ。
まるで……そう、死人の様な――
【止めて……止めて……】
声が聞こえた。
だが、耳にではない。心に直接響いてくる声だ。
とても悲しそうな声であった。そんな声がフェイトの頭の中に響いてきた。
「止める。一体誰を止めるの?」
【止めて……お兄ちゃんを……止めて】
「お兄ちゃん?」
【このままじゃお兄ちゃんは……只の殺し屋になっちゃう。そんなの嫌だよ……私の大好きな、昔のお兄ちゃんに戻って欲しい……でも、私じゃ止められない……お願い。お兄ちゃんを……止めて!】
お兄ちゃん。一体誰なのだろうか。
フェイトが考えてる前で、その少女は忽然と姿を消してしまった。
まるで幻を見ているようでもあった。
「あの子……なんであんな悲しい目を……あっ」
ふと、フェイトは墓石に刻まれた名前を見た。そして其処には一人の少女らしき名前が彫られていた。
「風見……雪子……もしかして、あの子が止めて欲しいって言ったのは、志郎さんの事じゃ!」
今さら確認する事は出来ない。もう既にこの少女は生きていないのだから。
先ほどフェイトが見たのはもしかしたら雪子の亡霊なのかも知れない。もしそうならば、彼女の遺言通り風見志郎を止めねばならない。
今のまま風見志郎が突き進めばその先に待っているのは修羅の道しかないのだから。
***
「……」
誰も居ない風見家に志郎は一人帰ってきた。部屋には明かりがついていないのか半ば暗い。
そんな部屋の中に置かれたソファーに志郎は腰掛ける。
「静かになったもんだ……この家も――」
今までの家だったならば妹がじゃれつき両親の笑い声の耐えない幸せな家庭であった筈だ。その家庭が突如として奪われてしまったのだ。
それを感じると志郎の中に沸々と怒りの炎が湧き上がってきた。
「俺は断じて許さん! 奴等デストロンを一人残らず地獄に叩き落す」
怒りの形相を携えたまま志郎は家を出る。玄関の扉を半ば乱暴に開き外に出る。
「あっ!」
「うん……」
見ると門の前には先ほどの少女が立っていた。確か、フェイトとか言ってた筈だ。
「何の用だ?」
「あの……少し、お話出来ますか?」
「……」
風見志郎は黙り込んだ。一瞬突っ返されるかとヒヤヒヤしていたフェイトだった。
だが――
「入れ」
「え?」
「此処で立ち話出来る話じゃないんだろ? 茶位なら俺でも出せる」
「あ、はい」
風見志郎の言葉を受けフェイトは風見邸に足を運んだ。中は思っていた程散らかっておらず綺麗に片付けられていた。
恐らく志郎が後片付けをしたのだろう。
部屋の中に用意された来客用のソファーに腰掛ける。
台所の奥から御盆を手に志郎が来た。お盆の上には煎れたてで湯気が立ち昇る茶が入っている。
「俺は余り茶を煎れるのは得意じゃないんだ。不味くても勘弁してくれ」
「あ、いえ! 私は大丈夫です」
なんと言うか以前会った時と雰囲気がまるで違っている事に驚かされる。
思い切り度肝を抜かれた感じだ。
「さて、それで俺に話しとは何だ?」
「風見志郎さん……もう復讐をするのを止めて下さい」
途端に部屋の空気が重くなったのを感じる。目の前の志郎の空気が重くなったのだ。
見ると目の辺りが以前会った時の様に尖りだす。恐ろしい目であった。
一体どうしたらあんな目が出来るようになるのか。
そして、そんな目をフェイトに向けてきた。
「お前に何が分かる? 家族を奪われた者の気持ちがお前に分かるか?」
「貴方の心中はお察しします。でも、そんな事をしたって遺族の方は悲しむだけです!」
「いい加減にしろ!」
志郎は怒鳴った。持っていた湯呑みを地面に投げ捨てて立ち上がる。割れる音がした。地面には志郎が投げ捨てた湯呑みが粉々に砕けて散っている。
そんな事を気にせずフェイトは志郎を見た。
志郎は激怒していた。当然だろう。見ず知らずの者に家族の事をどうのこうの言われた為であろう。
「これ以上言うな! 俺は復讐の鬼になると決めたんだ! 殺された家族の仇を取る為だけにだ!」
「そのせいで……そのせいで妹さんが泣いてるのにですか?」
「なっ!?」
その言葉を聞いた志郎は固まった。目が大きく開き、体を震わせながらフェイトを見ている。
「でたらめを言うな! 妹は……雪子は既に死んだんだ! お前が雪子の声を聞ける筈がない!」
「いいえ、聞きました。貴方の妹の雪子さんから!」
フェイトのその言葉を聞き、志郎は黙り込んでしまった。毅然とした表情で見るフェイトの目に嘘偽りは感じられない。
「雪子さんは、こう言ってました……大好きなあの頃の志郎さんに戻って欲しいって」
「あの頃の……俺」
志郎は呆然としていた。ふと、脳裏にかつての楽しかった頃の光景が浮かび上がる。
この家で家族四人仲良く暮らしていた頃の記憶。
父と母、そして妹の雪子と自分。何処にでもある様な幸せな家庭であった。そして、その記憶が志郎の中に流れ込んでくる。
志郎の目から涙が溢れ出て来た。止め処なく涙が零れ落ちる。
その雫を手に取り志郎は自分が流した涙を見て半ば自傷気味に笑った。
「まだ、まだ俺に流せる涙があったんだな……」
「それは、貴方が人間である証です。例え改造された人間であろうと、心は人間の筈なんです。だから、だからそんな悲しい考えで戦わないで下さい!」
「フェイト……ん!」
ふと、志郎は外にある異様な気配を感じた。突如、ガラスが叩き割られる。飛び込んできたのはボウリング玉と同じ大きさの鉄球であった。しかもその鉄球は炎を帯びている。
それが何発も飛んできたのだ。
「逃げるぞ! フェイト」
「はい!」
急ぎ風見邸から出る二人。その周囲にはデストロン怪人と以前倒したイカファイヤーが待っていた。
「待っていたぞ仮面ライダーV3よ! 今度こそ息の根を止めてくれるわ! ファイヤァァァァァ!」
「しょうこりもなく出て来たかくたばりそこない! また地獄へ叩き落してやる!」
志郎が言い、そして変身する。
仮面ライダーV3となり、直ちに大空へと飛翔する。
「お前達に構ってる暇はない! 一撃で片付ける!」
言葉と共にV3が大空でキックの構えを取った。V3キックだ。
幾多の怪人をこれで粉砕してきたのだ。
「馬鹿め!」
「何?」
目の前でV3が見たのは信じられない光景であった。V3キックを受けたにも関わらずイカファイヤーが微動だにしていないのだ。それどころかイカファイヤーの体に当たったキックを中心に体中のエネルギーが吸い取られるのを感じる。
「ぐっ!」
咄嗟にイカファイヤーから離れる。時間的にはほんの数秒だっただろうが、それでもかなりのエネルギーを吸い取られてしまった。
「あの現象……まさか、擬似ジュエルシード!」
「何だそれは?」
「今のイカファイヤーにはあらゆる攻撃を吸収する力があるんです。小刻みな攻撃じゃ返って相手に力を与えるだけになってしまうだけです」
冗談ではなかった。此処に来てなんて面倒くさい事になった事か。
しかしキックが通じないとなると今のV3には手出しが出来ない。
仮面ライダーの武器はその殆どが物理攻撃、即ち手足による攻撃だ。
それは相手に触れる事になりたちどころに力を吸収されてしまう。
「思い知ったかV3! さぁ、今度こそ地獄へ行けぃ! ファイヤァァァ!」
イカファイヤーから猛烈な炎が噴射される。どうにかかわすもその直後にイカファイヤーの伸縮自在の足が飛んできた。
「うおっ!」
辛うじてそれをかわすV3。少しでも触れればアウトだ。瞬く間にパワーを吸い取られてお陀仏となってしまう。
「フェイト、奴を倒す何か手はないのか?」
「敵に許容範囲以上のエネルギーを与えられれば倒せます……でも」
フェイトは渋った。実際にそれをやってのけて以前イカデビルを倒した事がある。
しかしそれをやってのけたのは実際にはなのはだ。従って今なのはが居ない状況で果たしてそれが可能かどうか怪しい。
「泣き言は言ってられない。私は決めたんだ! なのはの分まで強くなるって」
「お前……誰かの為に強くなろうとしたのか?」
「うん、私の大事な友達の為に」
「友達?」
背中合わせにフェイトとV3が語り合う。
「その子は、何度も私の事を助けてくれた。そして、その子は今必死に自分と戦ってる。凄く苦しみながら……だから、私はあの子の分まで強くならなきゃならない! こんな所で躓いてられない!」
「そうか……思い出したよ。先輩達が俺に何を託したかを」
「え?」
「確かに、俺も何時までもこんな所で躓いてられない。俺は前に進まなければならないんだ! 復讐の為ではなく、人類の未来の為に!」
そう言ってV3は構えた。ベルトのダブルタイフーンが高速で回転しだす。
周囲の風のエネルギーを吸収しそれを体内エネルギーに変換しているのだ。
「フェイト、お前は何か遠距離系の武器を使えるのか?」
「使えます。でも、あいつを倒せるかどうかは……」
「あいつを狙わなくて良い。狙うのは俺だ!」
「え?」
「俺に向ってそいつを思い切りぶっ放せ! 後は俺がどうにかする」
正気で言っているのか疑問に思えた。だが、自殺願望者ではない彼にとってそれは何かの秘策であろう。
フェイトはそう確信し頷く。
「よし、行くぞ!」
「何をコソコソ話している。念仏でも唱えてたのか?」
「念仏を唱えるのは貴様等だ!」
再び大空へとV3は飛翔する。その背後には砲撃態勢を終えていたフェイトが居た。
「行きますよ志郎さん! サンダァァァレイジィィィ!」
飛翔するV3に向かいフェイトは魔力砲を放った。空中で自由が利かないV3に向かい無情にも雷撃が迫る。
「馬鹿め、同士打ちとはなぁ」
「ふっ、それは違うぜ!」
突如、V3が飛んできた雷撃を足に絡める。放たれた全ての雷撃のエネルギーがV3の両足に集まっていく。それに更に回転を加えてイカファイヤーに向かい突っ込んでいく。
「食らえイカファイヤー! 必殺、V3稲妻キィィィィィック!」
フェイトの魔力砲のエネルギーとV3の捻りを加えたキックのエネルギーが互いに合さりイカファイヤーへと叩きつけられる。それは凄まじい衝撃とエネルギーとなりイカファイヤーに注がれた。
体内の擬似ジュエルシードが音を立てて砕け散った。吸収範囲を軽く超えてしまったのだ。
「ば、馬鹿なぁぁぁ! この、このイカファイヤー様が、二度も敗れるなどと……」
「覚えておけデストロン! 貴様等悪党に地上を制する日は来ない! 俺達がこの地上に居る限りはな!」
「うおぉぉぉぉぉぉ! デストロンに栄光あれぇぇぇぇぇ!」
断末魔の叫びを残し、イカファイヤーは爆発した。後に残っていた戦闘員達も引き上げていく。
残ったのはV3とフェイトだけだ。
「志郎さん」
「フェイト、今俺は知ったよ。何故本郷さん達が俺を改造人間にしたか……俺はこの力を復讐に使うのではなく、人類の自由と平和の為に使うのだと」
変身を解き元の風見志郎となりフェイトを見た。その時の志郎の顔はとても穏やかで優しい顔になっていた。
「分かってくれたんですね!」
「あぁ、俺も共に戦おう。人類を守る正義の戦士【仮面ライダーV3】として」
「はい、一緒に戦いましょう!」
志郎とフェイトが互いに硬い握手を交わした。
今、今日この地に復讐の鬼仮面ライダーV3は死んだ。
そして、今日この日、人類の自由と平和を守る正義の戦士が誕生した。
そのヒーローの名は【仮面ライダーV3】3番目の仮面ライダーである。
つづく
後書き
次回予告
デストロンの裏切り者として処刑されそうになった男が脱走した。
その男の名は【結城丈二】。
彼は自分を落とし入れた復讐をする為、彼は力を手に入れる。
次回「敵か味方か? 謎のライダーマン」お楽しみに
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